【特定秘密保護法について】制定の経緯や、争点、罰則など

2013年12月に、日本の安全保障に関する情報のうちとくに秘匿されるべきものを「特定秘密」として指定し、これらの機密を漏らした公務員への罰則を強化するために制定された「特定秘密保護法」について説明します。特定秘密保護法という呼び名は通称で、正式名称を「特定秘密の保護に関する法律」といいます。


日本の安全保障にかかわる法律の「特定秘密保護法」とは?

特定秘密保護法とは、外交・防衛・スパイ防止・テロ活動防止の4つの分野において、日本の安全保障に支障をきたす恐れのある情報を「特定秘密」とすることを目的にした法律です。

この「特定秘密」に指定された情報は一般には公開されず、その機密を漏洩させた公務員や関係者には最長で懲役10年の罰則を設けています。政府によればこの法律は「国及び国民の安全の確保に質する」ために設立されたとされており、定められた秘密情報の有効期間は上限5年で更新可能だが、一部の例外を除き60年を超えることができない、とされています。

特定秘密保護法制定の経緯は?

特定秘密保護法の制定について、直接的なきっかけとなったのは「国家安全保障会議(日本版NSC)」が2013年12月4日に発足したことです。

日本版NSCとは、国家の安全保障に関する重要事項、また重大な緊急事態への適切な対応を審議することを目的に内閣府に置かれ、米国の国家安全保障会議をモデルにしていると言われています。

この日本版NSCをより効果的に運用するために自民党、公明党を含む当時の与党は特定秘密保護法の制定を急ぎました。以前から日本の情報保全態勢は国際的に機密情報の漏洩に対する意識が低いなどの批判を浴びており、欧米と同水準の情報防衛の仕組みを作る必要性があるとされていました。

また、2010年9月に起きた中国漁船衝突事件の際に海上保安庁職員が撮影した映像がインターネット上で公開され、物議を醸したことも国会において特定秘密保護法制定への機運が一層高まることとなりました。2011年8月には有識者会議が「秘密保全法制を早急に整備すべきである」とする報告書を発表し、当時の民主党政権が国会提出を目指していました。

特定秘密保護法で、特定秘密に指定される情報は?

特定秘密保護法の成立によって国家の特定秘密に指定される情報は、国と国民の安全に関わる重要な情報であるとされています。

特定秘密となる分野は、外交・防衛・スパイ防止・テロ活動防止の4つの分野であり、それらの詳細な項目は55にのぼります。自衛隊の暗号、潜水艦の潜水可能深度、北朝鮮の拉致関連情報などが該当し、これまで各省庁で扱われてきた重要情報約47万件の大半が該当すると言われています。

けれども政府によれば、秘密情報となるものは、今までも国家公務員法などにより秘密とされていたもののうち、漏えいが特に日本の安全保障に影響を与えうるもののみが特定秘密とされるため、秘密の範囲が増えることはないとされています。

特定秘密保護法の争点

特定秘密保護法は2013年に法案草案が公表されたのち、2週間のパブリックコメントが行われましたが、その際には90,480件にものぼる意見が出されました。制定賛成者からの主な意見は「特定秘密保護法によって日本の安全保障のために重要な機密を守ることが必要である」、「刑罰があってこそ取り締まりが実効性を持つ」といった意見や、「国内のスパイを取り締まれるようにしてほしい」という意見がだされました。

一方で、反対派の意見としては、特定秘密保護法は知る権利を侵害するものであり、報道の自由の侵害にもつながるので、むしろ情報公開を進めるべきだなどという意見が提出されました。また提出された法案についても、秘密指定の範囲が広範囲でかつ曖昧なため国民が重要な情報にアクセスできなくなるという反対意見が出ました。


特定秘密保護法の罰則は?

特定秘密保護法の最大の目的は、前にも述べたように国家の安全保障に関わる「特定秘密」を漏洩した者に対する罰則です。

特定秘密保護法では、情報漏えい等に対し、通常の守秘義務違反の10倍の刑罰を課せるようにしました。業務により知得した特定秘密を外部に漏えいした場合、10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金を処されることになり、これは情報の漏えい自体を処罰の対象とする者で、公益通報などを目的とする場合も情報漏えいになる恐れがあると定められました。

また、特定秘密を外部に漏えいした場合のみでなく、権限なく特定秘密を取り扱うことも刑罰の対象とされています。

特定秘密保護法は、情報を漏えいした者にだけでなく、特定秘密を取得した者への罰則も定めています。

「外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、または財物の窃盗若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者」( 法24条1項)に対しては、情報漏えい者を同じく10年以下の懲役、または 1000万円以下の罰金が定められています。

特定保護法での、特定秘密を取り扱える人は?

