地方自治法の「普通地方公共団体」について
まず以前に解説した、地方自治法の条文の構成をもう一度見てみましょう。
地方自治法の条文構成
第1編 【総則】第1条~4条
第2編 【普通地方公共団体】第5条~263条
第3編 【特別地方公共団体】(第264条~280条までは削除されて抜け番です)
第281条~297条
第4編 【補則】第298条~299条
これを見てもわかるように、地方自治法のほとんどは「普通地方公共団体」について書かれており、条文の数も圧倒的に多くなっています。
それでは、第2編「普通地方公共団体」について、詳細な条文構成を見ていきましょう。
地方自治法第2編 【普通地方公共団体】
昇任試験にも必ず出る?「普通地方公共団体」
「普通地方公共団体」とは、私たちに一番身近な「市町村」や「都道府県」といった自治体のことです。公務員としての仕事にも直結する部分であり、重要です。
地方自治法第2編の「普通地方公共団体」の構成は次のようになっています。
第1章「通則」5~9条
第2章「住民」10~13条
第3章「条例および規則」14~16条
第4章「選挙」17~19条(20~73条は削除による抜け番です)
第5章「直接請求」74~88条
第6章「議会」89~138条
第7章「執行機関」138条の2~202条
第8章「給与その他の給付」203~207条
第9章「財務」208~243条
第10章「公の施設」244~244条の4
第11章「国と普通地方公共団体との関係および普通地方公共団体相互の関係」245~252条の18
第12章「大都市等に関する特例」252条の19~252条の26
第13章「外部監査契約に基づく監査」252条の27~252条の46
第14章「補則」253~263条
今回解説する範囲について
今回から数回に分け、2章の「住民」(条文は4つしかありません)と、その住民に関する権利について書かれた4章「選挙」、5章「直接請求」、そして9章の財務と13章の外部監査のほんの一部、住民の権利に触れている部分のみをまとめて解説していきたいと思います。
住民の権利
必ずおさえておこう!住民の権利
公務員として仕事をする上で、その対象となるのはもちろん自治体の市民、県民です。
そのため、市民(県民)の権利にはどんなものがあるのかを知っておくことは、公務員として仕事をする上で、最も大切です。
重要なので「住民の権利」としてまとめて昇任試験にもよく出ます。必ずおさえておきましょう。
ではまず、第2章「住民」の条文について見てみましょう。条文は10~13条までで、比較的短いです。
2章の条文には、「住民は〇〇する権利を有する」という事実のみが単純に箇条書きにされています。そしてそれぞれの権利についての手続き方法が別の章に詳しく書かれているという形になっています。
第2章「住民」
第10条 市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村およびこれを包括する都道府県の住民とする。
第11条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の選挙に参与する権利を有する。
第12条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例の制定または改廃を請求する権利を有する。(地方税の賦課徴収ならびに分担金、使用料および手数料の徴収に関するものを除く)
2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の事務の監査を請求する権利を有する。
- 出典
- 地方自治法
続いて13条には、いわゆる「リコール」という、公職の地位にある者を住民がクビにするよう請求できる制度のことが書かれています。詳細は次回解説しますが、リコール請求にはかなりの数の署名が必要になります。
第13条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の解散を請求する権利を有する。
2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員、長、副知事もしくは副市長村長、第252条の19第1項に規定する指定都市の総合区長、選挙管理委員もしくは監査委員または公安委員会の委員の解職を請求する権利を有する。
3 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の教育委員会の教育長または委員の解職を請求する権利を有する。
第13条の2 市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。
- 出典
- 地方自治法
2章「住民」の条文単体ではあまり試験に出ない?
2章のそれぞれの条文に該当する詳細な手続き方法が書かれているのが4章「選挙」と5章「直接請求」です。
直接請求とは上記2章に書かれた、住民が条例の制定などを求めたり、公務員の各職に解職を求めたりすることで、住民にはその権利があります。これを「直接請求権」といいます。
地方自治体にはこのように住民が政治に直接参加できる直接民主制の制度もかなり取り入れられているのです。
2章単体で試験に出ることはあまりなく、2章の権利の具体的な手続きについて規定された4章や5章とセットで出ることが多いので、ここでもそれらをあわせて解説します。
それでは、順番に見ていきましょう。
「住民」とは?
住民になるのに「認定手続き」は要らない?
第10条には、市町村の区域内に住所があれば、その市町村そして都道府県の住民として認められるとあります。
「住民」について書かれているのはこれだけです。ちょっとよくわかりませんよね。
住所があれば、住民になれる。それではその住所はどうやって決めればよいのでしょうか。
そのことが、民法の第22条に書かれています。それによると、住所となる場所は、「各人の生活の本拠」となっています。
生活の本拠とは、「実際に生活している場所」ということです。それでは実際に生活している場所とするのには、何か手続きがいるのでしょうか。たとえばその自治体で住民票の手続きを取らなければ、住民として扱われないのでしょうか。
答えはノーです。地方自治法10条が規定する住民は、「市町村の区域内に住所を有する」、つまり「生活の本拠である」という事実だけで住民の要件を満たすのです。
それでも、どこの住民かははっきりさせないと手続上は困るという解釈
実際に住んで生活していれば住民ですが、しかし13条の2には、市町村が「住民の正確な記録を整備しておかなければならない」とも規定されています。
13条の2のように規定されているのには、地方自治体の選挙権のある住民をはっきりさせないといけないからです。
そして、「別に法律の定めところにより」の「法律」とは、住所についての根拠法である「住民基本台帳法」(以下、「住基法」)のことです。
市町村には住民基本台帳をつくることが義務づけられており、台帳の正確さを保つために、職員による住民票への記載や調査などが義務付けられています。
また住民には、虚偽の届け出など台帳の正確性を阻害するような行為は禁じられており、虚偽の届け出や正当な理由もなく届け出をしなかった者については、5万円以下の罰金を科すという罰則規定(住基法51、52条)が設けられています。
また「住所」について住基法には、「住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(略)第10条に規定する住民の住所と異なる意義の住所と定めるものと解釈してはならない」と書かれています。
回りくどくてわかりにくい表現ですが、これは、地方自治法と住基法の「住民」は同じ基準ですよということです。
参考:住民票手続きでややこしいケースの場合、どうすればいい?
