動物愛護に対する日本と諸外国との違いとイギリスでの菜食主義者の増加(2022年6月)

イギリス在住の日本人による、イギリスや日本に関する記事レポートです。今回は「動物愛護に対する日本と諸外国との違いとイギリスでの菜食主義者の増加」についてまとめました。


はじめに

日本では有名な忠犬ハチ公のお話をご存じの方も多いと思いますが、犬はとても人間に忠実な動物として知られています。それ以外にも多くの動物物語が日本にも存在していますが、日本人の動物愛護の精神はヨーロッパなどに比べるとまだ発展途上と言えそうです。

日本の保健所における「保護ペット」の扱い

日本においては、各自治体が有する保健所が犬猫など動物の引き取りをしています。引き取りと言っても、その後に保護飼育してくれるわけではありません。引き取りから最低3日間はそれらの動物を公示し、飼い主や引き取り手を探します。しかしながら、公示期間中に引き取り手が現れなかった場合は、殺処分されることになります。通常1週間程度で殺処分されているようです。

2020年4月~2021年3月にかけて殺処分された犬猫は23,764頭でした。これは毎日65頭の犬や猫が全国で殺処分されている計算になります。ただし、幸いにも年々その数は減少しています。

諸外国における「保護ペット」の扱い

イギリス

イギリスではペットなどの保護活動は民間団体が行っており、殺処分をすることはありません。動物愛護精神の高いイギリスでは、多くの保護動物が、新しい飼い主を見つけてシェルターを後にする動物は全体の16% に上ります。里親になるにも、動物の大きさや性格などによって、広い庭がある、小さい子供がいない家庭など、厳しい条件が課せられます。

イギリスの大手スーパーにはペット用フードバンクが設置されており、善意によって、多くのペットフードが寄付されているのを目にします。国の負担で賄うことはなく、民間人の善意でペットは生かされていると言えるかもしれません。

イギリスの「危険犬に関する法律」

イギリスでは、保護動物の殺処分はありませんが、危険犬として民間人のペットとして飼育することを禁じられている犬種があります。もし、危険犬として判断されてた場合は殺処分をされることになります。

但し、ここで問題視されているのが、危険犬としての具体的な条件が定められていないことです。犬の危険性についての判断は警察が行うため、個人判断に任されているからです。この判断によって多くの犬が殺処分されているものの、毎年21万人の人が犬によって何らかの被害を受けているという報告がなされています。その件数は増加しており、果たして「危険件に関する法律」が適切に機能しているのかという疑問が提起されています。

ドイツやイタリア

殺処分“0”を掲げています。保護されたペットたちはシェルターに移され、引き取り手を探すことになります。但し引き取り手が見つからない場合でも、環境がある程度整ったシェルターで余生を過ごさせることを目的に、シェルターが運営されています。

イタリアではコロナ禍で外出が禁止された期間もペットの散歩を理由に外出が許可されました。そのため、多くの人が外出するために、ペットを飼いだしました。コロナの状況が改善する中、ペット飼育放棄が増加することが懸念されています。

フランス

動物の殺処分を否定してはいませんが、2024年からペットショップでの犬や猫を販売することを禁止しました。

ペットショップの問題は、いずれも生まれてから日の浅い犬や猫を販売するため、消費者が衝動買いする行動が起こりやすい点、販売時期を逸して大きくなった犬や猫が動物虐待や違法放棄に合う可能性が高い点が上げられます。


フランスで犬や猫が毎年10万匹も捨てられているという苦難に向き合っているからです。

アメリカ

日本と同じように、自治体が行っている保健所と、非営利集団の民間が行っているシェルターに区分されます。

アメリカ全土で官民合わせて14000ケ所のシェルターおよびレスキューグループが活動しています。

自治体が行っている保健所では日本と同じように殺処分が行われております。保健所を運営するために年間2百万ドル(1ドル=130円換算で2億600万円)の公金が投入されていることも問題視されています。

民間で行われているシェルターは、病気になったり年老いたりすることで殺処分やむなく行う場合以外は、殺処分をすることはありません。しかしながら、多くのシェルターに持ち込まれる保護ペットは後を絶たず、多くのシェルターで過密状態になり、病気などにかかるリスクが高くなってきているのが大きな問題となっています。

1994年サンフランシスコ市がアメリカの自治体では、はじめて殺処分を行わないと宣言しました。2019年デラウエアでも殺処分を行わないことを宣言しました。

それでも殺処分をされているペットの数は減らず、2019年には625,000ペットが殺処分されています。ペット保護活動をしている民間団体は2015年までには殺処分“0”を目指すとし、活動を活発化しています。

日本と欧米の鶏卵飼育の違い

日本は一人当たりの卵の消費量が世界一高い国と言われているのはご存じでしょうか。

それほど消費量が多いにも関わらず、日本の国産時給率は95%近くにも及びます。しかしながら日本の鶏卵飼育の方法はヨーロッパではすでに2012年に動物虐待飼育として使用が禁止されているバタリーケージ法で養鶏されています。諸外国と日本との違いを見てみましょう。

