流産・死産を経験する女性…意外と多い不育症について

高齢などの要因、もしくは原因が分からないまま子供ができない夫婦が不妊治療を選択することによって、不妊症の認知度は高くなっています。一方で、妊娠はしてもその後胎児が育たず、流産や死産となり、それを繰り返す「不育症」はあまり知られていません。

今回はその「不育症」についてのコラムです。


妊娠するのに、子供が育たない…不育症かもしれない

不育症とは

不育症とは、妊娠はしてもその後胎児が育たず、流産、死産、出産後の新生児死亡を繰り返す症状を指します。

在胎期間22週以内での流産を2回繰り返す事を反復流産、3回繰り返す事を習慣流産と呼ばれています。不育症は、反復流産や習慣流産だけでなく、それより広範囲の死産や生後一週間以内の新生児死亡も繰り返す事も含めると、厚生労働省により定義されています。

流産、死産、新生児死亡を2回繰り返したら不育症を疑う

流産や死産、新生児死亡を2回以上繰り返すと、不育症の可能性を疑った方が良いと言われています。

流産の中でも、ほとんどが妊娠4か月に当たる15週以内に起きると言われています。妊娠15週以内の流産は、妊娠している女性の全体から見ると15%の確率で起きると言われていますので、決して低い確率ではありません。また、妊娠15週以内の流産を妊娠周期別に見てみると、流産全体のうち妊娠5~7週では22~44%、8~12週で34~48%、13~16週では6~9%となっていますので、妊娠周期が長くなれば長くなるほど、流産の確率は下がっていきます。

妊娠して初めて流産したとしても、残念な事ですが特に初期には20代の場合は15%の確率、30代の場合は20%で起きてしまう事ですので、決して低い確率ではありません。ところが、2回連続で流産する確率を見てみると、15%×15%で、2.3%まで確率は下がります。30代の場合は20%×20%で4%です。その為、一度の流産で不育症を疑うのではなく、2回以上の流産を経験して初めて不育症を疑った方が良いと言われているのです。

また、原因が分からない22週以降の死産や、新生児死亡は流産よりもより確率は低くなります。その為、一度でも経験をした場合不育症も含めて、妊娠中の経過観察が慎重に行われる事が多くなっています。

化学流産は、流産にカウントしない

一方で、化学流産という言葉があります。これは、精子と卵子が受精したものの、その後受精卵として育たず、妊娠が成立しなかった状態を指します。

今は、市販されている妊娠検査薬の精度が上がった事に加えて、生理予定日から使える早期の妊娠検査薬も販売されています。それらを使う事により、妊娠の超初期でも陽性反応を得る事ができました。ところが、陽性は出てもその後産婦人科へ行ったところ胎嚢(赤ちゃんの元になる袋)が確認できなかった、という事があります。これが、妊娠周期6週目以前で起こる化学流産です。

化学流産は、医療技術の発達した現在だからこそ分かる妊娠状態で、胎嚢ができる前に起こります。もちろん流産にはカウントされません。

流産する女性は意外と多いが、あまり知られていない

不妊症の認知度は高くなりましたが、少しずつ知られては来ているものの不育症の認知度はまだ低くなっています。その為、流産を経験した女性は「どうして自分ばかり」と思ってしまうかもしれません。

とはいえ、まだまだ日本で不育症に対するケアを行っている医療機関は、不妊症の医療機関よりも少なくなっています。今後は、不育症の治療や、流産や死産を経験した女性へのケアも、手厚くなる事を願っています。


どうして不育症は起きるの?流産の原因を見てみよう

子宮の形態異常

女性の中には、生まれつき子宮の形に問題があり、流産しやすい女性もいます。弓状子宮や中隔子宮、単角子宮や双角子宮、重複子宮などと言われており、子宮そのものの形だけでなく、卵管が一本しかない場合など、他の形態異常も流産の原因となる場合もあります。

女性自身の既往歴

バセドウ病などの甲状腺に異常のある疾患や、糖尿病などの病気も流産の原因となります。

抗リン脂質抗体症候群

生まれつきの体質で、血液が固まりやすい体質である抗リン脂質交代症候群も、流産の原因です。自己抗体のひとつである抗リン脂質抗体が、外部からの病原体だけでなく自分の体内組織を攻撃してしまう事により、血栓を作りやすくなり、胎児への血流を阻害し、流産や死産の原因となります。

