日本とは大きく異なる「アメリカの警察」の制度について解説

日本に暮らしているとピンとこない感覚ですが、アメリカでは「警察官や保安官は正義のヒーロー」という感覚が日本よりも強い傾向にあります。

今回は、日本とは異なるアメリカの警察について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。


はじめに - 抗議デモで叫ばれた「アメリカの警察制度改革」

2020年5月にアメリカミネソタ州のミネアポリスで発生した白人警察官による黒人男性殺害事件(ジョージ・フロイド殺害事件)は、人種差別問題へと発展し、世界中で抗議デモが巻き起こりました。

その抗議デモの中で叫ばれたことのひとつが「アメリカの警察制度改革」です。

これまでアメリカでは、白人警察官が立場にものを言わせて黒人に乱暴を働くケースが続いていましたが、結局は正義の味方である警察官は何をしても社会から守られるという悪しき風潮がありました。

しかし、ここにきてやっとアメリカの警察制度は大きな転換期を迎えています。そこで今回は、アメリカの警察制度や日本の警察制度との違い、なぜアメリカの警察は暴力的なのかなどについて解説します。

公務員や公務員志望の方はアメリカの警察の仕組みや問題点などをぜひ参考にして下さい。

アメリカの警察について

はじめに、アメリカの警察制度をご紹介します。

アメリカは中央政府に該当する「連邦政府」と、州ごとの政府である「州政府」のふたつの政府があるため、どの州や街においても必ずしも同じ制度が適用される訳ではありません。

アメリカでは「同じ警察でも州や街で組織形態やルールが異なる」ことを念頭に置いておいて下さい。

アメリカの警察組織の概要

アメリカの警察は複数の警察組織があります。それぞれの警察組織は州や郡、市、自治体などに独立した形で存在しています。

さらに細分化すると、大学や高校など特定の教育機関を管轄にする警察組織や、道路の治安維持を目的とするハイウェイ・パトロール、ネイティブアメリカンが暮らす居留地を管轄する部族による警察などもあります。

このように、アメリカの警察組織が複数存在する背景には、もともと植民地時代から地域ごとに治安を守る伝統を持っていることや、連邦政府よりも州政府の方が警察活動に関する権限を多く保有している法律上の仕組みがあります。


一方で、近年では犯罪が国際的になり、なおかつ複雑化してきていることから、州や市を超えて警察活動が出来る「連邦警察」の権限も大きくなりつつあります。

大まかに、アメリカの警察は単一の国家組織ではなく、州や市ごとに異なるルールで組織化されている自治体警察制であることを覚えておくと良いでしょう。

アメリカの地方警察について

アメリカの警察は州、郡、市、町などの行政区画ごとに配置されていますが、一般人にとっては「市警察」が最も身近な警察組織になります。

例えば、ニューヨーク市警(NYPD)やロサンゼルス市警(LAPD)などがこれに該当し、それぞれの市内で起きる様々な犯罪の取り締まりを担っています。ちなみに、ミネアポリスでジョージ・フロイド氏を殺害したのはミネアポリス市警察の警察官です。

どの警察組織も基本的には管轄外の捜査は出来ない仕組みになっていますが、管轄を超えた捜査の場合は、越権捜査が可能な連邦警察や州警察、郡警察などと連携することになります。

一般的な警察官は黒色の制服を着て「POLICE」のバッジを付けています。

アメリカの警察組織「Sheriff(シェリフ)」について

日本人にとって馴染みがない警察組織が「Sheriff」と呼ばれる組織です。

シェリフとは地方警察組織のひとつで「郡の警察組織」として解釈されています。町や村のように、市警察の管轄外を担当しており、地方都市に行くほど見かける頻度が高くなります。(西部劇の映画に登場する警察役は高確率でシェリフ)

シェリフは「保安官(Deupty)」とも呼ばれ、カリフォルニア州のロサンゼルス郡では18,000人規模の郡保安官が働いています。一方で、市警察が十分に機能しているような場所ではシェリフそのものがない場合もあります。(シェリフしかいない場合もある)

