「イージス艦」とは、イージスシステムを搭載した艦艇のこと
「イージス艦」は、ミサイルなどの空からの攻撃に対して高性能の防衛能力をもつ、イージスシステムを搭載した艦艇です。
イージスシステムとは、正式には「イージス武器システムMk.7」といい、英語では「Aegis Weapon System Mk.7」といいます。略称は、「AWS」です。
イージスシステムは、1960年代末にアメリカ海軍によって防空戦闘を重視して開発されました。数百km離はなれた多数の標的を追跡できる高性能レーダーと、それを瞬時に分析するコンピュータ、表的を迎撃する対空ミサイルを組み合わせたシステムで、艦隊を狙おうとするミサイルや空の脅威に対する絶対とも言える防御力を誇っています。
また、高度な情報処理能力とネットワーク機能をもつことから海上での軍事作戦の中核をになう存在でもあります。
なぜイージス艦が誕生したのか
イージス艦は、アメリカがロシアの攻撃力増大を受けて開発されました。
従来のアメリカの艦艇は、空母を中核とする空母打撃群を編成し、有事の際は複数の打撃群を投入することで、先進国でさえ屈服させる圧倒的な軍事力を誇っていました。しかし、ミサイルや戦闘機による飽和攻撃に弱いという弱点を持っていました。
ロシアは、この弱点を狙い、空母にミサイルを大量発射し、艦艇を沈めることでアメリカの戦力を大幅に削ぎました。アメリカは、ロシアからのミサイルの飽和攻撃から艦艇を守るためイージス艦を開発しました。
なお、世界初のイージス艦は「タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦」であり、1983年に誕生しました。「タイコンデロガ」という名は、18世紀に起こったフレンチ・インディアン戦争内の「タイコンデロガの戦い」に由来しています。
「イージス」という名前の意味は?
イージス艦の「イージス」は、ギリシャ神話に登場する女神・アテナの防具「アイギス」に由来しているそうです。
アイギスは、ありとあらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの能力を持つとされてい盾です。盾には、ギリシャ神話の怪物・メドゥーサの首がついており、見たものは石化するといわれています。
イージス艦の特徴は「高い防御力」にある
イージス艦の特徴は、レーダーを用いた防御力の高さにあります。
従来の艦隊は対空攻撃に弱く、航空からの攻撃1~2個程に対処するのが限界で、その判断も人に依存していたため、対応に遅れが生じることがありました。
しかし、イージス艦は、搭載されているイージスシステムによって、攻撃や情報に関するシステムが全てデータ化されており、自動的かつ迅速に対処することができます。
また、10以上もの対空攻撃に対処することが可能となっています。こうした防御力の高さから、イージス艦は、空母の中にハエさえも通さないと言われています。
さらに、イージスシステムは、レーダーによる防御力に加えて、「ヴァーティカル ローンチング システム(VLS)」)という、潜水艦を含む艦艇に使用されるミサイル発射システムを備えています。
レーダーの多機能性と、VLSの複合戦対応性とがあわさることで、イージスシステムは複合機能・複合戦闘システムといえる程の能力を有することとなりました。
アメリカ海軍のイージス艦には、防御用のイージスシステムとともに、攻撃用のトマホーク武器システムが搭載されています。「防御」「守り」「盾」といったイメージが強いイージス艦ですが、「防空」以外の各種戦についても特に弱体ということはありません。
日本にあるイージス艦は8つ
海上自衛隊は、アメリカ軍に次いで世界で2番目にイージス艦を保有しており、2021年3月時点で日本が現有しているイージス艦は、8隻です。
8隻の内訳は、「こんごう」型が4隻(「こんごう」/「きりしま」/「みょうこう」/「ちょうかい」)、そして「あたご」型が2隻(「あたご」、「あしがら」)、さらに「まや」型が2隻(「まや」、「はぐろ」)です。
ここでは、とくに有名なイージス艦をご紹介します。
護衛艦「こんごう」
護衛艦「こんごう」は、日本に最初に導入されたイージス艦です。「こんごう」を導入したことにより、日本は世界で2番目のイージス艦保有国となりました。
こんごうは、日本に導入されてからおよそ20年が経ちますが、今もなお海上自衛隊の主力として活躍しています。こんごうの索敵範囲はおよそ450kmといわれており、同時に6~10個の対空目標の対処にあたることが可能です。
護衛艦「あたご」
護衛艦「あたご」は、海上自衛隊初のイージス艦である「こんごう型」を元に、船体を延長して、艦載ヘリコプターの運用に対応したイージス艦です。さらに、ステルス性の高い艦艇でもあります。