皆さんも経験があるかと思いますが、たとえば息子だけが遠方の大学に入学し、一人暮らしをすることになったり、父親だけが仕事で他県に単身赴任で暮らすことになった場合、住民票はどこに置けばいいのでしょうか?
これについては何かで明確に定められているわけではないので、行政側で判断せざるをえないのですが、少なくとも先述したように住所を置く場所は「生活の本拠」ということが民法で規定されています。
ですから次に「生活の本拠」(実際に生活している場所)とはどこだ、ということを突き詰めないといけないわけです。
そこで、参考となる考え方として、「客観的に見て生活実態があるかどうか」が重要になり、自分が主観的に私の住所はここだ、という主張は優先度が低くなります。
そして、大まかに2つの判断基準を設けている自治体が多く、それは「住んでいる期間」と「私的生活における家族との関わり」です。
住んでいる期間の判断基準は1年
親元を離れて学生が一人暮らしをしたり、単身赴任で父親が他県に住む場合、そして長期で入院をしている患者などの場合、どこに住民票を置くか判断に困ると思われますが、基本的な考え方として、1年以上かそれ未満かで判断されています。
また特に、単身赴任の父親の場合は一定期間を経てまた家族の住所地に戻ってくることが多いですが、学生の場合は都会に住みそのまま現地で就職するケースも多いことから、なおさらこの要件に当てはめられることが多いです。
つまり1年以上一人暮らしをすることが予想される場合は、そちらに住民票を置くということです。
例外的だが事実があれば優先される、「家族との関わり」
基本的に居住する期間が判断基準にあると言いましたが、例外的に「家族との関わり」に着目する考え方があります。
こちらは、家族と住んでいた時と現住所に住む現在とで、どれくらい家族との関わりに変化があったか、で判断します。
なんだか漠然としていてわかりにくいのですが、たとえば父親が他県で単身赴任をしているが、毎週土日になると家族のもとに帰ってくる場合などがこの「家族との関わりに変化がないもの」と判断されます。
そして客観的にそのような事実がある場合は、1年以上単身赴任をしていても、家族との関わり基準が優先され、住所も家族の元にあると判断する事例が多いようです。
住民とは外国人も入るの?選挙権はあるの?
10条と11条の「住民」の違いに注目しよう
先述したように、その区域内に住所を有する者は「住民」です。ですから外国人も該当します。当然住民なので税金も納めなければなりませんし、行政サービスを受けることもできます。
では住民だから、自治体の選挙で投票する権利もあるのでしょうか?
これについては、条文の「住民」の表現の違いを見て下さい。
10条の「住民」と、選挙権など住民の権利について書かれた11条以降の「住民」には違いがあります。
11条以降の住民については、「日本国民たる普通地方公共団体の住民」と、国籍要件が明記されているのです。ですから日本国籍がなければ参政権はありません。
それでは、次に第2章「住民」11条の「選挙に参与する権利」について、第4章「選挙」(17~19条)とあわせて解説していきます。
選挙権、被選挙権
誰を選ぶ選挙に参加できるの?
地方自治法11条で選挙に住民(日本国民)が参加できるのは、「普通地方公共団体の議員」と「普通地方公共団体の長」です。長とは、市長や都道府県知事のことです。
ポイントをおさえておこう
ここで試験にも出るポイントとして重要なのは、選挙権、被選挙権の要件です。議員と長のそれぞれの要件を確実に覚えておきましょう。
選挙権(選ぶ側の要件)
続いて選挙権ですが、
▼市議会議員などの「普通地方公共団体の議員」の選挙について
1)日本国民であること
2)年齢が満18歳以上
3)引き続き3か月以上、当該市町村区域内に住所を有すること
です。
▼市長などの「普通地方公共団体の長」の選挙について
上記、議員の選挙権と同じです。
被選挙権(選ばれる側の要件)
▼普通地方公共団体の議員の被選挙権について
1)普通地方公共団体の議員の選挙権を有すること
2)年齢が満25歳以上
▼普通地方公共団体の長について
1)日本国民であること
2)年齢は、知事は満30年以上、市町村長は満25年以上
です。
ちなみに、満〇〇年以上とは、満〇〇歳以上のことですが、条文には「年」と書かれています。
まとめ
ここまで見てきたように、法律では「住民」という言葉ひとつにしてもあいまいにすることはできず、突き詰めなければなりません。
そのため法律の文章というものはややこしく、住民の権利について書かれた条文についても長く、一見しただけでは結局何が書かれているのかわかりづらいものが多いです。
次回も、「住民の権利」についてできる限り簡素化して、仕事や試験に必要なポイントをまとめて解説していきたいと思います。
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