潜在労働力の発掘なるか?「氷河期世代の現状」と「働き方改革」について

将来の労働力確保のために多彩で柔軟な働き方、そして働きやすい社会を実現するための政策として掲げられているのが働き方改革です。働き方改革の一環として、就職氷河期を経験した氷河期世代に眠る労働力の発掘があります。氷河期世代を巡る問題と、働き方改革での取り組みについて取り上げています。

働き方改革についての簡単な説明

将来の労働力確保が目的の政策

テレビやインターネットなどのメディアで目や耳にすることも多い働き方改革ですが、この目的は将来の日本の労働力の確保です。労働生産性の確保、女性や高齢者の社会参加、出生率の向上を3本柱に、50年後も日本の総人口1億人をキープし、全ての日本国民がどんな場所でもその人らしく活躍できる「一億総活躍社会」を実現する為の政策として、働き方改革が提唱されています。

働き方改革は最大の目的である将来の労働力の確保のために、現在現場で働く人の柔軟で多様な働き方、潜在的に眠っている労働力の発掘するために、妊娠出産介護などで離職した人の復職、定年退職したスキルやキャリアを持つまだまだ働ける高齢者、そして就職氷河期世代の適所への就職や社会復帰を目的とした働き方や取り組みを取り上げています。

本項では、この中でも就職氷河期世代の現状と、働き方世代における就職氷河期世代への取り組みについて解説します。

氷河期世代の定義と現状について

氷河期世代とは1995年から2005年を指す

少子高齢化の影響による労働人口の減少が将来危惧されており、今の働き世代の効率的な働き方による生産性の向上、そして潜在的な労働力の発掘の為に打ち出されたのが働き方改革です。そして、潜在的な労働力の中でも今働き手としてすぐに社会で活躍できる可能性を一番持っているのが、現在非正規やブラック企業でやむを得ず働く、もしくは就職ができずにずっと引きこもり状態になっている就職氷河期を経験した人達です。

就職氷河期とはバブル経済崩壊後の1995年から2005年に新卒採用に該当する世代を指します。高卒、大卒、専門卒などで新卒就職活動をしても、求人自体が少ないため新卒就職に失敗してしまった人の多い悲劇の世代と言われています。

1995年から有効求人倍率が落ち始め、1997年にはいったん回復傾向を見せますが2000年には氷河期のピークを迎えて、有効求人倍率はなんと1を割りました。

本人の努力が足りない、と言われた世代

氷河期世代の中でも2000年から2004年の世代は特に氷河期のあおりを一番受けた世代と言っても過言ではありません。しかも、この世代はゆとり世代の少し前にあたり、学校や部活などの教育現場を含めて、日常生活の中では努力や根性などがとにかく大切と言われて育った世代でもあります。

氷河期世代が通った当時の教育現場でも、今となっては体罰と訴えられる事も当たり前に行われていたり、自分の望む結果が得られなかった時には「努力不足」の烙印を押されたりした世代です。

努力に努力を重ねた結果に難関大学に合格し、いざ新卒採用のために就職活動を求人がない。少ない求人の中でも就職活動を行った結果、新卒採用に失敗したり、本当にやりたかった仕事や企業を諦めて別の企業へやむを得ず就職したり、その結果ミスマッチを起こして早期退職をしたりします。それでも、「世の中のせいにするな、お前の努力不足だ」と言われた世代なのです。

氷河期世代の現状を見てみよう

非正規で働き続ける人も多い

新卒での就職に失敗した結果、そのままアルバイトや派遣社員などの非正規雇用で働くフリーターになる人も氷河期世代は多くなっています。また、アルバイトや派遣社員として働きながら就職活動を続けても、まだまだ当時求人自体は少なく、かつ新卒よりも既卒採用は難しくなるので、そのまま現在まで非正規で働き続ける人が多くなっています。

非正規の場合、正規雇用に比べて安定性にも欠けますし、生涯賃金も低くなります。しかも正社員と同じ仕事をしているのにずっとアルバイトや派遣社員を続け、自分自身のキャリアとして積めない能力の高い非正規雇用の氷河期世代も多くなっているのです。

非正規となった氷河期世代が増えた2005年ごろには、日雇い派遣労働でその日の生活費を稼ぎ、ネットカフェで寝泊まりする「ネットカフェ難民」も増えて社会問題となりました。

ブラック企業で働く人も多い

長時間労働や休日出勤の強要しかも残業代は支給されない、上司や先輩からのパワハラやモラハラ、過重なノルマや激務が課せられるなど、劣悪な職場環境下のいわゆるブラック企業で働く人口も、氷河期世代では多くなっています。

