刑務官が読む機関誌「刑政」(矯正協会発行、2018年5月号)に掲載された記事から興味深いテーマ「局付検事」について紹介します。
検事が刑務官の服を着て刑務所の中へ
全国の刑務所などの運営を指揮監督している法務省矯正局には検察官も勤務しています。
その検察官の中には、「局付検事」(きょくづきけんじ)と呼ばれ、刑務所関係の法令作成など、法律家としてほかの事務官をサポートしている職員がいます。
この局付検事が府中刑務所での実務研修を受けたとのことで、そのレポートが「刑政」に掲載されています。
研修といっても、座学というよりは自ら刑務官の服を着て、刑務官と一緒にその仕事を体験するという内容の研修だったようなので、受刑者の実情が検事にどう映ったのかが分かり、興味深い内容になっています。
別の言い方をすると、刑務官にはごく日常のありふれたことがこの検事にとっては目新しいことなわけで、一般の方が受刑者の暮らしぶりなどを見てどう感じるかと似たようなものが書かれていると思われます。
そこで、特に印象に残ったところを幾つか紹介します。
作業をしながら眠っている受刑者
全国の刑務所と同じく、府中刑務所の中も高齢者が増えているようです。検事は居室棟の一画に造られた高齢受刑者用の作業場を見たことに関して次のように書きました。
「高齢受刑者の中には作業をしながら眠っている者もいました。認知症の影響なのか会話内容が当を得ていない高齢受刑者もおり、老人福祉施設にいるかのような錯覚を覚える状態でした。」
そうですね。確かに高齢受刑者の中には作業中にコックリコックリする人もいます。また、認知症で会話が成り立たない受刑者もたくさんいます。
そのため、「刑務所は養老院じゃない!」と怒る現場刑務官も多いです。
自分が受刑者であるという認識が無くなっている場合に、果たして刑を執行する意味があるのだろうかという疑問すら湧きます。
検事は、検察庁で勤務すれば、刑務所での刑の執行を指揮する権限を持つので、この府中刑務所で研修を受けた局付検事には「刑の執行停止」を真剣に考えてほしいとも思いました。
30分と持たないでまた保護室に戻る受刑者
この局付検事は、保護室に出たり入ったりを繰り返す受刑者の実情も目撃したとのことです。
保護室を出され、居室に戻されたその受刑者は、30分も経たないのに扉を蹴りながら、「駄目なんです。保護室に戻してください!」と叫んでいたそうです。
そして、刑務所ではしょうがなくてまた保護室に収容したそうです。ほかの受刑者も過ごしている居室棟で扉を蹴り続けて大声を出すわけですから、刑務所としてはその受刑者をそのままにしてはおけません。
やむを得ずまた保護室に収容するわけですが、保護室収容には面倒な手続きが必要なので(原則所長の了解を得なければならないし、たくさんの書類を作成し、記録しなければならないなど)、刑務官としてはなるべくそうしたくはないのです。
しかし、そんなことも言っていられない。刑務官としては、このような受刑者がいることはそれだけで大変なのです。この検事さんは、いい場面を目撃したと思います。
視察孔にウンチを塗る受刑者
同じく保護室に関するものですが、局付検事が保護室を巡回していたら、視察孔に糞便を塗りたくっている受刑者がいたとのことです。
これはよくあることで、受刑者が刑務官から視察されることを嫌がって行う行為です。
昔は、この視察孔はまさに「孔」であって、細長い穴が開いていました。しかしある時、刑務官が中を覗いたら受刑者から箸で目を突かれて失明するという事故が起きました。以来、視察孔はアクリル製の透明な板で覆われたものになったのですが、そうするとこのような視察妨害行為に及ぶ受刑者が出てきます。
自分のウンチを視察孔以外にも塗りたくる受刑者もいます。保護室内が汚れるだけでなく、不衛生になりますので、このような場合は受刑者を別の保護室に移して刑務官が清掃します。
この仕事が刑務官から嫌がられるのはもちろんですが、かといって誰にも代わってもらえません。内心不満で一杯だと思うのですが、「これで給料がもらえるんですから有り難いこってすわ。ハハハ」と笑い飛ばした刑務官がいました。なかなかです。
(小柴龍太郎)
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