特定秘密保護法では、特定秘密に指摘された情報を扱える人を、「適性評価」と言われる身辺調査を受けた公務員などに限定することを定めています。

この適性評価を受けなければ特定秘密を取り扱うことはできず、行政機関の職員はや特定秘密の提供を受ける民間業者を対象に実施されます。行政機関の職員は国家公務員に加え、都道府県警が含まれ、地方自治体は特定秘密を取り扱うことは想定されていないため、地方公務員は対象に含まれていません。

適性評価は行政機関の長によって実施されます。適性評価の調査項目は7項に渡り、テロ活動との関係、これまでの犯罪歴、薬物の使用や精神疾患、飲酒の節度から経済状況まで調べられることになっています。この適性検査は調査が詳細な個人情報を含むためプライバシーの侵害にあたるなどとして、拒否する人も出ています。

特定秘密保護法に対する監視機関について

特定秘密保護法の公正な運用を巡って政府内にはその運用を監視する機関が設けられています。これらは法案の審議段階での批判を受け、当時の総理大臣が設置を国会において表明したものですが、特定秘密保護法には監視機関の設置は明記されておらず、設置への法的な縛りはありません。

1つ目の監視機関は内閣保全監視委員会と呼ばれ、内閣官房長官を委員長とし、各行政機関の次官級で公正されています。この委員会は特定秘密の指定や解除、適正評価において、公正な判断がなされているかを審査し、必要に応じて行政機関に対し特定秘密を含む情報の提出や、それの是正を求めることができる権限を保持しています。

2つ目の監視機関は内閣府独立公文書管理監と呼ばれ、内閣府内に設けられています。独立公文書管理監は特定秘密の指定やその解除、そして特定行政文書ファイルなどの管理が適切に行われているかを監視し、検証します。必要な場合、書類の提出や是正を求めることができますが、この是正に強制力はないとされています。また各行政機関は機関長の判断によって情報を提出しないことも認められています。

最後は内部通報制度と言われるもので、特定秘密の指定、解除、そしてそれらの情報の管理に対する是正を内部から通報できる制度です。各行政機関には通報を受け付ける窓口が設置され、通報は各行政機関内部、あるいは独立公文書管理監に行われることになっています。通報者に対しては、不利益な取り扱いをしてはいけないことが定められており、通報を受けた際には行政機関や独立公文書管理監は滞りなく調査を行うことが定められています。

特定秘密保護法がもたらす影響は?

特定秘密保護法がもたらす政府関係者以外の一般の国民への影響としては、重要な情報が手に入りにくくなるということが挙げられています。

行政機関が、国民に知られたくない情報を特定秘密に認定し、隠してしまえるようになるということです。例えば、自衛隊の海外派遣に関する情報は、機密情報のうちの「防衛」に当たるということで特定秘密として指定されてしまう可能性があるということが指摘されています。

また、特定秘密保護法では、地方自治体が特定秘密に指定されるような重要機密を持つことを想定していないため、地方自治体への情報が遮断され、大規模災害や原発など有事の際に住民を十分に保護する役割を果たすことができなくなるのではないかという意見も出ています。


このように社会の中の必要な情報流通を確保するという面において、特定秘密保護法がマイナスの方向に働くのではないかとう懸念も各方面から上がっています。秘密を保持する政府は国民や国際社会からの信頼性を高める努力を最大限に行うべきであるという意見がでており、特定秘密保護法が社会に与える影響は個人の知る権利が侵害される、ジャーナリズムの報道の自由が制限されるなどの形で現れる可能性があることも指摘されています。

特定秘密保護法の外国での制定は?

アメリカやイギリスをはじめとする先進国諸国でも日本の特定秘密保護法に準ずる法律が制定されています。

アメリカでは合衆国法典や大統領命令と呼ばれるものがこれにあたり、軍事計画、インテリジェンスの情報源、また政府の外交活動に関する情報が秘密情報に指定されうる対象とされています。

一方イギリスでは、公務秘密法と呼ばれるものが存在し、スパイ防止・スパイ活動、防衛、国際関係、犯罪、政府による通信傍受の情報などが秘密指定の対象とされています。

これら2つの国を比べると、イギリスの方がより包括的な法律を制定しているように見えます。

けれども、アメリカでは、包括的な秘密保護法制はないものの、テロ関与が疑われる外国人への盗聴などが認められる反テロ愛国法などの個別法制が存在しています。

その他の先進国を見てみても、フランスでは国防法典や刑法、ドイツでは保安審査法、そして韓国でも軍事機密保護法や国家保安法などの法律に秘密保護を定める規約が含まれおり、諸先進国では概ね似たような法律が存在しています。

本記事は、2018年3月5日時点調査または公開された情報です。
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