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公務員のスキルアップのための地方自治法(5)【住民の権利 その3】

地方自治法について解説する第5回目は、【普通地方公共団体】の範囲から「住民の権利」についての続編その3です。

今回の項目では、前回解説した、住民の直接請求を行う際に集める「署名」に焦点を当てて解説します。

2018年01月01日更新

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目次
昇任試験で突然出題されることも?「署名」についての細かい規定
直接請求の代表者(地方自治法74条1項・6項)
署名を集める期間(地方自治法施行令92条、100条)
署名制限期間(地方自治法74条7項、地方自治法施行令92条)
無効となる署名は?(地方自治法74条の3の1項・2項)
署名の代筆はできる?(地方自治法74条8項・9項)
関係人の出頭・証言(地方自治法74条の3の3項)
署名の審査の流れ(地方自治法74条の2の1項~6項)
署名の効力に関する争訟(地方自治法74条の2の7項~10項)
署名に関する罰則規定(地方自治法74条の4)
まとめ
公務員のスキルアップのための地方自治法(5)【住民の権利 その3】

昇任試験で突然出題されることも?「署名」についての細かい規定

今回は、前回解説した第5章の中でも「署名」関連の条文に限定して解説します。

「地方自治法」の索引の中で言うと、今回解説するところは次のようになります。

【普通地方公共団体】の第1章~14章のうち、
第5章「直接請求」(74~88条)の、直接請求する際に住民から集める「署名」について書かれている箇所限定で解説します。

「署名」関連の項目は昇任試験で意外と出題されやすい部分です。

実際に公務員である職員は住民から提出された署名についての諸規定を知らなければ、署名のチェック作業もできませんから、試験に出題されるときにも「どのような署名が有効・無効なのか」や、各手続きの日数や罰則の金額など、細かい数字が出題されることも多くなっています。

正しく署名されているかのチェックはとても重要

まず前回の復習になりますが、地方自治法に定められている、住民が直接請求できる権利には、次の①~⑦があります。

①条例の制定・改廃請求 ②事務の監査請求 ③議会の解散請求 ④議員の解職請求 ⑤長の解職請求 ⑥副知事などその他公職者の解職請求 ⑦教育長・教育委員の解職請求

そしてこれらを請求するには、それぞれ決められた数の有権者の署名を集めなければなりません。

その必要署名数は、「有権者の1/50以上の署名」、「1/3以上の署名」と請求の内容によって違いますが、いずれも大都市などでは膨大な数の署名数になります。

住民から署名の提出があれば、署名の数だけを数えればいいわけではなく、この署名のひとつひとつが「有効な署名」なのかをチェックしなければなりません。

それではまず参考に、署名の有効・無効が焦点となった、名古屋市の事例を見てみましょう。

名古屋市で起こった議会の解散請求

2010年、名古屋市の河村たかし市長は、公約に掲げていた市民税の10パーセント減税案、議員報酬半減案を議会が否決したため、みずからが主導して議会の解散請求の署名集めを行い、46万5,602人分の署名が集まりました。

これは、議会の解散請求に必要な署名数である36万5,795人分を大きく上回るものでした。

しかし選挙管理委員会は、署名の一部が違法に集められた疑いがあるとして審査を延長し、最終的に11万1,811人分の署名は無効で、有効署名数は35万3,791人分であると決定したため、リコールは不成立になるかと思われました。

ところが、3万2,000人の者が選挙管理委員会の無効判定に異議の申し出を行い、再審査が行われました。

再審査の結果、その約半数が有効と判定され、それにより法定署名数を超えたため、2011年に議会解散の住民投票が行われることとなりました。

政令指定都市で、議会の解散請求が成立した初めてのケースです。2011年2月に住民投票が行われ、その結果70%が解散に賛成であったため、議会は解散されました。

この名古屋市の事例のように、どれだけの署名が有効であるかがその請求の行方を左右することもあるのです。

それでは、住民による直接請求の署名について、地方自治法に規定されている重点ポイントについて解説していきます。

直接請求の代表者(地方自治法74条1項・6項)

この項目では一部公職選挙法27、28条の内容も含みます。

公務員でも直接請求の代表者になれる?

