アメリカは日本とは異なり「州」という区別があります。さらに、その州という概念はひとつの国のような意味を持っています。それぞれの州において違う代表的なことは税金や文化、薬物規制などが一般的ではないでしょうか。
今回は、私も住んでおり、なおかつアメリカのなかでも政治や経済などで、比較的中立的な立場としての扱いを受けることが多いアリゾナ州の制度や問題点について2017年12月の時点でまとめたものを、ご紹介します。
これらの問題点からアメリカが抱えている問題が見えてくると思います。
メキシコ移民問題
アリゾナ州はアメリカの南西部にあり、人口は700万人ほどの砂漠地帯の州です。皆さんもご存知のグランドキャニオンやセドナなどがあり、スポーツも盛んでバスケットボールではフェニックスサンズ、野球ではダイヤモンドバックスなどが拠点を置いています。
元々は、砂漠地帯だったため気候が年間を通して安定しており、夏は灼熱、冬は温暖というのが特徴です。雨はほとんど降りませんが、7月と8月はモンスーンという雷雨が毎日のように発生します。
そんなアリゾナ州ですが、いま最も直面している大きな問題が「移民問題」です。ここで言うところの移民とは「メキシコ人」を指していますが、アリゾナ州はメキシコとの国境にあるため、不法入国してくるメキシコ人が後を絶ちません。
不法入国に成功したメキシコ人たちは、すでにアメリカにいるメキシコ人の仲間を頼って潜伏生活をします。その際の生計は、個人家庭の庭掃除や配水管工事、自動車工場、日雇いの工事現場など現金で報酬がもらえるようなところで働きます。
メキシコ国内で同じ労働をしてもせいぜい1日5ドル程度しか稼げません。しかし、アメリカ国内では1日に100ドルほど稼ぐことが可能です。これこそが、メキシコ人がアメリカを目指す理由です。
不法入国を試みる際に捕まったら終わりですが、捕まらなかったら夢のような生活が待っているわけです。当然、不法入国ですから、アメリカで医療や教育を受けることは出来ませんが、違法ながら仕事をすれば大金を稼げるのです。
不法に入国してきた人たちは、どんな辛い仕事でも現金がもらえるなら引き受けてしまいます。このことは、本来ならアメリカ人が働ける機会を奪っていることになってしまいます。トランプ大統領はこのことに憤慨しており、不法メキシコ人たちがアメリカを浸食していると主張し、排除の姿勢を貫いています。
この問題に付随して「DACA(Deferred Action for Childhood Arrival)」も大きな問題です。DACAとは、16歳未満の子供が親に連れてこられるかたちでアメリカに入国し、そのまま不法移民という扱いになった彼らを強制退去させず、2年間の滞在資格を与えるという、移民の子供たちを守るという制度です。
DACAはオバマ前大統領が始めた制度ですが、トランプ大統領はこの制度には猛反対です。そもそも親が違法なことをしたにもかかわらず、その子供たちまで守る必要などないという考えです。不法に入国したときには子供だったかもしれないけれど、いまでは十分な大人であるということがトランプ大統領の主張です。
トランプ大統領がDACAを批判する理由は、移民の子供たちの教育や居住費に大量の税金が導入されていることにも及びます。アメリカ人から集めた税金を、違法なメキシコ人たちのために使うのは筋が通らないというのです。
アリゾナ州で生活していると、メキシコ人が優遇されていると感じることが多いのは事実です。無償教育、無償の住居、政府が食料の購入を援助するフードスタンプなど、メキシコ人に対して税金が使われていることは確かなのです。
さらに、税金によって援助された制度を悪用し、お金儲けをするメキシコ人も大勢います。家の又貸し、フードスタンプの転売などが横行し、フードスタンプにかかる年間6兆円の予算の10パーセントは詐欺による損失だとされているほどです。
トランプ大統領が規制を強めようとしているDACAや移民問題ですが、オバマ前大統領を始めとする多くの人からは、人道的な問題として見ていないと指摘されています。しかし、アリゾナ州で生活をする人はメキシコ人の横行を、日々の生活のなかで見ているので、反対している人ばかりとは限りません。
国境に無駄な壁を作る
アリゾナ州が抱える問題のひとつが「メキシコとの国境に壁を作る」ということです。これも先に紹介した移民問題に繋がる話ですが、アリゾナ州の人からすると税金の無駄使いを目の前で黙って見ている状況といった感じです。
トランプ大統領は、大統領選の公約として発言したため「やらざるを得ない」または「引くに引けない」状況になっています。もちろん、そんな弱気な姿は見せませんが、メキシコとの国境に面しているアリゾナ州やカリフォルニア州などの人からすれば、冷ややかな目を向けるほかありません。
