公務員の仕事「公務」に行き詰ったときに、自らを助けてくれた言葉「守破離(しゅはり)」について、刑務官など矯正職員歴37年、現在里山で晴耕雨読を享受している元・国家公務員の小柴龍太郎さんに執筆いただきました。
堅い仕事と柔らかい仕事
私は法務省の本省(霞が関)のほか、出先の監督機関(矯正管区)や現場施設(刑務所等)で勤務しました。基本的にはお堅い役所なのですが、相当柔らかい頭で仕事をしなければならないときもあります。現行の行政の中で問題点はないか、あるとすればどう解決するか、あるいはもっと良くするためにはどうしたらいいか、というような切り口での仕事もあるからです。これは、本省に限らず、管理職になれば現場施設でも同じです。
堅い仕事と柔らかい仕事、この一見矛盾するような仕事を自分の中で上手に統合することが若い頃はできなかったのですが、ある時「守破離」という言葉に出会い、それができるようになりました。
「守破離」という言葉との出会い
この「守破離」という言葉は、元々習い事の心得を表すものです。最初の頃はひたすらお師匠さんの言うとおりにし、免許皆伝クラスになったらその流派の中で自分らしさを出し、さらに極めればその流派を離れて新たな一派を創る、といったような意味です(たぶん)。
この「守破離」を仕事に当てはめてみると、最初のうちはひたすら根拠法令と上司の命令に従って仕事をし(守)、上司から任されるようになったら法令の許す範囲でその裁量権を行使し(破)、現行法令に問題があったり不足があれば法令を変えたり新たに創る(離)、という具合になるのではないかと思ったのです。
それ以降、折に触れてこのおまじないを想い出しては仕事をするとなかなか具合が良かったので、いつしか自分の背骨のようになっていきました。
このおまじないの良いところは…?
その1)仕事の優先順位を誤ることを防げます。
例えば新しい部署に配属になったら、まずは「守」に徹します。決して「破」や「離」では仕事をしない。それをすると失敗します。根拠法令と上司の命令の中で堅実にやるのです。そのうち段々と「破」ができるようになっていきます。
その2)仕事の重要度を意識できます。
「守」が最も重要です。
これができないのでは「破」も「離」もありません。やってはいけません。仕事に前のめりになると、ついつい「破」とか「離」をしたくなりますが、そんなときは自己点検します。
『お前は「守」が十分できているか』と。
その3)「破」と「離」を忘れないようになります。
公務員はともすれば「守」だけの仕事をやりたがります。その方が楽だからです。しかし、公務員には国民のために公務を更に良くする義務を負っています。
それが公僕のミッションです。
そのために「破」も「離」もやらなければいけません。「守破離」はそれを想い出させてくれます。楽をしたがる自分に喝を入れる言葉でもあるのです。
まとめ
こんなことで、私は堅くかつ柔らかい職場を乗り切ってきました。
なかなかいいおまじないだったと今も思います。
そして、これは、国家公務員はもちろん地方公務員にも使えるおまじないだと思います。良かったら使ってみてください。ただし自己責任で。
(文:小柴龍太郎)
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