【いじめ問題多発・隠ぺいで崖っぷち】教育都市仙台に今何が?

仙台市の中学校でいじめ問題が多発しています。3年にも満たない間に、市内の中学生が3人もいじめを苦に自殺を図り、尊い命が失われています。教育都市としても知られている仙台市の中学校で今何が起きているのでしょうか?


宮城県仙台市の教育現場を見る

東北の中心にして「学都仙台」

仙台市は、宮城県の県庁所在地です。また、東北地方の中心都市としても発展しています。東北地方の拠点として使用される事も多いので、東北地方発祥の企業が仙台に本社を構えるだけでなく、全国各地にある有名企業が仙台市に支社を構える事も多いです。

また、仙台市は自ら「学都仙台」と名乗るだけあり、教育都市としての高い機能も持っている都市です。旧帝大のひとつである東北大学や、宮城教育大学があり、県内外から多くの学生が通っています。また、市の人口に対する学生の数の割合は、京都市・福岡市・東京23区に次いで全国で第4位となっています。そして、大学卒業後はそのまま大学院へ進む学生の割合も高く、人口に対する大学院生の比率は、京都市に次いで全国で第2位となっています。そして、高等教育機関の教員数も、仙台市内だけで4千人を超えていますので、日本における高等教育を支える大切な位置づけにあります。

また、仙台市に数ある私立大学に進学した学生は、地元出身者も多く、そのまま仙台市内や近隣の企業や産業へ就職するパターンが多くなっています。市内や県内だけでなく、果ては東北全体のビジネスの為に、優秀な人材を育てる上でも、仙台市の教育機関の重要性は高くなっています。

「学都仙台」で多発するいじめ問題

自らを教育都市と名乗る仙台市ですが、2014年から2017年にかけ、市内の公立中学校に通う学生が、いじめを苦に自殺を図る事件が立て続けに3件発生し、尊い命が失われてしまいました。高度な教育を提供している仙台市の裏側に隠された、いじめ問題について見てみましょう。

2014年 第一の事件は、隠蔽から始まった

2014年9月、第一のいじめ事件が発生

2014年9月、仙台市泉区にある仙台市立館中学校に通っていた、当時中学校1年生の男子生徒が、いじめを苦に自殺を図ります。遺書はなかったのですが、男子生徒が自殺を図る直前まで、学校内でいじめを受けていたために学校へ行き渋りをしていた事、学校だけでなく無料通話アプリLINEを使用した、ネット上でもいじめの被害に合っていた事が分かっています。

男子生徒は、クラスメイトから消しゴムのかすを故意に投げつけられる、学校や学校外で複数人で集まった時に、故意に仲間外れにされる、「変態」とクラスメイトから呼ばれるようになる、無料通話アプリLINEで、男子生徒とアイドルグループの合成写真を作成した上に流される、などのいじめを受けていました。

本人や保護者は学校側に訴えていた

男子生徒がクラスメイト達からいじめを受けている事を受けて、男子生徒自身も、学校が実施しているアンケートでいじめを受けていることを記入していました。そして、男子生徒の保護者は、合計6回、館中学校側に相談を申し出ています。ところが、相談後もいじめの実態が改善される事無く、しかも、保護者からの相談を受けた当時の男子生徒の担任教員であった40代の女性教員は、この相談内容を校長など中学校の上層部に報告する事を怠っていました。

2014年7月には、保護者からの相談を受けて学校側が男子生徒にクラスメイトが謝る場を作りましたが、「学校にチクった」と言われ、更にいじめは深刻化していきます。

男子生徒は自殺する前日や当日に「学校に行きたくない」「部活を辞めたい」などと保護者に話していました。そして、9月に男子生徒は自殺をしてしまいます。

学校側は「転校した」として隠蔽

男子生徒がいじめを苦に自殺したのに対して、学校側はクラスメイトに「男子生徒は家庭の事情で転校した」と嘘の説明していました。つまり、当初学校側はいじめ自殺の真実を隠ぺいしていたのです。

