駐屯地創立記念と創隊記念は違う!
陸上自衛隊が広報活動を兼ねて実施する記念行事には二種類あります。一つは『創立記念行事』で、もう一つは『創隊記念行事』です。
今回ご紹介する創立記念行事とは、陸上自衛隊の駐屯地が創立された日を記念して、年に1回行われる祝賀行事です。
創隊記念行事は、駐屯地内に所在する部隊が新編された日を記念して、年に1回行なわれる祝賀行事です。この為、陸上自衛隊の駐屯地では、二つの記念行事が発生する事になります。
大きなイベントなので二つの行事を一つにする
ただし、創立記念として実行しても、創隊記念として実行しても、いずれの場合も駐屯地単位で取り組む大きな行事になります。大々的に広報活動をして、多くの来賓や観客を集める地域を代表する大きなイベントになるので実行組織も大規模になります。そんな大きな行事を年に二回も実行するのは大変です。
その為、創立記念と創隊記念はどの駐屯地でも一緒に行っています。駐屯地の創立記念と一緒に行事を行う部隊は、その駐屯地で一番部隊の序列が上の部隊、つまり所属人員が一番多い部隊の行事と一緒に行います。
では、創立記念と創隊記念はどこが違うのかというと、実は行事の内容はほとんど同じです。記念行事のメインは観閲式なので『部隊』が主役です。したがって名目が違うだけなので同じ内容の行事を二回もする必要はないのです。
これは、夫婦の結婚記念日を盛大に、二回やるのと同じ事で夫の創立記念と、妻の創隊記念を同じ日にやるという事と同じです。創立記念の主役は『駐屯地司令』で、創隊記念の主役は『部隊司令官』という事だけの話です。
年に2回記念行事が行われる駐屯地もある!
ところが大きな駐屯地の中には、普通科連隊以上の大きい部隊と、普通科連隊クラスの部隊が複数ある駐屯地があります。
たとえば香川県の善通寺市に所在する『善通寺駐屯地』がそうです。善通寺駐屯地を代表する部隊は第14旅団で、しかも第14旅団司令部があります。同旅団は、四国と岡山に展開している広範囲な警備隊区を持つ大部隊です。
この場合『善通寺駐屯地 創立○○周年記念行事・第14旅団創隊 ○○周年記念行事』という名目で一緒に行います。ところが、第14旅団隷下には善通寺にある『第15普通科連隊』と、高知県泉南市にある『第50普通科連隊』があります。
普通科連隊は保有人員が約500名~1000名規模の大きな部隊なので、単独で行事をできるだけの隊力があります。その為、第15普通科連隊の場合は駐屯地創隊記念行事とは別に、日を改めて『第15普通科連隊 創隊○○周年記念行事』を実施しています。
ただし、駐屯地記念行事に参加しているので行事の規模は駐屯地行事より小規模になります。また、駐屯地行事よりも先に行われる場合もあります。
(以下、普通科連隊は、連隊と省略します。)
編成の都合で二つの駐屯地行事をする部隊も!
また、高知駐屯地の50連隊の場合は、15連隊とは少し事情が異なります。50連隊は第14旅団隷下部隊として善通寺駐屯地の記念行事に参加します。ところが50連隊が所在しているのは高知駐屯地です。
つまり、50連隊は第14旅団の基幹部隊であるのと同時に、高知駐屯地の主力部隊でもあるのです。この50連隊の立場を会社に例えると大会社の『善通寺株式会社』の重役であり、同時に中小企業の『高知株式会社』の「社長」という訳です。
従って50連隊の場合は駐屯地創立記念行事を2回行う事になるのです。ただし旅団隷下部隊なので15連隊(善通寺市)、14特科隊(愛媛県松山市)、14戦車隊(岡山県奈義町)14偵察隊(善通寺市)など兄弟部隊の支援を受け易いという利点があります。
駐屯地の表札はどういうルール?
駐屯地の表札は、駐屯地名と駐屯地を代表する部隊名が表札として正門に表示されます。ただし駐屯地の規模が大きい場合、普通科連隊クラスの大きな部隊がいくつも駐屯している場合があります。
そういう場合は、複数の代表的な部隊名を掲げます。例えば正門の片方に『陸上自衛隊○○駐屯地』と表示し、もう片方には『第〇〇旅団』さらに『第○○教育連隊』という具合に部隊名を併記する場合もあります。
駐屯地司令と部隊長は兼務できる?
駐屯地の司令官を『駐屯地司令』と言います。そして駐屯地に所在する一番大きい部隊の部隊長も司令官です。ただし、陸上自衛隊の場合、司令官というと駐屯地司令と混同するので通常は部隊名を頭に付けた『部隊長』名を呼称します。
駐屯地司令と部隊長は通常、兼務しません。駐屯地司令は戦闘部隊の任務とは別の勤務があります。したがって、兼務すれば当然、駐屯地司令としての業務に支障が出るからです。ただし、駐屯地司令と駐屯地業務隊長などの戦闘部隊以外の部隊長と兼務する事は良くあります。
これは、駐屯地業務隊が戦闘部隊では無いので有事の際でも駐屯地を離れる事が無いからです。
駐屯地に無ければ不都合な部隊とは?