不景気の影響で経営状態が悪化した企業は、新卒採用を減らすかストップしたために1995年から2005年は就職氷河期となりました。一方で既に企業で働いている人材も削るために、積極的なリストラや配置転換なども行われていました。人件費が削られた企業では限られた人材で今までの業務を回さなければいけなくなるので、従業員への負担は大きくなり、結果劣悪な労働環境下での業務をせざるを得なくなり、ブラック企業が増えていったといわれています。

その結果、就職氷河期世代が就職や転職に成功して正社員の座を射止めたとしても、ブラック企業だったという事も多いのです。それでも、限られた正社員の立場を手放すわけにはいかず、今でもブラック企業で働き続けている氷河期世代も多いのです。

うつ病などになり、引きこもりやニートとなる事も

全く外出せずに自室や自宅にこもったままの引きこもりや、定職や学業を行わず無職状態かつ自宅で両親の世話になるニートも、実は氷河期世代が多く該当しています。

かつては学校でいじめなど不当な扱いを受けたり、環境に適応できなかったりなどで不登校になり、その延長として引きこもりやニートになる人が多くなっていました。ですので引きこもりやニートと言えば、10代から20代後半までの若年層がイメージされがちです。

ところが氷河期世代の現在30代後半から40代後半の世代でも、引きこもりやニートの割合が高くなっているのです。その理由も就職氷河期。新卒で就職できなかったり早期退職をしてしまったりする新卒就職の失敗や、その後の就職活動がうまくいかずに定職に就けない、せっかく得た定職もブラック企業で過酷な労働を課せられる経験もする人も多いです。

そして、氷河期世代は、前述の通り本人の努力や根性が大切と教えられた世代でもあります。度重なる就職や転職の失敗、ブラック企業での勤務に「自分の努力が足りない」「自分はだめな奴だ」とどんどん本人が追い込まれ、結果うつ病などを発症しそのまま引きこもりやニートとなる事も少なくないのです。

実際に氷河期世代のピークに該当する2000年以降からニートや引きこもりが増加し、当時の社会問題になりました。

パラサイトシングルの割合が高い

パラサイトシングルとは、家を出ずにそのまま実家の両親の世話になりながら住み続ける独身者の事です。

氷河期世代では、前述の通り新卒就職に失敗、もしくは新卒就職後のミスマッチによる早期退職後の転職失敗などにより、非正規で働き続ける人も多いので正規雇用者よりも賃金や待遇面では到底及ばず、自活も難しくなります。その結果、実家の両親の元から出ずに結婚も諦め、非正規で働き続けパラサイトシングルとなる人も多いのです。

また、引きこもりやニートとなった氷河期世代も当然パラサイトシングルに含まれます。既に氷河期世代の親は60代後半以降で年金生活を送っている人も多くなっています。今まで親の収入で実家暮らしをしていたパラサイトシングルのいる世帯では、親も年金になり子も非正規もしくは無職の為世帯収入が少なく、親子共倒れが懸念されています。

氷河期世代の中では、本人だけでなく親世代や世帯全体として問題を抱えていることも珍しくありません。

出生率の低下にも繋がっている

少子高齢化の原因のひとつに出生率の低下が挙げられますが、この出生率低下の要因にも氷河期世代は影響しています。

非正規やブラック企業の為に給料が少ない、生活が安定していない、うつ病などを患っている、などの理由から将来家族を養う自信がないので結婚を諦める、もしくは結婚をしても子供を持たない氷河期世代も多くなっており、結果出生率の低下の原因ともなっているのです。

氷河期世代を救うための働き方改革について

氷河期世代は今企業で一番欲しい年代

氷河期世代に該当するのは、現在の30代後半から40代後半までの働き盛りと言われている世代です。ですので、氷河期世代を発掘すれば日本の将来を担う大きな労働力の確保が期待できます。

働き方改革における、氷河期世代への取り組みについて見てみましょう。

「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」にて氷河期世代への取り組みが

働き方改革実行計画は働く人の立場や労働現場における問題ごとに1~13の項目に分かれ、それぞれどの様な働き方や取り組みが推奨されるかがまとめられています。

氷河期世代への取り組みとしては、6項の「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」内の(3)就職氷河期世代や若者の活躍に向けた支援・環境整備にて、該当する取り組みが明記されています。

参考:
内閣府 働き方改革実行計画
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf

▼35歳以上のフリーターなどへの正社員化の推進
氷河期世代を含む現在35歳以上で離職や転職を繰り返す、または非正規雇用でしか働いたことがなくキャリア育成ができない人に対して、正社員化の推進の為の取り組みを明記しています。