日本

日本の卵は95%以上がバタリーケージで飼われた鶏から生産されています。バタリーケージとはワイヤーで作られたケージを何段にも重ね、ケージの中に鶏を収容する集約式の養鶏方式です。1つの鶏が入るケージの大きさは20㎝x20㎝程の小さな面積で一生を暮らすことになります。

この飼育方法は1950年代にアメリカから伝わってきた方法で、この方法によって卵の生産性は飛躍的に伸びました。日本の卵は過去60年間ほとんど値段が変わっていません。その理由はバタリーケージの集約養鶏方式と肥料が大きく改良されたことです。

これらの飼育方法は、「アニマルウェルフェア」(動物の生活および死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状況)に違反していると議論に上ることが多い飼育法の一つです。但し、国土の狭い日本ではなかなか平飼いの飼育方法が定着しないのも現実です。

アニマルウェルフェアとは

イギリスから発祥したもので、家畜の劣悪な飼育環境の改善を目的とし、家畜が飼育される理想の環境を目標とするものです。日本もこれらの目標の達成を掲げる加盟国の一国です。

  1. 空腹と喉の渇きを感じない飼育環境
  2. 不快な思い感じない飼育環境
  3. 痛みや病気にならないような飼育環境
  4. 正常な行動を妨げることがないような飼育環境
  5. 恐怖や苦痛を感じないような飼育環境

イギリス

2012年EUはバタリーケージの使用の使用禁止を決めました。イギリスにおいては、バタリーケージの使用はしていませんが、改良ケージで飼育を禁止しているわけではありません。鳥インフルエンザが流行して以来、鶏を守るために、野外飼育から室内飼育に移行した養鶏農家も多く存在しますが、極力ケージに入れて飼育しないよう務めています。2022年3月時点で市場の55%は平飼い飼育によるものです。

フランス

2022年までに改良ケージ飼育による養鶏が生産した卵の販売を禁止することに決めました。但し、卵を原料とした食品に使用されている原料としての卵に関してはその旨ではありません。また、卵を産まないオスのヒヨコの殺処分も禁止しました。


オーストラリア

EUが禁止する以前の2009年からバタリーケージの飼育は禁止されています。2020年の時点で改良ケージも含めすべてのケージ飼育による養鶏が禁止されました。

ドイツ

EUが禁止する以前の2010年からバタリーケージの飼育は禁止されています。2025年からは改良型のケージの使用も禁止される予定です。但し、2028年までは例外的に改良ケージの使用が許可されるところもあります。
ドイツではすべての卵に飼育用法の記載が義務化されています。

・有機
・平飼い
・改良ゲージ

改良型のゲージといってもゲージにはちがいありません。そのため、消費者はゲージ飼育の卵を購入することを好まない傾向にあります。現在改良ケージの卵の生産は全体の5.5%(2022年)と低い数値を示しています。

スペイン

スペインでは改良ケージ飼育が73%と高かったものの、2020年鶏卵業者トップ10社中9社が改良ケージ飼育の中止を発表しました。

ポーランド

ポーランドでは改良ケージ飼育が76%と高い数値ですが、現在大手スーパーがケージ飼育の卵を取り扱わないようになってきているため、今後はゲージ飼育が減少すると期待されています。

イタリア

イタリアの改良ケージ飼育率は35%ですが、イタリア大手の小売業者が今後ケージ飼育の卵を取り扱わないことを公表しているため、今後は減少傾向になる見通しです。

チェコ

2020年9月、チェコ政府は2027年までにすべてのケージ飼育を禁止すると発表しました。現在のケージ飼育率は62%です。

スイス

ケージ飼育率は“0”です。

アメリカ

アメリカではバタリーケージの使用も日本と同様禁止されていません。但し、徐々にケージ使用飼育に対し反対する意見が強く、今後は使用禁止の方向に向かうと予想されています。

2020年USDAの統計によると26%の鶏卵がケージ不使用生産となっています。州によってはすでにケージ飼育の禁止が施行されているところもあります。

乳牛のつなぎ飼い問題

養鶏以外にも乳牛のつなぎ飼いについても日本とヨーロッパでは大きく違います。日本では乳牛の80%以上が自由に身動きができないような牛舎で一生を過ごしています。3.11の災害から土壌汚染により放牧できなくなり、乳牛飼料を輸入に頼らなければいけなくなった酪農農家も多く存在します。

ヨーロッパではつなぎ飼いを禁止してはいないものの、放牧時間や日数が既定されており、一生牛舎の狭い空間で過ごすような乳牛は存在しません。

動物を人間の娯楽利用

日本では水族館でイルカ、シャチ、アザラシのショーは定番です。また猿回しは昔からある日本の伝統芸能でもあります。しかしこれらの動物に芸を教え込むような好意は欧米では禁止されている行為です。

