「検疫官」の仕事と「検疫所」の役割について

感染症対策の最前線にいる公務員として注目されている「検疫官」。厚生労働省所管の検疫所がどのような業務を行い、その中で「検疫官」がどのような仕事を担当しているのかを解説します。


はじめに-「検疫官」とは

「検疫官」とは、厚生労働省が管轄している「検疫所」に勤務し、検疫法に基づいて、感染症に対する検疫業務や健康相談業務、および予防接種業務を担当する「国家公務員」です。

「検疫官」は医師、または看護師資格を持っていることが必須で、「検疫官(医師)」「検疫官(看護師)」などと区別して採用が行われます。正式な職名は「厚生労働省技官 検疫官」です。

「検疫官」は国家公務員ですが、勤務地は全国の検疫所や空港や海港など、各地方にあります。

「検疫官」の採用情報は、検疫所の上部組織である厚生労働省のホームページからも発信されています。

▼参考:厚生労働省「検疫官(看護師)」
https://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/keneki.html

検疫所での「検疫官」の業務

検疫所の業務には、人に対して検疫を行う「検疫業務」から、船などに潜む蚊やねずみなどの検疫を行う「港湾衛生業務」「動物の輸入届出の審査業務」などの動物に対する検疫に関わることや、「輸入食品監視業務」「試験検査業務」などの食品の安全に関わる業務があります。

検疫所の職員のうち「検疫官」として業務を行うのは、医師や看護師などの資格を持つ職員です。

人に対する検疫業務のうち、健康相談や診断、予防接種など、検疫官しかできない仕事もありますが、発熱の有無の検査などの、検疫所での初期段階の検査については、検疫所の一般職が担当することが一般的なようです。

検疫所の業務

検疫所の「検疫官」は、そのほかの行政職や食品衛生監視員と連携し、検疫業務を行います。

検疫所ではどのような業務が行われているのか、ご紹介します。

検疫所の業務1)検疫業務

検疫所の検疫業務では、おもに入国する人への検疫と、出国する人への情報提供を行います。


入国者への検疫と健康相談

全国の空港や海港などにある検疫所では、日本に入国、または帰国するすべての人に対して検疫を行います。

検疫する方法としては、サーモグラフィーなどを使って発熱があるかを調べます。

発熱や咳などの症状がある人、体調や健康に不安のある人については、検疫所にある健康相談室へ誘導し、「検疫官」が症状を見極めます。症状とともに、その人が滞在した国が感染症の流行国かどうかなども確認します。

その結果、検疫感染症に感染している疑いがある場合には、必要に応じて検疫所でも検査を行います。検査のために感染症指定の病院など、適切な医療機関を紹介することもあります。

また、「検疫官」は検疫感染症に感染している患者を発見した場合には、行政職と連携し、必要に応じて「隔離」や、その場に待機してもらう「停留」、そして「消毒」などの防疫措置を行います。患者が移動に作った貨物や機内などで捕獲された媒介動物についても病原体の有無を検査し、その結果に応じて防疫措置を行います。

出国者の相談対応やリーフレットの配布など

検疫所では、出国者に対して相談業務も行っています。全国の海港・空港には出国相談カウンターが設置されており、渡航に関する相談やリーフレットの配布が実施されています。

検疫所では、渡航者に海外で発生している感染症についての注意喚起のためにリーフレットやポスターを作成し、渡航先で感染症に感染しないための予防対策を知らせます。

また、検疫所では、感染症の予防対策として渡航者に「予防接種」を行うことがあります。予防接種の対象となる感染症は黄熱などです。検疫所は、「検疫官」が予防接種前に予診を行うほか、副反応が出た場合の対応方法、他の予防接種との組み合わせなどの相談にも対応します。

検疫所の業務2)港湾衛生業務

検疫所では、人だけでなく動物が持ち込む病気についても検疫を実施します。

蚊族の調査

検疫所では、蚊が媒介する感染症である「ジカウイルス感染症」「チクングニア熱」「デング熱」「マラリア」「ウエストナイル熱」「日本脳炎」を媒介している蚊などの国内への侵入や、定着の状況を監視するために、海外から来航した船舶や航空機、関係施設などの調査を担当しています。

調査で採集した蚊族については、どのような蚊なのか種族を同定し、そのうち雌の成虫については、蚊媒介感染症の病原体検査も行うようです。

ねずみ族の調査

検疫所では、ねずみ族が媒介することで知られている「ペスト」「ラッサ熱」「南米出血熱」「腎症候性出血熱 (HFRS)」「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」について、病原体を持っているなど関係しているねずみ族の侵入や定着の状況を監視するため、海外から来航した船舶や、航空機、関係施設等について調査しています。

