アメリカがWHOから正式に撤退表明!その狙いと影響とは

2020年7月、アメリカはWHOからの脱退を表明しました。この脱退表明には、新型コロナウイルス感染拡大を巡るWHOの対応が関係しています。

今回は、アメリカのWHO脱退について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。


はじめに - アメリカ、WHOから脱退

2020年7月7日、アメリカのトランプ大統領は、世界保健機関(WHO)から正式に脱退することを国連に正式通告したことが明らかになりました。

トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染拡大を巡って、WHOが中国寄りの対応を取っていることを批判してきており、今回の決断は4月に公表した拠出金の停止措置に続く強硬姿勢の現れと言えます。

これに対して、アメリカ国内ではいつものごとく意見は二分されており、脱退を支持する派と国際協調を乱す恥ずべき行為とする意見があります。

この記事では、WHOからの脱退にある狙いや、これに伴う影響などをアメリカ在住の筆者目線でご紹介したいと思います。

公務員、公務員志望の方は、今後も注目されるWHOとアメリカの関係性を理解するために参考にして下さい。

アメリカのWHO撤退について

はじめに、アメリカがWHOから正式に脱退することについて、押さえておきたいポイントを見てみましょう。

アメリカの脱退は2021年7月6日

アメリカはすぐにWHOから撤退する訳ではありません。

脱退は一年後の2021年7月6日としており、脱退までの1年間でWHOによる脱退条件の精査が実施されます。精査には法的手続きをはじめ、脱退期日までの拠出金徴収などが含まれています。

つまり、アメリカがWHOから撤退すると言っても「脱退するための条件を満たす」必要があるということです。(条件を満たしていないことを理由に拒否あるいは再検討もあり得る)

とくに「拠出金」を巡る意見の相違と衝突は免れないとされており、すでに拠出金を停止したアメリカと、期間いっぱいまでの拠出金を徴収したいWHO側で揉める懸念があります。脱退までの1年間で、どこまで調整がされるのかが焦点です。

WHO側の発表

WHOのヤシャレビチ報道官はメディアに対して「アメリカが国連のグテーレス事務総長に宛てて、2021年7月6日にWHOから脱退することを通知した」とだけ述べており、現段階ではこれ以上のコメントはないとしています。


ちなみに、WHOは国連(国際連合/United Nations)の関連機関のひとつです。そのため、アメリカはWHOの事務局長であるテドロス・アダノム氏(Tedros Adhanom Ghebreyesus)ではなく、アントニオ・グテーレス国連事務総長に通知しています。

アメリカが撤退する理由

アメリカがWHOから撤退する理由は大きく分けて2つあります。ひとつは「WHOと中国の関係」そしてふたつ目が「巨額の拠出金負担」です。

WHOと中国の関係

脱退を巡る最大の理由とされているのがWHOと中国の関係です。

トランプ大統領はかねてから、WHOに拠出金を負担することで影響力を増してきた中国を問題視していました。

3月以降、新型コロナウイルスが世界中で感染拡大し、あろうことかアメリカが最も被害を受けたことで、怒りの矛先が中国政府に向けられた訳です。

そして、感染源とされている中国は、WHOに対して圧力をかけて感染拡大を防ぐ努力を怠ったと、両者を同罪扱いしたのです。

加えて、トランプ大統領は関係が悪化する中国に対して優位な姿勢を保とうと、WHOから脱退することでアメリカを正当化させる狙いを持っているとされています。

ごく簡単に言うと「WHOと中国が悪いから、これ以上アメリカは関与しない」という姿勢をアメリカ国民に見せつけたということです。

11月に控えている大統領選に向けて、アメリカ国内に「反中国路線」をアピールしたい思惑があるのです。トランプ支持者は反中国派の人が多いことから、WHO脱退は格好のアピール材料と言えます。

アメリカは巨額の拠出金を負担

脱退理由のもうひとつの理由とされているのが「巨額の拠出金負担」です。

WHOの予算は、通常予算(加盟国分担金)と予算外拠出(任意拠出金)のふたつで構成されています。アメリカはWHO加盟国194ヶ国中、最も多くの拠出金を払っています。

2019年にはアメリカは通常予算として2億3,700万ドル(約255億円)、予算外拠出として2018年からの2年間で5億5,310万ドル(約594億円)を負担しています。

