官僚のテレワーク化を阻む業務とは?最もテレワーク化が進むのは「環境省」

働き方改革や、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策で、国民のテレワーク化が進んでいます。しかし、呼びかけているはずの中央省庁ではなかなかテレワークが進んでいないようです。

テレワークについて、民間企業が現役の国家公務員に対し行ったアンケート調査結果と、そこから最もテレワークが進んでいるのが「環境省」であったことなどをご紹介します。


「テレワークを全くしていない」現役の国家公務員は4割近くもいる

民間企業の「ワーク・ライフバランス社」が、現役の国家公務員を対象にアンケートによる勤務の実態調査を行いました。調査は「2021年 コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査」という名称で、調査期間は、2021年3月16日から4月5日でした。

その調査結果では、現役の国家公務員のうち、「テレワークを全くしていない」との回答が38.6%と約4割にのぼることがわかりました。さらに、「テレワーク非推奨、もしくは禁止されている」との回答も35.4%にのぼり、テレワーク自体が勧められていないこともわかりました。

政府が国民に求めている「7割以上テレワーク」という水準には程遠く、実際に「70%テレワークを実施している」という回答は、回答者のうちわずか9.5%にすぎなかったようです。

参考:株式会社ワーク・ライフバランス「【プレスリリース】【コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査】 全額支払い指示後もなお3割が残業代を正しく支払われていないことが判明 残業代を最も正確に支払っていないのは「財務省」「厚生労働省」」

テレワーク化が進まない理由は、業務の内容や通信環境の不整備など

同調査では、「テレワーク・自宅勤務の実施やその際のIT環境についてのフリーコメント」も集められており、テレワーク化が進まない理由としてのコメントも紹介されています。

内閣官房に勤める30代の職員は「テレワークが自分の希望で行うという建付のため、通信費や光熱費が自己負担となっている。」ことを指摘し、さらに、「特に電話代は多い月で1万円弱業務使用でかかったが、自己負担したことに憤りを感じている。」とコメントしました。

また、国土交通省の20代の職員が「国会担当はテレワークは不可能。国会運営を考えてほしい。」とコメントし、厚生労働省の40代職員は「国会議員関係でテレワークもできません。問取やレクなど」とコメントするように、国会の運営の改革無しには、特に国会を担当する官僚のテレワーク化は不可能だとする見解もあったようです。

【官僚のテレワークを阻む国会関連業務1】「問取」とは?

国会担当の官僚の仕事の一つに「問取」と呼ばれる業務があります。

問取とは、国会議員への「質問取り」の略で、それぞれの省庁が担当している施策に関連して、国会議員が問題意識を持って国会で質問を行う場合に、その趣旨を聞き取ることを意味しています。

国会議員が前もって、十分な時間の余裕をもって質問することを決めていたり、国会議員側が作成する質問通告の内容から問題意識をはっきり読み取ることができれば、問取の業務を効率よく進めることが可能になりそうですが、実態はそうではないようです。

この問取について、2021年1月の「衆院議院運営委員会理事会」で、対面形式をできる限り自粛すると与野党間で合意がなされているようです。さらに、質問通告自体も2日前まで、というルールがあるのですが、実際には国会の前日夜になって突然、質問通告がなされたり、対面形式を求められたり、質問内容が曖昧で直接の確認が必要であったりするなど、オンラインでの問取が難しく直接出向かないとうまくいかないケースが多々あり、「テレワークは不可能」な業務の一つになってしまっています。


【官僚のテレワークを阻む国会関連業務2】「レク」とは?