条例の制定・改廃、議員の解職請求など住民が直接請求を行う際には、必要な署名数を集め、「請求代表者」から請求先に行うことになっています。

そして有権者のうち次の者は、請求代表者となり、又は代表者であることが不可、とされています。

ア 公職選挙法の規定により、選挙権を有しなくなった、または当該市町村区域内に住所を有しなくなったため、選挙人名簿にその旨の表示をされている者
(都道府県での請求の場合は、同じ都道府県内の他の市町村区域内に住所のある者を除く)

イ 公職選挙法の規定により、登録日以後に(死亡や国籍喪失などで)選挙人名簿から抹消された者

ウ 普通地方公共団体の選挙管理委員会の委員または職員である者

出典
地方自治法

ここで、ウについて解説します。ウを見ると、公務員のなかで代表者になれないのは、すべての部署ではなく選挙管理委員会の委員や職員限定となっています。

このように明記されることとなった地方自治法の改正はごく最近で、2011年のことです。

実はそうなるまでには裁判に至ったという経過もあり、法改正でウのように明記されることとなりました。

このような部分は試験にも出やすいので、改正されるに至った経過を簡単に紹介します。

高知県東洋町における町議会議員の解職請求をめぐる事件

2008年4月、高知県東洋町の町議会議員の解職請求がありました。この解職請求の際、請求の代表者の中に非常勤の公務員が含まれていました。

町の選挙管理委員会は、「解職請求者の代表者の一人に公務員がいるので、署名すべてが無効」だとする決定を行いました。町民たちは異議申し出を行いましたが認められず、地方裁判所の判決でも「署名は無効」とされたため、ついに最高裁で争うこととなりました。

長年、解職や解散請求など住民投票を伴う請求の場合には「公務員は直接請求の代表者とはなれない」とされていました。

しかし、地方自治法でそのように明確に規定されていたわけではなく、地方自治法には「公職選挙法の規定を準用する」ということのみが書かれているだけでした。

なんと55年ぶりの画期的な判決

2009年、最終的に最高裁では「公務員は直接請求の代表者になれない」という決定が「無効である」という判決が下されました。

これは、55年ぶりに判例が変更された画期的な判決で、当時の新聞でも大きく取り上げられました。

ただしその判決を下した理由については、公務員が請求代表者になることの是非がポイントではなく、「今ある法の範囲では、そこまで読み取ることはできないから無効である」というものでした。

つまりこの裁判では、「解職の投票に公職選挙法の規定を準用する」と定めただけの地方自治法の文言を、どう解釈するかが争点となったのです。

そして裁判官の補足意見では、「国民の参政権の行使にかかわる重要な権利を制限する場合には、今ある法を無理に拡大解釈して扱うのではなく、法的根拠と内容が明確に規定された新しい立法によって行うのが筋である」と指摘されています。

これを受けて2011年の地方自治法改正で、ほとんどの公務員は解職・解散(リコール)請求の代表者となることが可能となったのです。選挙管理委員会の職員だけは、署名に関わる職務上、除外されることとなり、明確にその旨が地方自治法74条に規定されることとなりました。

さらに、ほとんどの公務員がリコール請求の代表者になれることとなった代わりに新たに罰則規定が設けられました。

罰則規定についてはまとめて後述しますが、公務員が署名運動をするのに「その地位を利用した場合」の罰則が新設されました。

公務員には地方自治法とは別の制約が?

公務員もリコール請求できるようになったとはいえ、もともと公務員には「国家公務員法」、「地方公務員法」で政治活動を行うことへの制約があります。

ですがこれらの制約は、公務員の服務規律を守る義務を課しているだけであり、請求の代表者になることについて明記されているわけではありません。

ですからこれに違反して請求代表者になったとしても、「服務規律違反」となるだけで、集めた署名が無効になることはありません。

とてもややこしいのですが、さきほどの判決が画期的であったので、そのことを知っていないと解けないような〇×問題が出されることもしばしばあります。興味のある方は一度詳しく調べてみるのもいいかもしれません。

署名を集める期間(地方自治法施行令92条、100条)

署名を集める期間についての規定も、最近になり一部改正されました。

改正後の現在は、請求代表者の告示があった日から、都道府県・政令指定都市は2か月以内、それ以外の市町村は1か月以内となっています。

以前は市町村は政令指定都市も含め一律1か月以内でしたが、政令指定都市の中には一部の県より人口が多いところもあり、1か月で署名を集めるのは大変でした。

そこで都道府県と同等の2か月以内と改正されたのです。ここは少し覚えておいてください。この期間を超えて行った署名は無効となります。

署名制限期間(地方自治法74条7項、地方自治法施行令92条)

制限期間とは?

