【業法規制と新興企業】- 既得権益か合理的な規制か

【岩盤規制は「獣医師業界」だけではない!】2017年、話題となっている業法規制についてのコラムです。

「業法規制」とは何か?から、実際にに問題となっているケース、新規ビジネスと法的グレーゾーンなどについてまとめました。


2017年に話題になった事件の1つとして加計学園問題があります。加計学園問題についておさらいすると、1984年以降文部省の通達によって新設されなかった獣医学部が2013年に国家戦略特別区域が制度化されて例外的に獣医学部の新設が特区においては認められる事となりました。

これに名乗りを上げたのが2007年から構造改革特区制度を利用して獣医学部の新設を要望していた愛媛県今治市で2016年に特区の指定を受けて、その事業者として加計学園が選ばれました。ただし、その加計学園の理事長は内閣総理大臣と親しい間柄にあったことから、総理が友人に利益許与を図ったのではないかと言う疑惑が加計学園問題です。

加計学園問題は総理が利益供与の目的で特区構想や事業者の選定に強権的に関与したのか否かというのも重要な問題の一つです。しかし、これと並んで重要なのが、このような岩盤規制は許されるべきなのかと言う問題です。誰がどのような商売を行うのも自由で、規制しないと何らかの弊害が発生する際に例外的に業種に対する規制が行われるというのが原則論です。しかし、実際は業界団体や天下りの利権構造と結びついて、一件不合理ではないかと思われる規制が数多く存在するのも事実です。

本記事では特定の業界に対して規制を行う「業法規制」についてこれまでどのような問題が発生しているのかについて説明します。

岩盤規制は獣医師業界だけではない!問題となっている業法規制

まず、「業法規制」という事について説明します。

日本には様々な法律がありますが、例えばリサイクル業者の営業について規制した古物営業法や、ホテル・旅館などの営業について規制をした旅館業法など特定の業種の営業について規制を行う業法規制と呼ばれる法律の種類があります。学術用語ではないので明確な定期はありませんが、最広義で意味を解釈すれば、弁護士法や医師法、更には各省庁の通達でも何らかの業種に関する営業規制になっていれば業法規制と考えられます。

業法規制は日本国憲法22条1項の職業選択の自由とそこから派生する営業の自由としばしば衝突します。これらの自由は公共の福祉に反していない限り認められる事になります。つまり、業法規制は「公共の福祉」の範囲内の規制しか行えないわけですが、どの程度の制限が公共の福祉に反するかという事は一律に決定できるものではなく、事例の蓄積によってこのケースでは制限できる、このケースでは制限できないという基準が決定される事になります。

もちろん規制をしなければ一般の市民に悪影響が発生する恐れがあるビジネスについては公共の福祉の理念に基づいて規制するべきだと言えますが、一方で業法規制をコントロールすれば特定の業者を市場の競争の中で有利な立場にする事も可能となります。

例えば、業法規制によって新規参入のハードルを高くしてしまえば既存事業者は競合が少ない状態でビジネスを行えますし、後々業法規制をつくる事によって既存事業者の中でも規制に対応できない事業者を市場から排除する事も可能となります。

業法規制が特定のビジネスと衝突している事例

このように業法規制は事業者の利益と対立しやすいわけですが、最近ではどのようなケースが問題となっているのでしょうか。最近、業法規制とビジネスモデルの対立が問題になっているケースについて説明します。

旅館業法と民泊ビジネス

まず一番初めに挙げるのが、旅館業法と民泊ビジネスが衝突していた問題です。民泊とは個人宅の一部や別荘や、使っていないマンションなど一般的なホテル・旅館などの宿泊施設以外に宿泊する事ですが、民泊のマッチングサイトAirbnbが流行した事と、民泊に宿泊したいというニーズを持った外国人旅行者が増加した事から、民泊をビジネスとして行う人たちが増加しました。


しかし、ホテルや旅館などは旅館業法という法律によって規制されており、開業の際には都道府県知事への届け出が必要となります。また、法律や各地域の条例によって設備の基準が細かく定められており多くの民泊事業者はこの基準を満たしていませんでした。また、そもそも民泊が旅館業法の適用対象になるのかということ自体も議論になっており、旅館業法の基準を満たしていない民泊についてはグレーゾーンとなっていました。

しかし、政府はこの問題に早くから対応し、2017年3月には民泊新法を閣議決定し、2018年6月から施行し、法律に基づいて民泊が行えるようになりました。

道路運送法とライドシェア

民泊ビジネスと同時期に問題となっていたのが、道路運送法とライドシェアを巡る問題です。ライドシェアというのは即ち「相乗り」という事です。これもUberという車を運転する人と車に乗りたい人のマッチングアプリが世界的に流行した事から問題が発生します。

ただ、車の乗せても良い、乗りたいという人をマッチングさせるだけなら良いのですが、このようなサービスの場合、車に乗った人は、乗せてくれた人に対してUberの決裁システムを通じて金銭を支払います。しかし、このようなサービスは通常白タクと言われて違法だとされています。すなわち、タクシーのように車で誰かを運ぶ事業は旅客運送法によって規制されており、個人でタクシー業を行う際には第二種運転免許を取得した上で、地方運輸局の試験を受けて営業許可を得る必要があります。

