はじめに
2018年の秋、世間を騒がせたキーワードとして「移民」があります。
日本では労働人口の不足から外国人労働者を受け入れるために入国管理法を改正しており、これが移民の受け入れに当たるのではないかと批判を浴びています。また、アメリカにおいては南米からやってくる移民キャラバン対策が大きな問題となっていますし、ヨーロッパにおいてはこれまで行ってきた移民受け入れ政策によって様々な社会問題が発生しています。
本記事では「移民」とは何なのかなぜ「移民」が注目を集めているのかについて説明します。
移民とは何か?
実は「移民」についての法的な定義はありません。
1つの目安として国際移住機関(IOM)では移民について「当人の (1) 法的地位、(2) 移動が自発的か非自発的か、(3) 移動の理由、(4) 滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」という定義をしています。
つまり、本来の居住地を越えて、外国で暮らす人のことを指して広く移民と呼んでいます。どの位海外で暮せば観光客では「移民」になるのかは機関によってバラバラですが12か月を超える場合は「移民」と定義することが多いです。
ちなみに日本の場合、観光や出張のための短期滞在ビザの期限は最大90日なので、それ以上日本で暮し続ける場合は、就労や長期滞在用のビザが必要になります。
本記事では海外から居住地を離れて1年以上の滞在を想定して、就労しにくる人のことを指して「移民」と呼びます。
「移民」がなぜ問題になっているか
冒頭で説明した通り、近年では「移民」は比較的ネガティブなニュースの題材として取り上げられます。これは日本が島国国家で外国人をあまり受け入れてこなかったから先入観的な拒否意識があるというわけではなく、むしろ「人種のるつぼ」と呼ばれ、「移民」を積極的に受け入れて来たアメリカにおいても社会問題化しています。
「移民」を受け入れることのデメリットとして一般的に言われるのが、治安と労働条件の悪化です。
「移民受け入れ」の結果として、治安が悪くなったと言われる都市がフランスのパリです。2015年に発生したパリの同時テロの犯人は「移民2世」の犯行ですし、他にも「移民」による犯罪が発生していると言われています。
EU全体にも「移民問題」は影響していて、イギリスのEU離脱の背景にはEUの「移民受け入れ政策」に関する反対が論点の1つしてあると言われていますし、ドイツでは「移民」に寛容だったメルケル政権が「移民政策」などによって支持率が下げて強硬派路線に政策を転換しています。
社会問題化するアメリカの移民問題
アメリカについても「移民」は社会問題となっています。
2016年のアメリカ大統領選挙において、トランプ氏はメキシコとの国境に壁を作ることを公約に掲げて当選しましたが、決して荒唐無稽な話ではなく、南米からやってくる不法移民によって、アメリカ南部の治安が悪化し、雇用が奪われている現実に対する解決策としての提案として公約がそれでアメリカ国民の支持を集めて実際に当選しました。
上の事例からもわかるとおり、「移民」を大量に受け入れた、あるいは不法に入ってくることによって治安の悪化や国民の雇用環境の悪化に苦しんでいる先進国は多いのです。
なぜ国は移民を受け入れるのか
「移民」を受け入れることによって上記のような問題が発生するのですが、世界には「移民」を受け入れている国はたくさんあります。では、なぜこのようなリスクを冒してまで「移民」を受け入れるのでしょうか。
ドバイの住民の8割は「移民」
もちろん、「移民」を受け入れる理由には、人道的な理由もありますが、実利として労働力の確保という理由があります。例えば、富裕国として有名なアラブ首長国連邦のドバイの約8割は「移民」だと言われています。
豊かなドバイが多くの「移民」を受け入れている理由には、経済発展に国内が湧いている反面安い賃金で働いてくれる労働力が必要なため諸外国から「移民」を受け入れているのです。
ただし彼らが、帰化して国民になることは困難で、多くの「移民」は短期の就労ビザを更新して働き続けて、クビになれば母国に帰されるという状態になっています。
入国管理法と外国人労働者の受け入れ
この議論はある種、日本で議論されている「入国管理法」の議論にも似ています。本記事を書いている時点で入国管理法の改正案が衆議院を通過して、おそらく法律として制定されると考えられますが、政府は入国管理法を改正して外国人労働者を受け入れようと考えています。
「入国管理法」を改正して外国人労働者を受け入れようとしている背景には、人手不足があります。
アベノミクスによって景気が良くなり失業率は2%代になっています。一般的に日本おける失業率の限界は2%程度だと言われていて、人材のミスマッチや雇用されるまでの期間があるため、失業率はこの数値よりも低くなることが困難だと言われています。