当時は、学校の説明に不十分さや不自然さがあったので、クラスを中心に周辺の生徒や保護者からは、様々な憶測が飛び交ったと言われています。


市長への報告書が提出されたのは、翌年の8月

その後、市の教育委員会が市のいじめ問題専門委員会に提言し、専門委員会による関係者への聞き取り調査や会議を踏まえ、仙台市長にこの事件の報告書が提出されるまで約1年が経過しています。

そして、「いじめ事件があった」と2015年8月に発表される事になりますが、被害者の名誉棄損などを理由にして、学校名を伏せて、在校生に対しても戒厳令を敷いたと言われています。

聞き取り調査の中で、当時の女性担任教員は、「クラスの中で他のいじめ問題があり、その問題に手いっぱいで、本件に対応できなかった」と話しています。担任教員や学校側の不適切な対応だけでなく、複数のいじめが発生してしまうクラスの環境自体に問題はなかったのか、など色々な問題を残している事件となっています。

第二の事件は「いじめはなかった」市教育委員会と中学校は認識

2016年2月に、第二のいじめ自殺事件が発生

2016年2月3日に、仙台市泉区にある仙台市立南中山中学校に通っていた、当時中学2年生だった男子生徒が、自宅で首をつって自殺をしているのが見つかりました。また、遺書も見つかっています。

自殺してしまった男子生徒は、過去に学校側が行ったアンケートで、いじめの被害を受けていると回答しています。「きもいと言われる」、人間関係を問う質問に対して「最悪」、「無視された」、「いじめがあるか」という質問に対して「ある」など、具体的な回答を、計3回行われたアンケートで記入して提出しています。

事件発生当初、「いじめはなかった」と回答

この事件の発生当初、仙台市教育委員会と、南中山中学校側は「問題は既に解決している、いじめの事実はなかった」と回答しています。

中学校側は、生徒のアンケート回答結果を受けて生徒と個人面談を行い、「他の生徒とのトラブルは今はない」「アンケートの回答結果にいじめがある、と答えたのは『世界の中にいじめが存在している』と勘違いしてしまったから」と答えたとしています。

そして、男子生徒が中学1年生の時に、自転車のハンドルを他の生徒に倒されて曲げられてしまった時にも、生徒の保護者から「問題ない」と報告を受けている事、見つかった遺書の内容も、いじめを示唆する内容ではなかったとも答えています。

学校側の隠ぺい工作が明るみになった

ところが、2016年12月になり、学校側が隠ぺい工作を図っていた事が発覚します。男子生徒の自殺が発覚した直後、学校の教員が男子生徒の同級生の自宅を訪問して、無料通話アプリLINEの会話を全て削除させた事が分かったのです。デジタルカメラで、会話画面を撮影した上で、「(この会話内容が)広まったら困る」として、その場で会話を削除させました。

LINEの男子生徒と同級生の会話の内容には「無視された」「最近精神崩壊している」などの、男子生徒本人のいじめに対する悲痛な叫びが記録されていました。その為、LINEの会話画面削除指示は、明らかな学校側の隠ぺい工作といえます。

そして、この隠ぺい工作を指示した翌日、仙台市教育委員会と学校側の合同記者会見にて「いじめの事実はなかった」と発言していたのです。

教訓生かされず第三の事件が発生

短期間のうちに立て続けに3件の事件

2017年4月、仙台市青葉区の仙台市立折立中学校に通う当時中学2年生の男子生徒が、自宅近くのマンションから飛び降りて自殺を図りました。しかも、自殺をした時間は中学校で一時間目の授業を受けた後に、上履きのままで校外に出た後です。

上記の2件の事件は、市教育委員会の第三者委員会が「いじめによる精神的苦痛が自殺の一因」と結論付けられました。とはいえ、2件のいじめ自殺事件の教訓が生かされず、仙台市はまたいじめによる被害者を出してしまう事になりました。

教師によるいじめが原因との見方もあるが調査中

事件発生直後の学校側の記者会見では、いじめに関するアンケートを同校では2016年の6月と11月に実施していて、その時の男子生徒はアンケートに「冷やかしや悪口、無視される」「物を投げられる」と回答しています。その後、学校側は男子生徒の同級生に対して聞き取り調査を行ったところ、男子生徒に対して「臭い・馬鹿」などの悪口を言ったとの事実が確認されましたが、その時には双方ともに悪口を言い合う間柄だったので、双方に対して指導を行い、問題は解消したと回答しています。

