ニューヨーク州地裁で行われていた、不倫相手への口止め料支払いの際に業務記録を改ざんした件に関する裁判で、トランプ氏に有罪評決が下されました。そこで今回はアメリカ陪審員の評決の決め方と、この評決が今後の選挙戦にどのような影響を与える可能性があるのかを分析していきたいと思います。
有罪?無罪?アメリカ陪審員制度による評決の決め方
アメリカの陪審員制度と日本の裁判員制度は、どちらも裁判所の判決に民意を反映させますが、相違点も数多くあります。たとえば日本の裁判員は、裁判官と一緒に有罪か無罪かを審議するだけではなく、量刑についても判断するのに対し、アメリカの陪審員は評決までの過程に裁判官の助けはなく、陪審員が法廷で直接見聞きしたことだけに基づいて被告人が有罪か無罪かだけを判断し、量刑に関しては一切タッチしません。
評決が決まるまで陪審員は別室で話し合います。陪審員達の話し合いの内容は非公開で、どのような話し合いの結果その評決を導き出したのかも説明不要です。陪審員が法律の素人である場合も多く、法律家が下す評決とは異なり、予測できない所もありますが、根底には陪審員に選ばれた市民に対する信頼があります。
評決は陪審員の全員一致を原則にしていますが、もしどんなに話し合っても全員一致の評決に至らない場合は評決不成立となります。その場合は裁判官によって審理無効が法廷で宣言され今までの陪審員達は解散になり、検察は新たな陪審員のもとで公判審理を始めからやり直すか否かを決めます。
有罪判決後のトランプ氏の様子は?
陪審員による評決はすぐ決まる場合もあれば、話し合いが数日にわたって続くこともあります。今回の裁判で陪審員は審議に11時間を費やしたそうです。ひとつの裁判の結論を出すのに11時間もかかったと言うと、とても長い時間を費やしたように思われますが、罪状が34件にわたるので、1件あたりに費やした時間は約20分と驚きのスピード評決でした。
評決はひとつひとつの罪状について有罪か無罪かが法廷内で読み上げられます。普通の人なら34回も有罪と聞けば、精神的に大きなショックを受け放心状態のようになりそうなものです。しかしトランプ氏の場合、有罪の評決後の記者会見で「これは腐敗した判事による不正で恥ずべき裁判だ」と述べ、(https://www.youtube.com/watch?v=kgrf7UfwZpg)自身のSNSに「本当の審判は、国民によって大統領選挙投票日の11月5日に示される」と繰り返し投稿し、評決に対し不快感を示したうえに自らの主張を改めて訴えています。
判決の翌日5月31日には、トランプタワーのロビーで記者会見を開き、この裁判がいかに「不公平」で「不正」であるかを30分以上延々と訴え続け、担当判事のことは、見た目は天使だが実は悪魔だと罵り、トランプ氏の元弁護士で今回の裁判の最重要証人だったマイケル・コーエン氏の事を、正直さや道徳の基準が低い卑劣な人という意味で使われる「Sleazebag(スリーズバッグ)」と呼び、自分の知らないところで帳簿記載が行われたと、自らの違法行為を改めて否定し、再度控訴すると力強く表明しました。(https://www.youtube.com/watch?v=SBvQUgCVQ7Y)(https://www.youtube.com/watch?v=bvyVWAlfKfE)
これから一体どのくらいの控訴費用がかかるのかはわかりませんが、トランプ氏の政治活動委員会「セーブ・アメリカ」の報告によると、3月の訴訟関連支出は360万ドル(約5億円)だったそうです。数ヶ月前、共和党代表候補を争ったニッキー・ヘイリーさんが選挙演説の中で、トランプ氏はすでに1500万ドルの選挙資金を(約23億5700万円)自分の裁判費用のために使ったと言っていたところを見ても、たぶん私達には想像もできないほどの金額が今後の裁判に費やされる事になるはずです。
有罪判決後の選挙の行方は?
有罪評決による選挙への影響は、民主党側と共和党側で見方が大きくわかれています。民主党側の世論調査では、有罪が確定したら共和党員の4分の1がトランプ氏に投票しないと予想されていて、今年初めのブルームバーグ者が行った世論調査でも有権者の53%が、トランプ氏が有罪になった場合には投票しないという結果が出ています。
しかし共和党の世論調査では、共和党員がそれほど高い比率でトランプ氏への投票を見送ることは考えられないとの見解で、ハーバード大学米国政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクス
(https://harvardharrispoll.com/wp-content/uploads/2024/05/HHP_May2024_KeyResults.pdf)が行った調査でも、もし今日が投票日ならトランプ氏とバイデン氏のどちらを選ぶという問いの答えが、トランプ氏48%、バイデン氏が43%と5ポイント差でトランプ氏が勝利し、もしトランプ氏が有罪になった場合はトランプ氏50%、バイデン氏50%と、より接戦になるだけで大きく差は広がらないという結果が出ていました。
本当の審判はいつくだされるのか?
とんどの調査結果は、有罪判決が下される前に出されたものなので、今回の評決が選挙にどのような影響を与えるのか、本当の所はまだわかりません。しかし担当判事のフアン・マシャーン氏は報道陣に対し、東部標準時間7月11日午前10時、に量刑を決める審理を開くと声明を出しました。これは大統領と副大統領が正式指名される党大会の4日前に、トランプ氏が正式に法的な犯罪者であると決まるということです。
穏健派や無党派層の中には、たとえ量刑が軽くても犯罪者が大統領候補に選ばれるのをよしとしないという人達がいます。そういう人達の中から幾らかの割合でもトランプ氏への投票を見送る人がでてくれば、トランプ氏の政治生命に大きな危機をもたらす恐れは大いにありうると思われます。
有罪評決を受けても大統領になれる国、アメリカ
合衆国憲法に記された米国大統領立候補の資格要件は、35歳以上で生まれながらのアメリカ国民が14年以上米国に居住しているということだけです。これらの要件を満たしていれば、起訴もしくは有罪判決を受けても、さらには服役した経験があっても、大統領選への立候補は禁じられません。結果、有罪評決を受けたトランプ氏の出馬は可能、そして選挙で勝利すれば、大統領にもなれます。
トランプ氏に対する量刑は、罰金、執行猶予や保護観察、あるいは禁固刑が考えられています。トランプ氏には前科がないことや彼の年齢を考慮に入れると、収監される可能性は非常に低いと言われていますが、もし仮に禁固刑を言い渡され刑務所や拘置所に収監されたとしても、そこから就任宣言もできますし、刑務所から大統領の職務を遂行するのも可能です。
もしトランプ氏が獄中で大統領に返り咲いたら、刑事裁判で初めて有罪となった大統領経験者というだけでなく、刑務所で職務する初の現役大統領にもなってしまうかもしれません。
まとめ
トランプ氏は今回の有罪評決について、ある程度予測して次の行動を用意していたのではないかと思います。SNSやメディアを使い、敵と思われる人物に対して厳しい言葉で怒りをぶつけ、裁判を大統領選のPR活動として利用する姿は、一筋縄ではいかないトランプ氏のしたたかさを再度見せつけられました。
しかし今後裁判の影響でその勢いが失速していくのか、それともこのまま勢いを強めたまま選挙戦を進めるのかはまだ誰にもわかりません。まさに「本当の審判は、国民によって大統領選挙投票日の11月5日に示される」と言ったところでしょう。
これからも選挙の行方を注目していきたいと思います。
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