これに対して、拠出金負担第2位の中国は通常予算が7,600万ドル(約82億円)、予算外拠出として2年間で790万ドル(約8億5,000万円)となっています。

また、中国政府は新型コロナウイルスが感染拡大し始めた3月に2,000万ドル、5月に3,000万ドルの合計5,000万ドル(約54億円)をWHOに寄付しています。

加盟国分担金は、各国の富裕度や人口を基にして相対的に算出されるため、経済大国のアメリカは必然的に負担が大きくなる仕組みです。


トランプ大統領はこのような巨額な負担金を問題視し、WHOに拠出する資金を国内の別分野へ移行させることを公表しています。

アメリカが撤退することによる影響

アメリカがWHOから正式に撤退した場合に起こる主な影響を見てみましょう。

WHOの運営に支障

先述したように、アメリカはWHOの予算を最も多く拠出している国です。アメリカが負担している割合を見ると、加盟国分担金は全体の22%、任意拠出金は15%を占めています。

仮に、アメリカが撤退した場合、WHOは年間の概算で500億円ほどの予算を損失してしまうことになります。また、WHOの予算の大部分(約76%)は任意拠出金に依存しており、技術支援や物資援助、そして伝染病などの研究予算が大幅な削減を強いられる懸念があります。

アメリカの国際社会からの孤立

アメリカがWHOから脱退することで、アメリカは再び国際社会から孤立する可能性があります。

アメリカはトランプ大統領就任以降、環太平洋パートナーシップ協定「TPP」、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」などから相次いで離脱していて、ここに来てWHOからも離脱を決定しました。

アメリカ第一主義を貫くトランプ大統領としては当然の振る舞いですが、貿易や環境問題、そして新型コロナウイルスのような伝染病など、世界的な団結と取り組みが必要な場面においても、アメリカのことしか考えない姿は国際社会からは批判されています。

また、アメリカの世論を見ても、トランプ大統領やその支持者のようにアメリカ(自分)のことしか考えない自己中心的な思想(ナルシシズム)を嫌悪する人もいます。

アメリカ第一主義によって国際社会から孤立するだけでなく、アメリカ国内で分断を生み続けている影響は隠れた問題と言えます。

アメリカのWHO脱退による周囲の反応

今回の一件について、周囲の反応はどのようなものがあるのでしょうか?

民主党大統領候補ジョー・バイデンの反応

WHOからの撤退に対して即座に反応したのが、民主党の大統領候補であるジョー・バイデン氏です。

バイデン氏は自身のTwitter上で「アメリカが世界中の人たちの健康に貢献するからこそ、アメリカ人はより安全になる」と書き込み、今回の決定を暗に批判しました。また、11月の大統領選で当選した暁には、WHOへの再加盟を表明するとしています。

中国政府の反応

中国外務省の趙立堅報道官は、今回の一件を受けてメディアに対し「感染防止に向けた国際的な努力を無駄にする」とアメリカを批判しました。

また、国際的な支援を望んでいる発展途上国に対して重大な打撃を与えることになるともし、アメリカの決断を許容しない姿勢を見せています。中国政府はWHOと協力して感染拡大の経路解明にも意欲的なことから、WHOに対する姿勢はアメリカとは対照的です。

日本政府の反応

日本の菅官房長官は記者会見で、1年後にアメリカがWHOから脱退することを認識しているとしたうえで「引き続きアメリカと連携していきたい」とコメントしています。

日本政府としては、アメリカと中国への配慮が求められるだけあって、慎重な姿勢を見せていると言えます。

まとめ

以上、「アメリカがWHOから正式に撤退表明!その狙いと影響とは」でした。

トランプ大統領がアメリカとWHOの関係を問題視していたことは今に始まったことではありません。WHOからの脱退表明は、新型コロナウイルスの感染拡大が敵対関係にある中国から始まったことや、アメリカの被害が大きかったことなども遠因と見られます。

また、アメリカ政府は新型コロナウイルスは武漢の研究所から始まったと主張しているものの、決定的な証拠を提示できずに時間だけが過ぎています。感染拡大の責任問題に関する世論が再びトランプ政権に向き始めていた矢先の、脱退表明でした。


事実上、脱退は1年後であり、それまでに大統領選(場合によっては新大統領就任)が実施されるため、脱退が実現するかは不透明です。

トランプ大統領からすればWHOから脱退するもしないも「大統領選で勝てば御の字、負けても痛手なし」のため、大統領選だけを睨んだパフォーマンスに過ぎないとする声もあります。

本記事は、2020年7月18日時点調査または公開された情報です。
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