国会担当の官僚の仕事には「レク」と呼ばれる業務もあります。

レクとは、レクチャーの略であり、それぞれが担当する業務について、外部関係者や国会議員に説明したり、意見交換したりする業務です。レクの相手によって、「議員レク」や「大臣レク」など名称が異なります。

レクでは基本的な業務のことや、現状について官僚が議員や大臣に解説をするのですが、レクをしないまま国会で的外れな回答をされないためにも重要な業務です。
このレクについては、リモート対応OKかどうか、議員や大臣によって異なるようで、対面を求める議員、書面での説明を求める大臣など、相手によってはテレワークが不可能なケースもあるようです。

通信環境が整っているとは言い難い省庁もある

今回の調査で回答した農林水産省の20代職員によると、「先日某社の学校用PCが4GBで低すぎると話題になっていたが、役所がそもそも4GB。」と指摘した上で、「ファイルが毎日大量に送られてきて、ファイルの開閉に就業時間の1割を割いている。通信環境もあまり良くない。Skype会議の主催権限も課で数名な上、遅延が多く使いにくい」などとコメントしています。

国の中央組織の一つでありながら、メモリや通信環境、アカウントの状況など、残念ながら日本の最先端技術を活用しているとは言い難い状況であり、改善が求められそうです。

コロナ禍で官僚のテレワーク化が進んだ一面も

以上のようにさまざまな要因が官僚のテレワークを妨げていますが、上記でご紹介した「レク」業務については、相手によってリモート対応が可能なことから、全体としてテレワーク化が進んだという側面もあるようです。

ワーク・ライフバランス社の調査によると、同社が2020年6月から7月にかけて行った調査結果と、今回の調査結果を比較すると、「オンラインで議員レクができる」と答えた国家公務員は、「17%」から「67%」へ急増しました。

また、「議員とのやりとりがFAXではなくメールなどになった」は「14%」から「69%」へと上昇し、国会運営の特にレク業務の部分に関しては確実にオンライン化、リモート化が進み、テレワークが実施可能な風土ができつつあることもうかがえます。

そもそも、政治的な国会運営という側面にもテレワークを阻む問題点が

一方で、今回の調査でリモート対応をさせてもらえない、質問通告が遅いなどと指摘された政党や議員には野党議員が多く、「そもそも国会(委員会)の開催が決まるのが2日前の直前であり、2日前に質問通告を出すのが不可能なケースもある」といった事情もあるようです。

国会論争は政治的な闘いでもあるため、国会のスケジュール組みについて、どうしても与党が有利なように決まる傾向があります。

そのため、政府・与党有利で国会運営が進む中、どうにかギリギリのスケジュールの中でも質問通告を提出し、与党と必要な議論を展開しようとするのは、野党として当然の機能とも考えられます。

ただし、その政治に巻き込まれ、官僚たちがテレワークもできず、また長時間労働、急な深夜残業をしていることも事実であり、せめて国会のスケジュールについては予め合理的に設定し、政治利用すべきではないのではないか、といった指摘もあるようです。

「大臣レクのオンライン化・ペーパーレス化」が最も進んでいるのは「環境省」

今回の調査によると、「大臣レクのオンライン化・ペーパーレス化」に関する省庁別の状況で、最も進んでいるのは「環境省」と「経済産業省」でした。環境省と経産省は2020年の調査でも上位で、今回も引き続き上位だったので、オンライン化・ペーパーレス化が組織文化として定着しつつあるということです。

また、2020年調査時には対応状況がワースト3に入っていた「防衛省」と「法務省」が、今回の調査では3位、4位といずれも上位に来ており、改善傾向にあることがわかったようです。

引用元:株式会社ワーク・ライフバランス「プレスリリース」


まとめ

このページでは、現役の国家公務員、官僚のワーク・ライフバランス特集第1弾ということで、最もオンライン化・リモート化が進んでいるのが「環境省」だという調査結果をご紹介しました。

また、国会担当になってしまった国家公務員にとって、「問取」や「レク」など、相手によってテレワークが不可能な業務があることをご紹介しました。

さらに、国会のスケジュールまでもが政治利用されている点から、国会が変わらなければ、官僚のテレワーク化は進まないという問題点についても解説しました。

「官僚のワーク・ライフバランス」については、こちらのページで特集しています。

本記事は、2021年7月5日時点調査または公開された情報です。
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