放っておけばインフラは疲弊する
私たちの豊かな生活は何気なく使用しているインフラによって支えられています。電気、ガス、水道、道路のようにさまざまな生活に必要な資源が整備されているから快適に生活することができます。
このような生活インフラがもし無くなると、人間の生活は大変になります。ガスはいちいちプロパンガスを購入してこなければなりませんし、水は井戸などに汲みに行かなければなりません。電気は発電機などを購入して自分で発電しなければないでしょう。
そして、忘れがちですがインフラの維持は大変なことです。橋や道路にしても水道管にしても一度作ればそれで終わりというわけではありません。災害が起こって壊れれば復旧する必要がありますし、放っておけば設備は経年劣化するのでメンテナンスをしなければなりません。
今後重要な社会問題となる水道設備の老朽化
インフラの維持ということにおいて、今後重要なテーマになると考えられるのが水道設備をどのように維持するのかということです。
よく、水道、ガス、電気代のような公共料金を滞納しても、水道だけではなかなか利用停止になることはないと言われていますが、それは水が私たちの生活にとって不可欠だからです。電気やガスを使わなくても、頑張れば生活できますが、水を飲めないと私たちは数日で命の危機に直面します。
よって、水道は生活インフラの中でも特に重要ですが、この水道設備が現在危機に晒されています。水は浄水場で作られて、地下に張り巡らされた水道管を通じて、各家庭に供給されています。(井戸水を使っている家庭もありますが、ここでは割愛します)
浄水場はともかく、この地下に張り巡らされた水道管の老朽化が深刻な社会問題になりつつあります。
水道管と耐用年数
日本の道路や水道などの土木インフラの多くは東京オリンピック前後の高度経済成長に整備されました。第二次世界大戦終了直後1950年の上下水道の人口に対する普及率は約25%しかありませんでした。その後、日本の経済成長とともに上下水道の整備が行われ、1970年頃には約80%まで普及率が高まりました。そして、その後も順調に上下水道は普及し、1980年には約90%、現代では約98%の人口をカバーしています。よって、日本のほとんどの水道設備は、誕生から50~70年程度が経過していることになります。
もちろん、一度整備した水道管を永久に使えるわけではありません。水道管が老朽化すると、詰まって上手く水が流れなくなったり、漏水したりすることも考えられます。また、漏水だけならともかく、老朽化によって水道管が破裂し、地上が水浸しになる危険があります。
例えば2018年7月には東京都北区で水道管が破損して、水が地上に漏れ出し、住宅約20戸が浸水、30戸が一時断水しました。また、それだけではなく、商店街に店舗にも浸水し、しばらく営業ができないという被害も発生しました。この事件の原因は水道管の老朽化であったと言われています。
(詳しくは:https://s.mxtv.jp/mxnews/kiji.php?date=46512994)
水道管の法定年数は40年とされています。つまり、一つの目安として整備から40年経過した水道管は老朽化により破損する恐れがあるので、取り換える必要があります。先ほど説明したとおり、日本の上下水道は高度経済成長時代に作られたものが多く、50~70年使用している水道管もまだ残っていると言われています。
つまり、水道管の老朽化によって地上に水が噴出、周囲の家屋や店舗が浸水するかもしれないというのは、どこの地方でもありえることなのです。
水道インフラと地方自治体
高度経済成長期に整備した水道管をどう取り替えて、インフラを維持するのか、その課題は一般的に地方自治体の責務となっています。水道行政について説明します。
水道維持は行政の仕事?