アメリカの田舎町で警察を呼んだのにシェリフが来たということはよくあることですが、シェリフも市警察同様の権限を持っているので、捜査や取り締まりは同様に行われます。

それぞれの郡を代表する保安官のトップは選挙によって選ばれたり、指名制のこともあります。選ばれた保安官トップは、保安官代理(警察官)で構成される警察組織を率います。また、市警察は郡の中にあるため、実質的に市警察は保安官の配下組織にあたります。

シェリフは茶色の制服を着ており「Sheriff」と書かれた星形のバッジを付けています。

アメリカの連邦警察について

地方警察やシェリフが一般警察業務をするのに対して、麻薬や国際犯罪などの特定分野に特化した捜査が可能な警察組織が連邦警察です。

連邦警察と言っても組織によって管轄省庁が異なり、多岐に渡ります。例えば、司法省ではFBI(Federal Bureau of Investigation/連邦捜査局)、DEA(Drug Enforcement Administration/麻薬取締局)があります。

他にも、国土安全保障省にはUSSS(United States Secret Service/シークレットサービス(USSS)、USBP(Border Patrol/国境警備隊)などがあります。


いずれも、一般人にはほとんど関係がない組織ですが、連邦法執行機関(警察組織)に該当します。

ちなみに、ドラマや映画でよく見かけるCIA(Central Intelligence Agency/中央情報局)は国防総省の管轄で、警察組織ではなく諜報機関です。

アメリカの警察の待遇

アメリカの警察官の報酬はどの程度なのでしょうか?また、警察官の待遇についても見てみましょう。

アメリカの警察官の平均年収

アメリカの大手転職サイトindeedによると、全米の警察官の平均年収は54,004ドル(約578万円)です。また、民間情報サイトChestSheetの発表では、61,270ドル(約661万円)となっています。

先述したように、アメリカの警察は市警察や郡警察など組織がバラバラで、なおかつ税収が多い州もあれば、少ない州もあるため、必然的に警察官の報酬も異なります。

例えば、報酬が良いとされているのは、オレゴン州の65,890ドル(約705万円)、ニューヨーク州の69,140ドル(約739万円)などで、報酬が低いのはミシシッピ州の33,350ドル(約356万円)といった感じです。

アメリカは警察官でも副業可能

アメリカの警察官は副業が許されています。

警察官とは言え、州によっては決して恵まれた報酬が貰える訳ではありません。そのため、雇用契約にもよりますが副業が可能です。

副業は警察官としての勤務時間外であれば可能で、本業に関連している警備や護衛の仕事や、Uberドライバー、ジムのインストラクターなど様々です。警察官が副業可能という点は、日本とは大きく異なります。

飲食店での特別待遇

アメリカの警察官は、勤務中に飲食店を利用すると優遇が受けられることがあります。

最も知られている話は「ドーナツ」でしょう。警察官が勤務中にDunkin Donuts(ダンキン・ドーナツ)を利用すると、無料でドーナツがもらえるというものです。

実は、このサービスは情報が混在しており、警察官は必ずしも優遇が受けられる訳ではありません。Dunkin Donutsが過去に慈善事業イベントの一環として、地元の警察官にドーナツを無償提供したことに尾ひれが付いてしまった話です。(ただし、同社は警察に友好的で知られている)

他にも、1970年代にはファストフードのBurger King(バーガーキング)は、無償で警察官に食事を提供していたこともあります。これは警察官が来てくれることでお店の治安が良くなることや、企業イメージアップの効果を狙ったものでした。

現代では、スターバックスコーヒーがお店やマネージャーの独断的な善意として、コーヒーを無償提供するケースがあるとされています。

警察官に対する優遇措置はルール化されている訳ではなく(賄賂と解釈されるため基本的にはNG)あくまでも「善意」によるもので、苦情を言う人がいないことが前提で成り立っています。

日本で警察官にサービスをすると、即座にニュースになって、警察トップによる謝罪会見が開かれるでしょうが、この点についてはアメリカはおおらかなのかもしれません。

アメリカの警察はなぜ暴力的なのか?

