アメリカの留学生に激震!学生ビザ規制措置の概要や影響とは

アメリカの留学生が、今「学生ビザの規制措置」で混乱しているのをご存じでしょうか?

今回は、アメリカの留学生に激震が走った「学生ビザ規制措置の概要やその影響」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。


はじめに - 留学生は国外退去?

2020年7月6日、アメリカの高校や大学で留学生として勉強をしている学生たちに激震が走る発表がありました。

その内容は「オンラインで授業に参加する学生にはビザ(査証)発給を許可せず、入国も認めない」そして「既にアメリカ国内に滞在中で学業を続ける場合は、対面授業を採用している学校に転校するか国外退去の二択」というものです。

2020年3月中旬からアメリカの多くの教育機関は、新型コロナウイルスの影響で対面式授業を中止してオンライン授業を採用しています。(6月から8月末までは夏休み)

つまり、今回のアメリカ政府による発表は、多くの留学生はアメリカに入国できない、または転校か国外退去を迫られるという非常に厳しい措置なのです。

そこで今回は、アメリカ国内で留学生として滞在中の筆者自らの体験談や、留学生たちの反応などを交えてこの問題について解説します。

今後、キャリアアップのためにアメリカへ留学予定の公務員や公務員志望の方はぜひ参考にして下さい。

アメリカの「ビザ規制措置」に関する概要

はじめに、今回決定された留学生に対するビザ規制措置の概要を見てみましょう。

アメリカの「ビザ規制措置」の内容

今回の留学に対する措置は、アメリカ合衆国移民・関税執行局、通称ICE(Immigration and Customs Enforcement)が発表しました。

今回の発表で最も影響が大きい点は以下の2点です。

・アメリカ国外にいる外国人(日本人など)で、留学予定の学校が秋学期(9月-12月)において、全授業をオンラインで行う場合はビザの発給はせず、なおかつ入国も認めない

・既にアメリカ国内に滞在しており、秋学期においてオンライン授業のみを実施する学校に在籍する留学生は「出国して国外からオンライン授業を受講する」または「対面式授業やハイブリッド授業(オンラインと対面式の組合せ)を実施する学校に転校する」などの対応が必要


このふたつの措置は、留学生と学校それぞれに以下のような圧力をかける狙いがあります。

・留学生に対しては、通学することなくアメリカ国内に合法的な滞在ができないようにする
・学校に対しては、学校経営の貴重な収入源である留学生を締め出すことで、学校に経済的な圧力をかけて、9月から学校(対面式授業)を再開させる

つまり、トランプ大統領は、9月からの学校再開に慎重な風潮を嫌い、学校を強引に再開させるために留学生を利用して、学校へ間接的な圧力をかけたということです。

留学生がいなくなれば多くの学校が経済的な打撃を受けるため、学校は再開せざるを得ないという心理的な追い込みをかけたのでした。

アメリカの「ビザ規制措置」による影響

先述したひとつめの措置は「これからアメリカに留学しようとしている学生」が対象です。留学先の学校が9月からオンライン授業しか実施しない場合は、必然的に留学できないことを意味します。

例えば、名門ハーバード大学は9月からもオンライン授業しか実施しないことを既に発表していますので、ハーバード大学の留学生は留学を諦めるか、対面式授業を採用している別の学校に転校するか、自国でオンライン授業に参加しなければいけません。

7月時点で、秋学期からオンライン授業のみで対応することを発表している大学は、全体の9%とされています。そのなかには、ハーバード大学をはじめとして、南カリフォルニア大学などの日本人が多く通う名門校も含まれています。

そして、ふたつめの措置についてです。ふたつめの措置は「現在、アメリカ国内に滞在中の留学生」が対象です。(筆者はこれに該当します)

この措置は、9月から通う予定の学校が、オンライン授業しか提供しない場合、対面式授業を採用している別の学校に転校するか、帰国が迫られます。

この場合、帰国後にオンラインで授業に参加することは可能ですが、急遽帰国するための手配が必要になります。具体的には、1週間以内に家や車などの解約手続きを済ませて出国せねばならず、賃貸やリースの契約を打ち切るため様々なペナルティを追加で支払う必要もあります。

