地域医療を考える – 医師の偏在解消策を検討することこそが重要

「刑務官」など、矯正職員歴37年の元・国家公務員、小柴龍太郎さんのコラム「医師の偏在解消策を検討することこそが重要」(平成24年4月28日)です。

今回は、「地域医療を担う人材育成」について、公務員時代の刑務所の医師不足について触れています。


はじめに – 刑務所は医師不足である

刑務所にも医師は必要です。受刑者がけがや病気をしたときはもちろん、受刑者も定期的な健康診断を受けなければなりません。また、受刑者が暴れて保護室に入った場合も、医師によるチェックを受けなければいけません。

しかし、刑務所で働いてくれる医師はあまり多くなく、常に人手不足の状態です。なぜ人手不足になるのか、詳しくは以下の記事をご参考下さい。

【塀の中のお医者さん】刑務所勤務医が不足する意外な理由

刑務所に勤務する公務員の医師がいるというのはご存知でしょうか?受刑者が怪我をしたり病気になった時、刑務官にとっても頼みの綱である医師たち。刑務所にとって必要不可欠な存在ですが、その刑務所のお医者さんは不足傾向にあるようです。その理由とは意外なところにもありました。

医師が多い地域と少ない地域

刑務所で働く医師の数が少ない、と述べましたが、そもそも日本の医師の数は、世界的に見て多いのでしょうか、それとも少ないのでしょうか。

厚生労働省が2015年に発表した、「OECD加盟国の人口1,000人当たり臨床医数」をみてみると、日本の人口1,000人当たりの医師数は2.3人で、OECD加盟国の中では26位です。

OECD単純平均が3.2人、OECD加重平均が2.8人なので、日本は単純平均・加重平均の両方を下回っていることになります。つまり、日本はそもそも、「医師の数が多い」とはいえないのです。

そして日本には、「医師の数が少ない」以外に、もう一つ問題があります。それは、地域によって医師の数に偏りがある、ということです。

▼参考URL:OECD加盟国の人口1,000人当たり臨床医数 OECD Health Statistics 2015
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000138747.pdf

より重要なのは医師が偏って地域にいることに対する問題解決

河北新報4月28日の一面に「地域医療を担う人材育成」という記事が掲載されました。

近年の医師不足を解消するための策として、「医学部を新設すべし」という考え方と、医学部の定員を増やせば医師が増える、医師が足りる、という2つの考え方を紹介していました。


しかし、より重要なのは、「医師の偏在の問題」を解決することではないでしょうか。

医師の総数が増えても、おそらくその多くは都会に集まり、東北や過疎地・被災地などには来ません。これをどうするのかという具体策を検討すべきなのです。

私は、全国各地の刑務所などで勤務しましたが、刑務所の医師不足は深刻でした。刑務所は、過疎地と同じように、医師に嫌われる場所なのです。医学部や医師会に何度もお願いに行きましたが、「刑務所で勤務したがる医師はいない」と言われることも多かったです。

医師の自由意思を尊重するのはわかります。しかしその結果医療過疎を生むならば、もはや勤務先や開業地をコントロールするしかないのではないでしょうか。

外国には既にその例があります。刑務所の医師不足は深刻であり、今後、ぜひ検討してほしい問題です。

まとめ – 編集部より

刑務所の医師不足を解消するのは、簡単なことではありません。医師には、どこで働くか、それを自分で決める権利があるからです。

だからといって、刑務所の医師不足問題を、そのまま放置するわけにもいきません。「自分は受刑者ではないから関係ない」と考える人もいると思いますが、刑務所の医師不足と過疎地の医師不足は、「共に医師が働きたがらない場所である」という意味では、似たような問題なのです。

自分の住む地域がいつ医師不足になるか、誰にもわかりません。刑務官や刑務官を目指す人だけでなく、多くの人に関心を持ってもらいたい問題です。

(文:小柴龍太郎 平成24年4月28日)
(更新:2020年5月18日)

本記事は、2017年4月8日時点調査または公開された情報です。
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