その後の仙台市教育委員会による調査の結果、5月には同中学校の2人の教職員が、男子生徒に対して体罰を与えていた事が分かりました。男子生徒が自殺する前日に、授業中に居眠りをしていた男子生徒に対して、教職員がげんこつで殴る、それ以前にも授業中に騒いだ男子生徒に対して他の教職員が粘着テープで口を塞ぐ、という2件の体罰が発覚しました。


生徒によって授業妨害があった時には、もちろん教職員は適切な指導を行わなければいけません。仮に男子生徒側に問題があったとしても、上記の教職員の対応は、体罰の域を超えた暴力といっても過言ではありません。現に、男子生徒自身は周囲に「先生が怖い」「いじめがある事を先生に訴えても、一方的に自分が悪者にされるから言えない」と打ち明けていました。

現在、このいじめ事件についての調査は途中となっていますので、はっきりとした原因はまだ特定されていません。けれども、同級生からのいじめ行為があった事に加えて、教職員からの不適切な指導が男子生徒の自殺の直接の原因の可能性もある為、今後の調査結果を注視すべきと考えています。

「何の教訓も生かされていない」

2014年に同市内で起きた館中学校のいじめ自殺被害者の遺族、そして2016年に起きた南中山中学校のいじめ自殺被害者の遺族は、両方とも今までいじめ根絶に対する訴えを行ってきました。ところが、遺族の訴えもむなしく、短期間のうちに同市内でいじめが原因と思われる自殺が発生してしまいました。

館中学校のいじめ被害者の父親は、「悲劇を繰り返さないと私に約束したじゃないか。息子が亡くなってから2年7カ月、市教委は何も反省していなかったのか」南中山中の父親は「再発防止には真相究明が必要だと何度も言ったはずだ。うわべだけの対策に意味はない」と、大越裕光教育長ら市教委幹部に対して怒りをぶつけています。

仙台市の3つの事件を踏まえて、今後考えられる対応とは

仙台市教育委員会は「仙台市いじめ防止基本方針」を掲げる

仙台市教育委員会は「仙台市いじめ防止基本方針」を掲げ、いじめの定義や防止のための各専門機関の配置を提言しています。例えば、いじめの防止などに関する機関や団体との連携を図る「仙台市いじめ問題対策連絡協議会」やいじめ防止のための具体的な対策を実行する「仙台市いじめ問題専門委員会」、いじめを含む重大な事態が発生した時には、その再調査を行う「仙台市いじめ問題再調査委員会」などを設置しています。

ところが、いくら専門機関を設置した所で、きちんと機能しない限りはいじめ問題の根絶には繋がらないと考えています。仙台市は、市長が奥山市長から郡新市長への交代が決定したばかりです。新しい市長の元でも、仙台市のいじめ問題に対する問題解決が急がれています。

根本の原因は「学校の隠ぺい体質」

仙台市のいじめ問題を踏まえて、学校側にはいじめを認めない、証拠を隠滅するなどのいじめに対する隠ぺい体質がある事も分かりました。ところが、この学校側のいじめに対する隠ぺい体質は、数十年前からある体質で、大変根深い問題となっています。

学校内でいじめが発生すると、もちろんいじめの根絶のために教職員は適切な指導や対応をしなければいけません。ところが、その時の対応を誤ると、今回の事件のように生徒の自殺などの被害者を出してしまう事になります。その場合、教員や学校へ責任が問われる事となります。一方で、いじめとじゃれあいや喧嘩との境界線は曖昧で、もしも子供同士のけんかやじゃれ合いの結果に自殺に繋がったとしたら、それはいじめではなくなります。つまり、学校側に責任は問われない事となりますので、学校側がいじめを隠ぺいする体質が根付いているという現実があるのです。

今は、学校側がいじめを隠ぺいしていても、インターネットを通じて声を上げる事もできるようになりました。それでも、誰に訴えても届かない、いじめの被害者は日本全国の学校にまだたくさんいます。これらを踏まえて、学校のいじめ隠ぺい体質を根絶しない限りは、根本的ないじめ問題の解決には繋がらないのではないでしょうか。

本記事は、2017年10月9日時点調査または公開された情報です。
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