正社員化の推進では、まず「同一労働同一賃金制度の施行を通じて均等・均衡な教育機会の提供を図る」とあります。同一労働同一賃金制度とは、職種間で賃金格差を是正する取り組みで、例えば同じ企業内で働く正社員と派遣社員、パートやアルバイト従業員全てが同じ仕事をしている場合、企業は従業員の雇用形態に関わらず同じ賃金を支払うことになる制度です。

この同一労働同一賃金制度が導入されれば、非正規で働く氷河期世代の賃金の向上と正社員登用へのチャンスが広がる事になります。正社員と同じ仕事をしているのに評価されない、給料も低い氷河期世代を含めた非正規で働く人の救済に繋がりますので、それが「均等・均衡な教育機会の提供」にあたります。

次に「個々の対象者の職務経歴、職業能力等に応じた集中的な支援を実施」とあります。これは、氷河期世代を含めて非正規で働く若年層は、職務経歴が非正規雇用のみという場合も少なくありません。一般的な就職・転職活動では正規雇用での実務経験がない場合にはどうしてもマイナスに見られがちです。けれども、氷河期世代は元々高い能力を持ちながらも新卒就職が叶わず、結果非正規で働いている人も多いのです。

この取り組みでは、正規雇用・非正規雇用の雇用形態で見るのではなく個人の持っているスキルやキャリアを判断し、その上で適切かつ集中的な支援を行うとしています。まだまだ正社員経験が重視される日本では、氷河期世代はどんなに能力の高い人でもキャリアで見られがちですので、その突破口になることが期待されています。

▼ブラック企業是正への取り組み
「職業安定法を改正し、一定の労働関係法令違反を繰り返す企業の求人票不受理を可能に」とあります。まず、ブラック企業を取り締まるために労働基準法違反を繰り返す企業のハローワークなどへの求人票を不受理にするように、職業安定法を改正する取り組みです。

ブラック企業の求人票不受理は、今後ブラック企業に応募する求職者を直前でせき止める事ができますので、働き方改革の取り組みとしては有効です。ですが、渦中にいるブラック企業で働く氷河期世代の救済まで手が回っていないと感じます。

個人的に、氷河期世代がなぜブラック企業で働き続けるのかは「他に正社員の働き口がない」という理由が一番だと思います。ブラック企業で働き続けて既に30代後半や40代後半になっていると、ここから新しい職場への転職は難しいと感じるため、今のブラック企業で働き続けているのだと思います。

また、ブラック企業の是正自体を目的としているのなら、求人票の不受理だけではブラック企業の芽を摘むことはできません。今表面上に現れていないブラック企業の存在はたくさんあります。労働基準監督署など、しかるべき機関への内部告発が有効ですが、「自分が告発したのがばれる」というのを恐れて、なかなか内部からの告発ができない現状があります。また、勇気をもって内部告発をした人がいて、その後労働基準監督署などの監査が入って一旦労働環境は改善したものの、またすぐに元に戻る、という事も少なくありません。

まず、内部告発を「気軽」にできる体制づくりや、内部告発等でブラック企業と認定された企業に対しては、一度だけでなく一定期間内の監査を行い、定められた基準を満たさない場合には事業停止にする、などの罰則を与えるなどしないとブラック企業はなくならないと思います。

また、国で「ブラック企業」の基準を設けてブラック企業に認定されれば、マスコミに大々的に報道され企業イメージが損なわれ、社会的な抹殺を受ける、こういった取り組みを国が挙げて行えばブラック企業の抑止力にもなるのではないかと思いますが、なかなか実行には難しいとも感じています。

働き方改革全般でも、氷河期世代の救済に繋がる取り組みが

氷河期世代は男性ではなくもちろん女性もいます。氷河期世代にあたる女性でも、非正規雇用などで働くため結婚や出産を諦めた方や、産休や育休が取得できず妊娠出産を機に仕事を辞めた人も多くいるので、ライフスタイルに合わせた働き方ができていない人も珍しくありません。

氷河期世代は子育て世代でもあるので、出生率低下の原因も抱えています。氷河期世代以降の次世代の子育てを担う世代の女性へ、働きながらも育児がしやすい、妊娠出産で仕事を諦めなくても良い社会づくりも働き方改革では期待しています。

まとめ

現在働きざかりの氷河期世代に眠る労働力を発掘すれば、将来の日本の大きな労働力となります。とはいえ、氷河期世代の当事者からみると「なぜもっと早く何らかの対策をしてくれなかったのか」と思うのが現状です。氷河期世代を含め、現在不当な立場に立たされている人や、自分の働き方に納得できない人へ適切な処遇が与えられる事も働き方改革に期待します。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年1月25日時点調査または公開された情報です。
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