観光振興の枠に囚われないユニークな地方創生策とは?

地方公務員を目指す方の中には地元に貢献したいという人もたくさんいると考えられます。

しかし公務員になることだけが地元への貢献の仕方ではありません。地元でビジネスをするという貢献の仕方もあります。 今回は、ユニークな地方創生策を行っている自治体として宮城県丸森町について紹介します。


はじめに

地方創生に対してさまざまな取り組みが行われていますが、地方自治体の政策はどうしても横並びになりがちです。

どこかの自治体がふるさと納税で歳入を増やせば、他の自治体も追随して、高価な返礼品を用意してふるさと納税を募集するように、あっという間に真似をします。

もちろん、真似自体が悪いことではありませんが、前提条件を無視した模倣はたいていの場合悪い結果につながります。本記事ではユニークな地方創生策を行っている自治体として宮城県丸森町について紹介します。

大抵の自治体には集客力のある観光資源は存在しない

自治体の地方創生策を検証する上で重要なことは大抵の自治体には集客力のある観光資源は存在しないということです。自治体の地方創生策は観光名所のアピールやイベントに走りがちですが、このような方策は必ずしも正しいと言えません。

多くの自治体には魅力的な資源は存在しない

観光資源を自身で作り出すことは困難です。今、地方創生が喫緊の課題になっている地方自治体には魅力的な観光資源が存在しないという自治体も多いはずです。自治体の中には何らかの歴史的な遺物や自然豊かな地域は存在するかもしれませんが、それが集客力を持っているというケースは稀です。また、多額の費用を掛けてプロモーションしても、近隣の本当に魅力のある観光資源を持った自治体には勝てないでしょう。

イベントは集客できるが儲からない

イベントについても同様です。元から地元に集客力のある伝統的なイベントを行っているのならともかく、地方行政の主導で開催するイベントにはかえって地方を疲弊させるイベントも少なくありません。

確かに、どこの自治体でもイベントを上手にプロモーションすれば一定の集客効果が見込めます。その集客目当てに全国のあちこちの自治体がイベントを開催しますが、最終目標である収益や移住の促進への貢献を分析しているのは少数です。

つまり、ほとんどの自治体は集客数を重要なKPIにしていますが、集客自体はどうでも良いのです。イベントの集客は原則として一過性のもので、後々にその効果が波及することはほとんどありません。

地方のイベントは赤字になっていたり、地元の若者をボランティアとして動員して開催していたりするイベントも少なくありません。

以上のように、観光によるプロモーションには限界が存在します。

宮城県丸森町について

本記事では以上のような前提をもとに、宮城県丸森町の取り組みを紹介します。まずは丸森町とはどのような町なのかについて紹介します。


丸森町とは?

丸森町とは宮城県の最南端、福島県との県境にある人口約13,000人の町です。「森」という字がついているとおり周囲を山に囲まれた森林豊かな地域です。

町内総生産は約350億円で、そのうち1/3を製造業が占めます。大手自動車部品メーカーの工場などが存在して主要な産業になっています。

町までは自動車以外にも鉄道で行くことはできますが、鉄道は1時間に1~2本しかありませんし、1時間に1本も運行していない時間帯もあります。町民バスやデマンドバスは運行していますが車での移動が中心です。

そんな丸森町ですが、消滅可能性都市の1つだと呼ばれています。消滅可能性都市とは、2014年に日本創成会議という団体がレポートで指摘している、2010年から2040年までに20~39歳の女性の人口が5割以下に減少すると推計される都市のことです。

20~39歳の女性の人口が5割以下に減少するとは、すなわち労働人口が域外に流出し、更に少子化が進行する可能性が非常に高いことを示しており、自治体の存続が困難になる可能性が高いということです。

ここまでを読むと他人事ながら大変だなと思われるかもしれませんが、実は全国の市区町村の半分程度は消滅可能性都市であると指摘されています。

つまり、自治体の存続にあえぐ地方自治体としては、ごく一般的なモデルケースになる可能性があるということです。

観光施策も行っている

以上のような丸森町ですが、当然自治体の存続をかけて色々な地方創生策を行います。同じく危機に晒されている周辺の自治体と連携して2017年3月には日本版DMO一般社団法人宮城インバウンドDMOを設立して、地域の観光資源の評価データ収集・分析、人材育成などを行っています。

また、丸森町の豊かな自然を活かした「サイクルフェスタ丸森」というイベントを開催して、日本だけではなく海外からも観光客を呼んでいます。

丸森町の観光産業における問題

しかし、このような観光産業が必ずしも丸森町を豊かにしているかはわかりません。

丸森町の熱心な取り組みもあって観光客の入込数は2013年、約57万人程度と2000年代初頭に24万人程度であったことを考えると急激に増加しています。

このように入込数は増加する一方で丸森町内の宿泊者数は減少しており、2000年代初頭に約2万人だった宿泊者数は2013年には約1万人まで減少しています。

地元の七十七銀行の2015年の調査レポートによると、この原因は「ビジネス拠点や温泉といった宿泊誘因に乏しく、宿泊施設も限られていることなどから、逓減傾向で推移している。」と分析されています。

