2024年大統領予備選で共和党の指名を勝ち取り、事実上現職のバイデン大統領との一騎打ちに駒を進めたトランプ前大統領ですが、11月の本選に向けた戦いはいくつもの不安要素をはらんでいます。
不安要素その1)共和党員全員がトランプ氏を支持しているわけではない
MAGA(マガ)を筆頭にトランプ氏の支持基盤は根強く、共和党の指名代表の座を勝ち取ったことからもトランプ氏が共和党内で絶大な支持を得ているのは確かですが、だからと言って共和党支持者全員に好意を持たれ支持されているというわけでもありません。
たとえトランプ氏が刑務所に入ることになっても、ほとんど間違いなくトランプ氏に投票すると思われるトランプ氏のコアな支持者(https://www.youtube.com/watch?v=Q5dovP0vWkw)とは反対に、トランプ氏の極端な発言や過激な行動に恐れや強い不快感を抱いている共和党有権者は確実に増えてきています。
不安要素その2)トランプ氏によって繰り返される過激な発言
2020年に盗まれた政権奪還
例えば、トランプ氏の演説に必ず盛り込まれる「2020年の大統領選挙は大規模な不正によって盗まれた」という訴えは、ほぼ完全に否定されています。それにもかかわらず、トランプ氏の熱烈な支持者達は「大統領選挙で不正があった」と固く信じていて、演説中に「盗まれた2020年の大統領選挙」の話がでると、観衆はあたかもカルト教の教祖を盲信する信者のように、トランプ氏の話に歓呼で答えます。(https://www.youtube.com/watch?v=TJ_0pOe8s_0)
こういったコアな支持者の恐ろしいところは、いまだトランプ氏の敗北を認めず、盗まれた政権は奪還するべきだと本当に信じているところです。2021年1月6日に暴徒化したトランプ支持者達が米連邦議会の議事堂を襲撃した事件では、警察官1人と支持者4人が亡くなっています。しかし現場で逮捕された支持者達は、自らの行為を悔やむどころか、事件に参加できたことを誇りに思っていると語り、もし必要であれば、また同様な事件に関与してもと構わないと言っています。もしそれが本心なら、トランプ氏が2024年の選挙に敗北した場合、前回と同じような事件が起こる可能性も高いはず、とても心配です。
過激化が予想されるトランプ氏の政治体制
アメリカの民放Foxニュースとの対談でトランプ氏は、もし大統領に返り咲き2025年に第2次政権が誕生した場合、就任日の1月20日だけは独裁者になると宣言しています。そして将来的には現在いる官僚達を大量に解雇して、自分に忠実な人々を政府の中枢に送り込み、大統領に権力を集中させる意向も述べました。
本当にそんなことができるのかどうかは疑問ですが保守系の政治研究機関、ヘリテージ財団は「プロジェクト2025」と称し、次期トランプ政権用に人材を募り始めているらしく、第2次トランプ政権が誕生後は1期目とは比較にならないほど、アメリカの民主主義にとって大きな脅威となるはずです。
移民対策
今回の選挙で大きな争点となっている不法移民対策に関しても、トランプ氏が「独裁者」となった暁には、バイデン政権下で行われた国境解放政策を速やかに終わらせ、米国史上最大規模の不法移民国外追放を行うと約束しています。
実際ここ数年、メキシコから不法に国境を超えてくる人が確実に増えています。不法移民者が犯す犯罪の被害や取り締まりにかかる人件費、また強制送還にかかる費用は州税によって賄われているので、移民が多く入ってくる州の住民からすれば、なぜ自分たちだけ移民対策費用を余計に負担しなければならないのかと不満に思う気持ちがあります。そういう人達にはトランプ氏の不法移民対策は、とてもよく聞こえるはずです。
