刑務官が読む機関誌「刑政」(矯正協会発行、2018年6月号)に掲載された記事から興味深いものを紹介します。
「矯正運営の重点施策」とは
「刑政」では毎年1回、「平成○○年度矯正運営の重点施策について」という論文を掲載します。
法務省矯正局の高官が執筆するもので、これを見ると法務省がどのようなことに力を入れようとしているのかが分かります。したがって、本来すべての刑務官が熟読すべき内容なのですが、とかく難しい内容も多いので敬遠されるのが実態です。
一方、中等科・高等科研修の入所試験にはほとんど必ずと言っていいほど出題される内容が含まれているので、これらの受験生は必ず読まなければなりません。もちろん、所長以下の幹部も必ず目を通しておかなければならない重要なものです。
今回は、ここに書かれているもののうち、私が興味を持ったことについて少しだけ紹介してみます。
再犯防止の施策が数値で評価される
この論文では、今年度が「再犯防止推進計画」を実行に移す最初の年だということから書き出されました。再犯防止がいかに今の矯正行政にとって重要かがこれだけでも分かります。
この「再犯防止推進計画」というのは、去年(2017年)の12月に閣議決定されたもので、法務省に限らず、今の政府の重点施策と位置付けられたものです。そして、法務省として、これを具体的に実施していく最初の年が今年だということです。
その具体的な内容についてここで触れることはしませんが、次の部分は目を見開く思いで読みました。つまり、この実行が効果をもたらしたのかそうでないのか、それが数値で評価されるというくだりです。
簡単に言うと、①再犯者率、②再入者率、③出所後2年以内の再入率、④主な罪名等の2年以内再入率の四つの成果指標が設定されて、これら「エビデンス」によって施策が評価されることになっているのだそうです。
かつて刑務官だった自分が言うのもなんですが、公務員は自分の失敗をうまく言いつくろうことが得意です。文章をこねくり回して上手に逃げると言ってもいいかもしれません。でも、このように数値で評価されるとなると、この得意な手法は通じません。言わば証拠(エビデンス)を挙げられればグーの音も出ないという構図です。
いわば、試験の点数で通信簿の評定が決まるようなものです。どこのどなたが設定した評価方式か分かりませんが、とても厳しいものです。きっと行政外の学識経験者とか政治家のリーダーシップの結果だろうと想像します。法務省を始め、関係省庁の行政官は相当困っていると思います。
でも私は、むしろ痛快に思っています。現職時代にこういうことを私自身が言っていたからです。当然、身内に厳しい内容ですから批判もされ、うとましくも思われましたが、今こうやって見ると、自分の考えと行動が正しかったと証明されたような気がしてうれしいのです。同時に、外部の力でこのような事態に追い詰められる前に、なぜ自分たちでやらなかったのかと忸怩たる思いもするのです。
ともあれ、関係省庁、とりわけ法務省には頑張ってほしいと思いますし、現場の刑務官もしっかりとやってほしいと願っています。
塀の中のお医者さんが増え始めた!
「重点施策」そのものの話ではありませんが、この論文の中に書いてあることで、私が嬉しく思ったことがあります。それは、刑務所などの矯正施設で勤務するお医者さんの数が増加に転じたというのです。
きっかけは「矯正医官特例法」の施行です。これで刑務所などのお医者さんの兼業が認められたり、勤務時間が柔軟に設定できるようになったりしたために、「刑務所で勤務してもいいか」、と考えるお医者さんが多くなったようなのです。
お医者さんの定員割れが続いて、刑務所などの現場では長く困り果てていたので、これはとても喜ばしいことですね。
(小柴龍太郎)
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