【アメリカ州制度】アメリカの偉人を生んだ州「アーカンソー州」解説

日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地レポートです。

今回のテーマは「アーカンソー州」です。あまり知られていないことが多いアーカンソー州について、州の特色や歴史を中心にご紹介します。


アーカンソー州の特徴

アーカンソー州は総人口が約290万人で、2000年に260万人程度だった人口からほとんど増えていません。同じ南部に属するテキサス州などと比較して人口の増加率は非常に少ない州と言えます。

アーカンソー州は、1836年にアメリカの25番目の州として正式に認められました。日本語読みでは「アーカンソー」ですが、英語読みではArkansasは「アーカンザス」や「アーカンソー」などいくつかの読み方があり、1881年にわざわざ議会で読み方は「アーカンソー」で統一することが決定されたほど複雑な歴史があります。

いまだにアメリカ国内では「アーカンザス」と発音する人も多く、アーカンソー州について話をする際には、混乱が起こるほどに読み方が定着していません。

そんなアーカンソー州は、アメリカ国内で唯一のダイヤモンド鉱山があり、いまでもダイヤモンドが産出される場所としても知られています。一般公開されているものの、人力でしか掘削できず、商業化されていないダイヤモンド鉱山です。

アーカンソー州は日本でもよく知られたふたりの人物が生まれた州です。ひとりはダグラス・マッカーサー、もうひとりはビル・クリントンです。アメリカ国内ではこのふたりの出生地としてアーカンソーは有名ですが、日本ではあまり知られていないことかもしれません。

現在では、マッカーサーの生家は州の最大都市であるリトルロックにあるマッカーサー公園として一般公開されており、同公園はいつもローカルたちで賑わっているほどです。アーカンソー州では、マッカーサーを第二次世界大戦の英雄として讃える場所がいくつもあります。

アーカンソー州は第42代アメリカ大統領のビル・クリントンが生まれた場所でもあります。彼を支持するかどうかは賛否両論あるものの、アーカンソーが生んだ偉大な人物として今でも注目されており、州のイベントなどで見ることがあります。

このようにアーカンソー州は、自然に恵まれており、マッカーサーやビル・クリントンなどアメリカ史に名を残す人物を輩出した州であることを知っておくといいでしょう。

アーカンソー州の歴史

現在のアーカンソー州は、もともとはルイジアナ州の一部でした。1819年に準州になり、1836年に州に昇格しました。この時代のアーカンソー州は人口の30パーセント近くがアフリカ系の奴隷だったとされるほど、国内でも奴隷が最も多いエリアで、奴隷制度が公に認められていた「奴隷州」のひとつでした。

多くの奴隷は綿花プランテーションで働いていましたが、綿花以外にも様々な農作物の栽培が行われました。1846年にはアメリカとメキシコが争った米墨戦争において、多くのアメリカ人兵士がアーカンソー州のワシントン市に集結しました。その中には、白人の農場主が自身の奴隷を兵士として派遣したとされています。

後に起こる南北戦争においても、アーカンソー州にいた奴隷は、南部軍を救う存在という名目で兵士としても使われ、おおよそ18万人が動員されました。アーカンソー州の歴史のなかで、奴隷制度、米墨戦争、南北戦争は欠かせないものと言えるでしょう。


奴隷制度がなくなって以降も、アーカンソー州では人種差別や人種隔離の思想を持った人は減らず、現在でもごく一部ながら、アメリカ国内で人種差別が根強く残る州として言われています。土地や自然に恵まれていながらアーカンソー州の人口が他州と比較して増加しないのには、差別の歴史が影響していると考える人もいるとされています。

アーカンソー州は、アメリカ史のなかで最も悲惨だったとされる「インディアン強制移住」の際の通り道でした。1800年頃、白人達は領土を広げるため東海岸から南下を進め、現在のジョージア州付近までやってきました。そこで先住民のチェロキー族などの部族と土地を巡って争いごとが起こるようになります。

1838年、現在のジョージア州周辺にいたチェロキー族などのインディアン17,000人を現在のオクラホマ州付近まで強制的に移住させることが当時のマーティン・ヴァン・ビューレン大統領によって決定されました。

チェロキー族を守ろうとした白人も多かったものの、結局はチェロキー族の多くは白人兵に銃を突きつけられる形で家を追い出されます。

集められたチェロキー族は、強制的に陸路、水路でオクラホマ州へ移動させられました。この時に使われた道がアーカンソー州を走る国道71号線で、この道は「涙の道(Trail of Tears)」として知られています。この強制移住の途中でチェロキー族4,000人以上が亡くなったとされています。

