会社・業種・職種と仕事内容について
私のいる会計事務所は規模が大きく、社員は現在1,000人を超えています。会計監査部門と税務担当部門、そしてコンサルタント部門の3つがあり、更に会計監査部門はクライアントの業種別に担当部署が分かれています。例えば、金融会社を担当する部署、流通会社を担当する部署といった具合です。
また、税務担当部門とコンサルタント部門もそれぞれ細かく部署が分かれていて全部で20を超える部署がありますが、私が所属している部署は日本事業本部で、韓国に進出している日系企業をクライアントとしています。
日本事業本部は事務所の中では特殊な構造を持ち、一つの部署の中に会計・税務・法人設立・給与・記帳・翻訳のチームが全てあります。この部署だけで日系企業専門の小さな会計事務所のようになっているわけです。
会計事務所全体としては日本人を含めて外国人が数名いて、日本人は私のほかに一人、その人は会計士で日本のメンバーファームから派遣されている駐在員です。私は現地採用で翻訳・通訳チームの一員として10年以上、毎日同じ仕事をしています。
翻訳・通訳チームと言ってもほぼ100%が翻訳業務です。通訳の仕事は私個人で年に2~3回あるかないか、チーム全体でも一人あたりの業務量で考えたら同じくらいです。よって、通訳慣れしていないため通訳の仕事を任された時はいつもドキドキします。
私のいる部署のメンバーは大多数が日本語に問題ないので、通訳業務は他部署の会計士が日系クライアントと会議をする必要が出てきた時に行うことになります。私の部署は日本事業本部ですが、案件によっては他部署が担当することもあるからです。
では、翻訳専門職の私がここでどのような文書を翻訳するかをお話ししましょう。ちなみに私は直接翻訳をするというよりも、日本語ネイティブとして監修業務、つまり日本語が堪能な韓国人社員が韓国語から日本語に翻訳した文書の最終チェックをメインに行っています。
会計事務所ですから、文書として代表的なものには監査報告書(財務諸表とその注記を含む。日本での有価証券報告書)があります。監査報告書のほかにも、クライアントに対して監査に関する様々な文書を提出しますので、ワードファイル以外にもパワーポイントやエクセルで作成された報告文書があります。
税務関係では移転価格検討報告書、税務計算報告書などがあり、会計・税務ともに提案書、契約書、見積書、そして日常のやりとりのメールといったものまで、韓国語で作成されて日本語でクライアントに渡るものはすべて通訳・翻訳チームで翻訳され、私の監修を経ることになります。
もちろん、日本語がネイティブレベルの社員も何人かいますので、簡単なメール程度であれば彼らは自分で作成しています。
仕事内容、1日について
私の一般的な1日の流れをお話しします。ほぼ100%内勤の仕事でクライアントと直接やりとりをすることもないため、文字にすると極めて単調なものになりますが…。
9:00 出勤、メールチェック、チーム内での連絡
チーム員それぞれが昨日から引き続きやっている仕事を伝え、チーム長は昨晩の間に新しく入ってきた仕事などをチーム員へ連絡し、状況を把握します。
9:30 午前の業務開始
現在、手元にある仕事に取り掛かります。仕事は随時入ってきて優先順位も異なるので、進めていた仕事を中断して別の文書の監修をすることも多々あります。
12:00 ランチタイム
私はお弁当持参で自分の席でネットサーフィングなどしながら昼食を取ります。ほとんどの社員が会社が入居しているビルの中や近くにある食堂、または隣にある自社ビル地下の社員食堂で食事をしています。私も以前は皆で外に食べに行っていたのですが、平日に自分の時間があまりにも取れないためお弁当に切り替え、ランチタイムを自分の時間として有効に活用しています。
13:00 午後の業務開始
午前中から引き続き、自分の仕事に取り掛かります。
18:00 退社
ビジーシーズンでなければ、ほぼ定時には退社できます。18時ギリギリに仕事が舞い込んで来ればその時は急遽残業になりますが、基本的には残業は予め計画を立てて行っています。また、出来るだけ金曜日は残業をしないというのがチームの方針です。
通常の1日の流れとしてはこんな感じで、通訳業務があれば直行直帰の日もあり、クライアント向けに私の部署で主催するセミナーがある日にはセミナー準備を数時間行うこともあります。
