救急隊員とは?
消防吏員の中のひとつが救急隊員
119番の救急通報があれば、各自治体の消防署から救急車が現場へ出場します。この救急車の中に同乗し、救急現場に駆け付けるのが救急隊員です。
消防署に勤務している消防士のことを、正式名称で「消防吏員」と呼びます。消防吏員は大きく分けて「消火隊」「救助隊」「救急隊」と、職務内容によって配属先が分かれます。つまり、救急隊員とは元々消防士でもあるのです。
消防士は、配属されている隊によって制服が異なります。救急隊員の制服は、全国の自治体でも統一されており、グレーと白を基調とした制服となっています。
特定の医療行為も可能に!救急救命士とは
救急救命士とは?
救急隊員の中でも、救急救命士資格を持つ隊員は救急救命士として活躍する事が多いです。救急救命士とは、救急車の中に同乗し、病院などの医療機関へ傷病者を運ぶ間に、色々な救命のための処置を行う職業を指します。
119番通報を受けて、救急車が現場に駆け付けた後は、適切な処置を行う為に医療機関へ傷病者を搬送します。その間に救急救命士が適切な応急処置や組成措置を行う事によって、医師への引き渡しがスムーズにできる他、救命率の向上にも繋がります。
また、救急救命士が同乗する救急車は高規格救急車と呼ばれています。立ったまま救急救命処置が行えるように天井が高くなっている、救急救命処置に必要な医療器具や資機材が豊富に装備されているなどの特徴があります。
救急救命士の職場は主に消防署
救急救命士は、119番通報を受けて救急要請にこたえる、各自治体の消防署に救急隊の一員として勤務していることがほとんどです。なお、消防署にいる救急隊員すべてが救急救命士ではありませんが、日本の消防署内で構成する救急隊3人の内1人を救急救命士とするように努力されています。まれに、警察や自衛隊、海上保安庁にも配属されています。
ちなみに、海外の救急車は通報によって駆け付けるのは病院の救急車の為、海外の救急救命士は病院に勤務する従業員である事が多いです。日本のごく一部の総合病院にも、救急車を持っている病院はあり、病院の救急車に同乗して活躍する、病院の従業員としての救急救命士もいます。
救急救命士の仕事内容について見てみよう
救急車に同乗して救急救命処置を行う
救急救命士の定義は、救急救命士法第2条によれば「厚生労働大臣の免許を受けて、医師の指示の下に、救急救命処置を行うことを業とする者」とされています。
以前までは、医師の資格を持たない救急隊員は医療措置を行う事ができませんでした。けれども、医師の指導の下に救急救命措置の行える救急救命士が誕生した事により、救急車で搬送中も、傷病者の応急処置や蘇生処置を行う事ができるようになりました。また、救急救命士ができる範囲の医療処置を含む応急処置や蘇生処置を「救急救命処置」と呼んでいます。
救急救命処置とは、「その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はその生命が危険な状態にある傷病者(以下「重度傷病者」という。)が病院又は診療所に搬送されるまでの間に、当該重度傷病者に対して行われる気道の確保、心拍の回復その他の処置であって、当該重度傷病者の症状の著しい悪化を防止し、又はその生命の危険を回避するために緊急に必要なもの」と、救急救命士法第2条第一項に定義されています。
救急救命処置とは
救急救命処置とは、処置の対象となる患者が心臓機能停止の状態に、自動体外式除細動器(AED)による除細動、静脈路確保のための輸液、様々な方法による気道確保(ただし、気管内チューブによる気道確保は処置の対象となる患者が心臓機能停止の状態及び呼吸機能停止状態の場合のみ可能)注射器を使用したブドウ糖などの投与、墜落産時の処置である臍帯処置、胎盤処理、新生児の蘇生など産婦人科領域の処置、成人に準ずる、小児科領域の処置など多岐にわたります。
