フリーランス・副業に打撃を与えるかもしれない「インボイス制度」

「インボイス制度」という制度をご存知でしょうか。

この制度によって、フリーランスや副業をしている人は、経済的な打撃を受ける可能性があります。

今回は、「インボイス制度」とはなにか、制度の内容や、フリーランスや副業をしている人へどのような影響があるのかについて、まとめました。


はじめに

2019年10月より「消費税」は10%となりました。

あまり議論されていませんが、実は企業経営に重大な影響を与える可能性がある、「消費税」の改革の1つに「インボイス制度」の導入があります。「インボイス制度」の導入によって、フリーランスや副業と言った働き方が制限されることも予想されます。

本記事では「消費税」について「インボイス制度」という観点から説明します。

「インボイス制度」とは?

まずは「インボイス制度」とはどのような制度なのか2019年9月以前の制度との比較から説明します。

日本の消費税計算は「帳簿保存方式」

2019年9月以前の日本の経理で「消費税」を計算する際は「帳簿保存方式」という方法が採用されています。つまり、請求書などの客観的に「消費税」を他社・他人に支払ったという証拠を保存していれば、対象となる経費について仕入税額控除が可能になります。

端的に説明すれば、領収証などをきちんと保存しておけば良いということです。

「インボイス制度」を導入すると専用の書類を作成する

一方で「インボイス制度」が導入されると、「適格請求書」という書式に則った書類を作成しなければなりません。具体的には以下のようなことを記載しなければなりません。

・請求書発行者の氏名又は名称
・取引年月日
・取引の内容
・対価の額(税込)
・請求書受領者の氏名又は名称
・軽減税率の対象品目である旨
・税率ごとに合計した対価の額(税込)
・登録番号
・税率ごとの消費税額及び適用税率

問題は「登録番号」の部分にある

「適格請求書」の記載事項のほとんどは現行法でも領収書を発行する際にも記載しなければならないことなので、気にしなくても良いのではないかとおもわれるかもしれません。

たしかに、この請求書発行業務自体はそれほど難しいことではありません。問題は「課税事業者」「免税事業者」の取り扱いが大きく変わることです。

「インボイス制度」によりフリーランス・副業に影響が懸念される

基本的には国内で「消費税」が課税されるような取引を行った場合は「消費税」を納税しなければなりません。


ただし、現行法では例外的に「消費税」の支払い義務を免除された「免税事業者」が存在します。

「免税事業者」の条件

端的に言えば、課税売上高が年間1,000万円以上か否かが1つの目安となります。また、新設2期目までの法人も「消費税免税業者」です。

他にも新設法人でも資本金1,000万円以上なら免税業者になれないなど、さまざまな細かいルールが存在しますが割愛します。

スモールビジネスにとっておいしい「益税」

売上の少ない「免税事業者」にとっては、現行の消費税制度には「益税」という特典があります。

例えば、100万円の仕事をすると、「免税事業者」であっても「消費税」を含めて108万円を顧客から受け取ることができます。しかし、「免税事業者」なので消費税分8万円は納めなくても良いので、何もせずに8万円分が手元に残るのです。

もちろん、受け取った「消費税」よりも支払った「消費税」の方が多い事業者(先行投資などで多額の出費をしているなど)にとっては「課税事業者」になった方がお得です。

ただし、売上1,000万円以下の大抵のスモールビジネスはほとんど「消費税」を伴う出費が発生しないので、実質的には免税制度によって得をしている、スモールビジネス事業者は多いと考えられます。

2023年「インボイス制度」が本格導入されると…

2023年の「インボイス制度」本格導入で一番悪影響を受けるかも知れないのが、この「免税事業者」です。「インボイス制度」が本格導入されると、適格請求書に記載されている消費税額しか控除を受けられなくなります。

さらに、適格請求書を発行するためには事業者として登録しなければなりませんが、「課税事業者」でなければ適格請求書発行事業者にはなれません。

フリーランス・副業にとっては大打撃になるかも?

具体的にこれにより影響を受けるのが、企業から仕事を引き受けている、フリーランスや副業を行っている方です。

課税売上高1,000万円未満であっても、これからは「消費税」を納めなければならなくなるので、収益は悪化するし、会計の手間は増大します。

特に副業で空いた時間で確定申告も必要ないレベルの小遣い稼ぎしかしていない方も「消費税」の会計処理をしなければならなくなるので、実質的には副業が困難になります。

また、売上が小さく会計の手間を掛けたくない場合は、「免税事業者」として活動を続けることもできます。

ただし、「免税事業者」は「課税事業者」にとって仕事を発注しづらい存在になります。

「免税事業者」に仕事を発注すると、「消費税」が発生しないので仕入税額控除を受けられませんし、会計処理の手間も増大するので、「免税事業者」と付き合うと相対的にデメリットが大きくなります。


「インボイス制度」における4つのステージ

「インボイス制度」が導入されるのは2023年10月ですが、より厳密に説明すれば、2029年10月に完全移行となり、それまでには4つの段階があります。それぞれの段階について説明します。

【2019年10月~2023年9月】
2019年から軽減税率が導入されることによって、品目毎に「消費税」が変わります。それに合わせて、2019年9月までの「請求書等保存方式」、2023年10月からの適格請求書等保存方式への移行期間として「区分記載請求書等保存方式」での請求書などの発行が必要になります。

