高齢出産の定義とは
初産で35歳以上が高齢出産
高齢出産という言葉は当たり前に広がっていますが、一体どのくらいからが高齢出産となるのでしょうか?
答えは、初産で35歳以上からです。日本産科婦人科学会によって定義されています。かつて1993年以前では、初産で30歳以上が高齢出産とされていました。けれども、WHOの定義にのっとり日本以外の諸外国の定義に合わせるため、また日本でも30歳以上の初産妊婦が増えている事から、35歳以上に引き上げられました。
超高齢出産とは?
高齢出産の定義である35歳以上の初産も、現在の日本では決して珍しい事ではなくなりました。35歳以上に加えて、40歳台での初産のケースも多く、また50歳以上の女性の出産も以前に比べて格段に増えました。
50歳以上の女性は、自然に妊娠できるケースは少ないのですが、人工授精や凍結しておいた卵子を使用するなどの方法で出産をする事もできるようになりました。また、まれに50代でも自然妊娠するケースもあります。これらの50代での出産ケースを超高齢出産と呼びます。
高齢出産が増えた背景で…増加の理由とリスクを知ろう
女性の社会進出が第一原因
高齢出産が増加したそもそもの原因は、女性の社会進出です。医療の発展はそれを後押しするだけの存在でしかありません。
女性も男性と同様にキャリアを積めば役員や幹部職員としての地位に就く事ができるようになりました。また、自分で起業してビジネスとして成功を収める、女医などの専門職でキャリアを積んで実績を上げるためには、時間が必要です。自分の実力を裏付けるのには実績が必要であり、そのためには、多くの信頼が必要になります。
ところが、女性は妊娠や出産の期間には一時仕事などをストップせざるを得ません。一時仕事をストップさせる事により、キャリアを積むのが遅れてしまいます。また、職種や業種によっては、出産イコールキャリアルートからの脱落になる事もあります。
大学新卒で働きだすのが22歳ごろ、その後仕事を続けて、女性でも管理職となるのはだいたい35歳から40歳になります。働きながらキャリアを積みたい女性は、ある程度のキャリアを積んでからの出産となりますので、おのずと高齢出産となるのです。
結婚や出産に対する憧れがなくなった
高齢出産のもう一つの理由が、結婚や出産を意識していなかった女性が「やっぱり結婚しておこう」「ひとりくらい産んでみようか」と思い、結果高齢出産になるケースです。
今は男女ともに結婚に対する憧れが薄くなったと言います。また、非正規雇用が増えた影響で、家庭を持っても生活が支えられるかの自信がないのも、結婚まで至らない原因です。
そして、お互いに仕事を続けたい、趣味や好きな事にお金を使いたいと思っていた夫婦が子供を持たないまま生活をしていても、年を重ねるごとに、やっぱり子供を設ける事にして、その時には両親ともに40歳近かった、という場合もあります。
高齢出産が伴うリスクについて
メリットもあればデメリットもある
高齢出産は、女性のキャリアが安定した後に出産する事により、経済的な安定が図れる、年齢的な落ち着きを育児に反映できるといったメリットもあります。
しかし、高齢出産はメリットだけでなく出産そのものに色々なリスクがある事も覚えておかなければいけません。現在は芸能人や有名人の高齢出産も数多くのケースがあり、リスクはあまり取り上げられていませんでした。けれども、少しずつ高齢出産によるリスクが世間に知られる事になり、できるだけ早めに出産をするように、と国が促すような取り組みを行うべきと言った意見も出るようになりました。