このような理由からライドシェア事業と白タクのグレーゾーンが問題となっています。

これについて、政府は基本的に規制する方向ではいますが、国家戦略特区の京丹後市で現在過疎地域での交通難民問題をライドシェアで解決できないか現在実験段階となっています。

このような2つの事例からわかる事は、新しい革新的なサービスは業法規制内と規制外の合間に発生しているという事です。すべてのビジネスがこのように業法規制の曖昧なグレーゾーンに挑戦するわけではありませんが、技術の発展に伴って今までの業界の勢力図を塗り替えたり新しい市場を創出したりするようなサービスは業法規制のスレスレを狙っている事が多いのも事実です。

新規ビジネスと法的グレーゾーン

このように、特定のビジネスの新規参入者は法律とどう折り合いをつけるかと言う事が問題になりやすいのですが、どのように折り合いをつけるのでしょうか。方法としては3つの方法が考えられます。

裁判所に業法規制の妥当性を検証して貰う

1つは裁判所に提訴し、業法規制の妥当性を検証して貰う事です。もちろん、業法規制が間違っているという判断を裁判所が行う事は極めて例外的なケースです。

業法規制が憲法22条の職業選択・営業の自由に反しないかという事が争われた有名なケースは2件あり、1つは薬局の出店に関して既存業者と商圏が過度にバッティングしないように出店規制をしていた薬事法6条に関する裁判で、いわゆる薬局距離制限判決と呼ばれています。もう1つは同じような出店に関する規制で公衆浴場判決と呼ばれているものです。このうち薬局距離制限判決については薬事法による出店規制は違憲だとされ、公衆浴場については合憲だと判断がなされています。

具体的に規制されるまでに事業を拡大し続ける

2つ目に考えられるのが、具体的に規制されるまでに事業を拡大し続けるという事です。例えば、先ほどの例で挙げた民泊は訪日外国人の需要に対応しなければならないので、旅館業法ではなく、民泊新法という新しい法律で対応する事になりました。この他にも、YouTubeはサービス開始当初、著作権侵害の温床となっており、著作権違反の動画がたくさん存在していましたが、ある程度大きくなってから著作権侵害の動画の排除に乗り出して、今のような状態になりました。今ではYouTubeを規制するべきだという人はいないのではないでしょうか。

このように具体的に規制がされる前に需要と既成事実を作っておき、大きくなった後で問題を解決したり、規制緩和や新基準の適用などに期待したりするというパターンがあります。

事前にリーガルチェックを行う

3つ目に考えられるのが、事前にリーガルチェックを行うというパターンです。もちろんこれが一番の安全策と言えますが、一方で万が一法律的にグレーゾーンがあるから、このビジネスはできないと見切りをつけてしまえば、革新的なビジネスは誕生しません。

この革新的なビジネスと法規制の衝突を解決するために、例えば経済産業省はグレーゾーン解消制度・企業特例実証制度という制度で事業者が新しいビジネスに挑戦する事を応援しています。

両制度は産業競争力強化法に係る支援措置の一種で、グレーゾーン解消制度は、現行の規制の適用範囲が不明確な場合に、行うとしている事業に対して適用の有無を確認できる制度、企業実証特例制度とは、安全性などの確保を条件として企業単位で規制の特例措置を認める制度です。


このような制度を上手く利用する事によって、事前にリーガルチェックを行う事が可能です。

まとめ

公務員は国会が制定した法律や過去の通達などに従って粛々と業務を執行すれば良いという時代ではなくなりました。

もちろん、公務員としての活動が法律と合致している必要がありますが、一方で産業を振興し日本の国際競争力を高めるためには、新しいビジネスが発生しやすい土壌作りが必要となります。

このような新しいビジネスと衝突しやすいのが法律の規制です。本記事で紹介した業法規制以外にも例えば自動運転と法規制の関係性など、技術の発展によって新しいビジネスチャンスが発生した場合は法律の規制に従いつつ、そのビジネスをどう成長させるかという事が重要となります。

この時には規制の本質について考えなければなりません。確かに多くの業法規制には妥当性がありますが、実は制定背景に既得権益者による働きかけがあったり、技術的に解決可能な規制をいつまでも惰性で適用し続けていたりするケースも少なからず存在すると考えられます。つまり、その規制は本当に必要かという事は常に議論されるうる重要な議題なのです。

このような姿勢は企業だけではなく、地方公務員にも求められています。地方創生に本気で取り組もうとした時に問題となるのは財源をどこから確保するかと言う事だけではありません。全国一律の規制を突破して、どのように地方としてユニークな町の設計をするかという事も財源と同様に重要です。

例えば、国家戦略特区に指定される事によって福岡市は外国人のビザを緩和したり、今治では獣医不足を解消するために獣医学部の新設が例外的に認めてもらったり、養父市では農業の担い手不足と耕作放棄地の解消のために企業による農地取得の特例を認めてもらったりと、地方創生の障害となっている規制をどう突破するのかという事が重要なのです。

本記事は、2018年11月28日時点調査または公開された情報です。
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