像、ウミガメなどの背中に乗るようなアトラクションも東南アジアではよくありますが、これも欧米では動物虐待と見る目も少なくありません。

中国ではパンダよりも猿に人が集まると良く言われます。猿回しの芸を見て笑っているのは今や東南アジア人ばかりかもしれません。

イギリスのフカヒレ、フォアグラの禁止

日本ではまだ高級中華料理店やフランス料理店で提供されている高級食材ですが、海外では動物愛護の理由で製造や販売が禁止されています。

イギリスは世界で初めて2021年8月フカヒレの輸出入の全面禁止を法律で制定した国となりました。

その後高級食材の一つとなっているフォアブラの生産を禁止しています。しかし、フランス産などのものが輸入され一部のレストランなどで提供されているため、今後は輸入販売を禁止することを検討しています。


フォアグラとは

フォアグラとは、カモやガチョウに大量の餌を与え続けることで肝臓を肥大させその肝臓を食するものです。そのためその生産方法が動物虐待にあたると指摘されています。

フォアグラの生産又は生産および輸入販売を禁止している国

イタリア、ポーランド、トルコ、フィンランド、ドイツ、ルクセンブルク、ノルウェー、アルゼンチン、デンマーク、チェコ、オーストリア(9州中6州)、インド、ベルギー、サンパウロ市、ニューヨーク市、ウクライナ、スウェーデン、スイス、アイルランド

*生産は禁止されているものの、輸入販売を許可している国も多数あり。

脱毛皮時代の到来

冬になると日本では高級ブティックや百貨店には毛皮のコートが並びますが、諸外国ではすでに生産を禁止する動きが強く、多くの高級ブランドも毛皮の不使用を宣言しています。イギリスでは毛皮を表立って販売しているようなブティックを見かけることはありません。

また、大手ファッション雑誌も毛皮を使用した記事の写真および掲載をしないことを宣言しています。

現在使用禁止を宣言している高級ブランド

グッチ(GUCCI)、プラダグループ(Prada)、アルマーニ(ARMANI)、ヴェルサーチ(Versace)、バーバリー(Burberry)、ラフルローレン(Ralph Lauren)、トミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)、アディダス(adidas)その他多数

イギリスでの菜食主義者の増加

イギリスでは動物愛護の精神から菜食主義者になる人も少なくありません。現在イギリス全体の3%近くが菜食主義者と言われています。

菜食主義者はベジタリアンやビーガンと呼ばれます。ベジタリアンの中には魚貝類や卵を食べる人もいます。なぜならば、市場で販売されている卵のほとんどは無精卵であることが理由です。ビーガンと呼ばれる人は植物性以外は口にしません。

レストランではベジタリアンマークやビーガンマークがメニューのとなりについているので、レストランで食事ができないということはイギリスではほとんどありません。

まとめ

中国や韓国では犬を食する食文化が昔から存在しています。豚や牛などの家畜を食べて犬や猫だけを保護するのはおかしいという議論があるのも確かです。但し、化学技術が進化した現代、人間が動物の毛皮をまとって暖を取らなくてもそれ以上の使用価値のある代替品が存在しています。つやがなくなるからといって、残虐な方法で動物の毛皮を生産する必要性があるかについては甚だ疑問です。

参考資料サイト

環境省_統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理] (env.go.jp)(外部サイト)

Clampdown on dangerous dogs – GOV.UK (www.gov.uk)(外部サイト)

Maximum prison sentence for animal cruelty raised to five years – GOV.UK (www.gov.uk)(外部サイト)

フランスがペットショップで犬や猫の販売禁止へ 虐待に罰金965万円 日本では賛否の声 (borderless-news.com)
(https://borderless-news.com/animal/1745/)

Free-range eggs no longer available in UK due to bird flu – BBC News(外部サイト)

France confirms 2022 cage ban for shell eggs (foodnavigator.com)(外部サイト)

eggs-dashboard_en.pdf (europa.eu)(外部サイト)

フォアグラに関する規制| 畜産動物たちに希望を Hope For Animals|鶏、豚、牛などのアニマルウェルフェア、ヴィーガンの情報サイト(外部サイト)

イギリスの動物愛護に関する法律や課題など…まとめ | 動物のリアルを伝えるWebメディア「REANIMAL」(外部サイト)

鶏:農林水産省 (maff.go.jp)(外部サイト)


44 Shocking Animal Shelter Statistics (2022 UPDATE) (petpedia.co)(外部サイト)

「リアルファーは使いません!」 ファーフリーを宣言したファッションブランド16 (elle.com)(外部サイト)

Pet Adoption Statistics [2022]: Rates of Dog & Cat Adoptions (spots.com)(外部サイト)

本記事は、2022年6月24日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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