理系の力で国家を支える!「技術系国家公務員」について

公務員というと文系出身者が多く、オフィスワーク中心というイメージが強いかと思いますが、理系出身者がほとんどを占める「技術系国家公務員」という公務員の職区分があります。今回は、その「技術系国家公務員」とはどのような仕事なのか解説します。


技術系国家公務員とは?

「技術系国家公務員」とは、工学、化学などの理系分野の専門知識を活かして国の行政業務にあたる専門的な国家公務員です。

近年の科学技術の発展にはめざましいものがあり、国民の生活を豊かにするためにも科学技術の利用や応用は不可欠なものと言えます。その一方で、科学技術は更に複雑化、高度化しており、専門で学んだ人でないとなかなか理解が難しくなっています。そこで科学技術を行政に活かすために、公務員の中にも専門的な知識を持った人材が必要とされ、採用されているのです。

技術系国家公務員は、理工農学系の様々な分野に応じて総合職では6区分、一般職では9区分の試験が行われ、それぞれの試験の合格者が、各省庁に就職していきます。

技術系国家公務員の総合職と一般職の違いとは?

技術系国家公務員の「総合職」は、専門的な知識を活かして国の設計を担うジェネラリストとしての活躍が期待されています。つまり、技術系国家公務員の中でも、幅広い知識をもとに管理的、統括的に国全体の発展に関わる業務にあたります。

それに対して「一般職」は現場の最前線を担うスペシャリストとしての活躍が期待されています。特定の分野に特化し、その分野を極める“職人”として、国民の生活の発展に貢献していきます。

総合職も一般職も活躍の仕方は異なりますが、専門的な知識を活かして国内外で活躍しています。

また、採用試験の区分が異なり、総合職試験では6区分に分かれていますが、一般職試験では更に細かい9区分での試験が行われ、各分野の専門的技術・知識を持っているかが問われます。

日本の未来をつくる行政リーダー「国家公務員総合職」になるには

国家公務員総合職とは、国家総合職とも略され、過去には、国家I種という名称で、俗にキャリア官僚と呼ばれています。本ページでは、国家公務員総合職とは何かの説明とともに、その職になるための試験(主に新規採用)についてなどを解説します。

技術系国家公務員の試験区分、主な採用先、具体的な仕事例

ここでは技術系国家公務員の試験区分と、主な採用先や具体的な業務例について簡単にみていきましょう。総合職の試験区分に合わせ、6項目に分けて説明していきます。

工学:土木、建築、機械、電気・電子・情報

技術系国家公務員の「工学」区分は、一般職の試験では更に「土木」「建築」「機械」「電気・電子・情報」の4つの区分に分かれます。


【主な採用先と業務内容】

国土交通省では、道路や建築物の建設、整備を用地取得や、具体的にどのように整備していくのかなどの技術的な計画、サポート業務を担当します。道路や建物だけでなく、最近では海外のクルーズ船を日本に招致することが課題となっており、クルーズ船が寄港できるだけの港の選定や整備、海外への招致活動なども業務のひとつです。また、度々発生する自然災害に対する防災と、発生後の復旧対応を担うこともあります。

文部科学省では、世界15カ国との共同プロジェクト、国際宇宙ステーション(ISS)計画に携わり、宇宙飛行士の技術的なサポートなどの業務もあります。

警察庁では、犯罪捜査に関する工学的研究や、交通事故防止を目指した研究なども行なっています。例えば、技術系国家公務員によって研究、運用されているITS(高度道路交通システム)という技術では、赤信号時に歩行者がなるべく道路上に残らないようにするため、画像処理を用いて歩行者用信号を延長しているそうです。

このほかにも、基地など防衛施設や、防衛装備品のメンテナンスを担当する防衛省の業務や、厚生労働省、財務省、環境省など、あらゆる省庁での採用があります。

数理科学・物理・地球科学:物理

技術系国家公務員の「数理科学・物理・地球科学」区分は、総合職では「数理科学・物理・地球科学」という名称で、一般職では「物理」という名称でどちらも1区分で試験が行われます。

【主な採用先と業務内容】

総務省では、国勢調査などの統計業務などを担当します。国の実情を知る統計無くしては、どの行政施策も成り立たないと言えるので、調査の企画や設計、集計作業などの具体的な運用を技術的に支えるとても重要な業務だといえます。また、航空機に搭載したレーダーシステムによって、火山活動を解析する、などのプロジェクトもあり、物理区分のスペシャリストが活躍しています。

警察庁では犯罪捜査のための技術開発や、交通事故の鑑定研究などを担当し、例えば実車衝突実験を行い検証、分析するなどの業務もあります。

文部科学省では、AI技術の開発が急務になっています。スーパーコンピュータ「京」の後継機となる世界トップレベルのコンピュータを開発するプロジェクトに参加できる可能性もあります。

そのほか、厚生労働省では平均寿命の算出や合計特殊出生率の算出に関わったり、気象庁では気象衛星「ひまわり」の運用に携わったり、経済産業省では約60年ぶりの電力大改革に関わるなど、あらゆる省庁で国民の生活に身近なシステムの基礎的な部分を支えています。