血液凝固因子異常

抗リン脂質抗体症候群以外にも、血液の凝固に異常があり、生まれつき血栓ができやすい体質の女性もいます。これも、血栓が胎児への血流を阻害してしまうので、流産や死産の原因となります。

両親の染色体異常の発現率が高い

染色体の組み合わせによって、染色体異常が発現しやすい場合があります。染色体異常を持つ受精卵は、そのまま流産することが多いので、偶然染色体異常を発現しやすい組み合わせの染色体を持つカップル同士の場合は、流産や死産が起きやすくなっています。

原因不明

上記のような体質的な問題の他にも、夫婦ともに高齢なども流産の原因となります。ところが、これらの原因が分からなくても流産や死産を繰り返す女性は少なくありません。

実は不育症に悩む女性のほとんどは、原因が不明となっています。

自分は不育症かもしれない、と思ったら

不育症を疑ったら、まずは検査を受けてみる

流産の原因は染色体異常もありますが、原因不明の事もあります。流産の原因を調べる時には、自然流産や掻爬手術で出た胎嚢などを病理検査に出す事で分かります。その際に、原因が分からないとなると、不育症の可能性が高まります。

もしかしたら自分は不育症かもしれない、と思ったら不育症検査を受ける事ができます。不育症検査を受けられる医療機関は、流産時に処置を受けた病院から紹介を受ける事もできますし、自分で探して受診する事もできます。

検査内容は、不育症の原因別に行われる

不育症の原因を調べる為の検査は、不育症の原因の可能性がある項目に沿って検査されていきます。子宮の形態異常や女性の既往歴を聞かれる、病気の有無の検査、血液凝固因子検査などです。

不育症に対する治療方法とは?

子宮形態異常への治療方法

先天的な子宮形態異常の場合には、形成手術以外にも、他の方法がないかを模索しながら妊娠継続を目指します。また、子宮筋腫や子宮内ポリープがあり、それらが流産の原因となっている場合には、摘出手術を勧められる事もあります。

抗リン脂質抗体症候群への治療方法

不育症の検査を受けたことによって、自身が初めて抗リン脂質抗体症候群である事をしった女性も少なくありません。

抗リン脂質抗体症候群の女性は、血栓を作らないようにするために、アスピリンの服用やヘパリンの自己注射を行います。これにより、妊娠の継続確率を上げて、無事に出産できるケースも多くなっています。自身が不育症という事を知り、適切な治療を受ける事によって、無事に出産できるようになった、不育症を克服したケースと言えます。

血液凝固因子異常への治療方法

血液凝固因子異常が原因の不育症への治療は、止血剤を服用しながら妊娠継続を行うケースが多いです。とはいえ、止血剤の服用は、リスクもありますので必ず主治医の指示のもと、慎重に行われます。

その他の治療方法

染色体異常への治療方法はないと思われがちですが、その他のリスク因子を失くすことによって、妊娠継続の確率を上げる事ができます。


例えば、直接的な原因にはなりませんが大きなストレスがかかる事は、流産にも深く関連しています。妊娠しても、また流産してしまうのではないか、死産してしまうのではないか、と考えてしまう事もありますが、まずはリラックスして次の妊娠に臨むと良いでしょう。

もしも、流産や死産を繰り返し、妊活自体に浸かれてしまった時には、一旦お休みしてみて、ゆっくり夫婦の時間を持ってみるのも良いかもしれません。

求められる女性へのケア、不育症を経験したら

肉体的にも大きな負担

原因はどうであれ、不育症が疑われる女性は、流産や死産を繰り返しています。妊娠22週以前の妊娠継続停止を流産と言い、その後を死産と定義されています。

初期の流産の場合でも、掻爬手術を受ける事が多いです。自然流産をした場合には、在胎期間が長ければ長いほど、出血量も多く場合によっては危険な状態にもなります。また、掻爬手術や自然流産を待つのが危険と判断された、在胎期間が長い場合には誘発剤を使用して分娩を行います。出産と同じですので、当然女性の体には大きな負担がかかります。

