はじめに 「心理職」とも呼ばれる「心理系公務員」とは?
「心理系公務員」や「公務員心理職」などと呼ばれる公務員は、国や地方自治体などに所属し、心理学の知識や技能を活かした業務に従事する専門職です。国家公務員の心理職の場合は厚生労働省や裁判所、法務省等で活躍し、地方公務員の場合は児童相談所や県立病院等で活躍している方が多いようです。
今回は、「心理系公務員」にはどのような職種があるのかを、受験区分に分けて解説します。
国家公務員の「心理職」
国家公務員の「心理職」に就くためには、大きく分けると、「国家総合職(人間科学)」「裁判所総合職(家庭裁判所調査官補)」「法務省専門職員(人間科学)」の3通りの試験のいずれかを受験する方法があります。どの試験に合格するかによって、その後どのような心理職の道が拓けるかは異なります。
「国家公務員総合職」の試験と採用区分「人間科学」について
「国家総合職採用試験」には専門分野によって試験の区分があり、心理学を専門とする人を対象にした募集区分は「人間科学」です。
「国家総合職(人間科学)」の採用数は平成30年度は約25名で、例えば「法律」区分の採用予定数が約165名だったのに対し狭き門となっています。ただし、「法律」区分は受験者数も多く、倍率で見ると約20倍前後で推移していますが、「人間科学」区分は約10倍前後の競争率のようです。毎年の採用人数については、人事院のホームページなどに掲載される、募集要項などでご確認ください。
「国家総合職(人間科学)」の試験区分で合格した人の主な就職先は、厚生労働省、法務省、文部科学省、警察庁などです。厚生労働省では、福祉、医療、雇用について心理学の知識を活かした個別支援の手法を理解した上で、制度設計や企画立案など、国が国民を支援する上で必要な環境を整える仕事を担当する総合職として勤務する方が多いようです。
法務省や文部科学省、警察庁においても、心理学・人間科学の知識を活かして、総合職として各種制度の企画立案などを担当することが多いようです。
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》【国家公務員になるには】国家公務員総合職とは?と採用試験の内容
「国家公務員の総合職」になるにはどうしたらいいのか、このページでは、国家総合になるための基本的な情報をご紹介します。国家公務員総合職とはどのような仕事かということから、国家総合職になる方法についてまとめます。
「裁判所総合職(家庭裁判所調査官補)」について
「裁判所総合職(家庭裁判所調査官補)」の試験に合格すると、「家庭裁判所調査官」という心理職を目指し、まずは「調査官補」として勤務を始めることができます。「家庭裁判所調査官」とは裁判所に所属し、裁判の準備として、少年が非行に至るまでの経緯などを心理学の知識を活かして調査し、裁判官などに報告する役目を果たしています。
遺産相続や離婚調停などの家事事件の調査を担当することもあるようですが、少年事件に深く関わる仕事です。大学や大学院で少年の心理について学んだ方にとっては専門性を生かせる職種と言えるでしょう。
「法務省専門職員(人間科学)」について
「法務省専門職員(人間科学)」とは、法務省に所属し、主に少年院や少年鑑別所等で心理学の知識を活かして、少年の更生をサポートする仕事です。「法務省専門職員」には「法務技官(心理)」「保護観察官」「法務教官」といった職種があります。それぞれ心理学の知識が必要ですが、仕事の内容が少しずつ異なります。
法務技官(心理)、矯正心理専門職について
「法務技官(心理)」は「法務省専門職員」の1つで、「矯正心理専門職」とも呼ばれます。「法務省専門職員(人間科学)採用試験」に合格することが必要です。
法務技官は、少年鑑別所で、少年が非行に至ってしまった原因などを探り、更生のために少年院に収容すべきかどうかなどを法務教官や医師などと話し合う役割も担います。
保護観察官について
「保護観察官」は「法務省専門職員(人間科学)採用試験」に合格することでなれる職業の1つで、心理学の知識を活用し、家庭裁判所で「保護観察処分」となった少年が社会や家庭に戻り、健全に過ごせているかを見守る仕事です。
地方更生保護委員会というところに所属する場合もあり、そこでは刑務所から仮釈放となったり、少年院から仮退院となったりした人について健全に生活しているか調査をします。残念ながら仮釈放取り消しなどの処分を行うこともあります。
法務教官について
「法務教官」は「法務省専門職員」の1つで、少年院や少年鑑別所で勤務し、収容されている少年が社会復帰できるように指導や教育を行う仕事です。少年それぞれの個性や能力を伸ばし、健全な社会人として送り出せるようにきめ細かく対応をすることが求められます。
少年院を出院した後の少年の支援を行うこともあります。少年達はきっと立ち直ることができる、と強く信念を持って業務にあたることが大切な仕事と言えます。法務教官になるには、「法務省専門職員(人間科学)採用試験」を受験します。
地方公務員の「心理職」について
地方公務員にも、「地方上級心理職」など「心理系公務員」の職種はあります。「地方上級試験」の「地方上級心理職」区分の仕事内容と、東京都特別区Ⅰ類に新設された「心理」区分についてご紹介します。
「地方上級心理職」について
「地方上級心理職」とは、地方公務員の上級試験の一つの区分であり、都道府県や政令指定都市などに設定されています。「心理職」の試験区分は、設定している自治体と設置がない自治体があります。また、採用予定数も自治体によって様々で、ほとんどが若干名、もしくは一桁台の狭き門となっています。一方で、千葉県のように30名前後採用がある場合もあります。