特定の救急救命処置は、医師の指導の下にのみ行われますが、それでも救急救命士が搬送中に医療行為を含む救急救命処置が行えるようになってから、傷病者の救命率は飛躍的に向上しました。
救急隊員の仕事内容を見てみよう
一日のスケジュール
8:30 署員が交代する為に朝礼を行う
9:00 装備の点検や車両の洗車など
10:00 署内で勉強や訓練、ミーティング、イベントがあれば署外へ行く事もある。署内で救急救命法の講習を行う事も多い。昼食準備を行う署員もいる
11:00 昼食 他の職員と一緒に取る。昼食時間は消防署によって異なるが、火災の起きやすい12時は避ける所が多い
13:00 各部隊に分かれて訓練や、装備の点検を行う。救急隊員の場合は、救急車内での現場を想定した訓練などを行う。
16:30 夕食
18:00 入浴やトレーニングを行う
21:00 交代で就寝
ただし、勤務中は24時間体制で救急要請に応じて出場する。
救急要請による現場への出場
119番通報を受けて、現場に急行します。ちなみに、法廷で救急車を含む緊急車両は、出場時には赤信号でも通行が可能な事は有名ですが、スピードは法定速度である時速80kmまでしか出せません。
トリアージを行う
大規模な事故現場や災害現場では、多数の傷病者がいます。一度に医療機関へ搬送できる数には限りがある為、傷病の程度が重く、緊急性の高い傷病者から医療機関へ優先的に運ばなければいけません。
傷病者の傷病の程度を0から3で記したタグを「トリアージ」と呼びます。多数の傷病者の状態を把握し、ひとりひとりにトリアージのタグをつけていきます。
現場から医療機関などへの搬送
現場に到着してから、傷病者の状態を確認しながら医療機関への搬送など、適切な処置を行います。その間も、受け入れ可能な医療機関を探す、救急救命士による救急救命措置などが行われます。
救急法の講習を行う
消防署では、その自治体に住む住民を対象とした救急救命法の講習を行っています。その講習で実際に参加者に応急処置やAEDの使い方指導などの講義を行うのも救急隊員です。救急法の講習は、自治体によって内容が異なりますが、入門編や上級救命法など、多岐にわたって用意されている事も多くなっています。
車両や装備の点検をする
119番通報による救急車の出場要請があれば、すぐに出場しなければいけません。そのために、いつでも救急車を最適な状態にしておく必要があります。
救急車内の装備や資機材に不具合や不足しているものがないか、使うものは適所にあるかなども確認しておきます。特に、出場要請の多い救急車は、救急搬送が終わって消防署に戻ってきたら、ただちに次の出場に備えて再点検を行わなければいけません。
また、消防車と同じく救急車もいつでもきれいな状態にしておきます。洗車をしたり、点検をしたりはもちろん、ガソリンなども入れておきます。
訓練や研修を行う
救急隊員は、救急車の中で実際に現場を想定した訓練を行っています。また、署内で勉強会や、実際に病院などの医療機関に研修へ行く事もあります。
特に、救急隊員が救急救命士の資格を取得する為に、勉強や研修を行うことは多いです。
イベントへの参加など、地域との交流
救急隊員を含む消防士は、地域の交流や防災を目的としたイベントを随時開催しています。救急隊員もイベントに参加し、救急車の展示の案内や、イベントの進行なども行っています。
ちなみに、イベント中に消防車や救急車の要請があった場合には、展示されている車両はもちろん実際に使用している車両ですので、イベント中でもそのまま出場します。
消防署内での他の仕事
デスクワークや電話対応など、他の消防署員と同じ仕事もします。当番制で、昼食や夕食を作る消防署なら、救急隊員でも当然食事の用意もします。
他にも、直接消防署を訪ねてきた人の対応なども行っています。
救急隊員になるには?
