【海外の課題】アメリカの人種差別問題 ー 黒人に対して向けられる差別

日米安全保障条約を結び、いわゆる日米同盟として現在の日本ともっとも政治的結びつき深い国「アメリカ合衆国」。今回は、アメリカの社会問題である「人種差別問題」について取り上げて解説します。実際にアメリカに住んでいる日本人にレポートしてもらいました。


現在、人口約3億1000万人のアメリカ。先進国の中では数少ない人口増加国であるがために、この先の繁栄も確実に約束されています。この世界有数の先進大国は、その繁栄の陰でドラッグ汚染国家と名付けられています。1980年代以降、ナンシー・レーガン大統領夫人も先頭に立ち、取り組んできた麻薬撲滅のための「麻薬戦争」は、今も殆ど何の戦果もなく完全に負け戦の様相を呈しています。

今年、2017年7月9日に白人至上主義団体である秘密結社、Ku Klux Klan(クー・クラックス・クラン、略称KKK)が予定していた集会を結行しました。その時にKKKのメンバーの一人がインタビューに答えて「黒人がいなくなれば、ドラッグもなくなるだろう」と述べたコメントが印象的でした。

アメリカの人種差別問題の核心的な部分は、やはりこのKKKのメンバーのコメントにあるように、黒人に対して向けられている差別です。今回は、その黒人に対する人種差別に焦点を当てて米国の人種差別問題を考えてみました。

プロフットボール界で活躍する黒人選手たち!

アメリカにはアメリカンフットボール、野球、バスケットボールとアイスホッケーの4大プロスポーツがあります。その中で最も人気のあるのがアメリカンフットボールです。フットボールのレギュラーシーズンは9月から12月にかけての17週で、各チームが1週間に1試合、合計16試合を戦います。フットボールは、激しいコンタクトスポーツなので試合数が少なく、けがで離脱する選手も試合ごとに次々と出てきます。

主力選手にけが人が出ると、戦力が著しく低下してしまい、後半戦には番狂わせが起こる試合が続出します。つまり、特に後半戦では勝敗を予想することが非常に難しくなるのです。極端に試合数が少ないことと勝敗を予想するのが極めて難しいということで、スポーツ賭博としてアメリカンフットボールに集まる掛け金は、他の4大プロスポーツの掛け金の合計よりも上回ります。

私は、高校時代にアメリカンフットボールの選手だったので、他のスポーツよりもフットボールに関心があります。アメリカにいた時は、友人とビールを片手にスポーツバーの巨大スクリーンで、その迫力のある肉弾戦をよく観戦したものです。レギュラーシーズンが終わり年末から新年になると、毎年、巷の話題はフットボール一色になり、全米1位の座を決めるスパーボウルの出場をかけたポストシーズン、11試合が行われます。

アメリカンフットボールの試合の開催日を簡単に説明すると、日曜日に複数の試合が行われるのと、「マンデー・ナイト・フットボール」と呼ばれる月曜の夜一試合だけ行われる全米放送の試合があります。そして、試合の前に放送される「NFL TODAY」という番組では解説者が試合の展開や勝敗の予想などを詳しく説明してくれます。この「NFL TODAY」で人気を博していたのは、ジミー・ザ・グリークと呼ばれた解説者でした。

普通、フットボールの解説者は、過去に素晴らしい活躍をした選手でコメンテーターとしてもウイットの効いた解説ができる人達です。特に「NFL TODAY」という番組では最も人気のあるコメンテーターが解説を担当することになります。その任を1988年に解任されるまで与えられていたのがジミー・ザ・グリークでしたが、彼は選手でもコーチでもありませんでした。

彼は、プロのギャンブラーだったのです。ギャンブラーだからこそできる冷静な判断、あくまでも勝敗に注目しながらの解説、それが彼の売りです。番組で初めて彼の解説を聞いたときには非常に感心しました。彼の解説が他の解説者に比べて論理的で分かりやすい語り口だったからです。だから「NFL TODAY」でジミーと人気アナウンサーが進行を担当する冗談をふんだんに交えた掛け合い解説には誰もが夢中になるのでした。

