ジョージ・フロイド窒息死事件でアメリカは変わったのか?

2020年5月25日、黒人男性であるジョージ・フロイド氏が、警察官の不適切な拘束方法によって死亡した事件が起き、この事件をきっかけに、各地で大規模な抗議デモが起こりました。

本記事では、日本にとって唯一の同盟国で経済でも密接な関係をもつアメリカが、この事件によってどう変わったのかについてまとめました。公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。

はじめに – おさまらない抗議デモ

2020年5月25日に起き、全米にとどまらず世界中に飛び火した「ジョージ・フロイド窒息死事件」を発端とする抗議デモですが、事件発生から1ヶ月ちかく経過したにもかかわらず、イギリスのロンドンでは大規模デモが続いています。

アメリカ国内では暴動を伴うようなデモは収まったものの、人種差別に対する抗議デモや集会は続いており、この問題の根深さを実感させます。

世界中を巻き込んだ今回の抗議デモは略奪、暴力行為、警察との衝突など本来の主張を無視した報道がされてしまったことは否めません。

今回の騒動を受けて肝心の「人種差別」や「アメリカの警察の対応」は何か変わったのでしょうか?抗議デモの意味はあったのでしょうか?

今回はアメリカ在住の筆者が「抗議デモ後のアメリカ」に焦点を当て、現在のアメリカの様子をご紹介します。

公務員を目指す方は、アメリカ政府が抗議デモに対してどんな反応をしたのかなど、行政や民間企業の責任や役割を知る参考にして頂ければと思います。

アメリカ政府による事件に対する取り組み

まず、アメリカの連邦政府や州政府の反応を見てみましょう。

全米で警察改革に着手

事件発生から2週間が経過した6月8日、民主党は警察に新たな制限を設け、不正行為をした警察官を罰しやすくすることなどを含んだ「警察改革法案」をミネソタ州ミネアポリス議会へ提出したことを発表しました。

この法案は民主党の黒人議員連盟によって作成されており「警察への予算停止」を含んでいます。ミネアポリス市長のフレイ氏は拒否権を行使して法案を拒否しましたが、この法案が注目されたことによって、アメリカ中で「警察への予算削減」という動きが生まれました。

事実、ニューヨーク市のデブラシオ市長は市警察に対する予算60億ドル(約6,500億ドル)の削減を表明し、ロサンゼルスのガルセッティ市長も同市の警察予算を削減することを支持しています。

このような動きに対してトランプ大統領は「過激な人たちが警察を解体しようとしている」と民主党を暗に非難したうえで「訓練の強化などによって警察改革に取り組む」と発言しました。

これに先立ち、共和党のマッカーシー院内総務は「共和党は警察に背を向けない」と表明していることから、トランプ大統領を含めて共和党は警察の予算削減には否定的な姿勢です。

共和党と民主党による意見の違いはあれど、抗議デモによってこれまで何も変わらなかった「警察改革」が一歩進んだことは間違いありません。

ただし、いまの段階ではどのようにして警察を改革するのかや、最も肝心となる警察官の精神面の教育が含まれているのかなどは不透明です。

アメリカ議会は、黒人初の参謀総長を指名

6月10日、アメリカ議会はアメリカ空軍制服組トップの参謀総長に黒人のチャールズ・ブラウン氏を指名し、98対0でこの人事を承認しました。

アメリカ史のなかで黒人が参謀総長に就任することは初であることから、極めて異例の人事と言えます。

トランプ大統領は自身のTwitterで「アメリカにとって黒人初の参謀総長が承認されたことは歴史的だ」とし、自身に対して批判的な目を向けていた黒人社会へアピールしました。

人種差別や黒人の地位向上を訴えたデモが終息しきらない中での、異例の人事発表は黒人社会にとって明るい兆しである一方で、露骨な黒人の政治利用と捉える向きもあります。

ニューヨーク州の警察改革

ニューヨーク州のクオモ知事は6月12日に同州の警察改革法に署名しました。

この動きは、今回の黒人殺害事件や抗議デモを受けて変わった先駆け的な事例と言えます。この州法では以下の内容が含まれています。

・拘束時の首絞め行為の禁止(相手が死亡または負傷した場合は禁固15年)
・警察官の懲戒処分の記録開示
・市民が警察官に殺された場合、司法長官に特別な権限を与えて警察官を起訴できる

