【日韓交流40年】日韓における受刑者処遇の違いについて

【国家公務員「刑務官」のコラム】
刑務官が、日本と韓国間で武道の親善試合を始めて以来、今年で40年になります。

今回は、この交流を通して知り得た我が国と韓国における受刑者処遇の違いについて紹介しています。執筆は、元・刑務官の小柴龍太郎氏です。


刑務官が読む機関誌「刑政」(矯正協会発行、2018年4月号)に掲載された記事から興味深いものを紹介します。

日韓矯正職員親善武道大会

日本と韓国との刑務官が武道大会を行っていることは、矯正界以外の人はほとんど知らないでしょう。しかし、昭和53年以来今までお互いの国を訪問しながら柔剣道の親善試合を続けてきているのです。今年は第40回目だそうですから、40年間続いてきたということになります。

日韓関係を良好に保とうとする政治レベルの思惑があるのかないのかは分かりません。でも、この武道大会に関わった選手たちをはじめとする日本の刑務官たちは、間違いなく韓国の刑務官たちや韓国という国そのものを身近に感じ、好感を持って見るようになります。その積み重ねは、日韓の良好な関係を創り上げていくのに貢献していることは疑いありません。

私は現役時代、選手としてではなく、その裏方となったり、直接選手団の皆さんのお相手をしたりしてきましたので、とても親近感をもってこの大会の最新情報を楽しみにしています。

今回は、その試合そのものではなく、日本の刑務官たちが韓国を訪れてどんなものを見て何を感じたのかについて興味深いものがあったので、それを紹介したいと思います。

死刑確定者がほかの受刑者と一緒に作業!?

日本の刑務官たちは親善試合の合間に韓国の刑務所を見学します。その中で、時々彼らがびっくりするようなことを見聞することがあります。

今回は、死刑確定者がほかの受刑者と一緒に刑務作業に従事していたというものです。

大田矯導所という刑務所でのことですが、そこには12人の死刑確定者が収容されていたそうです。そして、うち11人が一般受刑者と同じ工場で作業していたとのこと。

これを知った時の日本の刑務官がいかに驚いたか、私にはよく分かります。日本ではあり得ないことだからです。

日本では、死刑確定者は被告人と同じく拘置所とか刑務所の拘置区に収容されており、刑務作業には従事しません。死刑確定者の刑とは死ぬことですから懲役受刑者の行う作業に従事させるということはないのです。

ただ、このような韓国の実情を知ってみると、日本でも禁錮刑受刑者に請願作業を認めていますので、同じようなことを死刑確定者に認めてもいいのではないかという気が少ししてきました。死刑確定者がその作業によって得たお金を被害者遺族などに償いの意味で届けるのも意味があるかもしれません。


このように、韓国での死刑確定受刑者の処遇の実情を知ることで日本の刑事政策のことを考え直す契機になるかもしれないので、意義深いものがありますね。

弁護人面会室がガラス張り!

これも大田矯導所で日本の刑務官が驚いたことです。

彼らは受刑者たちが行う面会室を見学したのですが、弁護人面会室が全面ガラス張りだったのを目撃し、「面会の状況が外から把握でき、日本の弁護人面会との違いに驚きを感じ」たとのことです。

これを知って私も驚きましたが、同時に韓国をうらやましく思いました。というのも、日本ではこの弁護人面会室を巡っていろんなトラブルが起きているからです。

私が現役時代の時にも、禁じられている録音機やカメラ、ビデオ録画装置を面会室に持ち込んで被告人や受刑者の話を録音したり、顔を写したり、ビデオで撮ったりする弁護人がいたのです。刑務所側が抗議すると、正当な弁護活動だと言って公然と反発し、裁判沙汰に発展することもありました。

現場からすれば、本省から禁止すべしと言われればこれを許すわけにはいきません。そこでこのようなことをしないように強く注意するのですが、確信犯的にこれをやろうとする人は、カバンなどにカメラなどを忍び込ませて面会室に入りますので、防ぐ手立てがありません(弁護人の場合は持ち物チェックを行いません)。

弁護活動は憲法以下の法令によって認められた行為ですので、刑務所側も必要限度以上の制限ができないのでこのような事態になるわけですが、韓国のように全面ガラス張りの面会室ならば不正行為をやればすぐ分かりますし、分かったら面会を直ちに中止させられますので、問題は最小限にとどめられます。また、「やった」「やってない」の押し問答も無くなります。やればその映像などで立証できるからです。

この点は、できるだけ早く日本も韓国を見習ってほしいと、元刑務官の私としては思います。

スマート面会?

日本の刑務官が韓国の刑務所を参観して勉強になったことはほかにもいろいろあったようですが、私が興味を持った最後は「スマート面会」というものでした。

何やら「スマートフォンのカメラ機能を活用した画像面会」とのことです。IT分野では日本の先を行くといわれる韓国ならではのアイディアかもしれません。

まとめ

このように、40年もの長きにわたって続いてきた日韓親善武道大会は、武道を通じて相互の刑務官同士が親しくなり、また相互の刑務所などを参観して受刑者処遇の在り方などについて学び合ってきました。

私は、その実務家同士の交流を通じて、お互いの国の受刑者処遇の向上、さらには刑事政策の発展、そして、日韓の国同士が仲良く発展していけるようにするためにも力になっているような気がしています。

私と一緒にアルコール度数の強い酒を飲み交わした選手たち、彼らの声、笑顔、握手した時の手のぬくもり、こういうものが私にとっての韓国であり、40年間の間に行われてきた多くの日本の刑務官たちの韓国であると思うのです。

隣国だけに領海問題やら歴史問題やらといろいろありますが、それを超えて親しくなるには、案外このような生身の人間の交流なのかもしれないなどと思っています。

(小柴龍太郎)


本記事は、2019年11月7日時点調査または公開された情報です。
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