警察組織での取り組みについて
交番での会話支援資料の活用
日本語が理解できない外国人の方でも、道を聞きたい時や落とし物をしてしまった時などで交番を利用する機会が増えています。日本各地の交番で、英語の簡単な日常会話集を配布して交番勤務の警察官が活用しているほか、言葉が通じなくても相手の要望が伝わるように、イラスト付きの会話支援資料の活用などを行っています。
人の多いところでは外国語対応可能な職員や翻訳機を設置
人の往来の多い繁華街にある交番や、ターミナル駅の鉄道警察隊や駅前交番などには、外国語対応ができる各都道府県警察から通訳人として指定・登録を受けている警察職員や多言語の翻訳ができるタブレット型の翻訳機を設置しています。
110番通報には三者通話システム
不意の事故や事件に外国人の方が巻き込まれた時には、110番通報が活用されることも少なくありません。110番通報を受ける各警察本部の通信指令室に通訳を設置し、外国人の通報者・通信指令室の警察官・通訳の三者で通話を行う「三者通話システム」を導入している警察本部も多くなりました。
観光地での臨時交番の設置
スキーシーズンや登山シーズン、秋の紅葉シーズンなど、観光地のある警察本部では外国人観光客の増加が見込まれるシーズンに、観光地に外国語での対応が可能な職員を配置した臨時交番を設置しています。
外国語による現場広報活動
皇居での新年一般参賀や国際的なスポーツのイベントなど、一般市民が多く参加する、かつ大きな暴動やテロが起きる可能性のあるイベントに対してはイベントが開かれる地域を管轄する警察本部から機動隊を始めとした警察官が出動し、現場の警備にあたります。一般市民のほか、多くの外国人の方の参加も見込まれるイベントに対しては、警察車両のサインカーを使用し、電光掲示板で日本語だけでなく外国語でアナウンスを流すなど、現場の広報活動も行っています。
外部からの委託に加え、内部の通訳者の育成
110番通報の通信指令室で活用されているように、外部から委託で通訳者を多く取り入れているのと同時に、警察大学校国際警察センターにて言語別の語学教養を実施し、警察内部の通訳者の育成にも取り組んでいます。
常日頃から外国人との交流を図る
外国の文化に触れる職場教養を警察職員へ推奨するほか、外国人の方からの相談や対応もスムーズに受けられるように、日ごろから外国関係各所や外国人の方のコミュニティとの連絡や関係強化、連携を行っています。
消防組織での取り組みについて
4カ国語表示のフリップボードの活用
観光地や繁華街で火災や事故、災害が発生した時には速やかに非難行動を行わなければいけません。外国人観光客も多く訪れる北海道の小樽市消防本部では日本語が分からない外国人の方でも、スムーズに避難誘導ができるように、「避難しろ」という意味の英語・中国語・韓国語・ロシア語の4カ国語表示のフリップボードを作成しました。導入前に、市の国際交流担当者やイベントを通じて、実際に外国人の方に通じるか検証を行ったところ、容易な理解が得られたため、導入に至りました。フリップボードは、小樽市消防本部がPRを行っているほか、消防本部の公式サイトからのダウンロードも可能です。
各言語対応の救急車利用ガイドの作成
総務省消防庁では、外国人の方でもスムーズに救急車を利用できるように、英語・中国語・韓国語・イタリア語・フランス語・タイ語に対応した「救急車利用ガイド」を作成し、公開しています。日本語版の救急車利用ガイドと同じく、救急車を呼ぶ前の応急処置の重要性や、救急車到着までに用意しておいた方が良い物、行った応急手当や持病の有無など救急隊員に伝えるべき項目、救急車を呼ぶべきか迷った時に相談できる電話ダイアルの紹介、すぐに救急車を呼ぶべきイラスト付きの大人・子供別の症状の紹介などを各外国語にて紹介しています。各消防本部や消防署などで配布しているほか、総務省消防庁の公式サイトから、PDF版・フライヤー版としてダウンロードも可能です。
避難支援アプリの外国語導入促進
