「119番通報のしくみ」と消防の「通信指令室」の仕事について

火災や救助事案で消防車や救助隊を呼ぶとき、急病人を発見して救急車を呼ぶとき。使用するのはお馴染みの119番通報です。ここでは、119番通報のしくみや通報を受けてから実際に消防車や救急車が出場するまでの流れ、119番通報から指令まで管轄する通信指令室のお仕事について解説しています。


119番通報について

火災、救助、救急事案への通報ダイヤル

119番通報とは、火災、救助、救急の消防が担う活動が必要な時に、通報するダイヤルです。自宅や近隣で火災や爆発事故を発見した時などの火災事案、高いところから落ちてしまったり、狭い場所に子供が入り込んで抜けなくなってしまったりした際に救出救助活動を行う救助事案、自分で立ち上がれないほどの体の急変や、交通事故などで重傷を負った人を病院へ搬送するなどの救急事案に対しての通報ダイヤルとして使用されます。

119番通報をすると繋がるのは消防の通信指令室

119番通報を行うと、消防署に直接繋がるのではなくその地域の消防を管轄する通信指令室に繋がります。必ず聞かれるのが「火災ですか、救急ですか」の質問です。その後、具体的な通報事案の内容、住所や氏名など必要な情報を聞かれ、通信指令室から出場要請を受けた消防署の消防車や救急車が現場に向かい、活動を行います。

119番通報は発信元の特定ができる

119番通報をした本人が、通信指令室の通信指令係と通話中に意識を失ってしまったり、火災が迫ってきたので逃げるためにいったん電話を切ってしまったりすることがあります。また、子供が通報を行った時には住所がうまく言えず、正確な出場先が特定できないこともあります。

緊急性の高い119番通報は、通報者との通話途中に通話が切れてしまう可能性も考慮し、119番通報の発信元の特定ができるようになっています。万が一正確な情報を全て聞く前の通話中に電話が切れてしまっても、通信指令室から通報者の元へ電話をかけなおす事もできますし、消防職員は現場に到着することもできます。

119番のいたずら通報も特定される&罰則がある

残念ながら119番へ火災や救急の通報があって現場に駆け付けたところ、何も発生していなかった…などのいたずら通話が、119番通報全体の約20~30%を占めています。

けれども、前述通り119番通報はその緊急性の高さから、発信元の特定が可能となっているのでいたずら通報をした場合でも必ずいたずらをした人は突き止められます。そして、いたずら通報は「消防の緊急通報業務を妨害した悪質な行為」と見なされ、消防法第44条の罰則規定「正当な理由がなく消防署または(略)市町村長の指定した場所に火災発生の虚偽の通報をしたものは、『30万円以下の罰金または拘留』に処する」を受けることとなります。119番のいたずら通報によって、本来必要な火災や救急事案への出場要請が遅れ、人命にかかわる可能性もあるため、いたずら通報は大変悪質と見なされます。

なお、「火災と思って通報したら、焚火をしているだけだった」など誤報の119番通報をした場合は罰則には当たりません。

119番通報は適正利用をしよう

近年、携帯電話が普及したことによって119番通報件数も増加傾向にあります。実際に、近年受けた119番通報の内、全体の27%が携帯電話からの通報でした。その一方で緊急性のない119番通報も多くなっています。特に、緊急性の低い事案に対して救急車による救急搬送を行うと、本当に救急搬送が必要な傷病者の搬送が遅れてしまうことになります。近年では、自力で行ける時にはタクシーを利用するなど、消防本部が市民に救急車の適正利用を呼び掛ける動きも多くなっています。

119番通報~実際の現場での活動の流れ

119番通報を受けるのは通信指令係

119番通報を受けると、消防の通信指令室に繋がります。通信指令室は各消防本部にひとつずつ設置されていることが多かったのですが、近年ではよりスムーズに119番通報に対して対応や出場要請ができるように、周辺地域の消防本部が共同で通信指令室を整備する傾向にあります。通信指令室で119番通報を受けて出場要請を行うのが、通信指令係です。

予告指令に時点で既に準備は進んでいる

通信指令係は119番通報を受けて、通報者から必要な情報を聞き出しながら、通信指令室のコンピューターに情報を入力していきます。通信指令室は、入力された情報を元に通報された事案の種類、その通信指令室が管轄する消防署の出場及び待機状態、通報現場への到着時間を計算し、最適な消防署の出場隊を選別できるようにプログラムされています。選別された消防署の出場隊には「予告指令」が流れるので、通報者から通信指令係が情報を聞いている最中から、既に選別された消防署の出場隊では出場に向けた準備が進められています。

通信指令室のコンピューターによる出場隊の選別方法には、「計画選別」と「経路選別」の2種類の方法があります。
▼計画選別
あらかじめコンピューターに町名別で各消防署の部隊を登録しておき、火災現場に近い部隊から優先的に出場指令を出す選別方法です。


▼経路選別
消防車両にはGPSがつけられており、指令室では「車両動態管理位置表示装置」によってすべての消防車の現在地を把握しています。これを使用した選別方法が経路選別です。119番通報を受けると、通報現場に最も近いところにいる消防車両を選別しそのまま現場へ急行させる選別方法です。

かつては計画選別のみで出場隊を決めていた通信指令室も多かったのですが、近年各消防本部で経路選別の普及が進めており、計画選別と併用することにより、119番通報入電時により迅速かつ的確な部隊編成ができる取り組みが行われています。