駐屯地に所在する戦闘職種の部隊が一つだけという駐屯地はありますが、その場合でも、駐屯地に所在する部隊が一つだけの駐屯地はありません。なぜなら駐屯地として機能する為に必ず無いと困る部隊があるからです。
まず、駐屯地に絶対に必要な部隊は『業務隊』です。業務隊には隊員の被服の交付や管理。さらに被服や装具の修理をする工場や、洗濯工場・木工所。厚生施設を管理する厚生課など大事な業務を行っている部署が一杯あります。
さらに、駐屯地と駐屯地の連絡業務を担当する基地通信隊。給与業務や会計処理を行う会計隊。さらに、調査隊、警務隊などの諸隊も人員は少ないですが駐屯地には無くてはならない部隊です。ただし、小さい駐屯地や分屯地のような場合は無い部隊もあります。
記念行事の日程はどうやって決まる!?
創隊記念行事の日程は誕生日のように決まった日に必ずやらなければいけないわけではなく年間の業務の事情により、開催日が早くなったり遅くなったりする場合があります。また滅多にないことですが大規模災害の出動と重なれば、中止になる場合もあります。
ともあれ、一年前から年度業務予定(マスタースケジュール)で大まかな実施可能時期が決定されます。ただし、一般公開する行事の為、地域の行事との関りが出てくるので、自衛隊だけの都合で日程を決定する事ができません。
例えば秋に開催する予定で計画を進めていても駐屯地周辺の学校の運動会と重なれば子供や父兄は記念行事に来られません。そう言う場合に開催したら参加者が激減してしまいます。
また地方自治体や地域の行事と重なっても参加人員に大きな影響があります。
例えば秋祭りの日に開催したりすれば、やはり観客は激減してしまいます。したがって年度計画では『10月の下旬』という具合に大まかな実施日が予定されます。
ただし大きな行事になので、いつまでも日程が決まらない場合、パンフレットや、広報活動が間に合わなくなります。その為、自治体や教育機関などの行事が解った時点で早急に決定されるのが普通です。
記念行事の内容について
記念行事の内容は、各駐屯地によって色々な趣向を凝らしたイベントが行われます。必ずあるのは記念行事の正式な式典である観閲式です。各種イベントは駐屯地の規模によって異なり隊員数の多い駐屯地の行事はイベントも多いです。
主な式典とイベントの一般的な内容は次の通りです。
(なお、観閲式以外の行事については、駐屯地により内容は異なります。)
1 観閲式
式辞、徒歩行進、車両行進などが行われ、航空機が参加することもあります。
2 模擬戦闘訓練
駐屯地の営庭(グランド)で小隊規模の模擬戦闘の訓練展示が行われます。この時、砲迫や戦車の空包射撃などがあります。また火炎放射器などの攻撃を展示する場合もあります。
3 装備品等の表示
個人装備火器をはじめ、機関銃、対空砲、レーダー、指揮通信車、戦車などの装備品を展示しています。
4 空挺降下及び戦闘降下展示
第1空挺団(千葉県習志野駐屯地)の空挺隊員による空挺降下の展示です。またレンジャー隊員によるヘリボーン作戦の展示をする時もあります。
5 体験試乗
戦車体験搭乗、ジープ体験搭乗、ヘリコプターの体験搭乗などのイベントです。
6 音楽隊演奏
陸上自衛隊の方面音楽隊や師団等の音楽隊の音楽演奏があります。
7 模擬売店
駐屯地内で各種の模擬売店が開設されます。
8 その他のイベント
祝賀会食、ファンシードリル、格闘訓練展示、銃剣道競技展示試合、レンジャーロープ訓練展示、子供広場の各種アトラクション(輪投げ、金魚すくい、ゲーム)
模擬売店のスタッフの微妙な立場
学校の学園祭や地方自治体のイベントでもよく模擬売店が出ます。焼きそばや、うどん、フランクフルト、かき氷など季節に合わせて色々な売店が出ます。陸上自衛隊の記念行事の際も、部外から観客が大挙して来訪する為、売店が定番となります。
人気が高いのは、自衛隊グッズの販売で次に飲食コーナーの人気が高いです。この売店のスタッフは部外者に依頼する場合と自衛隊の隊員がやる場合があります。
さて、この模擬売店ですが陸上自衛隊の駐屯地内でやる場合、ちょっとした問題が発生します。どんな問題なのというと陸上自衛隊の駐屯地は国有地なのです。
したがって国有地を使用することになるので施設使用許可が必要で、さらに施設使用料が必要になります。ただし、金額は高くなく模擬売店、全店舗(10店舗~30店舗)だとしても、合計して数千円程度です。これは、一店舗当たり数百円の金額です。
任意団体が大活躍する模擬売店!
