見ていること=感じていること=事実?
「色眼鏡で見る(色眼鏡をかけて見る)」という表現があります。辞書によると、「かたよった物の見方。先入観にとらわれた物の見方。偏見」とあります。
誰しもが、それまで生きてきた環境や経験、価値観に基づいて周囲を見ています。つまり、人は無意識に自分の色眼鏡を通して世界を捉えているのです。
この無意識の偏見は、「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれていますが、それがあること自体は問題ではありません。
問題は、本人が気がつかないうちに相手に疎外感やストレスを与え、やがて人間関係の亀裂を招いてしまうことです。
自分でも気がつかないほど深いところにある思い込みは、とくに女性や若者、マイノリティ(少数派)に対して現れやすく、ダイバーシティ(多様性)が推進される現代社会で、軽視できない課題となっています。
自分の見ている世界は、果たして自分が感じている通りで、それは本当に事実であるのか?
こうした「自分自身に対する問いかけ」をすることが、これからますます大切になってくるかもしれません。
自分を含め誰もが「考え方のクセ」を持っていることを前提に、改めて周囲を見直してみることが、今必要とされています。
ストレスも、考え方のクセから生まれる。
令和2年度の厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活について「ストレスとなっていると感じる事柄がある」とする労働者の割合は、54.2%にのぼります。
ストレスの内容は、「仕事の量・質(56.7)%」、次いで「仕事の失敗、責任の発生等(35.0%)」、「対人関係(27.0%)」となっています。
また、あるリサーチ会社は、コロナ禍の現在と、コロナ禍前の2019年とについて、日常生活、仕事、学校で感じるストレスを調査しています。
そのデータによると、現在ストレスを感じている人の割合は58.0%で、2019年の1.4倍に増加しています。
ストレスの内容は「外出や旅行が自由にできない」を筆頭に、「自分や家族の感染リスク」、「感染予防対策(マスク着用・消毒など)」、「行動自粛で友人・知人との関わりが薄れている」と続いています。(出典:インテージ 「知るギャラリー」2021年5月31日公開記事)
このように、現在はコロナ禍という環境が、余計にストレスを感じやすくしていることもあり、10人いれば半分以上の人が何らかのストレスを抱えながら生きています。
しかし、逆に考えれば10人のうち、あまりストレスを感じていない人も確かにいます。この違いはどこから来るのでしょうか?
アメリカの心理学者ラザルス(1922-2002)は、ユニークなストレス理論を提唱しています。この理論によれば、人は何らかのストレスを感じた時に、次のような「1次評価」と「2次評価」の2段階のプロセスを経ているといいます。
- 1次評価…ある刺激が自分にとって脅威(ストレスフル)になるかならないかを、反射的に判断する
- 2次評価…1次評価でストレスフルと判断されると、そのストレスに対してどのような対策をするかを考える
ラザルスのストレス理論では、刺激そのものがストレス反応を引き起こすわけではなく、考え方のクセや対処の仕方によって、心身に起こる変化も異なるということが明らかにされています。
ストレスの評価をする時にその人の資質や感覚が、多大な影響を及ぼしているのです。そこでは多かれ少なかれ「無意識の偏見」も関係することがあるかもしれません。
例えば、「ある人にメッセージを送ったけれど、すぐに返事が来ない」ということが起こった場合、あなたはどう思うか考えてみてください。
まったく何とも思わないという人もいれば、「返事が来ない」という出来事に、自分の過去の経験からくる感情や無意識の偏見を加えてしまう人もいるでしょう。
とくに、心や体が疲れているときには、出来事に対して辛かったり、悲しかったり、腹が立ったりして否定的な考え方をしがちで、その気分が更なるネガティブな感情を呼び起こし、悪循環を招きます。
ストレスを軽くするには、評価の際に自分の考え方のクセに囚われないことが大事だといいます。
先に述べたように、コロナ禍であっても日常生活であまりストレスを感じないという人は確かにいます。
言い換えれば、誰もが自分の枠組みから出ることは可能なのです。
ストレスの捉え方は、訓練できる。
ラザルスの理論では、ストレスを軽減させるための努力を「ストレスコーピング」と呼んでいます。
コーピングは、2つに大きく分けられます。
1つは、ストレスを感じている問題を直接解決する対処法、もう1つは実際の状況を変えるのではなく、自分の不快な感情を軽くする対処法です。
前者は根本的に解決することが難しいことが多いため、後者のように自分なりのリラクセーションを試したり、「このピンチは自分の可能性を拡げるチャンス」と捉えるなどの認知的な試みが有効なことが多いといわれています。
様々な状況に適応するには、コーピングの選択肢が多いことも重要だといいます。
例えば、自粛でなかなか外に行けないことがストレスになっていても、こういう時にこそできることをしようと、掃除をしたり、たまった録画を見たりなど前向きに捉えることができると、ストレスは軽くなるとされています。
ある出来事が起こったときに、即座にストレスを感じなければ理想的ですが、それはなかなか訓練のいることです。
ストレスフルだと感じたならば、まず自分の感情に正直になり、その感情を持っている自分を認めることをお勧めします。
「腹が立つ」と感じれば、「ああ、自分は怒っているんだな」と声に出してみるのもいいでしょう。そして、「また、いつもの考え方の癖が出ているな」と気づきがあれば、その時点ですでに怒りは軽減されているはずです。
意外と知られていないことですが、脳は現実とイメージを区別できないことが分かっています。
世界の見方は、自分自身にかかっています。自分から自分に対して、よいイメージやメッセージを送ってあげることは、想像以上に効果のあることなのです。
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