総務省消防庁や各都道府県消防本部からは、スマートフォンにダウンロードして使用できる、災害時の避難支援アプリも多くリリースされています。消防組織だけでなく、民間からリリースされる避難支援アプリも多くなりました。総務省消防庁では、の「避難支援アプリの機能に関する検討会」にて、避難支援アプリの外国語導入促進を取り決めました。津波浸水想定エリアや指定緊急避難場所などの外国語での案内や、絵文字(ピクトグラムと呼ばれる)を使って日本語が通じなくても分かりやすい避難ルートの提示などが今後避難支援アプリに盛り込まれる予定です。また、日本人も含めて今後より避難支援アプリが有効活用されるように、同時に津波到達予測を含めた標高データの表示、通信障害に備えた周辺地域のデータを一時保存できる機能もリリース予定です。
消防職員教育の中に英語・国際理解を導入
各自治体消防本部の消防職員採用試験に合格すると、まず消防職員としての基礎を学ぶために消防学校で初任教育を受けます。この初任教育の中で、初歩的な英会話と消防分野での単語を英語で表現できるための「消防英語」が近年導入されるようになりました。また、消防大学校などで行われる上級幹部研修、中級幹部研修、初級幹部研修などの幹部教育においては、消防英語のほか、国際化の理解について学ぶ講義もあります。
さらに、特別救助技術研修、水難救助技術研修、救急救命士養成課程研修、救急標準課程研修、予防実務特別研修など、専門的な消防職員の技術育成のための研修過程では、消防英語のほか外国人の要救助者や傷病者にもスムーズに対応できる消防職員を育成すための「外国人傷病者対応要領」の講義も設けられています。
英語対応救急隊の配置
東京消防庁では、2014年4月より「英語対応救急隊」の運用を開始、東京都内14消防署36隊が配置されています。英語対応救急隊は、救急活動で必要な英会話や外国の異文化や生活様式に配慮した対応ができる救急隊員で構成されています。現在も毎年15日間にわたる英語対応救急隊育成のための研修を実施し、さらなる英語対応救急隊の拡充に努めています。
外国語会話技能者養成委託研修
119番通報を受けて指令を出す災害救急情報センターや各消防本部の指令室に勤務で、英語などの外国語で通報への対応が可能な消防職員や、国際対応力を持った消防職員である総務課兼務職員(国際業務)を育成するための「外国語会話技能者養成委託研修」が実施されています。ネイティブスピーカーを講師として招き、会話やロールプレイング、ミニゲームなどを実施する研修は5~10日間行われ、英語だけでなくフランス語や中国語、韓国語などの諸外国語での研修も行われています。
外国人への対応訓練
各消防署において、実際に外国人の方に傷病者や要救助者役として参加してもらい、外国語での救助や救急の対応訓練や演習が行われています。座学ではなく訓練や演習の中に外国語対応を組み込むことで、より消防職員が外国語を習得しやすい、対応しやすい体制を作っています。
消防職員の自発的な英語学習支援
東京消防庁では、災害活動や来訪者への対応、消防署の概要説明、消防関係用語の知識等基本的な英会話を身に着ける目的で、消防職員へ英会話教材「Basic English Expressions」を配布しています。さらに、集合教養形式で職員教養講座(英会話)や自由研修講座「TOEIC受験準備講習」を消防学校で開催し、消防職員の自発的な英語学習を支援しています。
国での取り組みについて
外国人観光案内所への支援
日本を訪れた外国人観光客の方が利用しやすい外国人観光案内所を作るための支援を国土交通省では行っています。一定の条件を満たした外国人観光案内所の事業所に対し、外国人観光案内所までの看板や地図、公式サイトやデジタルサイネージの多言語表記、無料の公共無線LANの整備、スタッフの研修費用やタブレット端末の導入費用など外国人観光案内所にかかる諸費用などの経費の3分の1を日本政府観光局が補助します。
無料公衆無線LAN整備促進協議会
総務省と観光庁が協力の元、2014年8月より「無料公衆無線LAN整備促進協議会」が設置されました。無料公衆無線LANの整備促進のためにエリアオーナーや通信事業者に対して利用可能エリア拡大の働きかけを行い、NTTグループの無線LANスポットは4年間の間で3,000から145,000か所へ増加、東京メトロ全駅に無料公衆無線LANサービスの設置などの実績があります。
道路案内標識の英語表記