簡単に言えば、10%の「消費税」の対象商品と8%の対象商品がきちんと区別できるように請求書を発行しましょうということです。多くの「免税事業者」のフリーランスや副業者に想定される取引の消費税率は10%なのでそれほど困る事はないでしょう。

むしろ、「免税事業者」であっても消費税10%分を売上に加算して請求できるので利益率が大きくなることが予想されます。

【2023年10月~2026年9月】
「インボイス制度」が導入されて、「課税事業者」と「免税事業者」で「消費税」の受け取り方が変化します。そして、仕入額控除の対象となる請求書を発行するためには事業者登録が必要です。

ちなみにそれ以前は、請求書の交付義務はなし、不正交付の罰則も無かったのに対して、この時期から交付義務あり・不正交付の罰則ありになります。

ただし、移行期間の措置として「免税事業者」からの仕入れに対して、課税業者からの仕入れと比較して80%分の仕入れ控除が可能となります。

【2026年10月~2029年9月】
基本的には2023年10月から2026年9月までと変化はありませんが、移行期間として「免税事業者」からの仕入税額控除が80%から50%になります。

【2029年10月~】
「免税事業者」からの仕入税額控除が50%から完全にゼロになります。以降、「免税事業者」との取引については仕入税額控除が発生しません。

税制と公平負担

「インボイス制度」の概要は以上のとおりですが、最後の章では広く税制が抱える問題について解説します。

「益税」を無くし公平な税負担

「免税事業者」は制度により合理的かつ合法的に消費税分を利益にできましたが、倫理的に見ればこの「益税」を正当化するのは難しいと考えられます。

「免税事業者」に対する「益税」を無くし、公平な税負担を実現するという観点からは、「インボイス制度」の導入は合理的であるといえます。

副業・ダブルワークが抑制されるかもしれない

「益税」が無くなること自体は良いことですが、事務負担の増大や副業・ダブルワークなどの新しい働き方を阻害することには注意するべきです。

「免税事業者」と「課税事業者」は取引しにくくなりますし、副業・ダブルワークでちょっとしたお金を稼ぐために課税業者になるのはハードルが高すぎます。

働き方改革や副業の推進に対するストッパーになる可能性もあります。

税制のデザイン

「消費税」の増税や「インボイス制度」の導入は、消費税率を高めなければ歳入が安定しにくいという事情により発生していると考えられます。

最後になぜそのようになるのか税制のデザインという観点から説明します。

消費税額が右肩上がりで増加した「平成」

消費税額が右肩上がり
出典)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a03.htm

平成の時代はバブル崩壊などによって法人税や所得税が大きく揺れ動いたのに対して、消費税収は景気に関わらず一貫した増加した時代でした。上記は「財務省」が公表している一般会計税収の推移を示したデータです。

平成元年度は所得税21.4兆円、法人税19.0兆円に対して、「消費税」は3.3兆円だったのが、平成30年度には所得税19.9兆円、法人税12.3兆円に対して「消費税」が17.7兆円まで増加しています。


なぜ歳入における「消費税」の割合が増えているのか?

消費増税は増大する社会保障費に対する対策という目的もありますが、歳入を安定化させたいという意図も強く読み取れます。

法人税や所得税(特に富裕層に対する)は国際的な税制優遇合戦にさらされており、税率を高くすると資本自体が逃げてしまうので税率を増加させにくい傾向があります。

また、その年ごとの景気動向によって法人の収益や個人の給料なども変化するので、所得税や法人税の歳入における割合を高めると歳入が安定せずに予算を組むことが難しくなります。

一方で「消費税」は相対的に富裕層の生活や大企業の経営に影響を与えにくいため、資本逃避が発生しにくい傾向があります。さらに、生活をする以上かならず消費は必要となるので、法人税や所得税と比較すると毎年の税収は安定しています。

安定した税収を確保しなければならない

安定した税収をどのように確保するのかという視点から税制はデザインされていると言っても過言ではありません。

所得税や法人税などの安定しない国際競争に晒される税収よりも、「消費税」の方が安定した財源になるというのが、昨今の税制のコンセプトだと考えられます。

2019年7月安倍首相は10%に増税すれば今後10年間は消費増税が必要ないと説明していますが、税収を安定させたいというインセンティブがあるので、長期的には「消費税」を増税させていく傾向があると考えられます。

▼税率10%超の消費増税、想定せず 「今後10年は必要ない」と首相
https://jp.reuters.com/article/abe-ctax-idJPKCN1TY0OO

まとめ

きちんと「消費税」を集めて、納税に関する不公平感をなくすという意味では「インボイス制度」は必要です。ただし、副作用として「消費税免税事業者」の仕事が減ってしまうのではないかという懸念や、軽減税率と組み合わさることにより手続き負担が増大するといったリスクも存在します。

手続きの問題はテクノロジーで省力化できても、「課税事業者」と「免税事業者」の取引がしにくくなるのは回避できないので、これが副業などのスモールビジネスにどのような影響を与えるのか推移を見守る必要があるでしょう。

さらにマクロな視点から考えれば税を取り巻く状況は刻々と変化しています。取引がグローバルになり、ヒト・モノ・カネの流動性が高まる現代においては、どうしても税制も国際競争に陥り、財源を安定させるために課税しやすい手法で財源を確保しようとします。

一般企業にとって、商品やサービスのプラン設計、値付けが重要なように、国家・地方にとっても税制をどのようにデザインするかがますます重要になってくると考えられます。

本記事は、2019年11月3日時点調査または公開された情報です。
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