クオモ州知事は「ニューヨーク州はアメリカがやるべきことをやって見せる」とし、アメリカの警察改革の先陣を切っています。多くの街で警察に対する不信感が増えていることから、この動きに追随する州や街は増えるでしょう。

ニューヨーク州における対応の早さの背景には、ニューヨーク州議会が黒人社会と友好的な民主党で多数を占めていることが関係しています。

警察改革に積極的な民主党が多い州では改革が進む一方で、警察改革に慎重な共和党が多い州では難航すると見られます。

アメリカの企業による事件の取り組み

今回のジョージフロイド窒息死事件や、これに関連する抗議デモはアメリカの企業も動かしました。

企業による取り組み:アップル社の場合

6月11日、アップルのティム・クックCEOは、黒人コミュニティー支援に1億ドル(約107億円)を拠出すると発表しました。

具体的な活動内容としては、黒人が所有する取引先会社への支出を増やすことや、同社のサプライチェーンに黒人コミュニティーの会社などを組み込むこととしています。

また、黒人起業家の育成プログラムや、黒人社会での教育や経済的な平等の実現のためにも予算を使うと見られ、産業界における人種差別の解消や平等をリードする存在になりそうです。

企業による取り組み:スターバックスコーヒーの場合

アメリカのスターバックスコーヒーは、全米の従業員25万人に対して、人種差別に抗議するメッセージ(Black Lives Matter)が書かれたTシャツを配布しました。

これは、全米で続く人種差別に対する抗議にスターバックス社も共感を示すための取り組みです。これまで同社は従業員に対して、勤務中は政治的な思想を示す言動を取らないように指導してきましたが、ここに来て方針を転換しました。

全米に30,000店以上ある同社が政治的なメッセージを発信することは異例で、いかに今回の動きが社会に影響を与えているかが分かります。

企業による取り組み:バンク・オブ・アメリカの場合

アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカは、差別防止や格差是正に対する資金として4年間で10億ドル(約1,070億円)の支援枠を設けると表明しました。

支援枠の中身は、黒人をはじめとする有色人種への医療・健康支援、職業訓練支援、小規模事業者支援、住宅支援など、4つの分野を対象にしています。

この発表は全米で抗議デモが過熱していた6月3日に実施されており、黒人社会からの批判がウォール街に向かわないようにする狙いがあると見られます。

事実、アメリカの金融機関で働く人のうち、取締役会に限れば80%が白人で、黒人はわずか11%のため偏りは否定できません。

アメリカの経済格差の根源とされているウォール街でも、今回の問題は繊細に扱われているのです。

アメリカの一般社会の様子

最後に、今回の騒動を受けてアメリカの一般社会にはどのような影響があったのかご紹介します。

大統領選の行方がますます不透明になった

恐らく、多くのアメリカ人に影響することとして挙げられるのが「大統領選への影響」でしょう。

人種差別に対する抗議デモが拡大する以前までは、新型コロナウイルスの影響によって思うように選挙活動が出来なくなった民主党候補のバイデン氏は劣勢とされていました。

一方で、手厚い失業保険や、一律1,200ドル支給などを即断したトランプ政権を支持する人は多く、経済が再開した5月上旬からアメリカの株価は好調で、アメリカ全体が「とりあえずは大丈夫」といった雰囲気に包まれていました。

そんななかジョージフロイド事件が発生し、人種差別に対する抗議デモが起きました。あろうことか、トランプ大統領は社会の分断を煽るような言動を繰り返したため、世論はトランプ大統領に批判的な目を向けるようになります。
トランプ政権は、軍の参謀総長に黒人を任命したり、警察組織を守る姿勢を見せるなどして、保守層の支持を確保しようとしますが、思ったよりも反響がないのが実情です。

これとは対照的に、民主党のバイデン候補は「静観」と「黒人社会への寄り添い」に集中しており、黒人社会からの支持を維持しています。

事実、コネチカット州にあるクイニピアック大学の調査では、黒人の81%がバイデン氏を支持しているという結果が出ています。

また、バイデン氏はトランプ大統領よりも先にジョージフロイドの家族らと面会を実現しており、遺族はトランプ大統領に対して「ジョージの死に無関心だ」といった否定的なコメントを残しています。

