はじめに
栄養士の中には、地方公務員の一員として公立学校など教育施設に勤務する「学校栄養士」がいます。
「学校栄養士」と聞くと、「給食のメニューを考える人かな?」というイメージを持たれる方が多いかもしれません。もちろん、それも正しいのですが、実はこの学校栄養士には2種類の職種が存在します。
それが、「学校栄養職員」と「栄養教諭」です。
まずは基礎知識 - 「栄養士」とは?
「学校栄養職員」と「栄養教諭」は、共に、「栄養士」もしくは「管理栄養士」という資格を持っています。
まずは、「栄養士」という職業について簡単に説明します。
「栄養士」は保育園や幼稚園、学校のように、成長に合わせた食事内容を提供すべき場所や、病院や介護施設のような、健康面を考慮した食事を提供すべき施設などで働く、「食事と栄養」の専門家です。
多くの栄養士は、学校や施設などで、栄養バランスが取れたメニューを考えたり、必要な食材を発注し、調理なども担当します。
栄養士については、詳しくは以下の記事をご参照ください。
》「栄養士」の仕事内容
https://koumu.in/articles/780
》「栄養士」になるには
https://koumu.in/articles/80
そして「学校栄養士」とは、簡単に言うと、学校で働く「栄養士」や「管理栄養士」のことを指します。
地方公務員の学校栄養士その1:「学校栄養職員」について
学校栄養士の中の、1つ目の職業が「学校栄養職員」です。
学校栄養職員の仕事その1:給食の献立作成
学校栄養職員の業務内容の中心となるのは、学校給食の献立の計画や調理業務です。
学校栄養職員は、給食を作る調理場で働く調理師の指導を行い、給食室の衛生管理なども担当します。
給食の予算は限られていますので、何を作っても良いというわけではなく、一ヶ月毎の献立を、栄養のバランスと予算を併せて考慮しながら組み立てます。
育ち盛りの子どもたちに必要な栄養素は何か、また発育に必要なカロリー量は確保できているか、を考えながら給食の献立を作成していくのが学校栄養職員としての腕のみせどころです。それに加えて、子どもたちが食べやすい味付けや、柔らかさや大きさなどおかずの形状にも気を配ることが求められます。
学校の給食室で調理する場合には、学校栄養職員も調理師と一緒に調理作業に加わることが多く、調理師に調理法を指導したり、時には調理師の意見も取り入れたりしながら、協力して給食を作ります。
また、ひな祭りや七夕などの季節のイベントに合わせた特別メニューや、旬の食材を使ったメニューを用意するなど、子供たちが楽しく食事できるように工夫をこらさなくてはなりません。
学校栄養職員の仕事その2:衛生管理
学校栄養職員は、給食室や配膳環境の衛生管理も行います。
給食室で調理を行なっている場合はもちろん、業者から納品される給食を配膳する場合にも、給食室や配膳環境の衛生管理は必須です。
学校栄養職員の仕事その3:「給食だより」の作成
学校によっては、学校栄養職員が「給食だより」を作成します。この「給食だより」には、学校栄養職員の工夫が詰まっています。
「給食だより」では、例えば旬の食材やその栄養価の紹介を行ったり、季節の行事に合わせた献立を出した時には、その行事に関する献立の由来について説明することもあります。そのため、学校栄養職員は食文化についての知識も必要です。
また、子供たちの衛生管理の一環として、各家庭に対して食中毒などの危険性に関する情報提供をすることもあります。「給食だより」は各家庭へ配布するものですから、「しっかり加熱しましょう!」などといった調理方法への注意喚起などを、保護者にも理解してもらいやすいようわかりやすく工夫して記載することが大切です。
地方公務員の学校栄養士その2:「栄養教諭」について
学校栄養士のもう1つの職業が「栄養教諭」です。
栄養教諭は「教諭」という名のとおり、生徒に対して栄養や食事などに関する授業を行うことができる職業です。栄養教諭は平成17年に誕生した比較的新しい職業ですから、まだ聞きなれないという人も多いと思います。
栄養教諭の業務内容は基本的には給食の献立の計画や、調理業務に携わることが中心ですが、その他に、「教諭」として、栄養について児童や生徒、保護者、他の教師に対して直接指導・教育することができます。
栄養教諭特有の仕事内容その1:「食育」に関する授業をする
栄養教諭は、学校栄養職員のように給食に関する管理業務も行いますが、一番主な業務は「食育」に関する授業を行うことです。