アメリカンタブー

「NFL TODAY」の人気コメンテーターのジミー・ザ・グリークが1988年の1月に問題を起こしてしまいます。それは、偉大な黒人の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師を記念した1月中旬のアメリカの祝日に述べたコメントが物議を醸し出したのです。当時、そのコメントを聞いた私は、やはりジミーのコメントには一理あるなと思うぐらいで、それが人種差別に関わる問題を起こすなどとは全く予想していませんでした。

アメリカンフットボールの選手たちの中で黒人選手が占める割合は約65%で白人選手が約30%だと言われています。つまり、黒人選手がプロフットボール界を盛り上げている中心的な存在なのです。そして、ジミーは、この事実を強調して偉大な黒人の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師の祝日に黒人アスリートを讃えるコメントを述べたと、私は、今でも思っています。


ジミーのコメントは、「黒人選手は高く飛べるし速く走れる、この素晴らしい身体能力の原因はアメリカの奴隷制度のころにまで遡る。奴隷制度のもとで奴隷の主人たちは大きくて健康な黒人男性と同じく大きくて健康な黒人女性から大きな黒人の子供を得ることができた。その為に黒人のアスリートは身体能力が優れているのだ」と、要約できます。

確かに、これを聞くと奴隷制度に触れている箇所もあるので、差別発言ととられる人もいるのかもしれません。しかし、これは、歴史的な事実に基づくジミーの持論だと思うのです。

スポーツの世界ではここぞという重要な場面で結果を出さなければなりません。そんな場面で素晴らしいパフォーマンスができるのも身体能力が優れているからです。ジミーはコメントの前に「黒人アスリートは素晴らしい」と尊敬の念からだと思われる賛辞を前置きしています。又、ジミーと共に働いた経験のある黒人アスリートもジミーは、黒人を差別するような人ではないと擁護しています。

イギリスからヴァージニアに入植した1620年ごろから南北戦争の終戦の1865年にわたり認められていた約250年間のアメリカの奴隷制度。その間の様々な厳しい奴隷に対する仕打ちは記録されています。しかし、その奴隷制度に関する事実に公の場で触れることは、アメリカのタブーなのかもしれません。言論の自由が厳守され、個人の行動の自由が尊重されているアメリカにも、こんなタブーがあるのだと非常に感心した事件でした。

「人類」とは?「人種」とは?

最近の人類学の通説では、人類の祖先はアフリカの一地方から全世界に拡散してきたということになっています。そして、その通説は20世紀後半から唱えられていたネグロイド、コーカソイド、モンゴロイドとオーストラロイドの「4大人種」という分類の枝分かれの変遷もDNAの解析で明確にしています。

つまり、人類はすべて同一種なのです。確かに拡散の途上で「4大人種」の特徴を持つようになりましたが、元をたどれば、「4大人種」は、アフリカの一地方に帰結することになるのです。このように人類の発生と拡散の事実が明らかになり、全ての人類が同一種であるということが判明した現在でも、地球上にはまだまだ人種差別は存在します。

人種という概念が生まれた原因は、人類が地球上に拡散していく過程で明白な外見上の相違点が出てきたこと、そして、その外見上の相違点を認識する人間の認知能力が非常に高いということにあるそうです。私は、その高い認知能力は、自分の安全を敵から守るために人間に本能的に備わっているものだと思っています。同じ日本人同士でも、初対面では外見上の相違点を必要以上に認識しようとすることからでも分かります。

警察官と黒人男性との軋轢が示す差別問題!

ニューヨークのタイムズスクエアーの近くに住んでいた時、ニューヨーク市警の警官の黒人男性に対するきつい仕打ちに驚かせることがよくありました。一度、目の前で見たのは、騎馬警官の黒人男性に対する暴力でした。騎馬警官が乗る馬はかなり大きな馬で、非常に威圧的です。その上、馬は、自分の胴を上手く使い、容疑者を壁に押し当て動けなくするように訓練されています。

その時、被害者の黒人男性が何か違反になるようなことをしていたとは思いませんでしたが、馬上の警官がその男性の頭を警棒で思い切り殴りつけたのです。血こそ出ませんでしたが、殴られた部分はみるみるうちに腫れあがり、男性は、路上にうずくまりました。私は、それは間違いなく警官の暴力だったと感じました。ニューヨーク市警の警官の黒人男性に対する感情には、激しいものがあると痛感した事件でした。