一般的に水道局は地方公共団体によって運営されています。形式としては、地方自治体の部局に取り組まれているケースも、公営企業として指揮、命令系統が自治体から独立しているケースもあります。また、小さい自治体ではガスや交通などの事業も兼営している場合もあります。つまり、多かれ少なかれ水道事業はその地方自治体の影響を受けます。
ちなみに、今は民営化されているインフラでも当初は政府や地方自治体によって整備されたインフラはたくさん存在します。例えば現在は、JRは民間企業ですが、昔は国鉄と言われていて1987年に民営化されて今の状態になりました。
インフラ事業は一般的に設備を整備するために膨大な初期コストが発生するので、民間企業がリスクをとって参入しにくいということで、政府や地方自治体の事業として開始されたものがたくさんあります。
地方自治体と水道料金
地方自治体が水道事業を行っているという状態は、民営企業のように利益を優先して経営しないので良いのではないかと思われるかもしれません。しかし、地方自治体が経営しているというのは危険な状態でもあります。
日本の地方自治体には財政赤字に悩まされている自治体もたくさんあります。もちろん、水道事業も地方自治体の財政に大きく影響を受けます。例えば、東京23区の水道の基本料金は呼び径13mmで約1,500円ですが、同じ条件で北海道夕張市では約4,500円になります。
最低賃金や土地代などのことを考えると、東京の方が水道料金は高そうですが、実際には夕張に水道料金は東京の約3倍です。夕張市が財政破たんをしたから価格設定がおかしくなっているのだと思われるかもしれませんが、他にも水道料金が高い自治体はあります。
この料金に大きく影響を与えるのが、設備の維持費用です。その土地の気候も設備の維持費用に大きな影響を与えますが、家屋の密集度も維持費用に大きな影響を与えます。水道は生活に欠かせないインフラなので、人口がまばらな地域も水道管を設置する必要があります。
例えば、100mの水道管があったとして、その水道管がカバーしている家屋が10世帯であっても1世帯しかなくても、水道管敷設と維持にかかるコストにそれほど違いはありません。しかし、もちろん10世帯と1世帯ではそこから発生する水道料金には約10倍の違いは発生します。
つまり、家屋の密集度がまばらになればなるほど、水道の料金は採算を合わせるために高くなる可能性があるのです。2015年に日本政策投資銀行が発表した「わが国水道事業者の現状と課題」というレポートによると、調査した水道事業者の約15%は赤字の状態で、給水人口が5万人を割ると単独経営が難しくなるという結果が発表されています。
(詳しくは:https://www.dbj.jp/pdf/investigate/etc/pdf/book1508_02.pdf)
地方においては人口減少や財政の悪化により、水道事業の維持が困難になる自治体も今後増加することが懸念されています。
水道事業の官民連携
このような状況を改善して、地方の水道インフラを維持するための方法は大きくわけて2つです。1つは、経営を効率化させて水道事業運営に掛かる販管費を削減して少ない売上でも利益が出る体質にすること、もう1つは水道事業を広域化させて設備や人員を共通化して事業規模を大きくして相対的に販管費を削減することです。
ただし、コスト削減にしても広域連携にしても従来の地方自治体の事業運営の手法では限界があります。そこで2018年に法律によって可能になったのが水道事業における官民連携です。2018年12月に水道法の改正案が国会し、水道事業において官民連携ができるようになりました。
水道事業は「民営化」されるのか?
ちなみに水道法の改正によって、水道事業が民営化されるという報道がありますが、今回の法改正によってできることになったのは、厳密な意味では民営化ではありません。水道事業を「コンセッション方式」という形式で民間事業者に委託できることになったのです。
コンセッション方式とはすなわち、設備などは地方自治体がそのまま持ち続けたまま、特定の事業者に営業権を与える事業の手法です。よって、一度民間業者に委託しても、契約を解除して別事業者に再委託することも契約の仕方によって可能ですし、設備の所有権は地方自治体のままです。
このようなスキームでの事業運営は空港の運営などでよく使用されています。例えば、関西の空の玄関口である関西国際空港は、政府100%出資の新関西国際空港株式会社が所有していますが、オリックスなどが出資している関西エアポートという会社に運営権は売却しています。ちなみに関西エアポートは関西国際空港だけではなく、大阪国際空港や神戸空港など広域的に空港の運営を行っています。
水道事業においても空港の事例のように、民間のノウハウを使って事業継続のために効率化、広域化することが求められています。
まとめ
以上のように地方における水道事業の危機について説明しました。水道事業は地方自治体が運営していますが、今後コンセッション方式という手法によって民間に運営を委託することが可能になりました。
ちなみに、地方自治体においては水道だけではなく、道路、公共交通、病院などあらゆる生活インフラの存続が困難になるかもしれません。人口が減少すると、相対的にインフラの維持のための負担が大きくなるので地方においては、今後ますますインフラをどのように維持するのかが課題になると考えられます。
税収と管轄している地域に縛られる地方自治体の経営手法だけでは、もしかするとインフラを維持するのが困難になるかもしれません。民間の事業者のノウハウを上手く活用することによって、厳しい環境の中でインフラを維持することが今後の地方自治体に求められています。
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