化学・生物・薬学:化学

技術系国家公務員の総合職の「化学・生物・薬学」区分は、一般職では「化学」区分として、それぞれ1区分で試験が行われます。

【主な採用先と業務内容】

経済産業省では、2011年の東日本大震災以降注目が集まる、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を利用した導入支援業務を扱っており、その制度の設計には、化学の専門的な知識が欠かせません。

特許庁では特許審査官から特許審判官として活躍する道があり、特許の重みが大きいとされる医薬品の審判を担うこともあります。


厚生労働省では、iPS細胞を用いた再生医療技術が世界に先駆けて日本で実用化されるよう研究が行われており、その研究支援やガイドラインの作成などの業務があります。

また、厚生労働省で食品の安全に関する研究に携わったり、環境省で世界の公害問題に対応すべく、国内の公害への対応経験をもとに国際会議をリードしていくといった業務もあり、化学的な知識によって国内外の課題に取り組んでいます。

農業科学・水産:農学

技術系国家公務員の総合職の「農業科学・水産」区分は、一般職では「農学」区分として、どちらも1区分での試験が行われます

【主な採用先と業務内容】

農林水産省に採用されると、農産物の生産振興や新規就農の促進化、また近年注目されている農業などの6次産業化などに携わり、国民の「食」にまつわる課題に取り組むことになります。その中でも、水産庁ではうなぎの養殖研究が進められ、食料資源としてのうなぎの安定確保というユニークな仕事もあります。

環境省では、国立公園などで自然環境の保全や生態系の保護、再生などの業務を通して、利用者が快適に利用できるような施設整備を行う業務もあります。

また国税庁で酒税に関する施策の企画に携わる場合もあり、適正な税制度のために理化学分析や専門知識を活かして参画している技術系国家公務員もいます。

森林・自然環境:林学

技術系国家公務員の総合職の「森林・自然環境」区分は、一般職では「林学」区分で試験が行われます。

【主な採用先と業務内容】

農林水産省では国有林事業に携わり、国内最大の森林保有者として、林業の経営能力の向上を図るなどの業務があります。また、国有林を子供たちの教育の場として活用することを目指し、森林環境教育の推進を担当する場合もあります。

環境省では絶滅危惧種の捕獲や保護増殖、研究活動などが行われているほか、増えすぎてしまった動物による生活被害や農林水産業への被害対策も担当しています。

環境省では農業科学区分と同様、国立公園などでの勤務があり、施設系レンジャー(自然保護官)として全国各地の現場で多くの技術系国家公務員が活躍しています。

農業農村工学:農業農村工学

技術系国家公務員の「農業農村工学」は総合職も一般職も同じ名称で試験が行われています。

【主な採用先と業務内容】

農林水産省が代表的な採用先です。全国各地にある農業水利事業の現場で、農地の水はけを改良するなどの農地区画整備を行い、高収益な農業の実現へ導きます。全国に現場があるため、転勤の多い区分です。ひとつひとつの現場を改良していくことで、国全体の農業の推進を図ります。

技術系国家公務員になるには?

技術系国家公務員の総合職になるには、まず該当の職の国家公務員試験の「基礎能力試験」と「専門試験」からなる第1次試験を受験します。第1次試験の合格者は第2次試験に進みます。第2次試験は「筆記試験」と「人物試験」が別日程で行われます。筆記試験では、大卒者のみ「政策論文試験」があり、「人物試験」では大学院卒者のみ「政策課題討議試験」があります。

それぞれの第2次試験の試験結果をを総合的に判断し、最終的に合格者が決まります。その後、合格者は「官庁訪問」で希望する省庁の採用試験を受け、内定をもらってはじめて、就職先が決まります。

技術系国家公務員の一般職になるには、総合職と同様に「基礎能力試験」と「専門試験」からなる第1次試験を受験します。その後、第2次試験に進みますが、総合職とは異なり、一般職では「人物試験」のみが行われます。その後は総合職と同じように、「官庁訪問」で各省庁の面接を受け、採用内定を目指します。

気になる「技術系国家公務員」の給料や手当など

技術系国家公務員総合職の大学院卒試験で採用された場合の初任給は25,8980円、大卒程度試験で採用された場合の初任給は22,6940円です。


技術系国家公務員一般職の大卒程度試験で採用された場合の初任給は22,0140円で、総合職が少し高めに設定されています。

また、総合職、一般職ともに諸手当として、扶養手当、通勤手当、住居手当や超過勤務手当などが支給され、ボーナスや退職金も規定にそって支給されます。

まとめ

このページでは、「技術系国家公務員」とはどのような仕事なのか、その仕事内容や、採用の流れなどを簡単に確認しました。

大きくは「総合職」と「一般職」に分かれる技術系国家公務員ですが、どちらもそれまで理系分野の勉強で身につけた専門知識をもとに、国を支えるという意味では、勉強してきたことが人のためになる、やりがいのある仕事だと言えます。

特定の現場の第一線で働きたいと考える人は「一般職」、専門知識を活かして得意分野の総合的な管理をして国を支えていきたいと考える人は「総合職」が向いているかもしれません。

もちろん、ここで紹介した主な業務内容は、すべての技術系国家公務員の業務の一部ですので、気になる区分や省庁があったという人は、自身で詳しい業務内容について調べ、理解を深めてそれぞれの試験にのぞむことをおすすめします。

本記事は、2017年12月9日時点調査または公開された情報です。
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