地方の交通インフラをどのように維持するのか-企業と自治体の地方創生策

地方自治体の重要な仕事の1つはその地域のインフラを維持することです。例えば、交通インフラとは電車やバスなどの公共交通機関のこと指します。

本記事では地方において交通インフラはどのような危機にさらされているのか、企業や自治体はどのような対策を行っているのかについて説明します。


はじめに

地方自治体の重要な仕事の1つはその地域のインフラを維持することです。電気や水道などの生活に必要なインフラも長期的にはどのように維持するのかは課題になりますが、

近年差し迫って対策を行わなければならないのが交通インフラの維持です。交通インフラとは電車やバスなどの公共交通機関のこと指します。

本記事では地方において交通インフラはどのような危機にさらされているのか、企業や自治体はどのような対策を行っているのかについて説明します。

JR北海道はいずれ破綻する?

地方の交通インフラが危機的な状態になっているという話でよく例に挙げられるのがJR北海道です。

JR北海道は1987年の国鉄民営化の際に北海道エリアの鉄道運輸を担う鉄道会社として誕生しました。「JR」と名前がついているし鉄道という住民の生活に欠かせないインフラを担っていることから手堅いビジネスというイメージを持たれるかもしれませんが、実際はいつ倒産してもおかしくない状態です。

JR北海道の財政状態

平成29年度の決算公告によると鉄道事業で約560億円の赤字が発生しています。巨額の赤字はこの年度に限ったことではなく、JR北海道では毎年数百億円規模の赤字が発生しています。

毎年数百億円規模の赤字が発生しているのならば、数年のうちに倒産するのではないかと思われるかもしれませんが、これにはカラクリがあります。JR北海道は約6800億円の「経営安定基金」という資産を保有しています。

これは国鉄を分割する際に事業としての赤字が見込まれるJR北海道やJR九州、JR四国に対して交付された補助金のようなもので、この運用収益で約260億円、さらに固定資産などを売却したりして純損失を約110億円まで圧縮しています。

つまり、経営安定基金の運用収益があるから経営が存続できているようなもので、それでも近年は経営安定基金の運用収益を上回って大量の赤字が発生してしまっているのです。このままの経営を続けているとJR北海道は経営破綻しますが、破綻するのは遠い未来のことではなく、2020年代にも破綻するのではないかと言われています。

JR北海道が鉄道事業を縮小する?

もちろん、JR北海道の経営破綻を黙って見守って良いというわけではありません。国土交通省は2019年、20年にトータル約4000億円の財政支援を行いJR北海道に対して経営改革を促すことを発表しています。

ただし、この赤字は経営改革で解決できるようなJR北海道の経営陣の怠慢が原因の赤字というよりも北海道という広大土地で鉄道事業を行うこと自体の難しさに起因することも大きいです。


よって、JR北海道も経営再建のために赤字の発生源であった鉄道事業を縮小しようとしています。JR北海道発足時は約3200kmだった鉄道総延長距離は2018年時点で約2600kmまで縮小して、今後も留萌線、石勝線夕張支線など5線区を廃止して今後約2200kmまで縮小することが発表されています。

そして、鉄道が廃止された区間に対しては、自治体と協議しながらバスを運行する計画になっています。

地方の交通インフラをどのように維持するのか

上記のようにJR北海道が危機的状況にあることについて説明しましたが、このように存続の危機にさらされているのはJR北海道はだけではありません。地域のローカル鉄道をもちろんのこと、鉄道、バス、タクシーなど様々な公共交通機関の存続が危ぶまれています。

地方に公共交通は必要なのか?

そもそもの問題として地方に公共交通機関は必要なのでしょうか。上記のように公共交通機関が存続に危機に瀕している背景には地方住民の移動における公共交通離れがあります。地方の公共機関の衰退の原因には少子高齢化と都会への人口の流出もありますが、自動車の普及も大きな原因となっています。

地方においては1家族に1台どころか1人1台自動車が必要だと言われることがありますが、この自動車の普及が地方の公共交通を衰退させています。自動車で移動する方が、公共交通で移動するよりも便利なために地方の公共交通の利用者が減って、採算が合わなくなるために地方の公共交通が縮小してしまっているのです。

このような観点から言えば、実は地方で公共交通が無くなったとしても、もともと車移動がメインなので生活に影響は無いという人も多いです。

地方で急増する「交通難民」

このように一昔前は地方の公共交通が無くなるとしてもそれほど大きな問題となりませんでしたが、近年は公共交通が再び重要になってきています。その原因となっているのが「交通難民」の増加です。

先ほど、公共交通が衰退しても自動車での移動ができれば住民の利便性にはほとんど違いが無いと説明しましたが、近年高齢化によって自動車が運転できない高齢者が増加しています。つまり、今までは公共交通を利用することができなくても、車が運転できる人が多かったので車が運転できる人ができない人のフォローができていました。