「地方上級心理職」の試験を受けるには、原則として、四年制大学の心理学科を卒業していること、もしくは一定以上の心理系科目の単位を取得していることを受験資格としている自治体が多いようです。
また、試験の年齢制限についても自治体によってことなり、社会人経験者を積極的に採用する自治体もあります。30歳以上でも受験できる自治体もありますので、30歳以上の方や転職組の方も受験資格について調べてみることをおすすめします。
「地方上級心理区分」の試験に合格し、採用されると、「児童心理司」や「心理判定員」といった専門職員として勤務するほか、心理学の知識を活かせる別の部署への配属となる場合もあります。
【地方上級心理職】児童心理司について
「地方上級心理職」として採用されると児童相談所で「児童心理司」として働く場合があります。「児童心理司」は児童や保護者と面談を行い、心理検査によって心理状態を見極めた上で、カウンセリングなどを行います。「児童心理司」と次に紹介する「心理判定員」とは、仕事内容はおおよそ同じなのですが、勤務場所が「児童相談所」である「心理判定員」は「児童心理司」と呼ばれています。
近年、児童の虐待件数の増加等が児童を取り巻く環境の悪化が深刻化していると言われており、厚生労働省の主導により、全国の「児童心理司」を、2015年度の1,290人から2019年度には1,740人に増やすという数値目標が掲げられています。
「児童心理司」が増えることによって児童のカウンセリングなどを充実させることが狙いであり、「児童心理司」は今後の活躍がますます期待される「心理系公務員」のひとつと言えるでしょう。
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》「発達相談所」の「児童心理司」に関する仕事内容・給料レポート
市役所で働く、女性の「児童心理司」によるキャリア体験談レポートです。今回は、その仕事内容や一日のスケジュール、年収(給料・ボーナス)や残業状況・職場恋愛などについてインタビューしたものを編集して掲載します。
【地方上級心理職】心理判定員について
「地方上級心理職」として採用されると「心理判定員」として働くことがあります。
「心理判定員」とは問題を抱える子どもから大人まで、面談や心理検査を行うことを通して、心理状態を把握し、健全な状態に治癒できるようカウンセリングなどを行う仕事です。「児童心理司」が児童相談所で勤務しているのに対し、「心理判定員」は市役所の発達相談所や、各自治体の発達支援センター、身体障害者更生相談所、知的障害者更生相談所などで勤務します。
東京都特別区Ⅰ類採用試験の「心理」区分について
東京都特別区Ⅰ類「心理」区分は平成29年度に新設された新しい試験区分です。全体で40名前後の採用があり、全国的に少ない傾向がある「心理系」の採用数のなかでは、トップクラスの定員と言えます。
東京都特別区の「心理職」として試験に合格し採用されると、区役所や児童施設・福祉施設などでの相談業務や、児童・保護者に対して面接・検査を行い心理診断業務などを担当します。「子育て支援」として保護者を見守る仕事など、近年必要性が高まっている仕事を担当することもあり、心理学の知識など専門性が問われる業務のひとつのようです。
公務員心理職の積極的な配置にいち早く乗り出した「東京都特別区」は他の自治体の「地方上級心理職」と試験日程が今のところは異なっているので、「心理職」での併願が可能です。最新の試験日程は、各自治体のホームページでご確認ください。
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》平成30年度 地方公務員「東京都職員Ⅰ類B」資格要専門職の採用試験日程
平成30年度 地方公務員採用試験の「東京都職員Ⅰ類B」専門職(区分:福祉・衛生監視・栄養士・獣医・薬剤)の試験日程のお知らせです。東京都職員Ⅰ類Bは大学卒程度試験で、試験の区分が複数あり、一部区分に試験科目にプレゼンテーションがある「新方式」を導入していることが特徴です。
まとめ
このページでは「心理系公務員」として、「国家公務員心理職」と「地方公務員心理職」のそれぞれの職種についてご紹介しました。大学等で心理学を学んだ方はその知識を活かし、「心理カウンセラー」などとして就職を考える方も多いかと思いますが、「公務員」として専門性を活かす道がこんなにも様々あることはぜひ知っておいていただきたいと思います。
「心理カウンセラー」は一般的に不安定な勤務条件のことが多く、そのため比較的雇用が安定している「心理系公務員」は人気が高く、狭き門とも言われます。一方で、国が主導で採用数を増やそうとしている「児童心理司」といった職種もあります。
大学等で心理系学科を卒業した方、卒業見込みの方は、「心理系公務員」として、国や地域に生じている様々な問題に向き合う道を検討してみてはいかがでしょうか?また、「心理系公務員」になるには、各職種の公務員採用試験に合格する必要があります。試験の最新情報は、人事院のホームページや、各自治体のホームページでご確認ください。
(作成日 2019年1月23日/ 最終更新日 2021年6月10日)
コメント
コメント一覧 (2件)
カウンセラーに興味があり、この記事にたどり着きました。心理系でも公務員として働く業務があるのを初めて知りました。また年齢も公務員なのに30歳以上でもチャレンジできるということが分かってよかったです。
心理カウンセラーに興味があったのですが、公務員という枠で働ける、活躍できる場所があることをサイトで知ることができました。単なる公務1つでも心理という分野はあいまいで広い場所なので、今後の子どもの進路に活用したいと思います。