アメリカの警察は犯罪者に対して過剰なまでに威圧的に接しますが、それにはアメリカならではの事情があります。

理由その1:銃社会

最も大きな理由が「銃社会」であることです。

アメリカでは軽微な交通違反や、職務質問などの際でも警察官は命の危険があります。誰でも簡単に銃を保有できることから、相手が銃を持っていることを前提に接しなければならないのです。


そのため、日本の警察官とは比較にならないほどに威圧的で、自身の安全性を確保することが先決になる訳です。相手を制圧するためには乱暴にならざるを得ないのが実情でしょう。

警察官が暴力行為によって相手を制圧することを防ぐために、アメリカの警察官は「Taser gun(テーザーガン)」と呼ばれる電流装置を携行しています。

理由その2:警察の社会的な特権意識

アメリカの警察は自身を守るためにも制圧行為は欠かせません。しかし、状況によっては過剰な制圧行為になり、相手に怪我を負わせたり、殺害するケースもあります。

このような場合、大半のケースで警察官は悪くないという社会的風潮から、裁判で警察官に有利な判決が出ています。この社会的な風潮がアメリカの警察で特権意識として残っているのです。

事実、2014年に起きたエリック・ガーナー窒息死事件では、白人警察官が過度な制圧行為によって黒人男性を殺害しましたが、その警察官は不起訴になりました。5年に及ぶ抗議活動を受けて2019年にやっと解雇処分を受けています。

理由その3:功名心

アメリカの警察官は「功名心」が高い傾向があります。アメリカのアニメで人気の「スーパーマン」のように、悪者を退治すれば英雄になれて、周囲からの尊敬を得られるということに憧れを抱いている人もいます。

アメリカでは映画やアニメでも「正義と悪」を題材にしたものが多く、なおかつ「ヒーロー」が存在します。アメリカではヒーローは高く評価され、みんなの憧れという文化が根強いのです。

警察官という職業は英雄視されやすく、手柄を挙げることで表彰を受けて尊敬を集めることも可能です。このような英雄視扱いが過度な制圧行為に結びついていることは否定できないでしょう。

事実、白人警察官に殺害されたエリック・ガーナーの娘は、警察官の功名心こそが問題だと指摘しています。しかし、この点が改善されるような取り組みはなく、警察官に対するモラルや精神的な教育が求められています。

アメリカの警察制度改革はどうなる?

ジョージ・フロイド窒息死事件を受けて、警察制度改革が注目を浴びています。

アメリカ共和党の動き

2020年6月17日、トランプ大統領は警察改革の大統領令に署名しました。

この制度は警察官による犯罪行為や虐待行為をデータベース化するための仕組み作りに予算を確保するというものです。

民主党からは「まったく不十分」と強い非難を受けており、各地で起きた抗議デモに対する形式的なパフォーマンスに過ぎないと見られています。

アメリカ民主党の動き

一方で、民主党州のニューヨーク州では警察改革が進んでおり、首絞め行為の禁止や、警察官の懲戒処分記録を公表するなど、透明性の向上が図られています。

また、ニューヨーク市警に対する予算を4億8,400万ドル削減し、抗議デモに一定の理解を示すかたちになりました。警察予算の削減には賛否両論あるものの、警察組織というアメリカの聖域にメスを入れたことは先進的と言えます。

このように、アメリカの警察制度改革はトランプ大統領率いる共和党は消極的で、民主党は積極的な姿勢を見せています。

アメリカの警察制度改革は11月に控えている大統領選の新たな争点にもなっていることから、目が離せません。

まとめ

以上、「日本とは大きく異なるアメリカの警察について」でした。

アメリカの警察組織は日本とは違って非常に複雑な仕組みです。ご紹介した組織構成は州によってはまったく異なる場合もあります。その背景には、州政府ごとに異なる警察組織の管理体制や州法があることを覚えておきましょう。

これまでアメリカの警察は特別な存在として認知されてきましたが、人種差別に対する抗議活動や、警察組織改革によって大きく変わる局面を迎えています。今後もアメリカの警察、そして警察組織改革について注目してください。


本記事は、2020年7月17日時点調査または公開された情報です。
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