現在では、アーカンソー州の至るところに亡くなったチェロキー族のための記念碑が立てられていたり、国道71号線のサインにはインディアン達が綱に繋がれて歩く姿が描かれています。

アーカンソー州の歴史は、奴隷制度や人種差別、チェロキー族の強制移住など悲しいことが多いのも事実です。

アーカンソー州の政治情勢

アーカンソー州は2012年と2016年の大統領選の際には共和党を支持しています。もともと保守的な南部では、共和党が支持されていますが、アーカンソーはその代表と言えるでしょう。

保守的ゆえに、いまだに残る人種差別の思想は白人至上主義という思想を生み出し、自由主義との対立があることも事実です。排他的な移民政策を掲げるトランプ大統領を支持する人が多いことにも納得がいくでしょう。

しかし、上院議員、下院議員ともに共和党の席が多いアーカンソー州ですが、州議会では民主党員の方が多く、非常に特異なかたちになっています。

アーカンソー州の経済

アーカンソー州の失業率は3.6パーセントで、アメリカの平均よりも低い数値です。2010年には8パーセントだったにもかかわらず継続的に減少しています。

アーカンソー州の平均年収は約3万5千ドルで、主な産業は大豆やトウモロコシ、家畜などの農業、さらに加工食品などの企業が多く、これらの企業はアーカンソー州の大規模雇用主として拠点を構えています。なかでも、アメリカを代表する小売業「ウォルマート」の本社があることも知っておくといいでしょう。

売上額世界一とされるウォルマートの本社は、アーカンソー州北部のベントンビルにあり、ウォルマートのお陰でこの地域は常に好景気とされています。アメリカでは知らない人はいない小売業の最大手はアーカンソー州にあります。

アーカンソー州の税金

2018年時点のアーカンソー州の消費税は9.41パーセントです。州税が6.5パーセントに加えて、地方税の平均が2.91パーセントです。アメリカのなかでも3番目に消費税が高い州で、所得税も1パーセントから7パーセントのなかで6段階に分かれています。他州と比較して税金は高いと言えるでしょう。

一方で、軍関係者や退役軍人は、社会保障は無税など優遇される部分が多く、過去に米墨戦争や南北戦争の中心地だったことから、軍人への待遇は良いとされています。


アーカンソー州の銃や薬物問題

アーカンソー州ではマリファナは医療目的のみ使用可能です。保守的とされるアメリカ南部ではマリファナ解禁に渋る傾向があるものの、医療目的だけでも使用できるということは南部のなかでは珍しいとされています。

アーカンソー州は、銃事件での死者が10万人に対して17人ほどの割合です。アメリカのなかで銃による犠牲者が11番目に多い州で、銃規制や犠牲者の数などで格付けされるグレードは最低ランクのFです。

2017年には州最大の街であるリトルロック市のナイトクラブで銃乱射事件があり、28人が負傷することがありました。一歩間違えれば大惨事になっていたというこのニュースは記憶に新しい人もいるでしょう。

アーカンソー州の教育または宗教事情

アーカンソー州には州内の主要都市にアーカンソー大学のキャンパスが点在しています。街によっては学生都市になっており、学生が休みのときは街がゴーストタウン化することもあるほどです。

アーカンソー州は、4年生大学を卒業する人の割合が低く、毎年40パーセント程度です。最高学位に達する人の割合も30パーセント未満と、他州よりも低い傾向があります。

この結果、US Newsの教育ランキングでは最低水準とされています。しかしながら、小学校入学前の幼児教育の水準は全米6位とトップクラスです。

アーカンソー州で最も多い宗派はキリスト教で、州民の9割近くを占めています。南部らしく、週末に教会を訪れる人の割合は60パーセントを超えており、信仰心が強い人が多いと言えます。

まとめ

アーカンソー州はマッカーサーやビル・クリントンを輩出した州で、米墨戦争や南北戦争の際には多くの兵が集まった場所のため、過去の英雄を讃える風潮があります。

アーカンソー州は、日本ではあまり知られていませんが、過去にアメリカの偉人を生んだ州でもあるのです。また、経済に関しては世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートの本社があることも知っておくといいでしょう。

本記事は、2018年10月23日時点調査または公開された情報です。
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アーカンソー州
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