金融業界といえば、最新技術の導入がどこよりも早くなされる点から、アメリカの動向を探ることが今後の日本の金融業界を考える上でとても重要になっています。今回は、アメリカの金融業界で注目されている6つのキーワードについてご説明させていただきます。
人工知能技術やブロックチェーン技術はアメリカのシリコンバレーが発祥の地であり、世界を代表する大手投資銀行であるゴールドマンサックスやJPモルガン、モルガンスタンレーなどがそれらの技術に巨額投資していることで注目を集めています。仮想通貨投資は株式投資や国債売買同様に資産形成の手段の一つとして注目を集めています。ユニコーンは未上場企業のIPOと深く関係していて巨額のお金が動く目印として動向を押さえておく必要がありますし、スマートベータをはじめとしたより効果的な資産運用の方法は、高齢化が進むアメリカでは特に重要視されています。また、アメリカ本土からカリフォルニア州の離脱を示すCALEXITはアメリカの経済の地盤が崩れることを意味し、ドルの信頼性や本土の経済力の降下といった世界経済に大きく影響するでしょう。
「人工知能」技術
人工知能といえば、現在運転手不用の自家用車やドローン、音声認知機などで人々の暮らしをより便利なものにするとし、期待されています。ロボットのようなものを思い浮かべる方が多いかと思いますが、実際に企業で導入されているのはロボットのような形に優れたものではなく、機能性重視である機械が多いです。金融業界では人工知能の代替によりこれまで業界の花形の存在であった株式・為替取引のトレーダー、証券アナリスト、ファンドマネジャーを雇う必要性がなくなり、人間の雇用機会が大きく人工知能に奪われることを危惧されています。
今年の2月に世界最大級の投資銀行であるゴールドマン・サックスが人工知能を導入し、どこまで自動で株式取引ができるかという実験を行い、トレーダー 600人の労働力を代替することが可能だと発表し、世界中の金融業界に衝撃が走りました。今までは、投資銀行のトレーダーといえば、業界の花形の職業で、お給料も平均年俸 5500万円(50,0000USD)と高給で、皆の憧れの職業でした。しかし、トレーダー600人は解雇され、代わりに株取引をする人工知能とそれを支える 200人の技術者が雇用されたということで、これは、金融業界であっても必要とされるのは、金融知識ではなく技術力だということを表しています。金融業界での人工知能の大幅な導入により、技術者はより多くの雇用機会に恵まれると予想されます。
では、米国と日本における違いはどうでしょうか。人工知能についていち早く研究開発を行ってきたのはGoogle、 Apple、Microsoft、IBM などのシリコンバレーの世界を代表する企業群です。その為、未だ研究段階の日本とは違い、上記に例を挙げたように米国では研究を終えビジネスの現場に実際に取り入れていることが傾向として挙げられます。
「ブロックチェーン」技術
ブロックチェーンという単語を耳にしたことはありますか?
現在話題の仮想通貨であるビットコインもこのブロックチェーンという技術から生まれたものなのです。ブロックチェーンは、ナカモト サトシという方が作ったと言われ、これからの金融業界を支えるにあたり、とても大きな役割を持っています。具体的に、仮想通貨を誰から誰へいくら取引したかを記録して一つのブロックとして保存する技術です。従来のインターネット上では、外部からハッキングされて個人情報や企業の顧客情報、機密事項などが漏洩したり、予め記録されたものが書き換えられる危険性がありました。しかしながら、ブロックチェーンは、一つ一つの情報がブロックとして、また関連情報は鎖となって記録しているため、情報の書き換えをすることが不可能になったので、オンライン上での犯罪はなくなると言えます。
今までは、上記のような情報漏洩の危険性がある為、自分の個人情報をオンラインで提供することに抵抗があり、オンラインでの金融取引やお買い物を避けている方も多かったと思います。しかし、このブロックチェーンの導入が進めば、オンライン上での金融取引が情報漏洩の心配がないという点で、金融機関も企業も一般の方も安心してオンラインでのサービスを受けることができ、ますますオンラインビジネスは進化していくでしょう。
アメリカでは、半導体素子メーカーのインテルにより、ブロックチェーン技術をさらに利用したシリコンブロックチェーンが開発されたばかりです。従来のブロックチェーンはProof Of Work というコンセンサスアルゴリズム(合意の方法)が使われており、時間と大量の電力を必要とするものでした。しかし、この最新のシリコンブロックチェーンはProof Of Elapsed Time というコンセンサスアルゴリスムが使われていて、インテルの半導体の中に保護された領域を作るSGXsという命令セットが含まれています。その保護された領域の中にユーザーの重要なデータを入れておくことで他のスパイウェアなどから隠すことができ、その結果、シリコンブロックチェーンはよりセキュリティレベルが高いシステムを作ることができました。
「仮想通貨」
日本では仮想通貨の一つであるビットコインが今年始めから注目が集まっていますね。アメリカではコンセンサス2017という仮想通貨のカンファレンスがあり、今年はニューヨークで5月末に開催されました。ニューヨークでは、ビットコインだけでなく、イーサリアム、ダッシュ、リップル、ネム、オーガーなど様々な種類の仮想通貨が注目されています。仮想通貨の情報ウェブサイトであるCryptocoins Newsによると、仮想通貨の聖地シリコンバレーを中心にアメリカの仮想通貨ユーザー数は世界で一番多く、ビットコイン専用ATMの数も世界で一番多いそうです。また、テキサス州、ネバダ州、ニューハンプシャー州などで仮想通貨の取引に関する課税を撤廃するといった仮想通貨への敷居を低くする具体的な取り組みを各州政府が行っていることもアメリカで仮想通貨が人気を呼び、広がっている要因です。
