長い間延期されていた、ニューヨーク州のトランプ氏に対する刑事裁判が、いよいよ2024年4月15日公判に決まりました。裁判の行方も気になりますが、この歴史的な裁判の陪審員に選ばれるのは一体どんな人でしょうか。
トランプ前米大統領が不倫の口止め料を不正処理したとされる事件
起訴状などによると、トランプ氏は2016年の大統領選直前、不倫関係にあったポルノ女優に当時の顧問弁護士を通じて13万ドル(約2000万円)の口止め料を支払った。 弁護士に弁済する際に趣旨を偽って小切手を作成したなどとして34件の罪状で起訴された。
(出典:時事通信)
アメリカの陪審員制度について
アメリカでは刑事及び民事の裁判で陪審員制度を用います。
まず陪審員候補が一般市民からランダムに選出され、陪審員候補に選ばれた人達には、裁判所から郵送で陪審員候補に選ばれた連絡が届きます。陪審員は20歳以上のアメリカ国民しかなれませんが、納税者リストの中から選出されるので、グリーンカードやビザでアメリカに暮らしている人にも郵便が送られてくる可能性があります。
以前は質問票も郵送されてきましたが、今はインターネットのサイトにアクセスして、オンライン上で質問に答え、返信します。質問は、本人と配偶者の学歴、職業、年齢、人種など一般アンケート的なものから、知り合いや家族に弁護士がいるかどうか、刑務所に収監されたことがあるか、現在病院にかかっているか、または既往症があるかなど、個人に関する質問もあります。時には時節柄必要な質問も追加され、例えばコロナパンデミック中には、感染予防の観点から、ワクチンを受けたかどうか、まだ受けていない場合は受ける予定があるのか、という質問も含まれていました。
陪審員に指名されるのをあまり歓迎しない人もいますが、忙しいとか興味がないという理由で断ることはできません。しかし一定の自由に該当する人、例えばアメリカに居住しているがアメリカ国籍ではない人やアメリカ人でも他国から移民してきたばかりで英語がわからない人などは、辞退理由の欄にそう説明しておけば、100%ではないにしても大体の場合、選考で外されます。
しかし実は理由を何も書かなくても、名前からして母国語が英語でなさそうな人は、陪審員から外される場合が多いようです。アメリカの陪審員制度は、被告人が有罪か無罪かを陪審員だけで評議によって決めなければならず、評決までの過程に裁判官の助けもありません。そのため他の人の意見を理解しながら自分の意見を的確に伝えられる語学力、正しい判断の下せる知識やある程度の社会経験も必要になります。そうなると必然的に英語が母国語の人達が選ばれる可能性が高くなるわけで、英語が母国語でない人達を差別しているわけではないと思います。
書類選考に通過した陪審員候補には裁判所から場所と日時の連絡が来て裁判所に召喚され、裁判官や代理人(弁護士や検察官)による予備尋問と呼ばれる面談でさらに絞り込まれ、最終的に裁判官や代理人が陪審員に相応しいと判断された人が、晴れて陪審員に選ばれます。
2024年4月15日の裁判で陪審員候補にされる質問
CNNニュースによると、今回のトランプ氏に対する裁判の陪審員はまだ誰になるか決まっていませんが、ニューヨーク郡に住んでいる人達の中から選ばれるそうです。現在公開されている陪審員候補への質問は42問で、通常質問されるであろう、住んでいる地域や職業、年齢や犯罪歴以外に、トランプ氏に関する質問が数多く含まれることになっています。
陪審員に聞ける質問と聞けない質問
陪審員候補者に対し、あなたはドナルド・トランプ支持者ですか、それともバイデン支持者ですか?とは聞けませんが、以下のような間接的な質問はできます。
- あなたは現在、あるいは過去にドナルド・トランプ氏をソーシャルメディア・サイトでフォローしたことがありますか?
- トランプ大統領の集会や選挙イベントに参加したことがありますか?
- 反トランプ集会や選挙イベントに参加したことがありますか?
- 今までにトランプ氏について書かれた本を読んだことがありますか?
- あなたの家族、親しい友人、あるいはあなた自身が、反トランプグループやその組織で働いたことやボランティアをしたことがありますか?
- トランプ前大統領について何か強い意見や確固たる信念を持っていますか?または彼が現職の大統領候補であるという事実が公正で公平な陪審員であるあなたの能力の妨げになりえますか?
そしてこれ以外にも、(この質問に対して一つでもYesと答えた場合には、陪審員に選ばれる可能性はないと思いますが)Qアノン運動に参加したことがあるかどうかについてや、右翼や左翼の政治的過激派グループ、プラウド・ボーイズ、オース・キーパーズ、スリー・パーセンターズ、またはアンティファに加入していたことがあるかどうかも質問されるはずです。
質問票で外される人以外にも肉体的・精神的に限界がある人や、いくら法律で陪審員は義務と決められていたとしても、医師や教師など、職業上6週間も連続で仕事を休むわけにはいかない人達も欠格事由の対象として陪審員候補からはずされます。
今回の裁判は週に4日裁判所に赴き、期間は最低でも6週間かかる予定です。今回のような重大事件では評決が決まるまで、陪審員は家にも帰れず家族や友人と話すことも許されません。陪審室を出る時は武装した警備官が付き、夜はホテルに閉じ込められドアの前には警備がつき、まるで犯罪者を護送するときのような厳重さになると予想され、陪審員への負担が過重である事も気になるところです。
陪審員の選出の困難さ
今回の陪審員の選出は、通常よりも難しい点がいくつもあります。
まず、陪審員候補の数の多さです。ニューヨーク裁判所は、通常週4000人ほどなどに対し、今週は6000人の陪審員候補と面談しなければなりません。トランプの裁判の陪審員候補はその内の約500人、その中から本陪審員12人と補欠6名を大至急選ばなければなりません。
陪審裁判において理想的な陪審員は、被告のことを全く知らない人だそうで、もし実際に知っていれば、判断に不当な影響を与える恐れがあるということで、陪審員から除外されます。しかし今回の裁判被告人のトランプ氏は元大統領の超有名人、トランプ氏を知らない陪審員候補を見つけるのは、そもそも不可能だといえますし、陪審員候補の誰を選んでも、多かれ少なかれトランプ氏に対しての意見を持っているはずです。そのため今回の陪審員適任者は、たとえトランプ氏に対して意見や偏見を持っていたとしても、法廷に入った時点で、自分が抱いている偏見を脇に置き、事態を公正に判断出来る人を選ばなければならないので、どの陪審員候補を選択するにしてもかなり難航しそうです。
まとめ
この裁判には、最終的に12人と、あと数人の補欠の陪審員が選ばれます。誰が選ばれるにしても、公正な判断を下せる人が陪審員になって欲しいところです。
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