本指令~現場に到着するまで

実際に出場隊が消防車や救助工作車、救急車などの消防車両に乗り込んでいる時に「住宅火災、第一出動、××区3丁目〇番地×号、住宅出火」と本指令が入りますので、既に準備を整えた状態でそのまま現場に出動できる体制になっています。

本指令が入ってから現場に到着するまでの間も、消防車両へ指令室から新しい情報が次々と送られてきます。この情報を元に出場隊の隊長がどのように消火・救助・救急活動をするかの作戦を考えます。現場に到着するまでには作戦が立ち、かつ隊員も実際の現場を見ることで状況を掴み、到着とともにすぐに迅速な活動が可能です。

活動状況も「車両動態管理位置表示装置」で指令室へ送信

「車両動態管理位置表示装置」は、通信指令室が消防車両の状態を把握するだけでなく、消防車両から現場の活動状況もワンタッチで指令室に送れる機能も備えています。例えば、火災現場なら「放水開始」や「鎮火」などの情報を、消防車に搭載されている端末から通信指令室までワンタッチで送信、逐一通信指令室は各消防車両の活動状況を把握できるようになっているのです。

もしも出場中に他の事案に遭遇したら?

火災の通報を受けて通信指令室から出場部隊が選別、消防車が現場に向かっているとします。その消防車が火災現場に向かう途中で、別の火災を発見した場合にはどうなるのでしょうか?

答えは、通信指令室からの出場要請を優先する、です。例え目の前で火災が発生しているのを見つけても、火災は発生の時間経過とともに燃え広がりますので、先に通報を受けた事案が優先されるからです。もしも火災出場中に他の火災現場を発見した時には、その消防車が消火活動を行うのではなく、消防車から119番通報をして指令室に知らせます。消防車は、出場要請を受けた火災現場にそのまま向かい、消火活動を行います。

消防の通信指令係員の仕事について

119番通報を最初に受け取り、必要な情報を受ける

119番通報をすると、通話をするのが消防の通信指令室に勤務する通信指令係員です。通報者に対して「火事ですか?救急ですか?」の問いかけの後に発生場所の正確な住所、火事の場合はどこの何が燃えているか、けが人や逃げ遅れた人の有無、救急の場合は事故か急病か、傷病者の人数や出血・意識の有無など詳しい状況を聞き出します。

119番の通報者のほとんどが、動揺していたり気が動転していたりするので、一番重要な住所などの情報が聞き取れない場合もあります。まずは通報者を落ち着かせ、本人の身の安全を確保させるために通信指令係員は時に強い口調で、繰り返し同じ質問をする事もあります。

出場部隊の選別と出場要請、現場の誘導や統制も行う

通報者からの情報をコンピューターに入力しながら、最適な出場部隊の選別と出場要請を行います。出場要請後も、消防車両に対して現場への誘導や現場活動での指示や統制も行います。

救急の場合は、口頭指導を行うことも

119番通報が救急要請だった場合、救急隊が現場に到着するまでに傷病者の状態が急変してしまうこともあります。通信指令係員は必要に応じて、救急隊員が到着するまでに電話口を通じて、通報者へ心肺蘇生法などを指導・実施させる口頭指導を行うこともあります。電話口を通じてですが、通信指令係員も救急救命活動に携わっているのです。

通信指令係員の勤務体制

119番通報は24時間365日受付対応を行っていますので、通信指令室も24時間休むことなく稼働を続けています。通信指令室で働く通信指令係員は、シフト制による交代制勤務です。

消防署で働く他の消防職員と同じように、2交替や3交替制での勤務体制のところもあれば、日勤・夜勤で対応しているところもあり、通信指令係員の属する消防本部によって勤務体制は異なりますが、夜勤は必須です。

消防の通信指令係員になるには?

自治体の消防職採用試験に合格する

通信指令係員はその自治体の消防本部に所属する消防職員であり、地方公務員です。まずは自分が希望する全国の市町村自治体の消防本部の消防職採用試験を受験し、合格しなければいけません。

なお、他の消防本部の併願受験も原則禁止はされていませんので、日程が異なっていれば複数の消防本部の併願受験も、民間企業の就職活動も一緒に行うことも問題ありません。


消防職員の採用試験を受けられる年齢は、下は17歳から、上は26歳くらいまで、という自治体が多くなっていましたが、現在は社会人経験者の採用枠拡大と共に、受験年齢の条件の引き上げを行う消防本部も多くなりました。例えば、平成29年度の受験案内では東京消防庁や札幌市、仙台市は上限29歳まで、名古屋市や北九州市は30歳までとなっています。

年齢や身長などの条件は各自治体によって異なるので、自分が受験したい自治体の消防職員採用試験情報を常にチェックしておきましょう。

おおよそ1年の消火隊を経験後に、最短で通信指令係員へ

採用試験合格後はまず半年間消防学校へ入学し、消防職員としての基礎を学ぶ初任教育を受けます。その後自治体の消防本部内にある消防署へ配属が決まります。だいたい最初の1年間は、消防の基礎を実践で身に着けるために、消火隊へ配属になる事が多いです。

1年間消火隊としての勤務を経てから、希望が通れば消防本部の通信指令室配属になり、通信指令係員としての勤務がスタートします。

まとめ

消防組織の119番通報のシステムと、通報による出場要請を担う通信指令室の通信指令係員についてご紹介しました。不測の事態に頼りになる119番通報ですが、市民の私たちも適正利用をしなければいけないと改めて考えさせられました。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年4月3日時点調査または公開された情報です。
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