はじめに - 熱狂的なトランプ氏指示者たち
アメリカではいまだに新型コロナウイルスの恐怖に怯える人が多く、西部のカリフォルニア州やオレゴン州などでは過去最大の山火事が続いていることから、ふたりがこれらの緊急事態にどのように対応するのか非常に注目されています。
一方で、ここに来て熱狂的なトランプ大統領支持者らが活動を強めてきています。なかでも注目されているのが「Qアノン(キューアノン)」と呼ばれる人たちです。
今回は「Qアノン」とはいったいどのような思想を持った人たちで、何を目的にしているのか、そしてどんな行動をしているのかなどをまとめてご紹介します。
Qアノンとは?
はじめにQアノンについて概要を見てみましょう。
Qアノンとはどのような人たち?
Qアノンとは、アメリカ政府を影で操る存在がいる(陰謀論)ことを主張し、トランプ大統領がそれと戦っていると考えている人たちのことです。
ごく簡単に言えば「トランプ大統領の熱狂的な支持者」と言えます。Qアノンは特定の人物を指している訳ではなく、あくまでもこのような考えを持っている人たちの総称です。
自らをQアノンと呼ぶ人もいれば、結果的にQアノンと同じ思想だったという人もいます。いずれにも共通することは様々な「陰謀論を信じている」ということです。
一般的には、トランプ大統領を支持することを正当化するために陰謀論を唱えているとされていますが、主張の中にはあながち陰謀論で片付けられないような真実味があることも含まれているため、SNSやインターネットの影響を受けやすい若者たちの間で増加傾向にあります。
日本でも流行しているような「都市伝説」を信じる人たちが急激に増加して団体になり、政治的なメッセージを発信するようになったのがQアノンと言えるでしょう。
Qアノンの活動
Qアノンの主な活動は「トランプ大統領を支持すること」です。
投票を呼びかけることや選挙集会に集まることをはじめ、個人のSNSで陰謀論に関する情報発信をすることで、トランプ大統領の支持を呼びかけたり、民主党を批判することが続けられています。
Facebookには20万人以上が登録した「QAnon News&Updates」というアカウントが作られ、情報交換や情報発信が行われてきましたが、同社の利用規約に基づいてアカウントはすでに削除されています。
つまり、公の場においてはQアノンの政治的な主張や言論は信頼性が足らず、人々に混乱を与える行為と捉えられているのです。
アメリカでは同じ政治思想を持った人たちが集まって、情報発信することは自由の範疇ですが、Qアノンの場合は「根拠がない陰謀論」を訴えているため制限がかかってしまう訳です。
Qアノンに対する検閲は強まっていますが、名前を変えて似たような主張を続けており、存在自体はなくなっていません。事実、選挙集会や道路上では「Q」とプリントされた帽子やシャツを着用している人、旗を掲げて車を走らせている人を見かけます。
Qアノンの目的
Qアノンの目的は「陰謀論の拡散」と「トランプ大統領の再選」です。
Qアノン支持者は、アメリカ政府は闇の政府(ディープ・ステート)によって長年支配されていると信じています。一般的なアメリカ政府はあくまでも仮の姿(隠れみの)であって、実際の政府は「金融業や生産業のトップ」が牛耳っていると考えているのです。
金融業や生産業の一部だけが裕福になるように法律が作られており、外交は国益ではなく一部の富裕層がさらに儲かるように仕組まれていると主張しています。
しかし、この点においてトランプ大統領は現行の法律や、常識を破る政策を次々に実施していることから、闇の政府と戦っているヒーローだというのがQアノンの主張です。
Qアノンは闇の政府からアメリカ政府を解放するために陰謀論を拡散してアメリカ人に周知すること、そして闇の政府と孤軍奮闘する英雄であるトランプ大統領を再選させようとしているのです。
つまり、Qアノンは闇の政府(ディープ・ステート)から、アメリカ政府を守ることが最大の目的と言えるでしょう。
Qアノンの背景
Qアノンは、トランプ大統領が就任した2017年に、インターネットの「4ch」に掲示板が立ち上げられたことが発祥とされています。
投稿の際にトランプ大統領支持者らが「Q」という匿名を使ったこと、そして匿名という意味の「Anonymous」を掛け合わせて「QAnon(Qアノン)」と呼ばれるようになりました。
これ以前からもアメリカには闇の政府(ディープ・ステート)が存在していることが噂程度に浸透していましたが、トランプ大統領の支持者らによってこの噂がインターネット上で爆発的に広められたのです。
これまで、まことしやかに囁かれていた事実無根のうわさ話が、Qアノンに共感する人たちによって広まり、インターネット世代の若いアメリカ人たちが真実として信じたことで、Qアノンの勢力が増えたということが背景です。
言い換えれば、Qアノンは「ネットの情報を信じ込んでいるアメリカ人」と言えるかもしれません。
Qアノンの主張
次に、Qアノンはどのような主張をしているのか主なものをご紹介します。
闇の政府(ディープ・ステート)の存在
Qアノンの間で最も信じられているのが「闇の政府(ディープ・ステート)の存在」です。
先述したように、アメリカの金融業や生産業の富裕層が自分たちの利益を確保するために、ロビー活動などを通じて政治家を動かし、議会や法律を管理しているといった内容です。
アメリカの哲学者として著名なNoam Chomsky(ノーム・チョムスキー)は、自書(Requiem for American Dream)のなかで「アメリカは企業社会主義の国家」としたうえで「大企業による政治的な力は法律に反映されて、富が集中するようになる。財政政策、税務政策、規制緩和、企業統治の規制などがその例」と紹介しています。