「食育」に関する授業は、家庭科の時間や総合学習、学級活動の時間で行われることが多く、栄養教諭は栄養の専門家として、担任の先生に授業の指導をしたり、家庭科の先生など他の先生と連携して授業そのものを運営したりします。ゲストティーチャーとして、その時間の授業運営を完全に任されることもあり、「食育」に関する授業の実施方法は学校や自治体によって様々な方針があるようです。
栄養教諭特有の仕事内容その2:食や栄養についての個別相談を受ける
児童や保護者への個別の食育指導も、栄養教諭の業務の一部です。
栄養教諭は専門的な立場から、例えばアレルギーを持つ生徒に対して、栄養が偏らないように他の食材で栄養面をカバーできるよう考え、本人に指導したり、子供の食生活に悩みを抱える保護者の相談に乗ったりします。
給食の指導に関して、他の教員から相談を受けることもあるようです。
栄養教諭特有の仕事内容その3:学校運営の一部に携わる
栄養教諭は平成17年に、食育の推進を担うために制定された比較的新しい職業であり、教師と同等の立場で食や栄養について指導できる職業です。
教員なので、クラブなどの各種活動で担当教諭になったり、各種委員会や全校集会などで食育についての重要性を説いたりと、教員として学校運営の一部にも携わることができます。
補足:栄養教諭は比較的新しく様々な可能性が広がる職業
栄養教諭は比較的新しく様々な可能性が広がる職業であり、栄養教諭の配置を進めている自治体もありますが、まだ配置が進んでいない自治体も多いです。
栄養教諭の需要は自治体によって大きく異なり、各学校に栄養教諭の採用枠がある場合もありますが、何校か掛け持ちという場合もあるようです。
いずれにせよ、栄養教諭は制度として確立する途上にある、新しい仕事だと言えるので、働き方によっては様々なことに挑戦できる可能性がある職業だと言えます。
「学校栄養職員」と「栄養教諭」の違い
「学校栄養職員」と「栄養教諭」の、それぞれの仕事内容について説明してきました。重複した業務もありますが、「学校栄養職員」と「栄養教諭」の一番の違いは、「児童・生徒に授業を行えるか否か」という点です。
子どもたちに直接授業を行うことができるのは、教員免許を持っている「栄養教諭」だけです。
「学校栄養士」である、「学校栄養職員」や「栄養教諭」になるには?
地方公務員の「学校栄養士」である、「学校栄養職員」や「栄養教諭」になるには、どちらも、まずは栄養士か管理栄養士の資格を取得する必要があります。
その上で、「栄養教諭」になる場合は、栄養教諭普通免許状の取得が必要です。
「学校栄養職員」や「栄養教諭」になるための方法については、以下の記事で詳しく説明していますので、あわせてご参考ください。
》「学校栄養職員」や「栄養教諭」になるには
https://koumu.in/articles/210309n
まとめ
このページでは、地方公務員の学校栄養士の中の「学校栄養職員」と「栄養教諭」の二種類の職業について解説しました。
学校栄養士が行う子供たちへの食育とは、ただ栄養についての説明ができれば良いということではありません。まだ未熟な成長過程にある子どもたちにとっては、食の大切さ、そして食生活そのものへの興味関心を促せるような指導や給食運営がとても重要です。
直接子供たちに向けて栄養についての教育ができる栄養教諭だけでなく、直接的な指導を行わない学校栄養職員も、担任の先生などの補佐的な立ち位置で児童と触れ合うことがあり、親しみを持って接することが食事に関心を持ってもらうことにつながるかもしれません。
また、学校栄養士は子どもの気持ちに寄り添えるような献立を考えることも大切です。子どもの味覚は大人とは違う上に、子供にとっての食事は栄養補給以外にも意味を持つと考えられています。そのため毎日の献立は子どもたちの身体だけでなく、情緒や季節感といった心を育てることにもつながるのです。
そして学校で働く栄養士は大人数の食事を管理するため、その衛生面についても気を抜けません。少しの気の緩みが集団食中毒などといった、健康を害する大きな事件に発展することがあるので、徹底的に気をつける必要があります。
このように学校栄養士は、栄養についての知識をもったプロであると同時に、学校という特殊な環境において、給食を介して食育によって人を育てる職業です。この人を育てるという意識をしっかり持つ人が、学校栄養士には向いていると言えるでしょう。
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