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【日本の課題解決】スポーツによる地域振興の現状と課題

前回の「スポーツによる地域振興政策とその課題」の続編です。今回は「スポーツによる地域振興の現状と課題」がテーマで、前回同様、岐阜経済大学経営学部原田教授が解説します。実際の問題から、その上でどうしたらいいかの考察されています。

2017年05月03日更新

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目次
自治体の一般的な課題
スポーツを活用した「地域振興の計画進行」についての考察
自治体規模と地域振興(事業)規模の関係
スポーツによる地域振興の現状と課題

自治体の一般的な課題

日本は観光立国として、また観光振興を国家戦略としていくことは、今日の積極的な地域観光PRの現状や2,000万人を超えた外国人観光客数をみても理解できるようになりました。その流れを背景として、今後はスポーツによる地域振興も多くの地域で進められていくと考えられますが、その実態はどのようなものなのか、またどのように着手、進行すべきなのかといったことは、特にスタンダードがあるわけではありません。

したがって各自治体における地域振興の環境や条件が異なるにもかかわらず、大規模自治体のスキームをそのままコピーするように事業を推進しようとしてしまう中小規模の自治体もあるようです。これらは、まだ多くの教訓や経験なども蓄積されるほどの年月も経っていないため、どの自治体もまだ手探り状態の様相は否めないといったところです。

これまでは、社会的な背景から地方自治のあり方や国の政策などを再確認することで、地域振興の必要性を探ってきましたが、地域の相談を受ける際に感じるのは、必ず地域政策進行上において躊躇が生じてしまうことや、様々な事情を有する中でも実は推進課題などに共通点が多いことです。

そこで、事業に「着手する際の関心」や「前向きな検討」を前提としながらも躊躇するケースや要因について整理し、対策への道筋を探索していきたいと思います。

スポーツを活用した「地域振興の計画進行」についての考察

まずは、実際に計画進行上で生じるネガティブ要因と陥るケースは以下のようなものがあります。

(1)交流人口増加の努力はしているものの魅力不足を感じている例
 中規模都市において、これまで自治体側でも産業育成や観光誘致を進めてきたが、周辺自治体よりも観光資源が少なく、地元に誘客しようとしても訴求力のある魅力が備わっていない。現状を打開するため集客増加を図り、産業振興を図りたいと考えているというケース。

(2)地域振興策がイベントのみにとどまっている例
 これまで、年に数回の大がかりなイベントを行なっているが、観光入込客数はその数少ないイベントに依存している状態であり、年間を通じてみると絶対数は少ない。恒常的に観光入込客数をふやしていくための具体的な施策を必要としているケース。

(3)小規模都市でネガティブ感が強い例
大都市圏からは遠く、幹線道路から距離がありアクセスもよくない。集客力のある自然環境や景観もないうえ、地元の産業は農業、漁業などが中心で、少子高齢化も進んでいる。事業推進に必要なインフラが十分に整備されていないため、スポーツによる地域振興政策を推進するうえでのハードルは高いと考えているケース。

(4)地域の魅力づくりが進んでおらず誘客に自信がない例
立地の悪さや地域イメージの低さもあって、特産品などの開発も進んでいない。また、地元にはインフラも少ないほか、宿泊施設は民宿主体でキャパシティが小さく、大規模イベントなどの誘致には耐えられないため宿泊者はいつも隣接都市に流れてしまう。こうした環境のなかで集客促進を図るためのアイデアが不足しており、いままで県の助成金などを利用し、何度かイベントを行なってきたが、産業振興や地域振興につなげていく自信がないというケース。

(5)自治体規模が小さく競争力に自信がない例
自治体の規模が極端に小さく、安定的に予算を確保していくことがむずかしい。インフラも相応の規模や機能が備わっていないうえに、追加の設備投資もままならない。隣接する中規模都市には見劣りするため、集客などの面で新たなチャレンジがしづらい。同じ県内の中規模都市では大々的にスポーツコミッションの設立などが発表され、潤沢な予算をつけてスタートしているため、その競争には勝つことが困難に思えるというケース。