選挙のための運動と直接請求のための署名集めの期間が重なることにより生じる弊害を除去し、署名を集める行為の適正化をはかるために設けられています。選挙の期間中は、次のように署名集めができない期間が決められています。

ア その選挙が任期満了によるもの→任期満了の60日前に当たる日~選挙の期日までの間

イ その他の選挙→その選挙を行うべき事由が発生した日の翌日~選挙の期日までの間

出典
地方自治法

無効となる署名は?(地方自治法74条の3の1項・2項)

無効となる署名には、次のようなものがあります。

ア 法令の定める成規手続きによらない署名

イ 何人であるかを確認し難い署名(判読できないものなど)

ウ 詐欺または強迫(無理強いすること)に基づく旨の異議の申し出があり、市町村選挙管理委員会がこれを正当と決定した署名

出典
地方自治法

署名の代筆はできる?(地方自治法74条8項・9項)

心身の故障やその他の理由で自力で署名することが不可能な有権者は、同じ市町村の有権者に、自己の氏名を記入してもらうよう委任することができます。

ただし請求の代表者に頼むことはできません。

また代筆者は、署名簿に氏名代表者としての署名をすることとなっています。

関係人の出頭・証言(地方自治法74条の3の3項)

市町村選挙管理委員会は、署名の効力を決定するのに必要であれば、関係人の出頭や証言を求めることができます。

署名の審査の流れ(地方自治法74条の2の1項~6項)

ここでは、提出された署名を審査する流れを解説します。基本的な流れは、①~④の順になります。

①【請求代表者】

署名数が集まったときは、署名簿を市町村選挙管理委員会に提出し、署名・押印した者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めます。

②【市町村選挙管理委員会】

署名簿提出日から20日以内に審査を行い、署名が有効か無効かを決定し、その旨を証明します。

証明が終了すれば、その日から7日間、署名簿を関係人の縦覧に供します。(期間・場所をあらかじめ告示して、見やすい方法により公表する)

③【関係人】

縦覧期間中のみ、異議の申し出が可能です。(当該署名に直接の利害関係がない者は、申し出不可)

関係人とは、選挙人名簿に記載されている者すべてを指します。

④【市町村選挙管理委員会】

申し出があった場合、申し出の受理日から14日以内にその申し出が正当か否かを決定し、正当でないと決定すればその旨を申出人に通知し、申し出が正当だと決定すれば、証明を修正し申出人と関係人に通知、告示します。

その後、最終的に有効署名数を告示し、署名簿を請求代表者に返付します。

署名の効力に関する争訟(地方自治法74条の2の7項~10項)

署名の効力について市町村選挙管理委員会に異議を申し出たが、その申し出に対する選挙管理委員会の最終的な決定に不服がある場合、次の流れで審査の申し立ておよび訴訟が認められています。

先述した高知県東洋町の町民が行った手続きがまさにこれになります。

東洋町では、「請求代表者の中に公務員がいるので署名すべてが無効」との選挙管理委員会の決定に異議申し出を行ったが認められず、納得がいかないのでこの手続きに踏み切りました。

手続きは、都道府県への請求の場合と市町村への請求の場合で次のように分かれます。

都道府県の場合

都道府県の場合は、基本的に次の①~④の手順で手続きを進めていきます。

①【不服のある者】

住民が異議申し出をした場合の市町村選挙管理委員会の決定に不服のある者は、その決定日から10日以内に、都道府県選挙管理委員会に「審査の申し立て」を行います。

②【都道府県選挙管理委員会】

申し立てを受理すれば、「審査」を行い、申し立て受理日から20日以内に「採決」します。
その採決で住民が納得すれば、ここで終わりです。納得がいかない場合は次に進みます。