次は、私の仕事である日本語翻訳文書の監修業務の流れについてです。
日系企業がクライアントであるため、会計士が作成した各種報告書や提案書は日本人駐在員や日本本社にいる管理部門に提出する必要があることから日本語に翻訳されます。また、日常的に行われるクライアントの日本人スタッフとのやりとりメールも、私のいる通訳・翻訳チームで翻訳をします。
会計士から私のチームのチーム長に翻訳依頼が来ると、チーム長は翻訳をするチーム員(韓国人)に仕事を振り分け、日本語への翻訳を行います。翻訳が終わると日本語文書と韓国語の原文が私のところに来るので、比較対照しながら誤字脱字、不自然な日本語表現がないかどうかをチェックし、必要であれば修正履歴が残るようにして修正をして翻訳者に戻します。
たまに私が直接翻訳を行うこともありますが、それは
・ビジーシーズンで翻訳依頼が大量に舞い込み、翻訳スタッフのキャパオーバーになった
・緊急の翻訳で翻訳プラス監修という二段階を経る時間が取れない
・日本語独特の挨拶やお知らせメール(人事異動など)、多くの人に見られたくないマル秘メール
などの場合で、それほど頻繁にはありません。
年収やキャリアデザイン・働き方・初任給
私の職場は会計事務所ですから、会計士、税理士、弁護士などの資格を持った人と私のように資格を持たない人がいます。
私の肩書は現在、次長(マネージャークラス)で、年俸は約500万円です。士業ではない人は大体、職位によって決められた年俸をもらっていると思います。つまり、次長という肩書の人は皆、私とそれほど変わらない年俸のはずです。
年に一度のボーナスは決して多くはなく、今年は月給の1.8ヶ月分でした。私はここで13年間働いていますが、今までで一番良かったボーナスで月給3ヶ月分だったので、日本の会社で秋冬合わせて5ヶ月以上は必ずもらっていた身では、今でもボーナスは少ないなぁと思っています。それでも、もらえるだけいいほうなんでしょうね。日本と同じでボーナスの出ない会社もたくさんありますから。
もちろん、会計士の皆さんは私とは比較にならないくらい、たくさんもらっているはずです。仕事がきついのでお給料が多いのは当然だと思っていますが、具体的にどれくらいなのかは私には分かりません。
私はこのまま行けば次長の上、部長までは昇進できるのですが、日本人であることと現在のチーム内の人員配置を考えてこれ以上の昇進はしないことを上司に話してあります。部長になった時のお給料と業務内容のバランスを考えると、会計士でもない日本人の私が、そこまで昇進するメリットはあまりないような気がするからです。
基本的には6時の定時に退社でき、完全週休二日制で飛び石連休の時には連続の休みになり、またネームバリューのある職場ですので満足して働いています。
日本人として苦労したこと・日本の方がよいかもしれない点など
仕事の上では“日本人であるために”苦労したということはありません。但し、戸惑ったことはたくさんあります。
例えば、会社を挙げての体育大会が何年かに一度あるのですが、その開会式で必ず国歌斉唱があります。韓国人は国家を歌いながら胸に右手を当てるのが普通なのですが、いくら韓国が好きな私でもその姿勢で韓国国歌は歌えません。私の根っこの部分はあくまでも日本人ですので、そういった時はやはり自分がここでは外国人であることをはっきり自覚することになります。
また、韓国では日本のように何かを始める前に綿密な計画を立ててから行うというよりも、取り敢えず始めてみてから軌道修正していくやり方が多いので、どうしてもっときちんと手順立ててやらないのだろうと呆れることが未だにあります。
私自身は石橋を叩いて渡るタイプなので日本式の方法のほうが性に合っていますし、客観的に見た場合でも、日本のようにしっかり手順を組み立てた上で業務を行う日本のスタイルのほうが良いのではないかと思います。
まとめ
韓国に住んでいると、日本人は日本の良さを過小評価していると感じることがあります。韓国がいわゆる「ウリナラ(我が国)万歳!」という国なので余計にそう思うのかもしれませんが。
グローバルの時代に、日本だけに目を向けるのは難しいでしょうけれども、もっと日本人は日本という国に自信を持っていいのでは?と思っています。
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