このような状況から、アメリカの一般社会では、強引で過激な姿勢を続けるトランプ大統領とは対照的なバイデン氏に流れが動き出している印象を受けます。

トランプ大統領と敵対関係にあるCNNの直近の調査では、トランプ政権への支持率は38%、不支持率が57%とあります。

CNNは、いまのトランプ大統領の状況について、過去に再選を目指したものの再選を果たせなかったジミー・カーターやブッシュ(父親)らとまったく同じ状況にあると指摘しています。

▼参考URL:https://edition.cnn.com/2020/06/10/politics/trump-campaign-cnn-poll/index.html

デモのせい?「新型コロナウイルス」の感染拡大中

アメリカでは22の州で新型コロナウイルスの感染者数が増えています。(筆者が暮らすアリゾナ州では1日1,000人以上のペース)

ほとんどの州は5月上旬から経済を再開しましたが、レストランや小売店は大幅な入店制限などを実施しているため、実質的には経済再開とはほど遠い状態が続いています。

そんななか、全米の大都市を中心に起きた抗議デモによって、しばらく守られてきた「Social distancing(他者と6フィート離れる)」が破られました。

これにより、感染の第一波がそうであったように「無自覚」の人が他者へ感染させたケースが増えていると見られます。

抗議デモが再び感染を巻き起こしたと決定付けることは難しいものの、3月中旬から続けてきた感染拡大を防ぐための秩序がアメリカ全体で乱れたことは否定できないでしょう。

奴隷制度を連想させる事物の、破壊や自粛

抗議デモ以降、アメリカ全土で広まりつつあるのが「奴隷制度を連想させる事物の破壊や自粛」です。

例えば、バージニア州のリッチモンドでは、1860年初頭代の南北戦争時代に、奴隷制度存続を主張した南部連合初代大統領ジェファソン・デイビスの銅像や、奴隷商人だったクリストファー・コロンブスの銅像が破壊されました。

また、不朽の名作映画として知られる「風と共に去りぬ」が、奴隷制度や人種差別を彷彿させる描写が描かれているとして、動画配信サービスで配信停止になりました。

アメリカで人気があるテレビ番組「全米警察24時コップス」は、ジョージフロイド事件を連想させるような警察官による暴力的なシーンが含まれることから打ち切りになっています。

自動車スポーツのNASCARでは、奴隷制度を支持した南部軍の旗を持ち込むことを禁止しました。

日本ではあまり知られていませんが、アメリカではいまだに南部軍の誇りを主張している人が多く、車や自宅に南部軍の旗を掲げている人がいます。

南部軍の旗を掲げることは、人種差別主義や白人至上主義者であることを自ら主張しているようなもので、黒人や人種差別反対派の人からすれば不快感を抱くシンボルとして知られています。

これまで、自由という言葉のもとで社会的に許されてきた南部軍の旗やシンボルを掲げることが禁止されるようになったのは、アメリカ史にとって大きな転機なのかもしれません。

一方で、トランプ大統領は南部軍の将軍らの名前が付けられた10以上あるアメリカ軍基地の名称を変更する予定はないと発表し、自身のTwitterでは「偉大な国の歴史を変えてはいけない。アメリカ軍に敬意を示そう」と呼びかけました。

アメリカ社会の流れとトランプ大統領の言動は相容れない様相ということが浮き彫りになっています。

まとめ

ジョージ・フロイド窒息死事件に端を発する抗議デモは共感を呼び、これまで動くことがなかった警察改革や、大企業主体の人種差別の是正措置など大きな動きを生み出しました。

一方で、トランプ大統領をはじめとする共和党はこれらの動きに慎重な姿勢を見せていることから、アメリカ社会が変わることは難しいという印象を受けます。

2020年11月には大統領選を控えており、いまの社会の動きが大統領選にどのように反映されるかは非常に注目されます。抗議デモの本当の結果は、次の大統領選で判明すると言えるかもしれません。

仮に、政権が変わるような結果になれば、今回の抗議デモは「アメリカが変わったきっかけ」として歴史に残ることは確実でしょう。

今後も、アメリカの「変化」にぜひ注視してください。

本記事は、2020年6月19日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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