③【高等裁判所】

納得がいかず不服がある者は、次に高等裁判所に「出訴」します。出訴する場合は、先ほどの採決が出た日から14日以内と規定されています。

判決に納得すれば、ここで終わりです。納得がいかない場合は次に進みます。

④【最高裁判所】
納得がいかず不服がある者は、最終的に最高裁判所に「上告」します。そしてここでの判決を待つことになります。

市町村の場合

市町村の場合は、基本的に次の①~③の手順で手続きを進めていきます。

①【不服のある者】

住民が異議申し出をした場合の市町村選挙管理委員会の決定に不服のある者は、その決定日から14日以内に、地方裁判所に「出訴」します。都道府県の場合と異なり、いきなり裁判になります。

②【地方裁判所】

先述しましたが、市町村選挙管理委員会の決定に不服がある者は、その決定日から14日以内に出訴し、判決を待ちます。

判決に納得すれば、ここで終わりです。納得がいかない場合も、地方裁判所に控訴することはできず、その場合は次に進みます。

③【最高裁判所】

納得がいかず不服がある者は、最終的に最高裁判所に「上告」します。そしてここでの判決を待つことになります。

署名に関する罰則規定(地方自治法74条の4)

署名に関しては、様々な罰則規定が設けられています。罰則の対象者や懲役年数・罰金の金額によっていくつかに分類できます。この罰則規定については数字も覚えておきましょう。

署名の審査での関係人の出頭に関する罰則

署名の審査は、集めた署名のひとつひとつが正しいものか、効力のあるものか判定するために行います。

その際、疑問の残る署名や、署名するまでの経緯に問題があった場合、その調査のために関係者に出頭するよう依頼することがあります。

その出頭するべき関係者について規定された罰則が次のように定められています。

【6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金】

正当な理由がなく出頭・証言を拒んだ者

【3か月以上5年以下の禁錮】

虚偽の陳述をした者(ただし、議会で調査終了の議決がある前に自白すれば、刑を減刑または免除することが可能)

出典
地方自治法

請求者の署名に関する罰則

ここでは署名をする者や署名集めをする者など、署名に関するすべての罰則を、罰の重い順に並べます。

まず最も罪が重くなるのは、あからさまに署名集めに圧力を加えた場合です。具体的には次のようなものがあります。

【4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金】

ア 演説を妨害したり、交通・集会の便を妨げるなど不正な方法で署名の自由を妨害した者

イ 署名する権利のある者(以下、署名権者と言います)やその運動者に対して暴行・威力などを加えた者

ウ 署名権者やその運動者、また関係のある社寺などとの利害関係を利用して、別の署名権者・運動者を威迫する行為をした者

出典
地方自治法

次に、署名簿に不当に手を加えた者も罰則の対象となります。

先ほどの、署名集めに圧力を加えた際の罰則よりは若干軽くなりますが、それでも懲役刑になることもあります。

【3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金】

ア 請求者の署名を偽造したりその数を増減した者

イ 署名簿など、請求に関係する書類を抑留したり壊したり、また奪い取った者

ウ 有権者に心身の故障など自力で署名できない状況がなく、署名の委任を受けていないにもかかわらず、代筆者として署名した者

エ 有権者が心身の故障など自力で署名できない場合に、本人の委任を受けて署名簿に代筆した者が、その際に氏名代筆者としての署名をしなかったり虚偽の署名をしたとき

出典
地方自治法

次に罰金刑となるのが、署名の集め方に不備があった場合です。

これは、故意にそうした場合だけではなく、知らずに規定外の集め方をした場合も対象となるので気を付けなければなりません。

【10万円以下の罰金】

ア 政令の定める所定の手続きによらない署名簿を用いて署名を集めた者

イ 政令で定める署名を集めることができるその期間外の時期に署名を求めた者

出典
地方自治法

まとめ

今回は、住民が直接請求を行う際に集める、署名について解説しました。

署名の項目の中でも、地方自治法が最近になり改正されたところはやはり試験にも出やすいので、改正に至ったエピソードなどもあわせて見ておくと、記憶にも残りやすく覚えることができます。

たとえば、「公務員はリコール請求の代表者になれる。〇か×か?」というような問題が出れば、「それは政治活動にあたるのだから当然×でしょ」とうっかり×にしてしまいそうですが、先ほどの判例を経て法改正があったことを知っていれば、地方自治法上でほとんどの公務員はリコール請求の代表者になれることがわかります。

このように、普段から少し法律関係の記事などを気に留めて見ることもおすすめです。

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