観光公害の現状と対策 ― 京都で何が起こっているのか

日本のみならず、世界の多くの観光地が抱える問題の一つに「観光公害」があります。

本記事では京都の「観光公害」に焦点を当て、詳しく解説します。


はじめに

訪日外国人向けの観光産業は日本にとって重要な産業の1つになりつつありますが、一方で環境客により交通機関などが混雑、地域住民が住みにくくなる環境公害が発生している都市もあります。

今回は、京都の事例を中心に観光公害について説明します。

観光公害に苦しむ京都

観光公害はオーバーツーリズムとも呼ばれる公害で、観光客が増加することによって発生する、マナーの違いによる衝突、観光の対象となる文化財の破損、交通機関の渋滞などのトラブルのことを指します。特に日本国内でこの問題が深刻化しているのが京都だと言われています。

まずは京都の事例から観光公害がどのような現状なのか事例を紹介します。

観光客が急増する京都

観光客の増加に悩まされる京都ですが、京都は積極的に観光客を誘致してきました。京都市は「京都観光振興計画」を2014年に発表、それまで110万人程度だった外国人観光客を2020年に300万人まで増加させようと計画しました。

結果的には2018年に前倒しで当該目標を達成して、2018年には外国人観光客は450万人を突破、観光消費額も1.3兆円を突破しました。

しかし、想定以上の観光の伸びは京都に悪い影響も与えています。

宿泊者増加と民泊、ホテルの建設ラッシュ

観光客を受け入れるためにはもちろん相応の宿泊施設を用意する必要があります。京都の場合も5年程度で観光客が約4倍になっているので需要に対して宿泊施設が急激に不足します。

京都の場合も、観光客増加以降急激なホテル建設ラッシュが続いています。2014年には3万室弱しかなかった客室数は2019年には5.3万室程度まで増加しています。ただし、観光客数の伸びと比較してもホテルの整備が追い付いていないことが明らかです。

このような、宿泊需要に対する供給不足の解消策となっていたのが民泊です。Airbnbなどの民泊プラットフォームが流行することによって、個人や小規模事業者が簡単に民泊事業をできるようになりました。

結果として一般市民が居住しているマンション、アパートで外国人旅行客が寝泊まりすることにより騒音や文化の違いによる摩擦が発生、住民の生活環境に悪影響を与えることになりました。


祇園における無断撮影

祇園における無断撮影も問題となっています。祇園は海外の人がイメージする古日本の街並み、芸舞妓さんという日本っぽいキャラクターなど様々なモノが揃っており、観光客にとっても撮影したいスポットの一つとなっています。

ただし、近年では外国人観光客が私有地に立ち入りをしたり、芸舞妓を無断撮影することにより地域住民とのトラブルが発生しています。祇園の場合は一見さんお断りのお店も多く、観光客を対象にサービスをしていないお店もあるので観光客が増加することによってかえってビジネスに支障をきたすケースも考えられます。

混雑する市営バス

京都市内を移動する際に、鉄道と並んでよく利用されるのが市バスです。1,000万人以上の都民を抱える東京都の市バスですら乗客数は1日当たり2万人程度なのに対して、京都市だけで1日当たり3.5万人の乗客数がいます。それほど市バスは地域住民の主要な交通手段となっており、市内中に様々な路線が張り巡らされています。

もちろん、観光客もこの市バスを使用して観光地を巡るので市バスの乗客数は増加傾向にあります。特に祇園や金閣寺などを巡る市バスなどは乗客数が増加しており、社内が混雑、乗車できない事態も発生しています。

観光公害と市民生活

以上、3つの点から京都市で発生している観光公害について説明しましたが他にも様々な事態が発生しています。例えば、マナーの悪さや文化の違いにより地域住民は不快な思いをするのはもちろん観光施設だけではなく生活施設も混雑して地域住民の生活が乱されることも考えられます。観光産業の振興と地域住民の平穏な生活はトレードオフの関係にあります。

観光産業の振興か地域住民の平穏な生活か

急激な観光客の増加は地域住民の生活に悪影響を与えます。観光客自体は一過性のブームなどにより急増することはあっても、受け入れのキャパシティは一朝一夕では増加しません。

京都の場合も5年間で4倍という急激なスピードで観光客が増加しましたが、ホテルの客室数は2倍弱までしか増加していません。事業者は投資回収できるのか慎重に動向を見極めなければならないので、どうしても需要に対して供給は追いつきにくい傾向があります。これはホテルに限らず交通インフラや飲食店などの一般施設にも言えることです。

観光振興によりその地域のキャパシティを超えた観光客誘致は結果として地域住民の生活を脅かします。その結果、地域の観光政策は一転して振興から抑制に転換します。

京都市の観光政策

京都市の場合もそれまで振興していた観光政策を一転して抑制の方針に切り替えました。典型的な事象が2020年の京都市長選です。京都市長選の争点は「観光公害」で3人の候補中、3人全員がこのテーマを取り上げました。ちょうどこの時期に京都市内でコロナウイルスの感染者も発生したので市民の関心も高いテーマであったと考えられます。