そもそも国境に壁を築くことが問題の解決に繋がるとは誰も思っていません。壁を作れば穴を掘り、壁を作ればトラックのなかに潜んで国境を越えてきます。不法移民をこれ以上増やすわけにはいかない事情は分かるものの、壁を作るという短絡的な発想には飽きれている人がほとんどです。
当初、トランプ大統領は国境全域にメキシコ政府負担で壁を作ると主張していました。しかし、蓋を開けてみるとアメリカ政府が立て替えるかたちで、なおかつ国境の一部に規模を縮小しました。さらに、建設費として2兆円以上かかり、維持費もかかることは、現在の警備体制を倍増させるよりも高くつくと指摘されています。
現実問題として、メキシコとの国境警備はレーダーや電気光学式カメラ、赤外線式カメラが機能しており、新たに巨大な壁を作ることよりも、このようなテクノロジーをさらに導入すべきとの声も上がっています。
メキシコに近いアリゾナ州の南のエリアでは、国境警備隊が厳しい目を光らせており、至るところにある検問や、大型トラックを停めて検査している光景をよく見かけます。このような警備を強化することよりも、壁を作ると言った手前、引き下がれなくなったトランプ大統領には冷たい目が向けられています。
人種差別問題
これはアリゾナ州に限ったことではありませんが「人種差別問題」はアメリカにとって永遠と続く問題と言えるでしょう。日本ではあまり知られることがない形の人種差別問題をご紹介します。
一般的に人種差別と言うと、白人が黒人に対して罵声を浴びせたり、露骨に怪訝な顔をすることを想像するかと思います。事実、このような差別はまだ残っており、特に年配のアメリカ人には黒人に限らず、アジア人にも差別的な言動をとる傾向があるようです。
個人的にも町で露骨に怪訝な顔をされたこともありますし、無視をされることは幾度となくありました。恐らくアジア人=中国人という見方をしているようで、日本人であっても冷たい態度をされることはあります。
今回、ご紹介する人種差別の問題は「逆」のパターンです。具体的に言うと、白人があらゆる場面において冷遇されているということです。日本にいると感じることはないでしょうが、アメリカで生活をしていると白人の立場が弱くなってきていることが分かります。
具体例として、アリゾナ州も含めアメリカ全土で、教育機関への入学や就職の場面で、弱者集団として扱われてきた過去を持った人たちを優遇する法律があります。これを「アファーマティブ・アクション(affirmative action)」と呼びます。
実はこのアファーマティブ・アクションこそが、数年後には新たな人種差別を引き起こす可能性があると言われています。この制度はごく簡単に言うと、入学試験や就職の際に、これまで差別を受けてきた黒人や少数民族の人たち用の特別枠を設けたり、点数を割増しして優遇することです。
この制度によって、同じ学力や、仕事の実績を持った白人と黒人がいた場合、黒人が優遇されることになります。実際には、白人の方が優秀であっても、黒人が割増しの評価を受けるため白人は落選してしまうのです。
実際に私の知人は地元の大学の職員募集の際に最終面接まで残り、テストの評価も高かったにもかかわらず、同じく最終面接に残っていた黒人女性が合格したそうです。ヘッドハンティングのような形で声がかかりエントリーした知人でしたが、結果的には不採用に終わりました。
もちろん、これは法律で定められたことであり、学校側は法律に準拠したまでですが、合格出来なかった人の立場からすると、優秀な方が落ちてしまう納得できないルールという捉え方もできるのです。実際に、アメリカ全土で不利になった白人が裁判を起こすケースもあります。
アメリカは2050年には、現在人口の60%を占める白人が、50%を下回るとされています。白人が築いた国なのに、白人が半分以下になることを恐れている人は多く、このアファーマティブ・アクションは「白人差別」の温床になると指摘されています。
これを懸念し、白人の立場を守ろうとする人が「白人至上主義」を訴えており、各地で活動を始めています。なかには差別的な人も多いため、アメリカは今後も人種差別問題は続いてくと考えられています。新たな人種差別問題として認識しておくといいでしょう。
まとめ
アメリカは広く、州によって制度や抱える問題は異なります。今回は、アリゾナ州を中心に紹介しましたが、移民問題と差別問題はアメリカで生活していないと実感できないことが多いものです。ご紹介した内容が、みなさまの知識のひとつとしてお役に立てれば幸いです。
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