ミャンマー情勢を巡るアメリカと中国の対応(2021年2月)

ミャンマーでは近年、民主的統治が進んでいましたが、2021年2月1日にクーデターが起き、再び軍事政権に戻ってしまいました。

本記事では、ミャンマーの政治について、そしてミャンマー情勢を巡るアメリカと中国の対応について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに

2021年2月1日、ミャンマー国軍はアウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領ら国民民主連盟の(NLD)幹部らを相次いで拘束し、国家の権力を掌握したと宣言しました。

ミャンマーでは1962年のクーデター以降、長らく軍事政権が続いてきましたが、2011年には民政移管が合意され、民主的統治が進んでいました。そんななか、今回のクーデターが起きたことで、ミャンマーは再び軍事政権に戻ったことになります。

ミャンマーを巡る各国の対応は様々ですが、最も注目されているのがアメリカと中国でしょう。とくにアメリカはバイデン新政権が動きだしたばかりで、民主主義を強く訴えるバイデン政権の出方に注目が集まっています。

そこで今回は、アメリカがミャンマー問題にどのような対応をするのか、影に隠れているアメリカと中国との対立など、アメリカの視点を含めて解説します。

ミャンマーのクーデターについて知っておくべきこと

はじめに、ミャンマーの政治やクーデターについて基本的なことを解説します。

ミャンマーの政治について

今回、ミャンマーで起きたクーデターは「政府が軍事政権になったこと」がポイントです。

ミャンマーでは50年以上にわたって軍事政権が続いていたことから、世界各国から批判的な目を向けられていました。しかし、2011年から実質的な文民政権に移行し、民主主義の国として新たなスタートを切ったところでした。

新しい政権では、民主主義を訴えるアウンサンスーチー国家顧問を始めとするメンバーと、ミャンマー軍トップのミン・アウン・フライン氏を中心にした軍事政権の残党が協力して国家繁栄を築いてきました。

アメリカをはじめとする欧米諸国は、軍事政権下のミャンマーに対して経済措置を加えるなど、軍事政権に批判的な態度を示してきましたが、民主化されてからは良好な関係でした。

一方、隣国の中国は軍事政権下のミャンマーを支援する立場をとっています。この背景には、中国は東南アジアでの影響力を広げたい思惑があり、ミャンマーはロヒンギャ問題(ミャンマー国軍が国内のイスラム教徒の虐殺や民族浄化を行ったとされる事件)で、国際社会から孤立することを避けたかったという両者の思惑があります。

つまり、軍事政権下のミャンマーは中国と親密な関係にあり、アメリカをはじめとする欧米諸国と対立的な構図になっているのです。軍事政権のミャンマーの背後には中国がいるため、各国の対応は慎重な傾向にあります。


とくにアメリカにとってはバイデン新政権が初めに直面した「予想外」の国際問題であることから、バイデン政権の出方に世界中が注目しています。

2021年2月1日、ミャンマーでクーデターが起きた背景

今回のクーデターは、2020年11月に実施された総選挙の結果を巡り軍系野党が不正を主張したことがきっかけです。

この選挙では国民民主連盟(NLD)が得票率80%以上の大差で勝利しました。しかし、軍の後ろ盾を持つ連邦団結発展党(USDP)は、不正(大規模な不正有権者名簿の存在)を訴え、さらに選挙管理委員会はこの問題を解決できなかったと主張していました。(不正の証拠はないとされている)

そして、クーデターが起きた2021年2月1日は新議会招集日だったことから、新政権がスタートする前にクーデターが起きた訳です。

ミャンマーでは、軍事政権下だった2008年に憲法が軍事政権に有利な内容に改正されました。具体的には、議会議席の4分の1は自動的に国軍に与えられ、さらには内務省・国境省・国防省の主要3省は国軍が支配できる内容です。

改憲するためには議会の75%以上が賛成することが不可欠ですが、そもそも議会の25%を国軍が占めているため、憲法改正は現実的ではありません。今回のクーデターは政権を掌握することに固執する国軍が暴挙に出たと言っても過言ではないでしょう。

ミャンマーで起きたクーデターに対するアメリカの反応

アメリカのバイデン大統領はミャンマーのクーデターに対して批判的な立場で、中国を警戒している様子です。

アメリカの反応その1:幹部の解放を要求

2021年1月31日、ホワイトハウスのサキ大統領報道官は記者会見を開き、ミャンマー国軍に対してアウンサンスーチー氏の解放を要求しました。また「(ミャンマー国軍は)選挙結果を変更し、民主主義への移行を妨害している」と批判し、軍事政権化に反対すると述べています。

ホワイトハウスの声明は、クーデター後すぐに発表されたことから、アメリカがミャンマーの軍事政権に否定的な立場であることは明確です。

アメリカの反応その2:フェイスブックはページ削除を実施

2月1日、フェイスブックはミャンマー国軍系のページを削除したことを発表しました。該当のページは2020年にスタートし、約33,000人が登録していたと見られます。

フェイスブックの担当者は「ミャンマーで起きている政治的な出来事に関連して、誤った情報やコンテンツがさらなる緊張を生まないよう停止措置に踏み切った」と説明しています。