日本の信号や街中、駅構内などにある案内表記は、日本語の地名や駅名、路線名などをそのままローマ字表記にしただけのため、以前から外国人の方からは「分かりにくい」という意見が多くありました。これを受けて、国土交通省では、信号の横などについている道路案内表記を、従来のローマ字表記から英語表記へ改善中です。(例:銀座通り口Ginzadoriguchi→Ginza-dori Ave. Entrance)また、道路案内標識と観光ガイドブックの地名表記同一化も行われています。
高速道路のナンバリング
複雑な出入り口のある高速道路の名称を、日本語が分からない外国人の方でも分かりやすいようにアルファベット+数字のシンプルなナンバリングを2020年までの導入を進めています。ナンバリングは元々の国道〇号線、の番号など日本人でも親しみある番号や同一起点など機能の似ている高速道路のグループ化などが行われ、外国人の方だけでなく日本人も分かりやすいナンバリングとなる予定です。
手ぶら観光の推進
日本の主要都市での移動は電車やバスが中心です。ところが、外国人観光客の方は、滞在期間が長いと荷物が多くなる、または日本各地で購入したお土産などがどうしても多くなるなどの理由で大きな荷物を持っての移動が発生しやすく、頻繁な乗り換えも必要な日本の観光では移動に支障が出てしまいます。これを受けて、観光庁では「手ぶら観光」を推進しています。
手ぶら観光とは、外国人観光客の方の荷物を駅や空港、商業施設などで一時預かり、そのまま利用する空港や駅、ホテルなどの配送するサービスです。手荷物の一時預かりサービスを提供している施設では「手ぶら観光」の共通ロゴマークを配布して分かりやすくし、外国人観光客の方への利便性を高くするだけでなく、一時手荷物置き場やコインロッカー不足の解消にも努めています。
地方自治体での取り組みについて
宮城県・静岡県・埼玉県の条例制定
外国人観光客だけでなく、日本に定住する外国人の増加に伴った取り組みも多くの地方自治体で行われています。宮城県では、国籍や民族の違いに関わらず、「宮城県民」としての人権の尊重と社会参画が図られる社会を作るために2007年7月より「多文化共生の形成の推進に関する条例」を施行しています。多角的な文化形成や定住外国人のための条例として日本で初めての条例です。
その後、静岡県では「多文化共生推進基本条例」、埼玉県でも「多文化共生キーパーソン制度」と、外国人定住者を対象とした条例が制定されています。
浜松市・大泉町の外国人支援センター
静岡県浜松市は自動車メーカーや楽器メーカーなどの工場が多く、工場で働く労働者として日本に移住した日系含むブラジル人やペルー人の方の割合がとても高い都市です。浜松市ではこれを受けて、日本人と外国人がともに暮らす街づくりのために、総合的な学習支援を行う「浜松市外国人学習支援センター」を設置しています。センターでは、外国人のための日本語教室、日本語ボランティアの養成講座、異文化を学ぶ多文化体験スクール、支援者のためのポルトガル語講座の4事業を展開しています。無料で受けられる講座や教室も多く、5ヶ月から小学校入学前の子供の託児も同時に行っているので、小さい子供を育てている日本人・外国人の方も気軽に利用できる取り組みが行われています。
群馬県にある大泉町も、日本全国で外国人定住者の割合の高い都市です。重工業の街として発展した大泉町でも、浜松市と同じく工場での労働力確保のために、多くの外国人労働者を受け入れてきました。現在では大泉町は日本の「リトルブラジル」と呼ばれ、町民の約14%を外国人が占めています。ブラジル料理店や食品店、スーパーなども多いです。
大泉町では、定住外国人に対して大泉町を含めて日本の文化や生活習慣を分かりやすくするために「大泉町多文化共生コミュニティセンター」を設置。公式サイトは日本語のほかにポルトガル語でも表記され、「大泉町の歴史」や「大泉町の暮らしガイド」などのコンテンツも充実しています。また、防災無線や弾道ミサイル落下時の対応など、災害時や非常時の対応方法についてもポルトガル語で記述されています。
まとめ
近年では、外国人観光客だけでなく外国人定住者の割合も多くなっています。今後、少子高齢化を受けて日本の労働力が不足すれば、外国からの移民の受け入れ件数も増加するのが予想されます。島国である日本も、グローバル化の流れを受けて柔軟な対応が求められている時期に来たのかもしれません。
(文:千谷 麻理子)
コメント