ところが陸上自衛隊の隊員が模擬売店をするとなると、身分と立場がややこしくなります。特別職国家公務員である自衛官が営利行為をする事になるからです。その為に任意団体の立場を利用するという裏技があるのです。
国家公務員が営利行為をすると具合が悪いので活躍するのが『曹友会』と『修身会』です。曹友会とは自衛隊に在籍する准陸尉・陸曹長・1等陸曹・2等陸曹、・3等陸曹・陸曹候補生の自衛官で構成する任意団体です。
修身会というのは幹部自衛官で構成する任意団体です。任意団体(自治会組織)ですから自衛隊の規則の中には存在しない団体です。つまり任意団体の一員として売店のスタッフになる場合は、隊員ではなく一般人としての参加という立場です。
ただし、一般人という立場ですが公的な立場は自衛官です。記念行事は休日に行われるのですが、自衛官は平常勤務になるので、勤務中に売店のスタッフをしてボランティアをしているというややこしいことになります。
自衛官として平常勤務していながら、一般人の立場で国有地の施設の使用料を払わなくてはいけません。この場合、駐屯地曹友会、修身会などの任意団体から施設使用料が出ます。当然、国費は使えません。
従って隊員にしてみれば一般人の立場でボランティア活動をしている一方で、自衛官として記念日行事に参加しているという事になります。このやり方は、国有地を国家公務員が使用する際の問題点を任意団体という裏技で解決して円滑なイベントの実行を可能にしているのです。
元自衛官の来賓の祝辞は思いやりがある
観閲式の行われる式典の際は、執行官の祝辞・来賓の祝辞はつきものです。こ来賓の祝辞は、地元選出の国会議員や地方の行政府の長などの特別招待者が、行いますが、過去には長時間話す来賓もいたそうですが、時代の変化とともに祝辞は短くなる傾向になっており、昨今の式辞は平均すると3分程度になっていると言われています。
なお特別招待者の中には自衛隊出身の来賓もいます。元OBの祝辞は一般的にかなり短めです。理由はいたって簡単で、現役の時に観閲式に参加した経験を持っているので、長時間整列して立っている隊員の苦労が解るからです。
空自の戦闘機が飛んで来る意外な裏ワザ!
記念行事にF15などの航空自衛隊の戦闘機が展示飛行する場合があります。陸上自衛隊の行事に、航空自衛隊が協力してくれていることになりますが、この場合、航空自衛隊の目的は、記念日行事の支援ではありません。
理由は、戦闘機の飛行の目的が創立記念行事では具合が悪いのです。とはいえ陸上自衛隊の担当者と航空自衛隊との間で調整はしていますが、航空自衛隊の命令では建前上は、支援や協力をする事にはなっていません。
なぜなら駐屯地の創隊記念行事のアトラクションに参加することになると目的が記念行事の為の飛行になります。そんな目的だけで高い航空燃料を使う戦闘機を使っていたら防衛費がいくらあっても足りません。
その為、目的はあくまで偵察訓練などの航空自衛隊の訓練計画に基づいて飛行しているのです。そして、その飛行経路を少し変えるだけで記念行事を行っている駐屯地の上空を通過するのです。
一例をあげれば、九州北部の偵察訓練を計画したとして、飛行経路の途中に、四国の善通寺駐屯地の上空を通過するという訳です。その時、たまたま善通寺駐屯地で記念行事が行われていて、お客さんはラッキーという訳です。
実際は細かい時間調整をしている訳でアトラクションとして紹介するのですが、航空自衛隊の計画の目的は、あくまで九州空域の地形偵察!そして「偶然、善通寺駐屯地で記念行事をしていた!」なのです。
ただし、陸上自衛隊の航空隊のヘリが参加する場合の目的は同じ予算を使う組織なので記念日行事の参加でも戦闘訓練でも全然問題はないわけです。
一斉検索など警備は厳戒態勢!
記念行事の前後に必ずあるのが『駐屯地一斉検索』です。この検索には、当日参加可能な全隊員が参加して、駐屯地内に不審者、不審物がないか検索します。また警備についても駐屯地警衛隊、警務隊、情報保全隊、調査隊などの隊員が専属で警戒や交通統制に当たり事故の未然防止に努めます。
ちなみに駐屯地警衛隊は駐屯地の警戒、さらに正門をはじめ、その他の通用門も含めて出入りを監視警戒します。警務隊は『自衛隊の警察』で、記念行事の間は厳戒態勢を取ります。調査隊は民間人の服装で情報収集をする隊員です。
駐屯地内の各部隊も、部隊単位で管理する武器庫や立ち入り禁止場所の警戒を実施します。これを『自隊警戒』と言います。隊舎毎に警戒して、駐屯地の安全を守る為に行事が終わるまで警戒任務に当たります。
陸上自衛隊の駐屯地の創立記念行事は地方のイベントとしてはかなり大きなイベントとなり、旅団クラスの創立記念行事となると数万人の来訪者でにぎわい公共施設と駐屯地をつなぐシャトルバスも多数運行します。
また祝賀会食、前夜祭なども盛会に行われ地域のイベントとして各地域に密着した地域活性化の行事として人気があります。昨今の災害派遣での活躍もあって地域住民に親しまれる自衛隊として、駐屯地記念行事は地域の待ち遠しいイベントの一つとして定着しているのです。
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