(6)地域間における競合状態
インフラ整備を伴うスポーツ活動誘致に関しては、フロー効果のほか、後の利用促進におけるストック効果なども見込めるものであるが、競技人口が育っていない特殊性の強い競技種目の施設インフラにおいては、国内に強力な競合インフラが出現した場合、立地メリットなどを伴って活動誘致数が一気に減少する可能性もあるなど、規模の大小に関わらず自治体間の競合状態も時間の問題となっている。地域振興関連の交付金なども、希望する自治体すべてに割り当てられる訳ではないため、対象となる団体や対象者のみならず、補助金や交付金などの競合状態も想定しなければならない。このような背景からみると早期着手こそが成功の秘訣のようにも感じるが、すべてが「先手必勝」という訳ではなく、これから参入を検討する自治体や組織は、先行者利益などの速度経済性を踏まえながらも、先達の方向性をトレースすることなく、地元の特徴や条件を活かした独自性を発揮した計画の推進の検討が必要となっているケース。

(7)地元住民との棲み分けと優先順位
スポーツによる地域振興においては、公共インフラの活用について外部からの要請に応えていく必要があり、域外需要に対するサービス機能を優先させる組織となるため、施設利用に関する予約の優先順位も住民要望ではなく収益性の高い地域外需要を優先させることが多くなると思われる。既にスタートしているケースでは、「誘致イベント優先」とするルールになっている自治体もある。

多くの場合、地元であってもイベントや大会などでも、利用の中心は休暇期間か連休、もしくは週末に多くなる傾向は地元に限らず共通のものであるため、収益性の高い大口の利用を優先して予約をとることにならざるを得ない。しかし、従来の公共施設整備目的は、あくまでも住民の利用に供するためのものであり、住民サービスの充実化を目指して整備されてきている。住民からの税金で建設された施設でもあるため、住民要望に添えない状況には地元の十分な理解を得ていくことが必要である。一方的に住民利用を制限させるのでは地元の理解を得られるはずもなく、反発を生む可能性があるというケース。

これらを元にスポーツによる地域振興の取組みが進まない要因について整理してみると、図表1のようになります。それぞれが抱える問題は一様ではないものの、自治体における取組みが進まない根本的な理由には、さほど大きな差はないことがわかります。これをみると小規模自治体ではインフラの規模や予算レベル、人材不足が共通した課題で、それら一つひとつが独立して障害となっているわけではなく、実は複合的な要因となっていることがわかります。

また、図表2をみると、潤沢な予算措置や豊富なインフラ、十分な人材などを手当することができたとしても、スポーツによる地域振興は、一般的に大規模自治体のほうが有利に進められると捉えられるかもしれません。大規模自治体には、国体の開催なども可能な大規模施設が整備されているため、相応規模のイベント誘致が求められる一方で、日常的に運営を活性化しなければ施設の莫大な維持管理費の負担問題があります。このコスト負担は年々増加傾向になり、財源確保の問題は重くのしかかってくることになり、年間のコストは中小自治体の比ではありません。したがって、大規模自治体におけるスポーツによる地域振興の推進は、必然といえるのです。このように自治体規模に応じて施設の維持管理コストは異なるものの、それぞれ財源不足であることに変わりはないといえます。

スポーツによる地域振興の事業推進には、自治体を含めて地域全体の意欲が不可欠であり、現状における問題意識が明確でなければなりませんが、たとえ現段階で不足するファクターが存在したとしても、「その自治体ならでは」の魅力が必ず存在すると考えられるので、多くの観光入込客が見込めない地域でも、必ず他には知り得ない「地域ならでは」の特徴が隠れているものです。

しかし、地元では、その「よさ」や「特徴(特長)」に対する認識がさほど高くないことも多く、「地域の自慢」が未開発であればまだ開発の余地を残しているであろうし、細かく検証すると意外なところにすばらしい資源や特産が潜んでいることがあるかもしれません。地域振興には、こうして解決策を見出していくことが必要となります。それらを丹念に探索、整理し、対策を講じることで、スポーツによる地域振興の成功がみえてくるといえます。

図表1:スポーツによる地域振興が推進されない主な要因
図表2:自治体規模と事業開催・誘致内容の特徴

これらの表にあるように、自治体や地域においては、それぞれ対応可能なテーマや事業規模は異なります。スポーツによる地域振興を導入するためには、自治体の現状や特徴によってその着手方法も異なりますが、なかには新潟県十日町市のように、民間企業や団体主導によって進められているといった珍しいケースもあります。ただし民間主導の事業展開であっても、現実的には自治体の協力・協働がなければ必要とされる予算や事業、助成金などの手当を受けることがむずかしくなることや、特定の民間事業者が主導すると一部の企業による利益誘導が懸念されるため、他の事業者の同意を得ることが困難になる恐れも考えられます。特に地域の特産品開発などにおいては、産業間や同業者間の信頼関係によって進めることが大前提となりますが、民間事業者には常に競争原理がはたらくため、公平・公正な役割分担は実現しにくいという背景もあるのです。

