近代化が進むアメリカのなかでも根強くカントリーサイドという印象が強い州のひとつがアイダホ州かもしれません。むかしから、アメリカ人が大好きなポテトチップスやポテトフライなどの原料となるジャガイモの生産高が最も高い州です。
ロッキー山脈やカナダとの国境に面しているアイダホ州は、実は自然の宝庫、隠れた観光名所として知られています。さらに近年では、急激に人口が増えている注目の州でもあるのです。
今回はあまりメジャーではないけれど、多くの魅力が隠れているアイダホ州の特徴や歴史をご紹介します。
アイダホ州の特徴
2018年時点でのアイダホ州の総人口は約171万人です。アメリカのなかで14番目に広い面積ですが、人口が少ないため人口密度が低い州です。そのため、州都のボイシを除いては非常にゆったりとした印象です。
アイダホ州の特徴を語る上で欠かせない要素は2つです。ひとつは「宝石の州」と呼ばれる所以でもある、多くの宝石や鉱物が埋まっていることです。そして、もうひとつは「ジャガイモの生産地」ということです。アメリカ国内で消費されるジャガイモの13パーセントはアイダホ州で生産されているほどです。
宝石の州と呼ばれるようになった背景には、世界で2ヶ所でしか見つからないスター・ガーネットが産出される場所であることや、インディアンが生活をしていた時代から希少な鉱物が発掘されていたことがあります。そもそも、アイダホ州の名称はインディアンの言葉で「山の宝石」を意味なのです。
また、アイダホ州はアメリカ国内でも「ジャガイモの産地」として知られており、アイダホ州の車のナンバープレートには「Famous Potatoes」という言葉が欠かれているほどです。輸入に頼ること多いアメリカのなかでも、自国生産のジャガイモは誇れるものなのです。
近年アイダホ州において注目されつつある現象が、観光産業の増加と人口増加です。アメリカ大陸北西部、ロッキー山脈に面しているアイダホ州は、州の面積の60パーセント以上がいまだに未開発の土地とされており、合衆国森林局や土地管理局など政府機関によって管理されています。
近隣のアリゾナ州やユタ州にはグランドキャニオン、モニュメントバレー、セドナなどアメリカを代表する大自然の観光名所が点在していますが、いずれも観光地化され、常に混雑しているような状況を受け、より手つかずの自然が残るアイダホ州を訪れる人が増えているのです。これに連動して観光産業も伸びています。
また、リタイア後の余生を過ごす場所としても人気があり、温暖ながら人が多いカリフォルニア州やフロリダ州よりも、人口密度が少なく穏やかなアイダホ州に移り住む人が増えているのです。
ここ数年、アイダホ州は60パーセント以上が手つかずの自然というところに注目した企業の転出も増えています。とくに未開発エリアに眠る鉱物資源に期待する企業や、研究者たちが集まってきており、銅やモリブデンと呼ばれる機械や半導体産業で注目されている金属材料の発掘が進められています。
アメリカの半導体メーカーのマイクロンやヒューレット&パッカードはアイダホ州に本社または生産拠点を置いているため、アイダホ州はいずれ農業からIT産業に移行すると見る声もあります。
このようにアイダホ州は他州よりも目立った特徴はないかもしれませんが、これからの将来、大きく変貌を迎える可能性がある州と言えます。その鍵を握るのが、未開発の土地なのです。
アイダホ州の歴史
アイダホ州は、1890年に43番目の州として認められました。州としての歴史は浅いものの、おおよそ15,000年前には人類が生活していたとされるいくつかの証拠が発見されています。北アメリカ大陸では最古の出土品のため、アイダホ州がアメリカ大陸のなかで一番歴史が古いとする見解もあります。
アイダホ州の歴史を知るうえではインディアンとの関係を知る必要があります。もともと、アイダホ州のエリアでは、ネズ・パース族(ネ・ペルセ族)などのインディアンが生活をしていましたが、1805年頃にルイス・クラーク探検隊がこの周辺を訪れ、インディアンと白人が接触するようになりました。
ネズ・パース族は白人を友好的に迎え、他のインディアン部族と衝突を繰り返す白人を保護するなどして白人との関係は良好でした。当時のインディアンとしては珍しくキリスト教を受け入れ、白人からすれば「好都合」だったのです。
アイダホの辺りにいるインディアンは友好的だと噂は広まり、多くの入植者たちが土地を求めてやってきます。入植者との争いを避け続けた結果、ネズ・パース族の土地の8分の7は奪われてしまいました。
1868年、白人とネズ・パース族との間で条約が結ばれ、ネズ・パース族の聖地であるワロワ峡谷が返還されることが決定しますが、その場所で金鉱が見つかったため、再び白人によって没収されてしまいます。