観光振興を進めていた現職かつ再選を狙う門川市長に対して、京都の街並みをホテルばかりにして地価が上昇、地域住民の働く場所と生活が奪われていると批判する、福本候補と村山候補が批判する形で選挙戦は進みましたが結果として門川市長の再選となりました。

門川市長自体も観光振興を重視する政策を一転、「「市民生活との調和を重視しない宿泊施設についてはお断りしたい」」と市長選では発言しています。

今後京都市では徐々に観光政策を転換、抑制に舵を切ることが予想されます。

▼参考URL:観光か生活か、それが問題だ | NHK政治マガジン
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/29643.html

観光公害に対する対策事例

京都では観光公害が深刻化、今後急激に抑制の方向に舵を切る事が予想されます。2月の市長選で政策転換がなされていこう、コロナウイルスの影響により結果的に観光客は減少していますが、終息後京都でどのように観光客が推移、観光公害を抑制するのが注目すべき点の1つです。

観光公害対策に追われる京都

京都が観光客抑制にあたって注目しているのが宿泊施設です。宿泊施設が増加する事によって観光客が増加するだけではなく、京都の景観に悪影響を与えたり、地価を高騰させたりして地域住民の住む・働く場所を奪っているのではないかということでホテルの新設を抑制することによって観光公害を防止しようとしています。


また、民泊の問題に関しても全国に先駆けて京都は対応しています。2018年6月に住宅宿泊事業法が施行されるのと同時に京都市でも独自の民泊規制条例を施行、事業者に法律よりも更に厳しい制限を課しています。

住宅専用地域での営業は閑散期の60日間だけと定められていますし、主要な観光地の周辺では民泊自体が許可されません。また、管理者は施設の半径800m以内に駐在するなどのルールも設けられています。

全国よりも厳しい民泊規制を実施することによって、地域住民とのトラブルを全国よりも厳格に防止しようとしています。

海外における観光公害対策事例

観光公害は京都特有の減少ではなくむしろ海外の方が公害も対策も先行しています。いくつかの海外の観光公害事例とそれに対する対策について紹介します。

禁止事項を設けることによってマナーや文化の違いを克服しようとするイタリア

イタリアはローマやベネチアなど国際的な観光都市を数多く抱えるヨーロッパでも有数の観光大国です。イタリアの各観光都市でも観光公害が問題となっており、イタリアでは禁止事項を設けて市内に警察官を配置、監視することによって観光公害を解消しようとしています。

例えば、ローマでは2019年7月に条例を改正、有名なトレビの泉の中に手を入れることを禁止したり、キャスター付きスーツケースを転がしたり、上半身裸にはなってはいけないなど細かく禁止事項を定めています。

▼参考URL:座るもダメ、触るもダメ 観光公害に悩むイタリア、罰金つきの対策 | GLOBE+
https://globe.asahi.com/article/13100293

新設ホテルの建設を禁止するスペインバルセロナ

ヨーロッパ圏でも有数の観光地がスペインのバルセロナで人口に対して20倍の観光客が一年間に訪れます。バルセロナでも京都と同様に観光公害が市長選の争点の一つとなりました。

バルセロナでは観光公害に対して市民デモまで発生しています。17年1月には宿泊施設の立地に関する規制条例を制定、旧市街や中心部での宿泊施設の新設を禁止するという厳しい規制を課しました。

しかし、住居費の高騰は相次いでいて2019年までの4年間で1.2万人が家賃高騰により立ち退き、約半数の住民が家賃に収入の40%を充てなければならなくなっています。

渋滞による死者が出たエベレスト

観光公害は都市部だけではなく山のような自然の中でおいても発生します。観光公害に悩む山として有名なのが世界一高いといわれているエベレストです。

ネパールではエベレストを観光資源化、登山者が登頂に成功しやすいように登山道を整備、世界一高い山というブランドもあり観光客が急増しています。ただし、登山しやすくなっている反面、登山客の増加により登山道で渋滞が発生しやすくなっています。

頂上付近は酸素濃度が薄く疲労も蓄積するので通称「死のゾーン」と呼ばれる危険な地帯となっていますが、悪天候により登頂できる期間が短いために渋滞しやすくなっています。2019年には毎年5人程度で推移していた死者数が2019年は上半期の時点で10人を超えて問題となっています。

政府は登山料を徴収して、登山者の抑制、環境の保護、インフラの整備などに注力していますが、それでも抜本的な解決には至っていません。

まとめ

以上、「観光公害の現状と対策-京都で何が起こっているのか」でした。

観光による地域振興策には副作用が伴います。観光客を受け入れるためには、相応のインフラを整備して、観光エリアと住民が生活するエリアをきちんと整備するなどの対策が必要になります。

観光振興は即効性があり地域への波及効果が高い反面、よほどの観光資源を持った地域でない限り「水物」で終わってしまう可能性も往々にしてあります。コロナウイルスにより観光業全体が抑制傾向にあるとはいえ、今後も成長が期待される産業だけに、振興策と災害対策をセットで考え無理のない範囲での成長が求められます。

今後も、京都のみならず、多くの観光地で起こる可能性のある「観光公害」の問題に注目してください。

本記事は、2020年7月13日時点調査または公開された情報です。
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