地域の活性化や地域間交流の拡大に関しては推進メンバーの共通理解は得られるものの、個別のテーマについて理解を得るには、相応の手間を要する可能性があります。また宿泊施設ならば自らの施設に宿泊させたいと考え、飲食店ならば自店舗で食事をしてもらいたいと考えるのも不思議ではありません。このように少しでも組織機能のバランスを欠くとすぐに足並みが揃わなくなるという問題が生じます。商店や飲食店は、特産品開発には理解を示しながらも仕入れや開発に際しての手間が本業に影響する可能性もあるため、足並みを揃えることがむずかしく、少しでも抵抗する店舗や企業が出てこようものなら、計画を思うように進行させることができない可能性があるのです。

また、主導権を巡って互いに利権を争う光景は、地域内外に素早く伝わるため、いったんトラブルになると自治体の介入も困難となり、時間だけが過ぎていくといった懸念もあります。

このような問題を生まないようにするには、自治体や関連団体が本来の目的を達成できるよう推進組織と関連事業者などのバランスをとり、自治体と民間、民間同士の協働を進めていくことが求められます。

自治体規模と地域振興(事業)規模の関係

国の積極的な政策は、その反面、近い将来にそれぞれの狙いもさほど差異がない中で、隣接自治体同士、もしくは政令指定都市や特別区などにおいて計画されるスポーツコミッションなどと競合状態に陥る可能性を示唆しています。全国各地で急速な広がりを見せていくであろう、「スポーツをテーマとした地域振興」ですが、計画される自治体規模の大小やスポーツインフラの整備状況も一様ではありません。例えば特別区や政令指定都市などは人口ボリュームだけでなく、インフラも数多く存在し、経済環境も充実しているため、多くのオーディエンスを対象としたイベントや催事が可能となっています。

つまり大規模自治体には強い動員力があるほか、開催・誘致イベントなどの規模やかかるコストも大規模になることが見込まれるため、対象が大規模事業とすることができる高いポテンシャルを持っているわけで、強いアドバンテージを持っています。(図表3)

図表3:自治体規模とインフラ充実度の関係

大手の広告代理店なども大規模施設による大規模イベント開催には動きやすく、中小規模都市における中小規模のイベントにはさほど積極的ではないという傾向は否めません。小規模な自治体は、地域住民の利用量想定による施設規模の開発が基本となっているため、集客装置となる施設の収容量や交流人口誘致関連原資も大規模自治体のそれとは比較になりませんが、その規模や仕様を前提とすると大規模イベントの開催は困難となるなど、「自治体規模」と「インフラの充実度」「事業充実度」には高い相関があるといえます。(図表4)

図表4:自治体規模と地域振興事業の特徴と比較

図表4:自治体規模と地域振興事業の特徴と比較

しかし、中小規模の都市であっても、大都市に負けない環境形成や集客努力によって堅実な発展を見込める可能性があります。強いマグネットとなる事業やキメの細かな対応などを実現させ、定例化させていくことも可能です。地元の見直しや地域環境、資源を磨き上げ、有効な目的活動を創出していくことが、地域にアドバンテージをもたらすと思われます。

多くの困難を抱えながらもあえて積極対策を打ち出し、補助金をつけて半ば強引に大規模イベントの開催を実現させたとしても、十分な人的サービスや地元の協力体制が脆弱となってしまっては、次回の確約だけでなく継続的な開催も叶わなくなる可能性があるのです。

これまでの自治体における健康増進施策の基本は、住民の「体育・スポーツの振興」と「健康・体力の増進」を図るための中心的機能を果たすことであったため、その活用目的は、多くの場合地域住民の利用に供するための活動想定を基本として整備されており、地域外利用や大規模事業に対する活動量は想定されていません。それらをハンディとすることなく、工夫と創意で地域の強みを醸成していくことが求められます。

今後も全国の自治体においてスポーツによる地域振興の動きが活発化し、スポーツ合宿やイベント誘致における自治体間の競争も激しくなると思われるため、中小規模の自治体であっても都市再生の戦略に基づいた地域の優位性や特性を活かす工夫と、単なるスポーツ活動拠点としてではなく、環境や活動内容に特徴や独自性を持たせる努力が堅実な成果をもたらす鍵となっていきます。

(文:岐阜経大大学 経営学部 教授 原田理人)

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