今は、高齢出産によるリスクが浸透してきたため、女性の出産が早くなる時期への黎明期なのかもしれません。
染色体異常の確率が上がる
高齢出産によるリスクのひとつとして、染色体異常時の発現確率があがる事です。これは、卵子の老化が原因です。染色体異常の中でも著名なダウン症は、25歳の出産では1,351人に1人なのに対し、30歳では909人に1人、40歳では112人に1人の確率で発現し、母体が高齢になればなるほど高まると言われています。
また、自閉症スペクトラムなどの発達障害は、父親が高齢になると発現率が高まると言われています。
胎児に染色体異常がないかを調べる方法には、妊婦健診の中にある胎児スクリーニング検査があります。この他にも、羊水検査や血液検査を始めとした出生前診断を利用するケースも増えました。けれども、出生前診断は偽陽性が出る事もある、何よりも命の選別行為になるのではないか?といった理由から肯定的な意見だけでなく否定的な意見も多くなっています。
流産・死産の確率や母体へのリスクが高まる
卵子や精子が老化することにより、染色体異常の確率が高まると言う事は、流産や死産の確率も上がる事です。染色体異常を持った受精卵は、うまく着床してもその後育たない事も多く、流産や死産となってしまいます。
また、母体が高齢になると妊娠高血圧や糖尿病などの妊娠由来の疾患にかかりやすくなります。胎児と母体を繋げている胎盤が途中で剥がれてきてしまい、胎児と母体共に大変危険な状態になる、早期胎盤剥離になるリスクも高まります。そのため、管理体制の整った総合病院などのハイリスク妊婦に対応している医療機関への管理入院や、計画分娩となる事も多いです。また、切迫流産や早産にもなりやすく、低体重や超低体重児の出産になるケースも少なくありません。
妊娠する確率自体が落ちる
卵子や精子が老化する事は、精子が卵子に着床する確率自体が低くなるので、そもそも妊娠自体ができなくなります。40代では、妊娠できる確率は40%以下ともいわれています。
妊娠する確率自体が低く、自然妊娠をしてもすぐに流産してしまう、という事も高齢出産のリスクです。その結果、高齢出産となる夫婦で、どうしても子供が欲しい場合には、不妊治療を選択します。
不妊治療とは?色々なケースを見てみよう
不妊症の色々な原因を見てみよう
不妊症は、前述の高齢による妊娠率の低下の他にも、色々な原因があります。正常な生殖機能を持つ20代の男女の場合には、きちんと性交渉を行うと1年以内に妊娠できる確率が約90%、2年以内だと95%となっています。高齢以外の要因は、女性側の要因として毎月きちんと排卵をしない排卵障害や、精子が着床しにくい、できない着床障害、卵巣腫瘍や子宮筋腫があり、受精の妨げとなっている、卵管がねじれてしまっている、妊娠しにくい子宮の形になっている…など色々あります。また、生殖機能そのものだけでなく、疲れやストレスなどの精神的な要因も、不妊症を引き起こすと言われています。
不妊症、というと以前までは女性のみの疾患という偏見があり、姑から「子供ができないのは嫁が悪い」などと言われる女性も多くいました。ところが、不妊症は女性は正常でも、男性側に原因がある場合もあります。精子の動きが悪い、精子が少ない精子欠乏症や、精液の中に精子がほとんどいない無精子症などです。
不妊症は、適切な治療が受けられる様に、まず検査をして不妊症の原因を調べます。女性だけでなく、男性が原因の事もありますので、一緒に受けます。
不妊治療にかかる時間やお金は?