護衛艦「あたご」は、アニメや映画に多数登場していて、これまでに登場した作品は、『バトルシップ』やアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』、『名探偵コナン 絶海の探偵』などがあります。
護衛艦「まや」
護衛艦「まや」は、「あたご型」をもとに電気推進を導入し、またイージスシステムも更新した発展型のイージス艦です。
まやの機関方式である、電気推進とガスタービンを組み合わせたハイブリッド推進は、イージス艦としては初めて採用されました。これにより、燃費の向上とライフサイクルコストの低減を図っています。
イージス艦を保有している国は少ない
高度な防御力を誇り、有事の際には海上の基地にもなる「イージス艦」ですが、実は世界的にはそう多く導入されていません。
それは、イージス艦に搭載されているイージスシステムのコストが高いことが理由です。イージスシステムは、一式そろえるためには873億円ものコストがかかります。これに加えて艦艇のコストも発生するため、イージス艦を購入するにはおおよそ1000億円が必要になるといわれています。
また、イージスシステムは、機密レベルが高いため、開発国であるアメリカの提供認可査定をクリアしなければ保有することができません。そのため、一定の経済力と信頼がある国家にのみ保有が許可されているようです。
現在、アメリカ海軍と日本の海上自衛隊に加え、「スペイン海軍」、「ノルウェー海軍」、「大韓民国海軍」、「オーストラリア海軍」などがイージス艦を保有しています。
参考その1:護衛艦「ひゅうが」(※イージス艦ではない)
イージス艦ではありませんが、有名な護衛艦の一つである「ひゅうが」について、合わせて解説します。
護衛艦「ひゅうが」は、艦首からまやの機関方式としては、電気推進とガスタービンを組み合わせたハイブリッド推進(COGLAG)をイージス艦としては初めて採用した。
ガスタービンは低速航行時には燃費が悪いため、低速時にはガスタービン発電機でモーターを動かす電気推進、高速時はモーターによる電気推進とガスタービンによる機械推進を組み合わせた複合推進で運転するもの。これにより、燃費の向上とライフサイクルコストの低減を図っている。艦尾まで甲板が平らになっている“全通甲板”と呼ばれる艦艇です。
ひゅうがは、東西冷戦時に世界でも珍しいヘリコプター搭載型艦艇として導入された護衛艦「はるな」が老朽化した際に、後継として建造されました。
2011年にドック入りする予定でしたが、同年に発生した東日本大震災を受けてドック入りは中止となり、ひゅうがはすぐさま被災地へ向かいました。そして、陸上自衛隊や消防隊などのヘリ基地として活躍します。ここには「トモダチ作戦」を展開していたアメリカ軍も着陸しました。
参考その2:護衛艦「いせ」(※イージス艦ではない)
もう一つ有名な護衛艦が、「いせ」です。
護衛艦「いせ」は、ヘリコプター搭載護衛艦であり、艦首から艦尾まで全通する195メートルの飛行甲板が特徴で、多数のヘリコプターを同時運用する能力を備えています。これにより、従来のヘリコプター搭載護衛艦よりも優れた能力を持つとされています。
また、輸送ヘリコプターや救難ヘリコプターにも対応できることから、災害派遣や国際平和活動など戦争以外の軍事作戦、水陸両用作戦の支援など多彩な任務に対応できます。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による東日本大震災に対しても、「ひゅうが」型の護衛艦は被災地への物資輸送や、被災者の入浴支援等を行いました。
まとめ
今回は、イージス艦についてご紹介しました。
イージス艦は、しばしば「イージス艦」という艦艇だと勘違いされていますが、「イージスシステム」という武器システムを搭載している艦艇のみがイージス艦を名乗ることができます。
なお、海上自衛隊では、年に数回イージス艦を含む艦艇見学イベントを開催しています。公式サイトにて日程が公開されますが、「イージス艦の見学」という分類ではなく「艦艇一般公開」という分類となっています。さらに、セキュリティーのため、どのイージス艦を見学できるのか直前まで分からず、日程も1週間~数日前まで公開されません。
気になる方は、根気よく海上自衛隊のイベント情報ページをチェックしましょう。
参考資料サイト
》Yahoo!ニュース|最新型イージス艦「まや」就役 海自初の「共同交戦能力」搭載 漢字では「摩耶」
お詫びと訂正
記事の一部に誤りがありました、訂正してお詫びいたします。
(2022年12月13日訂正)
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