現在、アメリカでは新型コロナウイルス感染拡大が再び起きており、どの学校も9月から再開するかどうかを決められない状況が続いています。

再開に前向きな学校もあれば、再開には慎重な学校もあり、統一されていない状況がますます留学生を困らせているのです。

事実、筆者が暮らす街の州立大学は秋学期まで残すところ1ヶ月ながら、いまだに正式な発表ができずにいます。(州政府や市政府との連携も必要)学校側の決断が遅ければ遅いほど、留学生たちは転校や帰国の手配ができなくなる問題が生じます。

アメリカの「ビザ規制措置」に影響を受けると予想される留学生の数

今回のビザ規制措置によって全米でおおよそ100万人の留学生が影響を受けるとされています。

IIE(Institute of International Education/米国国際教育研究所)によると、2018年から2019年にかけて、アメリカの大学や大学院で学んだのは1,095,299人としています。


また、アメリカ政府は2019年だけで373,000人に学生ビザを発給しており、今回のビザ規制措置によって影響を受ける数がいかに大きいかが分かると思います。

2018年から2019年の留学生の内訳を見てみましょう。

中国:369,548人
インド:202,014人
韓国:52,250人
サウジアラビア:37,080人
カナダ:26,122人
日本:18,105人

アメリカで学ぶ留学生の大半は中国(48%)とインド(26%)が占めています。全体から見ると日本人はわずかですが、それでもおおよそ20,000人が何かしらの影響を受ける可能性があります。

アメリカの「ビザ規制措置」の経済的な影響

アメリカ商務省によると、2018年に留学生がアメリカにもたらした経済効果は44.7億ドル(約4兆8,200億円)とされています。この数値は、前年度よりも5.5%上昇しており、アメリカ経済への貢献度は高いと言えます。

例えば、留学生から人気の大学が集まるカリフォルニア州の4年制大学の平均授業料は、年間で42,000ドル(約451万円)とされており、アメリカ人学生の3倍ほどかかります。つまり、留学生ひとりが3人分の学費を払う計算です。

さらに、住居や車、食費など地元経済への貢献も大きく、留学生は学校だけでなく地元のビジネスから見ても大きな存在なのです。とくに、中国人学生が集まる都市では、アジア系のレストランやスーパーマーケットが経済的な打撃を受ける可能性があります。

アメリカの「ビザ規制措置」に対する周囲の反応は?

今回の措置を受けて学校や留学生はどんな反応を見せているのでしょうか?

学校側の反応

学校側は強い反発の姿勢を見せる一方で、授業形式の見直しを迫られています。

ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)などの名門校は、措置の発表を受けた翌日に、ビザ規制をおこなわないようにする訴えを連邦地方裁判所に起こしています。

また、提訴にあたりコメントを発表し「ハーバード大学とMITをはじめとする実質的にすべてのアメリカの高等教育を混乱に陥れる」としたうえで、政府の決定を批判しました。

ハーバード大学のバカウ学長は「ICEの命令は悪しき公共政策であり、違法と信じている」とコメントし、政府と教育機関の溝が浮き彫りになっています。

一方で、全米で4,000近くあるとされている大学機関は、9月からの授業形式の見直しを強いられており、多くの留学生を抱える学校では「ハイブリッドクラス」を採用する動きを見せています。

ハイブリッドクラスとは、オンラインと対面式の組み合わせで、今回のビザ規制に抵触しない授業形式です。平常時は対面式授業で対応しますが、仮に感染が確認された場合などは即座にオンライン形式に切り替えます。

ICEはハイブリッドクラスの合法性を認めており、学校側はすべての留学生に対して「オンライン授業だけを受けている訳でない」という証明書(I-20)を発行することで、ビザ要件を満たしていることを保証する仕組みです。

ハイブリッドクラスへの移行により、留学生への影響は大幅に抑えられるとされていますが、学校職員や教員たちは夏休み返上で調整に追われており、対応の遅れなどの混乱が生じています。

留学生の反応

留学生の間では混乱が起きています。

3月中旬、全米の教育機関が新型コロナウイルスの影響を受けてオンライン授業に切り替わりました。この結果、多くの留学生は一時帰国して、母国でオンライン授業を受講しました。また、6月から8月末までは夏休みということもあり、ほとんどの留学生はアメリカ国外にいます。

