トランプ元大統領の弾劾裁判の注目点(2021/1/20)

いま、アメリカでは前大統領であるトランプ氏の弾劾裁判の準備が進められています。

本記事では、トランプ元大統領の弾劾裁判の注目点について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに

2021年1月20日、トランプ元大統領はバイデン大統領の就任式には出席せず「また会おう」と言葉を残し、ホワイトハウスを去ったことは記憶に新しいところです。

そんなトランプ氏を巡ってアメリカ議会では弾劾裁判の準備が進められています。弾劾裁判では、1月6日に起きた議事堂襲撃事件の責任を問われることが焦点ですが、本当の狙いは「トランプ氏を公職に就けないようにすること」と見られています。

そこで今回は、トランプ氏の弾劾裁判を巡る民主党や共和党の動き、そして裁判の注目点などを含めて解説します。

弾劾裁判の概要

はじめに弾劾裁判の概要について見てみましょう。

トランプ元大統領弾劾裁判が行われる背景について

今回の弾劾裁判は、2021年1月6日にワシントンD.C.で起きた議事堂襲撃事件が発端です。

選挙人投票の開票日だった当日、トランプ氏が議事堂周辺に集まったトランプ支持者らに対して「議事堂まで行進しよう」や「強さを見せよう」と呼びかけたことで、支持者の一部が暴徒化しました。

トランプ氏は暴力行為を止めて冷静になるよう呼びかけたものの、すでに多くの支持者が議事堂に侵入した後で、呼びかけを実施したツイッターも削除される事態になりました。

前代未聞の騒動を受けて、民主党のナンシー・ペロシ氏は事件の責任を追及するためにトランプ氏を弾劾訴追することを決定しました。この時点では、民主党としてはトランプ氏が任期を終える1月20日までに「スピード罷免」することを計画していましたが、調整が間に合わずに断念していました。

ちなみに、トランプ氏は大統領在職期間中に2度も弾劾訴追された史上初の大統領です。(1度目は2019年のウクライナ疑惑)

トランプ元大統領弾劾裁判の目的

大統領職をすでに退いたトランプ氏に対して弾劾裁判を実施する目的は、トランプ氏を公職復帰できないようにすることです。

アメリカの憲法では弾劾裁判で有罪の判決を受けた者は公職に就けないことになっています。つまり、トランプ氏が有罪になると政治家生命が絶たれる訳です。


トランプ氏は、2024年の大統領選での復帰を計画していると見られ、民主党としては弾劾裁判によってトランプ氏を政界から追放しておきたい思惑があります。

トランプ元大統領弾劾裁判の日程

今回の弾劾裁判は2021年2月9日から始まります。判決までにかかる時間はおおよそ4週間から5週間程度とされており、新型コロナウイルス対策や経済政策を急ぐバイデン政権にとっては大きな足かせになりかねません。

弾劾裁判は上院議員100名が陪審員の役割を担い、最高裁長官が裁判長役を務めます。審理は日曜日を除いて毎日実施されるため「終わらすための審理」になる可能性も指摘されています。

トランプ元大統領弾劾裁判、無罪が濃厚か?

今回の弾劾裁判は無罪が濃厚と見られています。この理由には、共和党議員の大半が弾劾裁判は違憲と判断していることや、すでにトランプ氏は大統領職を退いている(民間人扱い)ことがあります。

1月26日、弾劾裁判を前に行われた上院本議会において、共和党議員50人のうち45人がトランプ氏に対する弾劾裁判は違憲と判断しました。100名の上院議員のうち、合憲は55名、違憲が45名となり、共和党から5名の造反議員が出たことになります。(上院議会の構成比は民主党50名・共和党50名)

弾劾裁判では上院議員の3分2が有罪と判断しない限り有罪は確定しません。つまり、共和党から17名の造反者が出ない限りトランプ氏が有罪になることはありません。

今回の動議採択の結果は、実質的に「トランプ氏は無罪」と判断したことに等しく、共和党のランド・ポール議員は「もはや弾劾裁判は終わったも同然」と発言しています。

仮に、トランプ氏を有罪にするには共和党内で17人の「造反者」が必要になりますが、本議会ではこれを大きく下回っていることから、有罪判決になる可能性はかなり低いことが予想できます。

共和党でありながら民主党に同調したスーザン・コリンズ議員は「(弾劾裁判は)合憲であるものの、トランプ元大統領が有罪になる可能性は極めて低い」と述べていることから、無罪判決が濃厚です。