しかし、近年は高齢化により地方において車が運転できる人の割合が少なくなり、若い世代が都会に流出することによって、車で移動できない家族をできる家族がフォローすることができなくなったために、「交通難民」が増加し、深刻な社会問題となっているのです。

交通手段の確保は自治体が解決できる問題か

上記のような交通難民という課題を解決する担い手は誰なのでしょうか。よく地方で何らかの問題が発生したときにその問題の解決を地方自治体に求めることがありますが、交通難民という問題を地方行政が解決することが妥当なのかについて検証します。

財源もノウハウもない自治体

まず、公共交通が衰退した地方において交通難民問題を解決するために、行政がバスを走らせれば良いという結論に至る場合は多いです。確かに、民間では採算が取れなくて実施できない住民サービスについて赤字覚悟でサービスを提供するのが行政の役割だと説明されることもあり、この論法に立てばこの解決策は一定の説得力を持っています。

以上のような理由から、行政が乗り合いバスのようなサービスを運行して地域の交通難民を救済している自治体も少なくありません。しかし、行政が交通難民問題を解決するために赤字を覚悟でバスを運行させるのは本質的な解決になりません。これは、財源と事業の効率性という2つの観点から説明することができます。

まず、財源という問題について、地方自治体が住民サービスに使える財源は限られています。どこの地方自治体も地域内からの税収で歳出を賄うことはできずに、地方交付税交付金や各種の補助金という歳入があるからこそ自治体の運営ができています。よって、限られた財源の中で、赤字でも公共交通事業を続けられるだけの恒常的な財源を確保できる保障はどこにもないのです。

また、効率性という観点からも地方自治体が事業を行うのには問題があります。過去の事例が示すとおり、行政が行う事業は赤字になりがちです。民間企業のように収益をあげるためにコストカットや売上アップをしようというインセンティブが働きにくいためにどうしてもコスト高の経営になってしまいがちです。

以上のことから、交通難民の問題を本質的に解決するためには、行政が赤字確保で参入するのではなく、事業として永続的に維持できるような取り組みによって交通インフラを整備する必要があります。


ライドシェアリングや自動運転と法律の壁

その解決策となりうるのがライドシェアリングや自動運転といった近年注目されている技術です。

ライドシェアリングとはいわゆる相乗りのことで、一般の自動車を運転している人と、自動車によって移動したい人をマッチングさせるサービスのことで海外ではUberというサービスが有名です。運転手は移動したい人を目的の場所まで運ぶことによって報酬をもらうことができます。

ライドシェアリングサービスを地方でも活用すれば、交通難民の救済に役立つ可能性がありますが、お金をもらって人を自動車に乗せるサービスは許可が必要で、無許可で行うと白タク行為として法律違反になるので日本では行うことができません。

もう1つの技術が自動運転です。自動運転が実現すれば車が運転できない人でも自分だけで車を使って移動することが可能です。ただし、自動運転についても法的な整備がいまだに進んでおらず、実用化にはまだまだ時間がかかります。

地方自治体と企業が協力して交通インフラの維持に取り組む

このように、技術的には交通難民対策が可能になりつつあるものの、法的整備が追い付いていないのが実情です。ただし、地方自治体と民間企業が協働して各地で実証実験は始まっています。

例えばソフトバンクグループは自動運転サービスを提供するSBドライブという子会社を設立して、自動運転バス運行の実証実験を既に沖縄や羽田空港などで行っています。

他にも京都市京丹後市では構造改革特区に申請して例外的に有償でのライドシェアリングが可能になりました。そして、NPO法人がUberのアプリをベースにローカルのライドシェアリングのサービスを開発して2016年からサービスを提供しています。

全国に交通難民対策が普及するのはまだまだ先ですが、地方自治体と企業が協力して交通インフラの維持に努めることによって、今後法的整備が進んだ段階で交通難民対策が全国に波及する可能性があります。

まとめ

以上のように地方の交通インフラをどのように維持するのかということについて説明してきました。今後地方において自動車を運転できる人が減少することによって、交通難民の増加が予想されます。まず、思いつく対策は行政が乗り合いバスなどを運行して赤字を前提として交通難民を救済することですが、これは本質的な解決策とはなりません。

交通難民対策を行うためにはサービスをビジネスとして成立させる必要があります。ライドシェアリングや自動運転など交通難民問題に対する解決策となりうる技術は徐々に開発が進んでおり、特区などによって自治体と企業が協働して実証実験を行っています。

本記事で説明した事例からわかるとおり、地方自治体の公務員の仕事はただ赤字覚悟で住民サービスを行うことでは不十分です。より生産的な働きをしようと思えば民間企業と上手く連携して法制度を活用しながら、いかにビジネスとして持続可能な仕組みを構築するかを考える必要があります。

本記事は、2018年10月25日時点調査または公開された情報です。
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