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地域手当に問題視する声多数 - 弁護士ドットコムが調査(2024年8月情報)



2024年7月、津地裁の竹内浩史判事は、現職裁判官としては異例の国家賠償訴訟を起こしました。転勤と地域手当により実質的に報酬が減ったのは、下級裁判所の裁判官の報酬について「減額することができない」と定めた憲法80条2項に反するとの主張です。

国家公務員の地域手当、裁判官も含む、は事実上人事院が定めています。最も高い東京23区では月給の20%が支給されているが、支給がない地域も存在します。また、前任地の一定割合が支給される「異動保障」も存在するが、期間は異動後2年間に限定されています。

竹内判事は大阪高裁(16%)から名古屋高裁(15%)、その後津地裁(6%)と転勤し、現在は4年目で異動保障は終了しています。昇給がなかったこの間、報酬が計約240万円減ったと竹内判事は主張しています。

この裁判は、現職裁判官が国を訴えたことに加え、今年が地域手当の見直しの年であったことからも注目を集めています。

一方、弁護士ドットコム株式会社(東京都港区、代表取締役社長 兼 CEO 元榮 太一郎)は、弁護士ドットコム®の会員弁護士281人(元裁判官7人を含む)を対象に、裁判官の地域手当に関する調査を行いました。

目次

「裁判官の地域手当」に関するアンケート調査結果

裁判官に地域手当を設けることは妥当だと思いますか?

(A)地域手当の設置については、「妥当」「やや妥当」と回答した人が52.7%に達し、過半数を超えました。一方、「不当」「やや不当」と答えた人は23.9%にとどまりました。

裁判官の地域手当について現状の地域差(金額)は妥当だと思いますか?

 一方、(B)現行の金額については「妥当」「やや妥当」と答えた人が26.7%にとどまり、「不当」「やや不当」と答えた人が43.0%に達して、逆転する結果となりました。

多くの弁護士は裁判官の地域手当自体には肯定的であるものの、その金額設定には問題があると考えていることが明らかになりました。

地域手当について不当だと思う理由は?

裁判官の地域手当に問題があると感じる弁護士に、その理由を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「裁判官の判断がゆがむから」で45.4%でした。これは、人事評価を気にして裁判官が裁判所組織の意向に沿った判断をしてしまうことへの懸念を示しています。

次に多かったのは「全国均一の司法が実現できなくなるから」で41.5%でした。これは、都合の良い裁判官が地域手当の高い勤務地に配属されることで、裁判官の能力に地域差が生じるのではないかという危惧を表しています。

そのほかの理由としては、「金額の算定方法に問題があるから」(36.9%)、「同一労働同一賃金に反するから」(35.4%)、「民間や地方公務員の賃金格差の固定化や採用に影響するから」(14.6%)、「その他」(7.7%)が続きました。


裁判官の転勤制度について

裁判官の転勤制度について自由にコメントを求めたところ、元裁判官である弁護士からは次のような意見が寄せられました。

【裁判官の判断がゆがむ】

・転勤配置が裁判官統制の一番有力な手段となっている。判事任官研修の時に人事課長が「家を買った以上は一つ拠点ができるから、単身赴任をする際の負担が半減するし、辞めることもできないから単身赴任をさせる条件がそろう」と話したことが忘れられない

・異動が差別人事に利用されている。組織内での評価を気にして、裁判官の判断が歪む。優遇される裁判官は、東京中心に転勤して、ずっと高額の地域手当を得、差別される裁判官は、ずっと地域手当がほとんどないまま転勤する

【転勤や地方勤務の負担が大きい】

・転勤は家族に多大な影響を与え、退職の原因になった若い裁判官を何人もみている

・地方の方が都会よりも生活費、文化的費用、子の大学費用等が必要なのであるから、むしろ僻地手当を出すべき

【嫌なら転勤を拒否するべき】

・子どもに「ふるさと」を持たせるため、(裁判官は原則意思に反して転所等されないとする裁判所法48条を行使して)約10年間転所をともなう転勤に同意しなかった。個々の裁判官が自身にメリットがあれば転勤に同意すればよいだけ

現職の裁判官が実名で国を訴えたことについての賛否

現職の裁判官が実名で国を訴えたことに対する賛否を尋ねたところ、「評価する」「やや評価する」と答えた人が80.1%に達し、多くの弁護士が竹内判事の提訴を好意的に捉えていることがわかりました。

その理由として、以下のような意見が寄せられました。

・どの裁判官も思っていたけど言えなかったことを、弁護士任官の裁判官が訴訟で世に問題提起をした意義は非常に大きい

・地域手当の格差については、裁判官からも不満の声が上がっており、辞める若手裁判官も多いと聞くため、改善が必要

 一方で、裁判の行方自体については、「問題意識は理解できるが、法的根拠が難しい」「担当裁判官としては現行制度を否定する判決は書きづらいのではないか」などの意見も多く見られました。

「裁判官の地域手当」に関するアンケート調査概要

調査機関:プロフェッショナルテック総研(弁護士ドットコム株式会社内)


調査方法:弁護士ドットコム®会員弁護士を対象にウェブアンケートを実施

調査対象:弁護士ドットコム®の会員弁護士で回答が得られた281名

調査期間:2024年7月14日〜18日

※本アンケートの出典元:弁護士ドットコム株式会社(https://www.bengo4.com/corporate/)調べ

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この記事を書いた人

公務員総研チーム Maruです。主に公務員や行政関係のニュース記事をお届けします。

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