不妊治療を始めてから、妊娠できるようになるのには個人差があります。不妊治療を始めてから1年以内で妊娠できる人もいれば、5年以上続けていても妊娠しない人もいます。そのため、費用も10万円以内で終わる人もいれば、100万円以上かかる人もいます。
不妊治療を続けている人の中には、40歳をひとつの区切りと考えている場合が多いです。けれども、高齢初産の場合には不妊治療のスタートも遅くなるので、40歳から初めて不妊治療を行う人もいます。もちろん、高齢になればなるほどそもそもの妊娠確率が低くなりますので、高齢の不妊治療に対しては、「なぜもう少し若い時に妊娠しようと思わなかったのか」などの否定的な意見も少なくありません。
不妊治療はステップアップ式…内容を見てみよう
一般的な不妊治療
特に明確な不妊の原因が分からない時や、女性側が排卵しにくい体質である時には、まず一般的な不妊治療から始まります。排卵日を基礎体温などから特定し、排卵日前後に性交渉を行う事によって妊娠の確立を上げるタイミング法や、排卵誘発剤を使用して女性の排卵を促し、その前後にタイミングを取る排卵誘発法などがあります。
他にも、卵管造形と呼ばれる卵管の流れを良くする治療などもあります。
人工授精
一般的な不妊治療で妊娠に至らなかった時や、精子欠乏症など男性側に原因がある事が分かっている時には、人工授精に進みます。不妊治療というと、この人工授精を想像する方も多いのではないでしょうか。
人工授精は、男性から精子を提供してもらい、遠心分離器にかけて運動状態の良い、いわゆる元気な精子だけを取り出します。その取り出された精子を、専用のチューブを使用して、女性の子宮に注入する方法です。
体外受精・顕微授精
人工授精でも妊娠に至らなかった時や、無精子症の男性の場合には、体外受精や顕微授精に進みます。
体外受精は、男性から精子を、女性から卵子を取り出して体外で受精させ、培養させた後に女性の体の中に戻す事です。体外受精でも、精子の運動率が低い時には受精に至りませんので、精子を卵子に直接注入した上で、受精卵を培養して子宮に戻すのが顕微授精です。
また、顕微授精を使えば無精子症の男性でも、妊娠に至る事ができます。
不妊治療の最果て、代理母出産
イレギュラーな方法…代理母出産
日本国内の不妊治療でも妊娠できなかったカップルの最後の砦として行われているのが、代理母出産です。日本国内では、日本産科婦人科学会が自主規制を行っているため、行われていません。けれども、この整備の穴をついて、長野県内の産婦人科医が代理母出産を行ったケースがあり話題となりました。
日本国内では原則認められていませんので、代理母出産を求めて海外渡航をする高齢カップルも多くなっています。費用が低く済むインドや東南アジアが代理母出産の先としては人気となっていますが、代理母には倫理的な問題もあります。
色々なケースのある代理母出産
代理母出産は、妊娠を望む夫婦それぞれの卵子と精子を受精させ、代理母の子宮に入れて出産する方法の他にも…
第三者の卵子+夫の精子を受精させて代理母へ
第三者の精子+妻の卵子を受精させて代理母へ
といった色々なケースがあります。
代理母には、産まれてきた子供の権利を巡って代理母と夫婦が対立する契約を巡る問題や、第三者を介しての出産のために、遺伝的な問題、そして倫理的な問題もあります。
神の領域との声も…高齢が原因の不妊治療を考える
人の手が届かない領域との懸念も
医学が進歩した事は、安全なお産ができる事、そして高齢になっても不妊治療などを行うことにより、出産する確率が高まった事に繋がりました。
けれども、医学が進歩しても人間の体は進歩していません。元々人間の持つ機能は、生殖機能も含めて正常に作動する期間は決まっています。その事は、高齢になればなるほど妊娠しにくくなる、流産や死産の確率も高くなる事から顕著です。
そして、不妊治療はもともと妊娠できない夫婦から医療の力を借りて妊娠させる、神の領域ではないかとの懸念もあります。いささか乱暴な意見ですが、もともと人間も動物で、妊娠しにくい遺伝子を持つ精子と卵子は、自然淘汰されるべきではないか、との声もあるのです。
高齢となり、それでも子供を産む選択をした夫婦が不妊治療を選ぶケースは多くなりました。高齢出産の背景には、女性が適齢期に妊娠や出産をしにくいといった背景もあります。どんな女性でも、納得して子供を産む・産まない選択ができる、そして環境もそれに対応できる、安心して妊娠や出産、そして仕事にも打ち込める社会づくりが必要なのではないでしょうか。
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