日本では、仮想通貨への投資に積極的でブログなどを通して知識提供をしていらっしゃる方もいれば、仮想通貨は取引の中心となる場所や責任者がいない為、信用ができず一切投資はしていないという方もいらっしゃいます。日本は金融機関として一番銀行の信頼が厚く、特にメガバンク系の銀行の意思決定により、これからの日本の仮想通貨普及情報に関わってくると思います。三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループでは既に仮想通貨の導入がなされており、その普及度によって将来的には仮想通貨を所有していないと日々の生活ができない日が来るかもしれません。
「ユニコーン」
ユニコーンとは、SnapchatやUber, Pinterest, AirbnbやDropboxなどの会社設立から日は経っていないが、最新のテクノロジーを提供している時価総額10億円以上の会社のことを言います。これは、最新技術と起業が盛んに行われ、優秀なベンチャー企業が次々と生まれてくるアメリカならではの金融用語だと言えます。これらの企業は投資家からとても注目されていて、投資するか否かの判断がとても難しい企業だと言われています。なぜなら、ユニコーンは時価総額は巨額であることが多いものの、キャッシュフロー(現金)はマイナスであることが多いため、今後の事業が上手くいかないと簡単に倒産しています恐れがあるからです。
大きなベンチャー企業の中でも時価総額によってクラス分けがあり、ユニコーンの中でも時価総額100億円以上の企業をデカコーン、時価総額1000億円以上のものをヘクトコーンと言います。現在では、時間や空間などを他人と共有するビジネスであるシェアリングエコノミーのユニコーンが注目株であり、具体的な会社としてはUberやAirbnbなどが挙げられます。また、世界中の旅行情報を提供しているTripAdvisorやYelpなどもユニコーンの例です。
一つ注意点としては、ユニコーンと名乗れるのは、株式を公開していない企業に限られるので、アマゾンやアリババなどは株式を公開するまではユニコーンに属していましたが、株式公開をしている現在ではユニコーンではありません。ユニコーンは最新技術を使ったベンチャー企業が多いので、既存の企業であるフェイスブックがユニコーンのインスタグラムを買収したように、大企業が最新技術の導入を求めてユニコーンを株式上場前に買収してしまうことが多いです。
「スマートベータ」
スマートベータとは主に投資信託の運用で扱われている金融業界で現在注目されている運用方法です。今までは金融業界の投資家は、企業の時価総額で株価を割り出し、市場の株価の値段が計算した株価より大きければ売り、小さければ買うといった分析方法をとっていました。しかしそれでは情報が少なく、確実性が薄いため、割高な株を買ってしまうことも多々ありました。
しかしながら、スマートベータ運用では、市場の変動値を表すベータを考慮して運用するため、より質の高い銘柄を見分けて投資することができ、今までより高い利益を得ることができるようになってきています。野村證券をはじめとした証券会社や投資信託を中心に扱う会社でスマートベータを利用した投資信託の商品が出てきています。今までの投資信託より、より投資に対するリターンが高く、収益の安定性もある為、人気が出て投資市場に皆さんの資金が流れ、日本の経済が活性化していくことが期待できますね。
「CALEXIT」
今年の初めに行われた大統領選挙でカリフォルニア州の市民の過半数である61.5%がヒラリークリントンに投票したことから、州として彼女を次期大統領にと発表しました。ところが、同州の意思に反してアメリカとしてはトランプが大統領に選ばれました。トランプ大統領の移民否定やカリフォルニア州の、国土で一番高い税金の使い道が市民に還元されていないことに不満を持ったカリフォルニア州民が同州をアメリカ合衆国から独立させて、一つの国家として立ち上がることを目的として結成された「Yes California」という市民団体による独立運動が現在盛んに取り上げられるようになりました。もし再来年の国民投票でカリフォルニア州がアメリカ合衆国から独立を果たせば、これがCALEXITと呼ばれるようになります。
カルフォルニア州はシリコンバレーやハリウッドなど一つの州内で多岐に渡る世界最先端の業界を持ち、GDPはアメリカ国内で1位を誇り、フランス全土のGDPに匹敵する程度の経済力を持っています。今のところは、通商や通貨、パスポートなどのことを考えるとCALEXITが再来年に実現するのは難しいと言われていますが、もし万が一実現すれば、アメリカは揺るぎない経済力を失うことになります。しかしカリフォルニア州は、独立が叶えば、一つの国家として移民をこれからも受け入れ続け、ダイバーシティによる経済発展が注目されています。そもそもアメリカは世界中から集まった移民の功績により反映してきたという歴史を持つ国です。それを蔑ろにせず、移民を経済活動の反映に必要不可欠な存在として大切にするカリフォルニア州の考えは本当に大切なことですし、本土もその姿勢を見習うべきではないでしょうか。
まとめ
今回は人工知能、ブロックチェーン、仮想通貨、ユニコーン、スマートベータ、CALEXITと米国の金融業界で最も注目されているワード6つを挙げて説明させていただきました。少し最先端の金融知識が身についたのではないでしょうか。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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