また、捕獲したねずみ族は、どのような種類のねずみなのか種を同定した後、解剖による「剖検検査」を行い、その後、病原体保有の有無の確認を行っています。

船舶衛生検査

検疫所では、国際保健規則に基づいて、国際的に航行している船舶を介して感染症の拡大が起こらないように防止する目的で、船舶内で健康に影響を及ぼすことが懸念される公衆衛生上の事項について確認を行う業務も担当します。

船の中に、ねずみや蚊・ハエ・ゴキブリなどの虫類が発生していないか、また、船内の食料や飲料水、調理器具、廃棄物等が適正管理されているか、医療器具や、消毒剤、殺虫剤、捕そ器、殺そ剤などが適切に整備されているのかなどの確認を行い、船舶の衛生状態に応じて、「船舶衛生管理(免除)証明書」の交付や衛生状態の改善措置等を指導・実施します。


検疫所の業務3)動物の輸入届出の審査業務

検疫所では、ペットなどとして国内に持ち込まれる動物の届出管理や審査を行います。

届出の審査および現場確認

検疫所では、日本で流行していない海外の感染症についても警戒をしています。なかには動物が媒介する感染症で「動物由来感染症」とされるものもあります。

ペットなどの目的で輸入された動物を介して、動物由来感染症が日本に侵入しないようにするための制度の一つに「動物の輸入届出制度」 がありますが、その届出書の審査は検疫所が担当しています。

また、検疫所職員は動物が輸入され上陸する現場に立ち会う現場確認も行うことがあります。現場確認では、届出書に記載された内容と実際の貨物が合っているか、輸入された動物の健康状態に問題がないかなどを、実際に動物を目視で確認します。

検疫所職員が届出書・衛生証明書と貨物の内容を確認し、問題がなければ届出を受理します。

動物の輸入相談および広報活動

検疫所では窓口や、電話、FAXや電子メールで、動物の輸入届出制度の内容についての説明や、動物の輸入方法に関する輸入相談も行っています。

検疫所としては、より多くの方々に輸入届出制度を知ってもらうことで、安易な動物の持ち込みを防ぎ、スムーズに輸入を行いたいという狙いがあります。

そのため、検疫所のホームページ上で制度について紹介し、関係各所へのポスターの掲示やリーフレットの配布等の各種広報活動にも努めています。

検疫所の業務4)輸入食品監視業務

検疫所では輸入されてきた食品が法律に触れないものかを監視する業務も担います。

輸入食品等の監視および指導業務

検疫所では食品衛生監視員が、日本国内で販売や営業で使用される食品等を輸入する場合に提出される「食品等輸入届出書」を、 全国32ヶ所の「検疫所食品監視窓口」で受理しています。

届出が必要な「食品等」には、 輸入食品はもちろん、添加物や調理のための器具、容器包装、子どもは口に入れてしまう可能性があるので、乳幼児対象のおもちゃも含まれます。

受理した届出については、食品衛生法に基づき適法な食品等であるかを審査します。

審査により検査が必要と判断した食品等については、検疫所から命令検査、または初めて輸入される食品については行政確認検査を実施するなどして、安全性を確認します。検査の結果、食品衛生法に違反していることが判明した食品等については、廃棄や積み戻しなどの措置をとるよう指導を行っています。

検査不要の食品についても定期的に検査するモニタリング検査という検査方法もあり、モニタリング検査の場合には結果を待たずに輸入できますが、万一違反が発覚した場合には回収などの措置を取り、同様の輸入食品の検査計画を改善していくことにつなげています。

輸入食品相談業務

検疫所では、食品の輸入者や関係事業者に対して、輸入手続きや検査制度、自主的な衛生管理の取り組みに必要な情報提供を行っています。食品添加物や残留農薬等の規制に関して、日本でのルールを説明しています。

また、国内で発見された違反食品や外国における食品衛生状況などの情報も提供する役割があります。

検疫所の業務5)試験検査業務

検疫所内では、輸入食品や感染症についての各種検査を行うことができます。

輸入食品や感染症についての各種検査

検疫所では、世界各国から日本に輸入される食品や食品の容器などの検査と、海外から侵入する感染症に関する検査が行われています。

輸入食品等については、殺虫剤などの残留農薬や、抗生物質などの動物用医薬品、力ビ毒や重金属などの有毒有害物質が含まれていないかを検査するほか、おもちゃや飲食器具、容器包装の規格は適法であるか、そして遺伝子組換え食品、食中毒の原因となる病原微生物が検出されないかなどを、理化学検査および微生物学検査といった方法によって検査しています。