以上のような状態から、企業は人手不足で人材を欲しているために、労働者確保のために外国人労働者を受け入れることが検討されているのです。例えば2018年10月に東京商工リサーチが発表したデータによると、2018年に9月に人手不足を理由に倒産した企業は27件存在して、人手不足倒産数は6か月連続で前年同月を上回っていると言われています。
外国人技能実習制度について
実は人手不足に対する解決策としての外国人労働者の受け入れは今までも行われていました。現在の外国人労働者受け入れ制度が外国人技能実習制度です。
この制度は、日本の技術を習得してもらい母国の発展に役立ててもらうための技能実習生を受け入れるという趣旨の制度ですが、実際には外国人労働者を受け入れるための方便として用いられています。
これまでは外国人が単純労働に就労することは原則として禁止されていたので、単純労働に関しては外国人技能実習制度を使用して外国人労働者を受け入れていたのです。
しかし、この制度には色々な問題があって、低賃金で外国人労働者が働かされるとう人道的な問題や、そこから脱走した外国人労働者が犯罪などに手を染めざるを得なくなるなど社会問題を引き起こしていました。
今回の入管法の改正にはこのような現状を是正するという目的もあります。
「移民」と「国家」
以上のことを踏まえて「移民」に関する問題について改めて考察します。誰を国民として受け入れるかということは、実は国家運営において重要な問題でもあります。
人道的には「移民」したいという人がいるのならば誰でも「移民」できるような体制を整える方が良いですが、性善説に基づいた「移民」や「難民」の受け入れはときとして社会問題を発生させます。それは、アメリカやヨーロッパなどの「移民問題」からも推察できるとおりです。
また、日本において「移民」はいないと思われているかもしれませんが、実は日本は多くの「移民」を受け入れています。日本の「移民」の受け入れ状況について説明します。
日本の移民受け入れ状況
日本では建前としてこれまで積極的な移民政策を行ってきませんでした。
日本で就労できるのは一部の高度な技術や専門知識を持っている人物だけで、単純労働のための外国人は基本的に受け入れないというのが日本の姿勢だったからです。
しかし、実際の生活意識としては都心の住民はむしろ単純労働ほど外国人が多いというイメージは無いでしょうか。
例えば、都心の深夜のコンビニや飲食店では多くの外国人労働者が働いています。むしろ、日本人の方が少ないと感じることも多いでしょう。つまり、先ほど説明した外国人技能実習制度によって実質的には大量の移民を労働力として確保しているのです。
厚生労働省の発表によると2017年10月時点で外国人労働者の数は約128万人、2018年10月時点の就業者数は約6700万人なので既に労働人口の約2%は外国人労働者になっています。
外国人労働者の割合について何%が適正かは一概に言うことはできませんが、2017年10月に外国人労働者128万人は前年同月比18%アップであることから、いかに外国人労働者が伸びているかがわかります。OECDの統計によれば日本は年間40万人の「移民」を受け入れており、これは世界4位の受入人数だと言われています。
外国人労働者と地方自治
仮に今後もこのように「移民」が増加していくと考えると、増加する「移民」にどのように対応すべきかは地方自治体やそこで働く公務員にとって重要な問題となります。
労働力として地域の経済を支えてくれる一方、異文化との共生は民間の力だけでは限界があり、行政が上手く間を取り持つ必要があります。また、生活保護や治安の問題についても、各地域でどのように対策を行うのかもきちんと考える必要があります。
外国人労働者が日本にやってきてくれることによって、地方で深刻化している労働者不足は解消されて、地方に経済が活気づくかもしれませんがどのように共生するのかは、自治体が今後抱えることになる大きな課題だと言えます。
まとめ
以上のように「移民」とは何かそのメリットやデメリットについて説明してきました。「移民問題」がヨーロッパ、アメリカなどの先進国で深刻な問題となっていますが、日本ではむしろ「移民」を積極的に受け入れようという流れがあります。
この背景には日本の景気の減退要因になりかねない労働力不足があります。失業率は下限に近付いており、多くの産業で募集しても人材がなかなか集まらなくなっているので外国人労働者によって人手不足を解消しようというのが入国管理法改正の主旨です。
ただし、このような法改正なしでも既に現実には外国人技能実習制度を利用して多くの単純労働者を海外から雇用されています。労働者の既に2%程度は外国人でこの比率は今後ますます高まっていくと考えられます。
そして、外国人労働者の受け入れが増加した場合、その対策の最前線になるのが自治体や公務員です。もちろん外国人労働者を受け入れた企業が労働者のケアを行いますが、社会保険の問題や共生するためのインフラ整備は公共側の仕事となります。
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