トランプ元大統領弾劾裁判を巡る周囲の動き

今回の弾劾裁判を巡って、政界やトランプ氏の周辺では動きが活発化しています。

トランプ元大統領の動き

2月3日、トランプ氏は「弾劾裁判は憲法違反」と主張する文書を上院議会に提出しました。弾劾訴追の仕掛け人である民主党のペロシ下院議長は「議事堂襲撃はトランプ氏の言動が原因」と主張していますが、トランプ氏は「憲法で保障されている表現の自由を行使したまで」と主張しています。

また、トランプ氏はすでに大統領職を退いているため、一般人を相手に弾劾裁判を開くことはできないとしています。何としてでもトランプ氏を追放したいと考えるペロシ氏の言動に注目が集まります。

トランプ氏の弁護団が分裂

弾劾裁判を前にトランプ氏の弁護団の一部が離脱する事態が起きました。この騒動は、両者の間で争点が合致しなかったことが原因と見られています。

トランプ氏は不正選挙を主張することを望み、弁護団はあくまでも弾劾裁判で無罪判決を受けることを争点にしていました。弁護団の代表を務める予定だったブッチ・バウワーズ氏は、両者合意のもとで離脱を決めたとしていますが、トランプ氏の周辺では足並みが揃っていないことを露呈しています。

新しい弁護団は離脱しなかった弁護士らで構成されますが、弾劾裁判の場で不正選挙に対する主張をどのように展開するか、そしてメディアがどのように報じるかに注目が集まります。


共和党の分裂

弾劾裁判を前に共和党が分裂しています。トランプ氏を支持すべきはずの共和党内から弾劾を支持する声が上がり、トランプ氏支持派との間で衝突が起こりました。

2月3日、トランプ氏の弾劾決議を巡って民主党に同調した「反トランプ派」の共和党下院議員の処遇について党内会議が実施されました。この会議では、共和党会議議長を務めるリズ・チェイニー下院議員が反トランプ派に回ったことが問題視されていました。

チェイニー氏は「大統領が暴徒化を扇動し、襲撃に火をつけた」と非難し、共和党下院議員10名と一緒に弾劾決議を支持する立場をとっています。チェイニー氏は議長の立場でありながら造反者になったことで、その責任は重いとされていました。

党内会議では同氏の役職辞任を巡る投票が実施されましたが、結果は61人が賛成、145人が反対になり留任が決まりました。実際に解任されることはなかったものの、弾劾裁判をきっかけにして、共和党が分裂していることが明らかになったと言えるでしょう。

共和党内に新世代が誕生

トランプ氏の弾劾裁判を巡って共和党の「親トランプ派」の存在感も増しています。なかでも注目されているのがマージョリー・グリーン下院議員です。

グリーン氏は陰謀論信者で、Qアノンの支持者として知られています。同氏はバイデン大統領就任直後に弾劾訴追を働きかけた張本人で、トランプ支持者から絶大な人気を誇ります。

同氏はトランプ氏の熱狂的な支持者で、2020年11月の選挙で当選する前までは、民主党のペロシ下院議長の暗殺に賛同するなど過激な一面も持っていました。他にも、ニューヨーク同時多発テロの陰謀論や、クリントン一家がケネディ家を潰そうとしたといった話を拡散しています。(同氏のツイッターアカウントは凍結された)

共和党トップのマコネル氏をはじめ、共和党下院トップのマッカーシー氏は「党の信条を示すものではない」とグリーン氏を批判しています。一方、処分を求める党内の声とは裏腹に、具体的な処分はしておらず、トランプ派からの批判を避けたい思惑が透けて見えます。

これまで「一枚岩」の結束を深めてきた共和党ですが、弾劾裁判を目前にして民主党同様に「右派」と「左派」に分かれる党内分裂が鮮明になってきました。

まとめ

以上、「トランプ元大統領の弾劾裁判の注目点」でした。

トランプ氏に対する弾劾裁判は無罪が濃厚とされています。依然として共和党内はトランプ支持派が多いこと、そしてトランプ氏はすでに一般人であることが理由です。

民主党としては2024年の大統領選でトランプ氏が再出馬できないようにしたい狙いがありますが、現実的には難しい様相です。一方で、共和党内での分裂が目立つようになっており、2022年の中間選挙への影響も懸念されます。

弾劾裁判で有罪獲得を目指す民主党がどこまで勢いを保てるか、そして共和党がどこまでトランプ氏を擁護するかに注目です。

本記事は、2021年2月10日時点調査または公開された情報です。
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