感染症については、検疫実施時に検疫感染症に感染した疑いのあるヒ卜から採取した検体と、上記の2)港湾衛生業務で捕獲した媒介動物等の検体について、検疫所で病原体検査を行っています。

検疫官(看護師)の主な業務例

検疫所には、行政職や食品衛生監視員のほか、「検疫官」が勤務しています。「検疫官」には医師や看護師がいますが、その中でも「検疫官(看護師)」の業務内容について一部ご紹介します。

検疫官(看護師)の仕事1)航空機及び船舶の検疫業務および健康相談業務

「検疫官」は、行政職の職員などとも連携し、国際線で到着した乗客に対してサーモグラフィー等により健康状態を確認します。

異状のある有症者がいた場合には、基本的に「検疫官」が健康相談を行います。その結果、通常国内では発生していない「検疫感染症」に感染している疑いがある場合には、必要な検査への手続きにつなげます。

また、運行中の航空機や船舶からあらかじめ有症者がいる旨の連絡があった場合には、「検疫官」が機内や船内にて有症者の問診を行うよう準備をして到着を迎えます。

「検疫官」は機内や船内で有症者の問診や検査を行うほか、それ以外の乗客からも同様に聞き取りを行うなどして、「検疫感染症」の国内への進入防止に必要な措置をとります。

検疫官(看護師)の仕事2)予防接種業務及び海外保健医療情報の提供

検疫所の予防接種業務については上記でもご紹介しましたが、検疫所では海外に渡航する方々に黄熱等の予防接種を行うことがあります。看護師の「検疫官」は電話予約の際の予診や予防接種の介助を行います。

また、渡航者の年齢、基礎疾患、予防接種歴などの健康状態や、渡航先、渡航期 間、渡航先での活動などに応じて、電話等で個別に健康相談を行うことがあります。

検疫官(看護師)の仕事3)港湾衛生業務・船舶衛生検査

検疫官(看護師)も、港湾衛生業務や船舶衛生業務に関わることもあるようです。

検疫所航空機や船舶及び空港、港湾周辺区域において検疫感染症等の病原体を媒介するねずみ族及び蚊族の生息調査を実施しているので、行政職の職員とともにその対応にあたります。

また、船舶における総合的衛生検査を行い、船舶衛生管理証明書等の交付を行う業務に関わることもあります。

検疫官(看護師)のキャリアとライフスタイル

看護師の資格を持つ「検疫官」のキャリアとライフスタイルについて一部ご紹介します。

キャリアについては、「検疫官(看護師)」も医師の検疫官などと同様に、感染症などに関する研修に参加できる機会が多くあるため、検疫官としてのスキルアップを図る機会が用意されているようです。

また、ライフスタイルについては、職務の特性上「検疫官(看護師)」の1週間あたりの勤務時間が決められているため、仕事のオン・オフがはっきりしていると言われています。

子育て中の「検疫官」が利用できる勤務時間の短縮制度をはじめ、男女を問わず利用できる様々な制度、家族の介護をしている職員が利用できる制度が整備されており、仕事と家庭の両立がしやすい職種のひとつだと言えます。

まとめ

このページでは、国内の感染症防止のために検疫を行う厚生労働省の「検疫所」の業務内容についてご紹介するとともに、「検疫所」に勤務する「検疫官(看護師)」の仕事内容についてもご紹介しました。

「検疫所」の役割は、感染症のためのヒトや動物への検疫と、輸入食品など口にするものについての衛生監督の大きく2つがあります。

検疫所は国の玄関口でもある全国の国際空港や海港に設置されており、検査や問診、書類審査などの方法によって国内に感染症や、違法食品が入ってくるのを防いでいます。

検疫所で働く「検疫官」には医師や看護師などの資格があり、行政職や食品衛生監視員の職員など、ほかの検疫所職員と連携しながら業務を進めます。

入国者の問診や健康相談、出国者の予防接種など、「検疫官」でないとできない仕事については、専門性を活かし取り組みます。


最近ではインフルエンザや新型コロナウイルスなど、国際的な感染症が流行しており、感染拡大の防止には「検疫官」をはじめとした検疫所職員が活躍しています。

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本記事は、2020年3月12日時点調査または公開された情報です。
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