私のアパートの近くには、ビリヤード・パーラーがあり、よく友人と玉突きに行きました。そこで玉突きをしていると、10分に一度は友達ではないのですが、黒人のお兄さんたちが挨拶に来られます。ついでにラジカセ、カメラ、時計やウオークマンなどを見せられるのですが、私たちは、いつも「ノーサンキュウ」を連発していました。

映画「フレンチ・コネクション」のバーのシーンでのニューヨーク市警の刑事の手荒い職務尋問もタイムズスクエアー付近だったはずです。盗品の交換や販売、それにマリワナやその他の薬物の販売など、タイムズスクエアー付近では日常茶飯事のことです。このような状況で、丸腰の黒人男性に対して過剰に反応した白人警察官が発砲してしまう、そんな事件がアメリカでは続々と起こっているのです。

いつまでも続く米国の人種問題!

タイムズスクエアーの近くに住んでいた時には黒人テナントは少ないながら何人かいました。その人たちは、マンハッタンのミッドタウンで働くエリート会社員です。それがクイーンズのユダヤ系アメリカ人の街、フォーレストヒルズに移り住むと、黒人のテナントはもとより、街を通りすぎる黒人の人たちも見たことはありませんでした。街には、黒人の人たちが近づけない暗黙の雰囲気があるのでしょう。

同じくニューヨークのクイーンズ地区、イタリア系アメリカ人の居住地、ハワードビーチでは、1986年とかなり昔ですが、深夜にその居住区に迷い込んだ黒人男性3人が白人住民に追い回され、高速道路に逃げた黒人男性1人が車にはねられ死亡する事件が起こっています。

先ほどのフォーレストヒルズという街は、どちらかと言うとユダヤ系アメリカ人の退職者が多い高齢者の街ですが、ハワードビーチは、若いイタリア系アメリカ人もたくさんいる街です。3人の黒人男性を取り囲んで追い回したのも若者でした。そして、イタリア系アメリカ人の黒人に対する険悪感は激しいものだと聞いています。

ここで、黒人に対する差別の根源を考えてみると、やはり肌の色に行きつく気がします。ネグロイド、コーカソイド、モンゴロイドとオーストラロイドの「4大人種」の中でもネグロイドは一番黒い肌を持ちます。アメリカの奴隷制の時代には、それほど色が黒くない黒人奴隷たちは、主人の家の中で比較的楽な家事や掃除を担当させられていたそうです。色の黒い黒人奴隷たちは、家畜の様に屋外で働かされていたというのに。


明白な外見上の相違点で、やはり肌の色は、ダイレクトにイメージを作り上げてしまいます。そして、その外見上の相違点を認識する人間の高い認知能力が人種差別に拍車をかけて差別そのものを大きく助長しているのです。

「米国の人種差別問題」のまとめ!

日本人は、差別と無縁だとは言えません。部落民に対する差別や在日韓国人、在日朝鮮人に対する差別には長い歴史があります。しかし、これらの差別は、人種差別ではありません。同じモンゴロイドという同一人種内での差別です。

アメリカでもコーカソイドのユダヤ系やイタリア系アメリカ人に対する差別がありました。どちらかと言えば、遅れてアメリカに移民してきた人たちは、差別に甘んじなくてはならなかったのです。

それをよく表しているのが、大都市ニューヨーク、シカゴやサンフランシスコです。そこでは、リトルイタリーと呼ばれるイタリア人街のすぐ近くにチャイナタウンが所在しています。どちらの都会の下町にも、アメリカに少し遅れて移民してきた人たちが落ち着きました。当時の都会の下町は居住条件が良いとは言えない場所だったはずです。しかし、移民たちは、そこで移民生活のスタートを始めなければならなかったのです。

黒人は、人類の発生地であるアフリカからアメリカに奴隷として強制連行されて過酷な労働を強いられました。最初は、人間だとは考えられていなかったようです。それは、間違いなく他の異人種に外見上の違いで大きな衝撃を与える肌の色の違いに深い原因があるのだと思います。そして不運にも、その肌の色の違いに起因する差別は、まだまだ終わるような気配を感じさせることなく現在も続いています。

本記事は、2017年10月23日時点調査または公開された情報です。
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