地方公務員試験に合格する
救急隊員になるには、まず消防士にならなければいけません。消防士になるためには、地方公務員試験である消防職員採用試験に合格しなければいけません。
消防職員採用試験は、地方公務員試験の専門系(大卒以上の学歴が必要、専門的な分野での能力を持つ人のための試験)・Ⅰ類(大卒以上の学歴が必要)・Ⅱ類(短大卒程度の学力が必要)・Ⅲ類(高卒以上の学力が必要、大卒は受験できない)のいずれかを受験して合格します。
最短で、高校卒業程度で消防士試験に合格はできますが、あらかじめ救急隊員として活躍したいと考えている人は、進路を救急救命士の受験資格が取得できる過程のある大学、短大、専門学校を選び、救急救命士の資格を取得した状態で消防士採用試験に臨むパターンが多くなっています。
救急救命士養成課程は、大学や専門学校、医療系の専門学校うなどがあります。中には、看護師を目指して看護学校に通っていた所、救急隊員に憧れを持ち、看護学校卒業と同時に救急救命士資格を取得し、救急隊員になった人もいます。
地方公務員試験合格後の進路
消防士採用試験である地方公務員試験に合格した後は、それぞれの自治体ごとに半年間、消防学校へ通います。学校という名前が付いていますが、公務員の職務に当たりますので、きちんと給料も貰えます。
半年間の消防学校生活が終われば、配属される消防署が決まり、消防署での勤務が始まります。最初から救急隊員として配属される事はほぼありませんが、消防士でも救急車の運転はできますので、救急車に同乗して現場でサポートを行う事もあります。
救急隊員としての配属が決まれば、その後再び消防学校へ行き消防標準化研修を受けます。そして、救急隊員として配属されます。
救急隊員が救急救命士になるには?
日本の救急隊には、3人に1人は救急救命士を配置するように努力されています。前述の通り、救急隊員を目指して地方公務員試験を受けて消防士になる人は、あらかじめ救急救命士の受験資格が得られる過程のある学校に進学し、救急救命士資格を持っている状態で公務員試験に臨む事も少なくありません。そのため、救急隊員となる前に、救急救命士の資格を持っている人も多くなりました。
一方で、救急救命士資格を持っていない救急隊員の場合は、5年以上の実務経験を積んだうえで、救急救命士養成所で1年以上、救急救命士養成課程を受ければ、救急救命士試験の受験資格を得られます。その後、救急救命士試験に合格すれば、救急救命士資格を得る事ができます。
救急隊員になるために、求められる事とは?
強靭な体力と自己管理
消防署の中でも、一番出場回数が多いのが救急車です。救急隊員もそれだけ出場の機会が多い為、交代制の勤務とはいえ、消防署に勤務中はほとんど寝られない、という事も少なくありません。
救急隊員は、不規則な勤務にも耐えられる体力が必要になります。また、自分が風邪などを引いて病気になってしまうと、感染症予防のために救急車に乗る事ができなくなってしまいますので、周りの人に迷惑をかけてしまいます。体力だけでなく、病気をしないための体づくりや、自己管理も必要になります。
精神的にも負担の多い救急隊員だからこそ、強い体つくりは必須になります。
冷静な判断力
大規模な事故や災害現場では、迅速かつ正確な処置が必要になります。ショッキングな災害現場でも、冷静な判断ができて、職務を全うできる判断力が必要になります。
また、救急車を要請する人や災害・事故に合った人はパニックになってしまっていたり、精神的に不安定な状態になってしまっていたりする事も多いです。酔っぱらって道で倒れていた人を見つけて救急車を呼ばれ、その酔っぱらっていた人を搬送しようとしたところ、救急隊が殴られて怪我をしてしまう事もあります。それでも、冷静、公正な判断が必要になるのです。
場合によっては、相手を落ち着かせる、こちらを信頼してもらうために声かけや、対応をする必要もあります。
救急隊員のやりがいとは?
体力も精神力も必要な救急隊員はとても大変な仕事です。だからこそ、やりがいもあります。
一番やりがいを感じるのは、助けを求めている人へ適切な処置ができた時や、人に感謝された時と答える救急隊員も多いです。また、実際に活躍する救急隊員や救急車の姿に憧れを持ち、子供からも人気の高い職業となっています。
救急隊員も含めて、消防士は倍率も高く人気の職業となっています。なるため、そしてなってからも大変な事は沢山ありますが、その分だけ大きなやりがいや経験が待っています。
(文:千谷 麻理子)
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