アメリカ政府によって土地を明け渡すことと、強制移住を強いられたこの周辺のインディアン部族はそれを拒否し戦闘を決意しますが、ネズ・パース族は白人との争いを避けて、現在のモンタナ州からカナダに向けて約2,700キロ逃亡します。この逃避行は絶望的な行動とされ、全米の新聞で報じられたほどです。
逃避行の途中、アメリカ軍によってネズ・パース族は無差別に殺害されてしまいます。部族のジョゼフ酋長はルーズベルト大統領に、自分たちが直面している状況を直訴しましたが、大統領は無視を貫きます。結局、ネズ・パース族は自分たちの聖地であるワロワ峡谷に戻ることは生涯なかったのです。
1871年、アメリカ政府はインディアンを独立国家とは認めないと決議します。これにより、政府はおおよそ450,000平方キロメートルの土地をインディアンから奪いとったのです。
強引に土地を奪い、インディアンを大量殺害し続けた白人たちでさえも優しく出迎え、最後まで白人との争いを避け続けたネズ・パース族のジョゼフ酋長は「赤いナポレオン」と称され、現代にも続くアイダホ州民の穏やかな性格や、ライフスタイルの根幹になっているとされています。
アイダホ州では、白人が築いた現代社会において、尊敬されているのが白人によって絶滅させられたインディアンの酋長という皮肉な結果を招いています。
インディアンからの土地を奪った後は、アメリカとイギリスが領土の主権を主張します。しかし、1846年にはアメリカ政府が支配権を取得し、アイダホはオレゴン州の支配下に置かれました。その後、オレゴン州は州として認められますが、アイダホはワシントン準州、ダコタ準州など明確にならないまま時間が経過します。
その後、アイダホの準州都の移行や、ネバダ州がすでに州に昇格していたことなど様々なことが原因となり、準州としての立場が取れなくなる形で州に昇格しました。このような背景があるため、アイダホ州は準州から州への昇格が遅くなったのです。
アイダホ州の政治情勢
アイダホ州は2012年、2016年の大統領選で共和党を支持しています。とくに2000年以降は圧倒的に共和党の方が強く、70パーセント近くを占めています。
南北戦争後、アメリカ各地から民主党の政治家がアイダホ州に集結し、民主党の一大勢力が作られましたが、準州知事などは共和党員だったため、州内での衝突が激化し「ねじれた州」として知られるようになった歴史があります。
アイダホ州の経済
2018年時点、アイダホ州の失業率は2.9パーセントで、アメリカのなかでも低い数値です。アイダホ州では、古くから続く農業や林業などに加えて、観光業や核エネルギー産業など幅広い雇用状況があることが特徴です。
さらに、今日では科学技術産業の躍進が続いており、半導体生産、コンピューター設計などでも業績を上げています。今後の将来で期待されている産業のひとつが、鉱物資源です。州の60パーセント以上が未開発とされている豊富な土地に眠る鉱物資源は、発掘されれば大きな経済成長が見込まれています。しかし、環境保護への課題も残るため、州政府にとっては悩ましい部分と言えるでしょう。
アイダホ州の税金
2018年時点で、アイダホ州の消費税は6.03パーセントです。州税が6パーセント、地方税の平均が0.03パーセントという内訳です。他州と比較して、地方税が少ないことが特徴と言えます。ただし、州内の場所によっては地方税だけで6.5パーセント上乗せされるところもあります。
アメリカでは食料品には課税されないことが多いのですが、アイダホ州では食料品も課税対象のため、実質的には生活費は高く感じるでしょう。
アイダホ州の銃や薬物問題
アイダホ州では、医療目的でも娯楽目的でもマリファナは禁止されています。保守的な共和党が実権を取り続けているため当然の結果とも言えます。銃への取り組みグレードは最低ランクの「F」とされており、銃を使った犯罪が多いことも特徴です。
アイダホ州の教育または宗教事情
アイダホ州にはアイダホ大学やボイシ州立大学など3つの総合大学があります。アメリカのなかでも学費の安さはトップ10に入るほどとされています。いずれも広大な土地や自然環境に恵まれたキャンパスのため、学ぶ環境はアメリカでもトップクラスです。
アイダホ州の宗教は、キリスト教が多いものの無宗教の人が多いことも特徴と言えるでしょう。州民の25パーセント以上は無宗教とされています。西海岸に多い無宗教の人が移住してきていることが原因と考えられています。
まとめ
アイダホ州を知るうえで、白人とインディアンの関係、今後開発が進むかもしれない鉱物資源が多く眠る場所ということを知っておくといいでしょう。
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