しかし移民は不法滞在者ばかりではなく、高度なスキルや高い知識を認められてビザを保有している人や、ビザを保有していなくても一時保護資格を受けている人達や、難民として米国滞在が認められている人達がいます。そう言った合法的に認められた移民は、アメリカ総人口の約15%を占め、皆アメリカに税金を払って暮らしています。もしトランプ氏がビザの発給を大幅に制限した場合、合法的な労働力の獲得にも支障をきたすことにもなるでしょうし、その人たちが支払う税金も減るはずなので、今後のアメリカの経済成長の妨げになる可能性もあり、移民が大幅に減少した場合にも深刻な問題が発生します。
実際2017年にトランプ氏が大統領だった時、外国人労働者へのビザ発給が大幅に制限されました。そのおかげでITや医療関係など非常に専門的な知識を必要とする分野で、海外からの人材を雇い入れられなくなり、大変な損害を受けたという話もありました。また不法移民摘発のゼロ寛容政策では、不法に入国してきた親子が引き離されて別々に収容され、家族によっては離別が永久的になる場合もありました。そして不法移民以外にも数百万人規模の合法移民及びアメリカ国民が、深刻な差別や虐待の被害を被りました。
ロシア・ウクライナ戦争
ロシアのウクライナ侵略についてもトランプ氏は、自分が大統領なら24時間以内にこの戦争を終わらせることができると公言しています。もしアメリカが本気で軍事介入すれば、戦争を終結させる手立てはあると思います。トランプ氏がどのような方法で24時間以内に戦争を終わらせるのかはわかりませんが、その方法がヨーロッパのパワーバランスを故意に崩すためのウクライナへの支援の取り止めやNATOからの脱退だとしたら、アメリカ国内のみならず世界に最悪の事態を招くような事にもなりかねません。
トランプ第二期政権のテーマは「復讐」(revenge)と「報復」(retribution)
トランプ氏が大統領に返り咲いた暁には、人事と政策の両面で報復を考えているようです。トランプ氏に対する刑事裁判が開始された直後から、マンハッタン検事局に脅迫メールや電話が押し寄せ、今回トランプ氏を起訴したマンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事宛には、白い粉の入った殺害予告の手紙も送られてきました。裁判の結果によっては、今後もこの裁判の関係者全員が「一連の脅迫行為」以上の報復を受ける可能性も大いにあります。
トランプ氏は自身に対する刑事訴追を司法の武器化だと非難しながらもバイデン大統領に対しては、第2期トランプ政権発足後すぐに特別検察官を任命してバイデン氏とその家族を起訴すると、司法を自らの武器として政敵への復讐を宣言しています。
不安要素その3)刑事裁判で有罪になった場合
しかしこの報復が行われるのは、あくまでもトランプ氏が裁判で勝訴した場合の話です。現在行われている2016年の不倫相手への口止め料を不正処理したとされる刑事裁判でトランプ氏が有罪になったとしても、禁錮刑(最高4年)は免れると予想されています。しかし問題は選挙への影響です。アメリカ国民の大半は、アメリカ大統領に期待する最も重要な資質は倫理観であると考えています。そのためもしトランプ氏が裁判で有罪になった場合、本選には投票しないと言っている人が多くいます。(https://www.youtube.com/watch?v=wO1Caz3OZ7o)
2016年と2020年にトランプ氏に投票した人達でも、約3分の1は有罪なら投票しないと言い、穏健派や無党派層が多いヘイリー氏の支持者に限ると、トランプ氏が有罪となれば大統領に相応しくないと答えた人が全体の約8割にも上ります。もしヘイリー氏の支持者の何割かが本選で投票をしないか、バイデン大統領に投票することになれば、トランプ氏にとって大打撃になるのは確実でしょう。
まとめ
2020年の大統領選では大規模な不正が行われたとあくまでも虚偽の主張を続け、自らに対する起訴も魔女狩り、政治的迫害、常軌を逸した選挙妨害だと激しく罵り続けるトランプ氏の行動は、裁判所だけではなく選挙を通じた世論に判決を求めているようにも見えます。本人は「共和党はかつてないほど結束している」と自信たっぷりに述べていますが、実際のところはどうなのか。投票日まで目が離せません。
コメント