一方、同社の対応を巡っては、巨大SNS企業がバイデン政権に近い立場であることが明らかになったと言えます。先のアメリカ大統領選で民主党や民主党寄りのSNS企業がトランプ派の声を封じたという疑惑が晴れないなかでの対応は、アメリカ国内で別の問題を引き起こしそうです。

アメリカの反応その3:一連の騒動を「クーデター」に認定

2月2日、アメリカ国務省はミャンマー国軍による一連の動きはクーデターと認定したことを発表しました。事件発生後、アメリカ政府が正式にクーデターと認定するかどうかが焦点とされていましたが、正式に認定されたことで、経済制裁やミャンマー国軍に対する圧力が強まる可能性があります。

また、今回の認定によってアメリカは国際社会に対して「反ミャンマー国軍」という強硬な立場を明確にし、同盟国の出方をうかがう狙いもあると見られています。

これまでのところ、アウンサンスーチー氏らの解放を巡って、日本やインドを通じてミャンマー国軍と緊密に接触していると見られることから、アメリカと日本は同調していると言えるでしょう。


アメリカの反応その4:経済制裁を排除せず

2月2日、バイデン大統領は「民主主義に基づく統治への移行に対する攻撃だ」と批判しました。また「民主主義のもとでは武力によって人々の意思や選挙結果を変更することは許されない」と述べています。

他にも「過去10年間、民主主義を進化させてきたミャンマーに対して制裁を解除した」と良好だった関係に触れたうえで「(民主主義が後退するなら)制裁に関する法的な準備をし、適切な措置をとる必要がある」と、経済制裁を排除しない考えを示しました。

バイデン大統領がミャンマーに対して経済制裁に踏み切れば、関係諸国が追随する可能性があり、さらにはミャンマーへの海外資金が減少する懸念があります。同時に、ミャンマーと良好な関係を続けている日本がアメリカと協調して経済制裁に踏み切るかも注目でしょう。

バイデン大統領の発言で注目すべきものは「アメリカは困難な時にミャンマー国民に寄り添った人を注視する」というもので、第三国に対する警告のような発言です。とくに、クーデターを機に中国がミャンマーの軍事政権と関係を深めることを警戒しているようです。

アメリカの反応その5:外交演説で中国を批判

2月4日、バイデン大統領は外交政策について演説する「外交演説」を実施しました。ミャンマーのクーデター問題が起きた後だったことから注目が集まりました。

演説のなかでミャンマーについて触れ「ミャンマー国軍は権力を放棄すべきだ」と述べたうえで「アメリカは同盟国と協調し(ミャンマーの)民主主義と法の支配を取り戻す」と介入を示唆しました。

また、ミャンマーとの関係を深める中国に対して「人権弾圧、知的財産の窃取、グローバル・ガバナンスへの攻撃を押し返す」とし、対抗する構えを見せています。

演説の冒頭には「アメリカに張り合おうとする野心を持った中国に対処する」と述べていることから、ミャンマーの問題に関与する中国を牽制していることが分かります。

ミャンマーのクーデターに対する中国の反応

中国はミャンマーのクーデターに対して静観を続けています。2月2日、中国外務省の汪文斌報道官は記者会見で「中国はミャンマーの友好的な隣国。ミャンマーの当事者同士が憲法と法律の枠組みの中で処理すべきだ」とし、問題については否定も肯定もしませんでした。

中国はかねてから他国の内政問題には関与しない姿勢を打ち出していることから、ミャンマーの問題も同様に扱う様子です。この背景には、台湾や香港などで起きた人権問題で国際社会から批判され続けていることがあると見られます。

また、中国が国家プロジェクトとして進めている巨大経済圏構想「一帯一路」において、ミャンマーは陸と海に繋がる交通の要であることから、ミャンマー政権に対して偏った姿勢を取りたくないのが本音でしょう。

中国としては、アメリカがミャンマーや中国に批判的な立場をとっていることに反応すると損をしかねない状況にある訳です。事実、習近平氏は2020年にミャンマーを訪れた際、アウンサンスーチー氏だけでなく、軍トップのミン・アウン・フライン氏の両氏と会談し、中立的な立場を見せています。

一方、アメリカを始めとする民主主義国がミャンマーに対して制裁を加える動きを取れば、ミャンマーは必然的に中国を頼るようになる見方もあるため「一帯一路」を成功させたい中国は国際社会の出方をうかがっているようです。

まとめ

以上、「ミャンマー情勢を巡るアメリカと中国の対応」でした。

ミャンマー情勢はアメリカと中国の関係に大きな影響を及ぼす問題に進展する可能性があります。多様化を重視するバイデン政権は人権問題にも取り組んでいることから、この問題を巡るバイデン政権の動きはひとつの指標になるでしょう。

一方、ミャンマー情勢を通じて浮き彫りになったアメリカと中国の対立構図は深刻で、とくにアメリカは中国を敵視していることがよく分かります。トランプ政権が貫いた「反中路線」をバイデン政権がどこまで貫けるか、ミャンマーを巡る対応で試されます。

本記事は、2021年2月10日時点調査または公開された情報です。
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