確かに、町内の主要な観光資源で観光客入込数増加に成功しているのは農産物の直売所だけで、齋理屋敷や不動尊公園などの町の観光資源と呼ばれる拠点は徐々に観光客が減少しています。

また、このように入込客数が増加していても、人口は一貫して減少しており、生産年齢人口は都市部に流出しています。


観光施策では起死回生できない

以上のことからわかることが、ただ観光客を呼んだだけでは、町内の市場を活性化したり、移住を促進したりすることが困難かもしれないということです。

観光資源があっても、宿泊施設やビジネスなどがなければ町内の事業者の効果的な収入源にはなりませんし、観光客数と移住者数には相関関係がないので生産年齢人口の流出を止めることはできません。

地域おこし協力隊を使った起業支援で地方創生

上記の状況におかれている、丸森町が新しい地方創生のための施策として2017年から開始したのが「まるまるまるもりプロジェクト」という企画です。

これは北欧の文化形成メソッドを参考にして移住や仕事づくりを促進するプロジェクトです。このプロジェクトの内容について詳しく説明します。

まるまるまるもりプロジェクトとは?

「まるまるまるもりプロジェクト」は町内に起業家を呼び込み地方創生をしようというプロジェクトです。このプロジェクトのユニークな点が、参加する起業家にはベーシックインカムを支給するということです。

ベーシックインカムとは行政が最低限の所得を保障する制度で、丸森町ではプロジェクトに参加する起業家に対して20万円程度のベーシックインカムが最大3年間与えられます。ここまでだけを見ると、太っ腹なプロジェクトのように見えますが、もちろんこのような財源を自由に捻出するのは困難です。

よって、丸森町では地域おこし協力隊を使って、疑似ベーシックインカム制度を実現します。

移住・起業希望者を地域おこし協力隊として採用して、その報酬と活動費をベーシックインカムとして最大3年間支給するのです。

もちろん、地域おこし協力隊としても活動するため、一定の拘束はありますが、フルタイムで働くわけではありませんし、固定収入があるということで安心して起業に取り組むことができます。

また、ただ起業家を地域おこし協力隊として採用する以外も、起業が成功するように起業家支援団体のMAKOTOなどを含めた、起業をバックアップする団体が連携して起業家育成に取り組んでいます。

本プロジェクトがもたらした効果

本プロジェクトが始まったのは2017年のことなので、その成否を判断するためには時間が必要ですが、早くも「まるまるまるもりプロジェクト」の効果が現れています。

採用した起業家が起業して町内に新しい産業を作っているのはもちろんのこと、町内の事業者にも良い影響が現れています。

移住してきた起業家に触発されて、町内の事業者の中にもその刺激を受けて、事業意欲が活発になって、町内の産業に対するカンフル剤のような役割を果たしています。

また、2018年には移住してきた起業家が「サイクルフェスタ丸森」と同日開催で「赤いもん祭り」という企画を行って成果を修めるなど、実際に町おこしにも貢献しています。

「行政主導」について

このように地方の産業を活性化させる取り組みは多かれ少なかれどこの自治体も行っていますが、大事なのは「行政主導」の在り方です。

行政が成長させる産業を指定したり、第三セクターを作ってビジネスをしてもあまりうまくはいきません。重要なのは産業が活性化する仕組みを作るということです。

丸森町では起業家にベーシックインカムを与えることによって、起業家を呼び込み町おこしや地元産業の活性化を図っています。

さきほど、地方創生において観光振興が唯一絶対の答えではないと説明しましたが、丸森町の事例は観光振興の枠に囚われないユニークな地方創生策だと言えます。

まとめ

以上のように丸森町の地域おこし協力隊のスキームを使った起業支援による地方創生策について紹介してきました。


丸森町の置かれている状況は比較的どのような自治体にも当てはまります。地方創生が必要なものの、観光産業は地方創生に対する効果的な答えではないという自治体が多いのです。

そういった自治体は起業家育成を目指すというのも良い方向性です。起業家を呼び込むことによって、新しい産業の育成ができますし、モチベーションの高い会社が地域にいるということは他の企業のモチベーションアップにもつながります。

地方公務員を目指す方の中には地元に貢献したいという人もたくさんいると考えられますが、公務員になることだけが地元への貢献の仕方ではありません。地元でビジネスをするという貢献の仕方もあります。

むしろ、地方創生において必要なのは後者の人材で、地元の産業が活性化しないと生産年齢人口の減少も地方の産業の衰退も食い止めることができません。

地元に貢献したいという人は地元への貢献の仕方は1つではないので、色々な角度から地元で何をするべきなのか考えてみてください。

本記事は、2018年12月2日時点調査または公開された情報です。
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