つまり、留学生は「アメリカ国外滞在派」と「アメリカ国内滞在派」のふたつのパターンに分かれている状態です。


「アメリカ国外滞在派」の留学生は、学校の方針(オンライン授業のみ)によってはアメリカに再入国できない状態に置かれています。一方で「アメリカ国内滞在派」の留学生は、学校の方針によっては強制退去になる可能性があります。

いずれの場合も、9月からの授業形式によって左右されるため、留学生は学校からの正式な発表を待つしかありません。

再びアメリカに入国する場合も、国外退去になる場合も「時間が迫っている」という、ひっぱくした状態にあることは明白です。

トランプ大統領の反応

トランプ大統領は今回の決定に先立ち、自身のTwitter上で「すべての学校は秋に再開すべきだ」と述べています。また、今回の措置発表後には「ドイツなどのヨーロッパ諸国は問題なく学校は開かれており、民主党は大統領選に向けて政治的に良くない状況になることを考えている」とし民主党を批判しています。

加えて、学校が再開されない場合は、連邦政府による助成金を打ち切ることも辞さないとし、学校に圧力をかけています。

アメリカの民主党の反応

民主党大統領候補のジョー・バイデン氏は自身のTwitterで「(留学生は)アメリカで学び、発明し、アメリカを作る存在なのに、トランプ大統領は分かっていない。私たちには大統領が必要だ」と嫌味を込めた批判をしています。

また、民主党上院議員で、2020年の大統領選民主党候補者選びにも立候補したエリザベス・ウォーレン氏は、今回の決定を受けて「無意味で残酷な外国人嫌悪だ」として、ICEを痛烈に批判しています。

アメリカの「ビザ規制措置」の隠れた目的

今回のビザ規制措置にはもうひとつの目的があるとされています。

中国に対する圧力

このところ、トランプ大統領は中国政府に対して徹底抗戦の姿勢を見せています。

この背景には、米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染拡大、WHOと中国政府の関係、そして香港国家安全維持法などを巡る「米中の対立」があります。

また、直近では中国人やインド人がアメリカ人の雇用を奪っている原因とされる「H-1Bビザ(通称:ハイテクビザ)」の発給を停止したことが示すように、中国に対する露骨な規制強化が続いています。

そして、今回の留学生を対象にしたビザ規制措置問題が起こりました。トランプ大統領は留学生全体の半分を占める中国人留学生を締め出すことで、中国人がアメリカ国内でインターンや就職する道を閉ざそうとしているのです。

こうする目的は「11月に控えている大統領選へのアピール」や「反中国派のアメリカ人に対するアピール」があるとされています。実は、今回のビザ規制措置は「中国人」を標的にした強硬策とも言われています。

まとめ

以上、「アメリカの留学生に激震!学生ビザ規制措置の概要や影響とは」でした。

このように、アメリカ第一主義を貫くトランプ大統領は、留学生にまで影響を与えるような策を講じて、アメリカ社会をパンデミック下から通常へと戻そうとしています。

秋学期がはじまる1ヶ月前に発表したことや過剰なまでに厳しいビザ要件は、アメリカ国内だけでなく世界中から批判の声を受けています。就労ビザの一時停止措置に次いで、国際世論からの批判は高まるばかりです。

現在、多くの学校が留学生を守るために授業形式の変更や、法的な手続きを進めています。今回の一件は、夢を持ってアメリカを目指す若者たちに対しても排他的な印象を与えたことから、アメリカという国の印象を著しく悪化させたことは間違いありません。

9月にかけて、新型コロナウイルスの感染がどこまで広がるかや、学校側が留学生を守るための対抗策を実施するかなどが焦点になります。秋学期開始まで約1ヶ月という差し迫った状況下で、多くの留学生は依然として混乱しています。

参考資料サイト

IIE(Institute of International Education/米国国際教育研究所)
https://www.iie.org/Why-IIE/Announcements/2019/11/Number-of-International-Students-in-the-United-States-Hits-All-Time-High

アメリカ商務省(Number of International Students in the United States Hits All-Time High)
https://www.iie.org/Why-IIE/Announcements/2019/11/Number-of-International-Students-in-the-United-States-Hits-All-Time-High


本記事は、2020年8月6日時点調査または公開された情報です。
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