刑務官が読む機関誌「刑政」(矯正協会発行、2018年4月号)に掲載された記事から興味深いものを紹介します。
著者の大塚敦子さんについて
今回は、ジャーナリストの大塚敦子さんが刑政に寄稿した「刑務所に自然を持ち込む」と題する記事の紹介です。
大塚敦子さんは、刑務所関係の職員の中でもよく知られた方で、刑務所での介助犬育成プログラムを日本に紹介した方です。
ワシントン州の女子刑務所が薬殺処分直前の犬をもらい受けて、受刑者が介助犬に育て上げ、それを貧しい障害者に無料で提供していることを紹介したのです。
これは本にもなり、刑務所の内外に衝撃を与え、ついには日本の刑務所にも同様の取組をする所(島根あさひ社会復帰促進センター)が現われるまでに影響を与えました。
その大塚敦子さんが、今回、そのワシントン州の刑務所でまた新たな取組が行われていることを紹介してくれました。その内容は介助犬育成プログラムを凌ぐくらい興味深かったので、このコラムでも紹介します。
生ごみの堆肥化
大塚さんが紹介するワシントン州の刑務所での取組のうち、私が興味深く思ったのは刑務所での生ごみの堆肥化です。
どういうことかというと、刑務所では受刑者の食事を作ったりする際に大量の生ごみが発生するのですが、この処分を廃棄業者に任せるのではなく、刑務所で堆肥(有機肥料)にして、それを使って花などを育てて地域に還元するのだそうです。
こうすることで、刑務所としては多額の生ごみ処理代が節約できますし、公園とか学校、養老院では送られた花を楽しむことができます。
そして、そのプロジェクトに参加する受刑者は生き生きとして充実した受刑生活を送れるようになるだけでなく、そのような活動は大学の単位の取得につながったり、グリーンビジネスに関する資格取得にもつながるそうなのです。ウィンウインじゃなく、ウインウインウインですね。すばらしい。
このプロジェクトに関してもう少し付け加えると、生ごみを堆肥化する過程にもいろいろあって、例えば、ミミズは肉や乳製品を食べないので、それを好んで食べる大型のハエを利用しているのだそうです。
そうすると、そのハエの幼虫がたくさん取れるのですが、その幼虫を鳥や動物のエサとして動物園に寄付するのだそうです。
これには動物園が大喜びで、全米各地から引き合いが来ているとのこと。刑務所に熱いラブコールが寄せられているわけです。何か不思議な現象で、楽しい気分にすらなってきます。
もちろん、こうして出来上がった良質の堆肥も有効活用されます。地元の自治体とか障害者施設に寄付されるのだそうで、刑務所はこのようなところからも感謝されるようになっているのです。すばらしいことではないでしょうか。
まだまだある刑務所の新しい試み
大塚さんは、ワシントン州の刑務所が取り組んでいる先進的な取組をまだたくさん紹介していますが、こちらにもいくつか紹介します。
昆虫などに関すること
例えば、刑務所と大学が協働して、絶滅危惧種であるカエルとか蝶を刑務所で育てたり、世界中で激減して問題となっているミツバチを育てたりもしているそうです。
病気に感染した亀の甲羅を1日に何度も洗って乾かすなんてこともやっているとのこと。
確かにこのようなことは刑務所だからこそできる社会貢献かもしれませんね。
犬や猫に関すること
薬殺処分されることになっている犬を刑務所が引き取って、介助犬やセラピー犬にしたり、そこまでいかないまでも訓練して家庭犬として譲り渡したりしているそうです。
猫も同様に、人になつかない保護猫を受刑者が世話をして社会化し、引き取り手を見つけるプログラムがあるそうです。
こうした犬と猫に関する刑務所のプログラムが、ワシントン州だけで17もあるとのこと。この州ってすごいなあと思います。日本も負けていないで何かやってほしいものです。
車椅子の修理など
中古自転車や車椅子を刑務所で修理して、第3世界の国々に寄付したり、あるいは故障したパソコンを修理して地元の小中学校に寄付したり、さらには刑務所の工場で余った布切れで熊のヌイグルミを作って子どもの病院などに寄付するようなこともしているそうです。
受刑者の古着を再生させてホームレスの人が住む所に寄付するというプロジェクトもなかなかいいと思います。受刑者の数は半端でないくらい多いので、その効果も大きいものがあるでしょう。
まとめ
以上のように、大塚さんはアメリカ・ワシントン州で行われている様々な刑務所の取組を紹介しています。
どれを見ても感心するくらいの内容で、ここにアメリカという国が発展してきた源泉が見えたような感じすらしてしまいます。
一方のわが日本はどうかというと、私が知る限りほとんどやっていません。新しいことをやるのに躊躇する文化が背景にあるのかもしれません。それなら、日本人が得意とする真似する力を発揮して、これらワシントン州での試みを導入してみたらどうかと思います。
そしてそれは、刑務所から寄付される障害者や子どもたちなどが喜ぶだけでなく、犯罪者の更生という形で国民のためにもなることなので、国民の理解は必ず得られると思います。
また、刑務所にとっても、そのような試みに挑戦することで、いつも叱られてばかりいるメディアの記者さんたちから温かい眼差しを向けられるようになるかもしれないので、おまけ付きです。
(小柴龍太郎)
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