他にも同氏は「アメリカは大学の授業料を法外な値段にすることで、アメリカ人が政治を理解できるほどに賢くなることを防いでいる」ことや「一生働かざるを得ないように、学生ローン漬けにして政治のことを考えられなくしている」などと指摘しています。
つまり、アメリカ政府は実質的にはアメリカの企業や富裕層に管理されており、政府としての意味をなしていないという考えです。同氏の主張に基づくと、闇の政府の正体はアメリカの金融業や生産業、そしてその経営者らと言えるかもしれません。
ちなみに、チョムスキー氏はQアノンの思想はなく、むしろトランプ大統領を痛烈に批判しています。Qアノンの人たちは、チョムスキー氏が主張するデータや事実をうまく切り取って、トランプ大統領を支持する理由にしていると言えます。
新型コロナウイルスは仕組まれた計画
Qアノン支持者は、新型コロナウイルスを巡っても様々な主張を繰り返しています。
例えば、武漢の研究所を発信源とするウイルス感染は世界一の経済大国を目指す中国がアメリカを転覆させようと試みたものと主張する声や、アメリカの製薬会社がわざとウイルスを拡散させてワクチン販売による利益を得ようとしているなど、荒唐無稽なものも含めて様々です。
一方で、2020年6月にはアメリカのポンペオ国務長官が「コロナウイルスは中国の武漢の研究所から広がった、証拠もある」と発言したことから(証拠はいまだに提示できていない)、Qアノン支持者らは、うわさ話程度だった情報を「本当かもしれない」と信じていったのです。
冷静に考えれば証拠不十分な情報ということが分かりますが、インターネット上で多くの人が共有していることや、それを見ているのが判断力に乏しい若者ということもあり「嘘から出たまこと」になっている訳です。
民主党と小児性愛者向けの人身売買の関係
Qアノンは、オバマ元大統領やヒラリー・クリントン元国務長官などの民主党エリート議員らが、小児性愛者向けの人身売買に関与していると主張しています。
アリゾナ州の砂漠のどこかに人身売買の拠点があると投稿されたことから、現地在住のQアノン支持者らが砂漠を捜索する事態になりました。捜索の結果、人形、革ひも、ポルノ雑誌が残されていた建物があったことから、これを事実と断定し問題化させようとしました。(当然、誰も相手にしなかった)
Qアノン支持者は、トランプ大統領を批判する民主党議員らを「腐ったエリート」と呼び、トランプ大統領が腐ったエリートらによる圧力に負けずに戦っていると信じています。
一方で、このグループは幼児虐待や人身売買に反対する国際的なNGO団体「Save the Children」と関連付けて情報を拡散していたことから、Qアノンの思想を積極的に広げようとしていたと思われます。
Qアノンの影響
Qアノンが与える影響を見てみましょう。
真実が分からなくなる
Qアノンが世間に与える最も大きな影響が「真実と偽情報の混在状態を作り出す」ことです。
Qアノン支持者らはインターネット上の情報を「鵜呑み」にしており、書かれていることが全て正しいと思い込んでいます。本来であれば、情報を発信する側が入念な取材や裏取りをして真実性を高める必要がありますが、Qアノンにはこの行程がありません。
つまり、アメリカ人の大半が、嘘や根拠が乏しい情報によって、正しい政治的な判断が出来なくなったり、他者を批判、攻撃するようになる可能性があるのです。アメリカ人の純粋さや、無知を狙った洗脳に近い言動と言えるかもしれません。
Qアノン支持者が当選
2020年8月、ジョージア州の下院予備選で、かねてからQアノン支持者であることを公表し、過激な発言を繰り返していた共和党のテイラー・グリーン氏が当選しました。
グリーン氏は人種差別主義者で、反ユダヤ主義、反イスラム教徒に理解を示す動画を投稿している過激派です。スローガンでは「アメリカを守る!社会主義を阻止しよう!」と民主党に対抗し、トランプ大統領とペンス副大統領を支持しています。
ここまでの過激派が当選した背景には、Qアノン支持者らのサポートがあったと考えられており、Qアノンの思想が選挙結果に反映され始めたケースと言えます。
ちなみに、トランプ大統領はグリーン氏当選を祝うツイートをしており、一下院議員の当選を大統領が祝うようなことは異例です。
喜ぶトランプ大統領
トランプ大統領はQアノンの存在について「よく知らないけれど、私のことをとても好きでいてくれる人たちだ」としたうえで「私たちの国を愛している人たちだ」とコメントしています。
こうしたトランプ大統領の発言は、Qアノン支持者らを勢いづけたことは間違いなく、Qアノン支持者らはこれまで以上に結束を強め、舞台をインターネット上からリアルな世界に移しています。
事実、選挙集会や共和党のキャンペーンの会場には「Q」とプリントされたTシャツを着たQアノン支持者や、プラカードを持った人が大勢詰めかけるようになりました。Qアノンは再選を目指すトランプ大統領にとって強い味方になっていると言えます。
まとめ
以上、「アメリカを騒がす「Qアノン」とはいったい何?」でした。
Qアノン支持者は根拠に乏しい情報を信じ込んでトランプ大統領を支持しています。どのような政治信念を持っているかは個人の自由ですが、インターネット上の信頼性が低い情報を信じて、なおかつそれを政治思想にするアメリカ人が多いことが問題の一因となっているようです。
情報発信に活用されているFacebookやTwitterなどの企業は、大統領選に向けて「根拠がない情報の拡散を防ぐ措置」をとっていますが、規制できる範囲は限られているため、抑止力は低いと思われます。
2020年のアメリカ大統領選に向けてアメリカ人には「真実を見極める力」が一つのポイントになりそうです。
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