精神的にも大きな負担

流産や死産は、女性にとって大きな喪失感や悲しみを与える事になります。肉体的にも大きな負担のかかる、手術や自然流産、分娩を経験しても、赤ちゃんと出会える事はない、悲しいお産を経験する事になります。

特に、妊娠していた前後は女性のホルモンバランスが崩れていますので、気分がふさぎがちになったり、少しのことでイライラしやすくなったりと言った症状が出てきます。流産や死産が原因で、鬱となってしまう事もあります。

ホルモンバランスの崩れに加えて、流産や死産は大きなストレスがかかります。また、他の妊婦さんや子供連れの人を見かけると、嫉妬のような気持ちになってしまったり、悲しい気持ちになってしまったりします。

特に、同時期に妊娠した女性が友人や親族などで周りにいて、その人は無事に出産した時には、「どうして自分ばっかり」「私も今頃は赤ちゃんがいたのに」と、取り残されてしまった様な気持ちになってしまいます。

パートナーとのすれ違い

流産や死産を経験すると、パートナーとそれが原因で争いが起きてしまう事があります。流産や死産を実際に経験するのは女性です。男性はその気持ちに上手に寄り添う事ができずに、「また次頑張ろう」などと声をかけてしまいがちです。すると、「次じゃなくて、今失った赤ちゃんと向き合ってよ!」と女性の逆鱗に触れてしまう事にもなります。

男性は、悲しみに対してその対処法や解決法を求めている、女性は悲しみに対して共感を求めていると言います。男女の気持ちの間では、性差によるすれ違いがある事に加えて、元々の性格などですれ違いが生じ、パートナーと流産や死産が原因で険悪になってしまう事になります。

外的要因からのストレス

流産や死産を経験した女性は、なかなかその気持ちを外へ吐露する事ができません。ですので、実際に流産や死産をした女性は、本人が言わないから分からない為、意外にも身近にいるのです。

そして、流産や死産を経験しているのを言わない為に、義母や周りからの心無い「子供はまだできないの?」といった言葉をかけられる事もあります。または、不妊症を疑われて「子供ができないなら、不妊治療をしたら?」と言われてしまう事もあります。

不妊症ではなく、妊娠自体はできるのです。けれども原因も分からずに流産や死産をしてしまうのが不育症です。とはいえ周りに「妊娠はするんですがすぐ流れちゃうんです」とサラッと言えるわけではありません。

周りから心無い言葉をかけられる事は、相当なストレスとなります。これにより、周りの人間関係の悪化を招くのも珍しくありません。

流産、死産、新生児死亡…自分で自分を癒してあげよう

気持ちを吐き出せる場や共感できる場を作る

インターネット上には色々なSNSやコミュニティがあります。不育症の女性が集まって気軽に愚痴や辛い気持ちを吐き出せる場所もあります。匿名で利用できますので、気軽に自分の気持ちやつらい体験を吐き出す事もできます。

画面の向こうの名前も顔も知らない人間でも、辛い気持ちを言い合ったり、共感し合ったりする事で心が軽くなる事があります。

インターネット上だけでなく、自治体の無料相談を利用するなど、辛い気持ちを誰かに吐き出せる場所を作り、自分だけで溜めこまないようにしましょう。

もちろん、パートナーでも大丈夫です。素直に、悲しい、つらい気持ちは我慢せずに吐き出しましょう。

時間薬を使う

辛い経験も、時がたてば少しずつ楽になっていきます。忘れる事はできませんし、次に妊娠し、無事に出産できたとしても流産や死産の経験を思い出して辛くなる事があるかもしれません。


時間薬という言葉があります。少しずつ時がたつのを利用して、辛い気持ちが癒されていくのを待つのも良いでしょう。その間に、旅行に行ってみる、お酒を楽しむ、欲しかった物を買う、美味しい物を食べるなど、辛い思いをした自分を思い切り可愛がってあげる事も忘れずに。

本記事は、2018年9月5日時点調査または公開された情報です。
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